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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第三章 ネオジュークを目指して
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第56話 嘘とごまかしのレヴィア

 食事を終えて、俺とレヴィアは、二人でふかふかの芝生に寝転がり、空を眺めながら話を続ける。


「なあレヴィア、ちょっと気になったんだけどさ、レヴィアはホクキオの町から出たことがなかったんだろう?」


「それが、どうかしました?」


「ってことは、俺は今、ホクキオから出たことのない人にネオジュークまでの道案内をしてもらってるってことだよな?」


「…………」


「ここまで、ホクキオ、サウスサガヤ、ハイエンジ地区を東西に横切ってきたわけだけど、むしろ俺が道案内してなかった?」


「…………」


「レヴィアは案内人なんだよな?」


「だから何ですか?」


「次の町の名前、なんていうか知ってる?」


「……ハイエンジの次ですから、ネクストハイエンジとかですか?」


「モナカ地区っていうんだけどもさ」


「さすが! 正解です! 今のはラックさんを試したんです。そう、モナカ地区。その通り。次の町でも楽しくいきましょう」


「実はカナノ地区なんだけどさ」


「なっ……ラックさん、性格悪いです」


 不満そうな声だった。


「そうは言ってもな、案内人なら案内人らしく、ちょっとは案内をしてほしいと思ってしまうのは仕方のないことだぞ」


「それは贅沢ですよ」


「そうだな……」


 いや、贅沢なのか、これ。思わず同意してしまったけど、全く普通のことだよな。


「ラックさん、こんな言葉を知っていますか?」


「なんだよレヴィア」


「もちゃもちゃ」


「え?」


「もちゃもちゃですよ。人間のことわざってやつに、あるんですよね。もちゃもちゃ」


「んん?」


 どうしよう、全くわからん。


 俺は大学院に行くはずだった男。脳みそのなかの辞書から「もちゃもちゃ」なる言葉をサーチする。そして、プライドを守りたがった俺の頭が、最も適合率の高いと思われる解答をはじき出した。


「――餅は餅屋」


「そうです。それです。もちゃもちゃです」


 正解を引いた。


 だけどなレヴィア、その言葉は、プロにはかなわないみたいな意味なんだけど、俺は絶対に案内人じゃないんだぞ。じゃあ何のプロなんだと言われると答えに困ってしまうけれど、少なくとも案内スキルなんて全く取得してないのだ。


「なあレヴィア、正直に言ってほしいんだが、なぜ俺たちはネオジュークに行かねばならないんだ?」


 しばらく考え込んだレヴィアだったが、やがて呟くように、こう言った。


「私が行きたいからです」


「なんで行きたいんだ?」


「わかりました。そこまできいてくるなら、ラックさんには教えてあげましょう……。実は、私がネオジュークに行く理由はですね……」


「理由は?」


「ネオジュークで奴隷になっている友達を助けるためです」


 それってさぁ、もう案内人とか関係なくない?


 友達を助けるのに、どうして案内人のふりをする必要があるんだろうな。


「実はですね、私はホクキオの人たちから目をつけられていて、町の外に出られないようにされていました」


「へえ、ホクキオから出られないというのは、俺も経験したことがあるぞ。五年間の強制社会奉仕活動をさせられていた」


「え、え、え……何か悪いことをしたんですか?」


「いや、何も悪い事なんてしてなかった。それなのに、俺は一方的に裁かれてギルティ祭りになってしまったんだ」


「そうなんですか。()()()私も、そういう感じです」


「そうなのか! 俺の場合は三つ編み裁判の大冤罪だったけれど、レヴィアが捕まった理由は?」


「えっと……なんかこう……ぜんぜん悪くもないようなことで……こじつけのような形で私が悪いことになってしまって」


「全く身に覚えのないことで『こいつ悪魔崇拝者だ』とか言われる感じか?」


「そうです、それです。あくますうはいしゃって、言われました! そのことが原因で、ずっとホクキオの町から出られなかったのです」


「でも、そうすると、町を出てきたレヴィアも当然、追われる身のはずだよな。その割には、あまり追われてる感じはしない。……ってことは、レヴィアも書類を書き換えてもらったってことかな。俺がアオイさんにオリハラクオンとラックを繋ぐ手掛かりを消してもらったように、裏で手を回して何とかしてもらったんだな」


