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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第三章 ネオジュークを目指して
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第40話 荒れ地の決戦(2/4)

 俺たちは、アンジュさんの隠れ家があった洞窟を出て、世界を見渡せる峠の(いただき)にまで来た。ここは、いつかの夢で、たくさんの流れ星を見た場所でもある。


 そこでレヴィアは帽子を風に飛ばされないようにおさえながら、南の方を指差して、言うのだ。


「あっちに荒れ地があります。大魔王と勇者の戦いによって、もともと荒れてたのがさらに荒れましたけど、マナが大量に染み込んだので、しばらくしたら、きっと豊かな土地になります。……大魔王も、もういませんしね」


 そう言った時のレヴィアは、どことなく寂しそうに見えた。


  ★


 さて、ラックさん。大魔王決戦も第二ラウンドに突入なわけですが、どこまで話しましたっけ?


 ……なるほど、大魔王たちの合体で、魔力(マナ)が爆発的に漏れ出て、盾使いの少年と、カードコレクターしまりす。二人の大勇者が退場……というあたりですね。


 二人の魔核(たましい)が北に飛んでいった後、「次は、あたしね」という声とともに、ある大勇者が重い腰を上げました。


 大勇者まなかが、特に行動を共にする二人の大勇者。そのうちの一人です。


「あんたらは下がってな」


 と、ヒラ勇者たちに向けて落ち着いた声で言ったのは、冷たい目をした女でした。大勇者まなかよりもさらに長身で、すらりと伸びたシルエットが美しい人です。


 氷のような鋭い目つきでにらまれて、ドキドキしてしまったと言い訳みたいに言っている人がいたくらいです。


 え? 何かおかしいですか?


 にらまれたのは大魔王たちなんじゃないかって? えっと……えっと……いやその、普段からそういう、目つき悪い人で……ええと……ヒラ勇者たちの中に、鋭い目でにらまれて、たぶん、その、「邪魔だ」みたいな言われたことがある人がいて……戦っていない時とかにですね、そういう目を向けられて、ドキドキした人がいたと……あっ、まあその……私に戦いのことを語ってくれた勇者の生き残りが、この人のファンだったんですよ。


 と、とにかく!


 今はちょっと静かにきいてくださいよ。詳しく知りたいって言ったのは、ラックさんなんですから。


 それでですね、そのアリアさんって人は、「嚴氷(げんぴょう)のアリア」ってよばれてるだけあって、かなり高位の氷魔法使いという噂です。軽く手をかざしただけで都市ひとつを凍らせてしまうような。


 彼女の参戦で何が起きたかというとですね、一言で言うと鎮静化です。大魔王軍の出現によって、せっかくあふれ出した魔力(マナ)が、彼女の力で鎮静化されてしまいました。


 アリアさんは、自分の体内にもかなりの魔力を蓄えていましたが、自分の外にある魔力を利用するスキルを重点的に上げていました。


 もうね、半分くらい氷の像になっちゃいましたよ。しかも、凍らされてから急激に乾かされて粉々に砕け散りましたよ。


 多くの魔核(たましい)が北に飛んでいきました。


 私もその夜にちょうど起きてて空を見ていたんですけど、流れ星がたくさん夜空を彩って、とっても綺麗でしたね。


 実はですね、魔力(マナ)が溢れた時には地震や雷や大噴火とか、そういう自然現象と言われているものが盛大に起きるんですけども、それっていうのは、力が行き場を失うからなんですよ。上手に使い道を与えてあげられなかったから暴発する、みたいな感じです。


 力を導くことのできる人っていうのは本当に貴重で偉大ですよね。


 そんなわけで、増大して爆発しかけていた戦場の魔力量は、偉大な力をもった彼女の氷によって使い切られ、割れた地面が戻っていくのと同じような緩やかなスピードで地面に吸い込まれて行きます。氷が解けていくのと同じ速度で、じんわりと染み込んでいきました。


 マナがない!

 みんな氷づけ!


 魔王軍、最大のピンチです……と言いたいところですが、この時点では、まだまだ大丈夫。アリアの生み出す氷たちは、とある大魔王がいるところから先には侵入できなかったのです。戦場に氷と炎がせめぎ合う、一本の線が敷かれていました。


 ゆらゆらと、視界がゆらめきます。


 大勇者どもの目には、六つの翼が生えた美しい天使の姿が映っていたことでしょう。


 威厳に満ちた巨大な体躯、頭からは蛇が大量に生え、持っている炎の剣は、ぐるぐると刀身に巻き付いた炎がドリル状に回転するものでした。高位の大魔王、「(けか)れし聖樹の守り手」ことフェルキェル様です。


 ちなみに、彼のカッコイイところは、翼をあまり動かさずにスゥって飛んで移動するところなんです。


 下から上にのぼっていくという熱の特性を利用して、浮いているのです。格好悪くばっさばっさと翼を動かさなくてもいいのです。翼の角度を少しずつ調整するだけで、行きたい場所に風よりも速く移動できるんです。


