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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第三章 ネオジュークを目指して
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第52話 大道芸大会

 そのまま次の町へと向かっても良かったのだが、今しばらく第三の町、ニューハイエンジに滞在することにした。


 理由はシンプル。服を買ってしまったため、またしても金が無くなったのである。


 ちょうど大道芸大会も繰り広げられていることだし、ある程度のマネーを稼いでから次の町、イーストハイエンジに向かいたいところだ。


 壇上では、手品師の演目が終了して大量のコインが投げ込まれ、次のヨーヨー使いが壇上にのぼるタイミングをうかがっていた。


 さっきは、俺の円周率暗誦作戦が見事に失敗したからな。次はどうするか。残る俺の特技は、「普通じゃないやり方で指をパチパチ鳴らす」というものくらいしか残っていない。流れている軽快な音楽に合わせて指パチドラムを披露しても良いが、どうにも地味さがぬぐえない。


 そんな時、ふと俺の目に留まったのは、紫色のテントである。大道芸大会会場の隅っこで、占いの館が営業中のようだった。


 占いテントからは、見るからに怪しい雰囲気が漂ってくる。


 だけど、占いとかってのは、怪しい雰囲気のほうが当たりそうな気がするものである。


 ここはちょっと、大道芸をどういうネタにするか占ってもらって、ついでに金運も占ってもらうことにしよう。


「レヴィア、入ってみようか」


「ラックさんがいいなら、入りましょう」


 そして俺たちがテントに入った時、そこには、見知った顔がいた。


「待っていたよ、ラック」


「おっ、お前は、キャ……えっと……キャッ……キャット……なんだっけ?」


「キャリーサ! あたいは合成獣士キャリーサだよ!」


 キャしか合ってなかった。そう、この人はカードに内在する雰囲気を読み取ることによって獣を召喚することができるムラサキ女、キャリーサである。


 たびたび俺とレヴィアの前に現れては、行く手を阻もうとする長身の女。こいつは危険でヤバイ女だ。


 俺はレヴィアの手を掴んで、入ったばかりのテントを出ようとする。


 レヴィアはびっくりした顔で新しい帽子をおさえていた。


 走ってテントを出て、そのまま大道芸広場を離れようとしたのだが、


「あいたぁ」


 突然目の前に紫色の壁があらわれて、思い切り衝突して、派手に尻餅をつかされた。


「だ、大丈夫ですか、ラックさん」


 さらりと回避していたレヴィアが、両手で俺を引っ張り起こしてくれた。


 それにしても何なんだ。何だってキャリーサは俺たちにつきまとってくるのだろう。


 のそのそとテントから出てきたキャリーサは、レヴィアの晴れ晴れとした真白い姿をみて一瞬だけ驚いた表情になった後、すぐに向き直り、指先でカードを遊ばせながら言う。


「さあラック、目をさますんだよ。その子はマトモじゃないのよ」


 ムラサキ女がそんなことを言ったので、そんなはずないと思いながらもきいてみる。


「そうなのか、レヴィア。マトモじゃないのか?」


 困った顔で、俺を見上げたまま、目をぱちくりさせていて、はいともいいえとも言わなかった。


 俺は、ちょっと考え込んだ末、わかりきった結論をはじき出す。


「キャリーサとか言ったか。紫色の変な服着てるし、派手な化粧してるし、明らかにお前の方が怪しい」


「あぁ? 見た目に騙されちゃダメだって言ってるじゃないさ。なんでわからないの」


「わかってないのはお前だ! レヴィアは良い子なんだぞ! 笑うとこの世のものとは思えないほど可愛いんだ! レヴィアにあやまれ!」


「もはや話し合いは無駄のようね……」


 紫のキャリーサは一度静かにを閉じ、かと思ったら、カッと目を見開き、言うのだ。


「わかったよラック、あんたを倒してでも、あんたを連れて行く!」


 今、戦いが始まる……かに思われたのだが、ここで視界を真っ白なシルクドレスが覆いつくした。なんとレヴィアが、俺を庇うように前に立ったのだ。


「レヴィア……?」