「そうです。それです」


「そして甲冑のシラベール一族の内輪もめの混乱に乗じて、ベスさんとかの手引きでホクキオを脱出したってわけか」


「その通りです! さすがラックさん!」


「なるほど……俺の推理を言ってもいいか?」


「果たしてラックさんに解けるでしょうか」


 あまりにも知的な俺への挑発をしてきた。俺の恐るべき頭脳に震えるがいい。


「まずレヴィアは、自警団の言うことを聞かねばならない立場だった、となると、自警団を取り仕切ってるシラベール氏の奥さんの指示には従わねばならない立場にあった」


 レヴィアは「うん」と喉を鳴らした。


「レヴィアは事前に、ベスさんから貴族エリアにある隠れ家的な場所に俺を案内するよう指示を受けていた。はじめは、ベスさんに言われた通り、ちゃんと所定の場所に案内するはずだった。ところが、思ったより甲冑同士の混乱が大きくなった上、王室親衛隊の息がかかった合成獣士キャリーサが出現した。怪しい姿と怪しい匂いを敏感に感じ取ったレヴィアは、閃いた」


 レヴィアは「うんうん」と喉を鳴らした。ここまでは合っているということだろうか。


「レヴィアの閃き。それは、『この状況を利用して、ネオジュークで苦しい思いをしている友達を助けに行こう』ということだ。ベスさんは案外、用意のいい人だ。もしも貴族街の隠れ家が使えなくなった時のことを考えていた。つまり、そう、保険として、案内人レヴィアが敵の網にかからないように書類を偽装するなどの準備も整えていたはずだ」


 レヴィアは「そう、そうです」と合いの手をいれた。


「これまでレヴィアがこのことを正直に言い出せなかったのは、ベスさんたち自警団周辺の人々への申し訳ない気持ちがあったからだ。そうに違いない。本当は隠れ家的なところに連れて行くはずだったのに、自分の都合でネオジュークにいくことにしてしまったんだからな」


 レヴィアは、「さすがです、ラックさん」と微笑んでいた。


 大推理を終えた俺はすっかり上機嫌になって、芝生から起き上がって言う。


「だとしたら、善は急げだ。レヴィアの友達なんだから、すごく良い子なんだろう? しっかり助けてやらないとな」


「ええ、ありがとうございます、ラックさん」


 ところが、そこでレヴィアは続けて言うのだ。


「でも、ラックさん。ベスって誰ですか?」


 あれれ、やっぱ何から何まで嘘っぽいな。


 そのとき、不意にがらがらがらと激しい音を立てながら、大きな馬車が通過していった。八頭くらいの肉づきの良い馬が引いており、積み荷のところは布で覆われている。


 いつぞやの運び屋のスキンヘッドと同じような形の馬車だったが、その馬車よりもさらに大きなものだ。


 通り過ぎるのを見送った時には、馬車のうしろの積み荷がちらりと見えた。甲冑だった。より正確に言えば赤みがかった甲冑を着た兵士たちだった。


「ラックさん、今の見ました? おっきな馬車でしたね」


「そうだな」


  ★


 結局のところ、嘘なのか本当なのか、またわからなくなってしまった。


 奴隷になっている友達を助けたいというのも本当なのか嘘なのか。


 たぶん、嘘である。


 レヴィアが嘘をつく時には、声や動きから、はっきりとした嘘の匂いがあるからだ。


 本当にもう、嘘ばっかだ。


 一体何のつもりなんだろうな。


 まあ、考えても仕方ない。そういう時は、ひたすら歩くしかない。ずっとそうして生きてきた。


 年上の女の子が嘘をついたときにも、歩いて歩いて、自分の気持ちを誤魔化そうとしてた。年上の女の子のことを忘れようとした時も、歩いて歩いて、忘れようとした。


 結局忘れられなかったんだけども。


 というわけで、レヴィアの旅の動機がうやむやになった後、またおなじみの石畳街道を西から東へと横断し、ネオカナノという町に着いた。ここがハイエンジ地区の終点であり、カナノ地区の西端であるらしい。


 カナノ地区は、町が壁で囲われていて、入るところに勇壮なゲートがあり、おそるおそるゲートをくぐろうとしたところ、さっき芝生で寝転がる俺たちを追い越して行った馬車が停まっているのを発見した。積み荷はすべて降ろしてあり、赤みがかった王室親衛隊たちが検問を敷いているようだった。


「いいかレヴィア、何事もないかのように心を無にして通り抜けるぞ」


「わかりました」


 そうして俺と彼女は、あえて堂々と、ネオカナノゲートを通り過ぎようとした。


「ちょっと」


 兵士の一人が、俺たちを呼びとめた。




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