 そんな威厳ある優雅な飛び方も含めて、フェルキェル様は最高に素敵です。最強の堕天使とも言われていて、はっきり言って炎系最強の使い手です。


 特に、特にですよ、あの剣にねじれながら巻き付く炎の猛々しくも上品な美しさったらもう、言葉にならないくらいです。


 私って、ねじれ方が微妙なものを許せない性質っていうか、なんていうか、ねじれにはうるさい女なんですけど、フェルキェル様のねじれは本当に悪魔的魅力をもっていて文句のつけようがないのですよ。角度も密度も色彩も……はっ、すみません、私としたことが、ついつい語ってしまいました。


 話を戻しましょう。


 大魔王フェルキェルと大勇者アリア。互いの領域が巨大なので、両者の距離はかなり遠かったですね。一方のフィールドは炎に包まれて赤黒くなっていて、もう一方は青白い氷が覆っていました。


 どっちも、巻き込まれたら大変なことになるレベルの力を発散しています。なので、他の大魔王は後方に素早く避難していて、勇者側も後方に散っていきました。


 一騎打ちというわけです。


 せめぎ合う、最強の炎と最強の氷。


 アリアは味方の避難が済んだのを確認すると、これまでよりも強い冷気を放ち、一歩ずつ前に進んでいきます。


 フェルキェル様のほうも大魔王のプライドがあるため、何柱かの大魔王を理不尽に消し去るほどの熱を大袈裟に放ってから、アリアのほうに歩み寄っていきます。


 力がぶつかり合う境目では視界が、それまでよりも強く、ゆらゆら陽炎のように揺れていました。


 先に攻撃を仕掛けたのは、アリアでした。不意に立ち止まった彼女が敵に向かって手をかざすと、氷が地を這っていきます。境目から少し進んだあたりで氷の浸食が止まり、蒸発していきました。


 逆にフェルキェル様の剣から繰り出された反撃の炎も、アリアの領域に入ると、螺旋状の炎の形状のまま氷になって、ごとりと地面に落ちました。


 その後も両者譲らず、届かない攻撃の応酬が続きます。


 つばぜり合いを地味に続けながら、少しずつ両者は近づいていき、やがて、互いの攻撃が届く距離になった瞬間でした。


 普段は羽ばたかないはずのフェルキェル様が本気で羽ばたき、先制攻撃を仕掛けます。目にも止まらぬスピードで接近し、アリアに斬りかかります。


 あのスピードが見えていたのでしょうか、右手に氷の斧をつくったアリアは、炎の剣を受け止めて、そのまま左手にも斧を出して六枚の翼を斬りつけようとしました。


 大魔王は頭から生えていた蛇を数匹飛ばしてみますが、すぐに凍って地面に落ちました。


 アリアは太い氷の槍を用意し、敵の胴体を貫こうとします。


 大魔王フェルキェルが手をかざして炎を集中させ防御しようとしたところ、氷はそのガードをあざ笑うかのようにフェルキェル様の前で爆散し、大魔王の六枚の翼に穴をあけました。


 空に浮かび上がる力を失った大魔王が、地に足をつけさせられたということです。


 フェルキェル様は怒りをあらわにしながら、剣を振って螺旋状の炎撃を出しまくります。


 その撃ち方といったら、なんだか滅茶苦茶だったのです。みっともないとすら言えるようなデタラメな炎撃にしか見えず。魔力(マナ)の無駄遣いのようにも思えました。


 しかし、フェルキェル様は高位の大魔王なのです。もとは天使ですし、頭もいいのです。何も意図せずに炎を撃ったなんてことはなく、実は凍らされた蛇めがけて放たれたのでした。


 ほとばしる炎の力を受けた途端に蛇は生き返り、氷の世界を切り裂くように躍り上がると、しゅるるとアリアの首に巻きつきました。首だけでなく、手足の自由も別の蛇によって奪われました。


 周囲の環境は、いつの間にか炎に包まれており、フェルキェル様の勝利かと思われましたが、そう簡単にいくわけもありませんでした。


 伊達(だて)に大勇者を名乗っているワケではなかったです。


 アリアを中心に、放射状に氷のフィールドが再び広がり、蛇は砕けて全滅。フェルキェル様も思わず後ずさりました。


 俯いたままの彼女が前進します。何事かぶつぶつと呟きながら敵の方へと一歩ずつ進んでいきます。彼女が前方を薙ぎ払うように腕を振るうと氷の槍が姿を現しました。これまでよりも密度の濃い、透明感あふれる尖った氷塊が無数に生まれ、フェルキェル様を襲います。


 反撃で回転する炎を飛ばしても、氷の盾で簡単に弾かれてしまいます。


 大魔王の中でも強大な力をもった、あのフェルキェル様なのに。


 思った以上の絶望的な実力差がありました。


 とどめは、呪文を唱え終えたアリアが顔を上げて目を見開き、「アイスアイランド!」などという声を上げたかと思ったら、アイランドというだけあって、本当に島が落ちてきました。


 空中で雲になろうとしていた水蒸気たちが集められ、冷やし固められて、氷塊となり、フェルキェル様の頭上から落ちてきます。


 ――もはやこれまで。


 目を閉じて地面に座った(いさぎよ)いフェルキェル様は、潰されていきました。


 炎の剣だけを残して、砕け散ってしまったのでした。



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