 小さな白い背中が、とても大きく見えたけれど、よく見ると、きつく握った拳が少し震えていた。


 大きな勇気を出して、レヴィアは俺の前に歩み出たのだ。


 その姿に、俺は感動せざるをえない。


 そして、レヴィアの勇敢さに心打たれたのは俺だけじゃない。通りがかりのニューハイエンジ民が、俺の呟いた彼女の名前を拾い上げた。


 ニューハイエンジ民の一人が声を上げる。


「レヴィアちゃん……。あの子はレヴィアちゃんっていうのか」


 そして続々と、


「がんばれレヴィア」

「まけるなレヴィアたん!」

「レヴィア」

「レヴィアちゃん!」


 そしてついに、周囲からレヴィアコールが響き出す。


「なっ? な? え?」戸惑うキャリーサ。


 ――レヴィア! レヴィア! レヴィア!


 ああ、この世界の住人は、本当にコールするのが好きだなぁ。でも、今回は相手を傷つけるギルティコールじゃなくて、けなげな女の子に対する応援のレヴィアコールだから、大いに許そう。


 もっとコールを。どんどんコールを、よろしくお願いしたい。


「ちょっと! これじゃあ、まるであたいが悪役じゃないの」


 確かにな。キャリーサは、服装が毒々しいから、どう見ても悪役にしか見えない。だけど、真実はどうであれ、実際、俺とレヴィアの邪魔をするのはこれで三度目なのだから、もはや俺にとっても不善(あく)である。


 俺はコールを切り裂きたくて、声を振り絞って叫んだ。


「やっちまえ、レヴィア!」


 その声を受けて、レヴィア両手を広げて見せる。


 いつの間にか周囲は人だかりになっていて、大歓声が響いた。


「ふ……ふん、あたいも、今回はとっておきの合成獣を用意してきたからね、そっちがやる気だってんなら、仕方ないね。どうなっても知らないよ!」


 キャリーサは五枚のカードを取り出した。前回はそこから三枚をピックアップしたが、今回は五枚すべてを手のひらに置き、召喚に入る。


「一流企業マンの名刺! 一流大学生の名刺! 国立国会図書館とやらの会員証! 一流動物園の年間パスポート! そして! 無事故無違反の証、一流ドライバーのゴールド免許証!」


 なんだろう、全部それなりに普通に生きてりゃ手に入れやすそうなカードたちである。


 五枚のカードを指で撫でると、それらは紫色の炎に包まれて煙になった。


 前回よりも大きな煙は、やがて固まって、十メートルはあろうかという、尋常じゃなく巨大な生き物の姿になった。


 巨大な、ニワトリの姿に。


「クルルックー!」と高らかに産声をあげたニワトリ。


 これには大道芸を楽しみに来ていた観客も喝采をあげる。「すげー手品だ」とかなんとか。


「ちょっ」キャリーサは戸惑いを隠せない。「なんであのカードからこんなのが! キメラ要素ないし!」


 すると、造物主の発言がお気に召さなかったようだ。ガシガシとクチバシを紫に向けて振り下ろしまくるニワトリ。


「アッ、いたっ、いたたたたっ、やめ、やめなっ! やめるんだよ!」


「クルルックー!」


 クチバシ攻撃をやめたかと思ったら、今度はゲシゲシと足蹴り攻撃が開始された。


「ちょ、まって、体重、あんたの体重やばいから、いたい、いい加減にしな! 二千二十一号! あんたの敵はこっちじゃない! あっちの女と男! わかるでしょフツー!」


 キャリーサの声を受けたニワトリは、こちらを見下ろした。途端に、何かに怯えたようになって、俺たちから距離を取ろうとした。


「待ちな」とキャリーサがニワトリの羽毛を掴む。


「クルルックゥ……」


「何回言わせんの! あんたの仕事は、あいつらをやっつけて言うこと聞かせること! わかる?」


「クルルゥ……」


 巨大ニワトリはそっぽを向いた。


 わかっていてもやりたくない、という態度である。


 巨体のニワトリが、なぜあんなに怯えているのか、何を見て怯えているのか。それについては、まったくよくわからないが、ともかく、召喚士と召喚獣の間がうまくいっていない今が好機。


「レヴィア、逃げるぞ」


 俺がレヴィアの手を引こうとしたが、びくともしない。一歩も引かず、彼女はキャリーサを見据えていた。


「レヴィア……?」




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