表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第三章 ネオジュークを目指して
39/334

第39話 荒れ地の決戦(1/4)

 レヴィアは小さな唇で語りだした。荒れ地での、勇者と魔王の決戦を。


  ★


 実はですね、北にあるフロッグレイクが魔王の本拠地とされてましたが、あれはフェイクだったんですよ。


 数年前、フロッグレイクで大勇者たちが倒したのは、ただのヒラ魔王だったのです。


 言ってしまえば、替え玉です。


 大魔王に見せかけた替え玉が死んだことで、大魔王たちは安心しました。形はどうあれ、転生者が魔王を倒すと消えるという情報を得ていたから。だけど、魔王をどれだけ倒しても消えない人がいたのです。


 彼らは王室に伝わる秘密儀式によって、魔王を倒しても消えないようにされていました。


 そうです。それが、大勇者。


 ただの勇者じゃない、大勇者なのです。


 さて、ネオジュークのずっと南に砂と岩だらけの荒れ地があって、その奥地に大魔王の真の居城がありました。


 大勇者たちは、中級くらいの魔王が築いたフロッグレイク要塞を攻略した後に、その巧妙に隠された事実を掴むと、神聖皇帝から直接の命令を受けて、ついに大魔王との決戦に挑むことになりました。


 マリーノーツ史上最大の大魔王討伐戦のはじまりです。


 荒れ地に魔王側の防衛線が敷かれ、魔王たちはズラリと並んで待ち構えていました。あれは壮観でしたね。あれだけの魔王が揃うことって、なかなか無いんですよ。


 とはいってもですよ、実はこの魔王たちっていうのは、見た目がスゴいのばかり集められていただけで、そんなに上位の魔王ではなかったんです。


 言ってしまえば、この方々も替え玉です。影武者ともいいます。


 偉い大魔王は、もっと後方にいて、余裕の表情で戦いをながめていたのです。


 だけど、はっきり言って、この時点で、もっと大魔王たちは真面目にやるべきでしたよね。


 「下級魔王たちのお手並み拝見ダナ」とか「武功を上げたものは大魔王に昇進ぞ」とか言ってる場合じゃなくてね。


 だって、大勇者たちは本当に豪華メンバーだったんですから。五人の大勇者が全員参加するなんて、マリーノーツ史上初なんじゃないですかね。


堕天劔士(だてんけんし)まなか」を筆頭に、「(あか)雙銃(そうじゅう)のセイクリッド」、「嚴氷(げんぴょう)のアリア」、「神(しんじゅん)ロックブロック」、そして「カードコレクターしまりす」……ん、どうしましたラックさん? 何か気になることでも?


 えっと、「しまりす」って名前がそんなおかしいです? しまりすは、カード使いの中でも屈指の実力者ですよ。一人で何とかするタイプというよりは、サポート系の能力者ですけど。


 本当に厄介な女です。しまりすのせいで、大勇者はより強力になり、普通の勇者でも大勇者並みの力を発揮できましたからね。


 というわけで、魔王側も勇者たちを研究していて、まずはこのしまりすを重点的に狙い撃ちして倒すことにしました。


 全火力を、しまりすに集中です。


 ところが、ここで立ちふさがったのが、神の盾。ロックブロックという人です。ええ、いかにも硬そうな名前ですよね。でも線の細い幼い少年の姿なんですよ。人は本当に見かけによらないものですね。


 この少年も、もう本ッ当に厄介で、魔王の第一陣はこいつに全滅させられました。


 全ての攻撃を倍にして跳ね返す能力なんて、ズルですよ本当。相手は下位の魔王とはいえ魔王だったんですけどね……攻撃力だけなら大魔王に匹敵する方もいたくらいでしたし。


 とにかく、先鋒の魔王たちは攻撃に特化した方々ばかりだったので、あっさり消されて魔核(たましい)が北に飛んでいっちゃいました。


 ここでね、少し安心しちゃった魔王もいたんですよ。どういうことかっていうと、「魔王を倒すと勇者は消える」っていうのがルールになっていたから。


 悲しいことに、普通のヒラ勇者だったら消えてくれますけど、大勇者は、どれだけ魔王を狩っても、消えることはないんですけどね。


 救いだったのは、ロックブロックさんも無敵ってわけじゃなかったことですかね。魔王側も第二波、第三波と人海戦術を展開し、神の盾もさすがに魔力切れになって後退せざるをえませんでした。


 その隙をついて魔王側も作戦会議を行います。


「あの卑怯な盾をどうすりゃいいのか」

「全方位からの同時攻撃でもやってみるか」

「ヤツの戦いぶり見てて気づいたんだけどよ、地下にまでは気ィ配ってない気がするぜ」

「それだ!」


 後方で食事をとって全回復したロックブロックを倒すために、魔王のプライドをかなぐり捨てた地下からの攻撃。そうすることで、足場を崩して何とかしようとしました。


 実際に、余裕たっぷりの生意気少年による防御は、地面が無くなったことで一瞬、乱れました。さすがのロックブロック少年も慌てた表情を見せたのです。


 ところがですよ、ここに物質を生成するスキルを持った無名の勇者があらわれて、瞬時に足場を再構築され、しかもその足場が、しまりすとロックブロックをのせて空中に浮かび上がってしまいました。


 こうなると、もう見える所からしか攻撃できなくなって、しまりすには攻撃が届きません。しまりすのカードで超強化されたヒラ勇者の剣で次々に有名な魔王たちが消されていきました。


「これはいかん」と思った魔王の軍師が次にとった作戦は、兵糧ぜめでした。勇者たちが食料補給によって魔力を得ているということは、その補給経路を断絶させれば前線を魔力切れに追い込めるのではないかと考えました。


 考え方として、それは、間違いではなかったんだと思います。


 ところがですよ、またしてもところがですよ、食べ物を運んだり作ったりしてるのが、まさかの大勇者!


 そう、大勇者まなかだったんですよ。


 なんでそんなところにいるんですかって感じですよね。


 魔王たちは大勢で鍋を抱える彼女を取り囲みはしましたけども、もうワンパンですよ、ワンパン。剣を抜くまでもなく拳で散らされましたからね。


 あれだけ上位の魔王が一瞬で消されてしまうんですから、彼女と戦おうとか、彼女に復讐しようなんて絶対に考えちゃダメですよね。


 さて、兵糧ぜめ作戦に失敗した魔王たちが次にとった作戦は、融合合体でした。最初からそうしていれば、勝ち目もあったかもしれません。余裕しゃくしゃくで序盤に攻撃力の高い大悪魔たちを失ったのは本当に采配ミスと言わざるを得ません。


 ただ、仕方ないなって思うところでもあるんです。やっぱ魔王って、それぞれが大きな実績や自信を持っている人たちばかりで、団結力がイマイチなのです、だから融合合体なんていうのは、本当に追い詰められた時にしかやらない手段なんですよね。


 というわけで、情けないことに、ここでもやっぱり大魔王のプライドが邪魔をしました。


 本気出して全員で合体すればいいものを、何柱かの大魔王が部下や眷属を取り込んで巨大化しただけだったのです。大魔王同士の合体は、驚くべきことにゼロでした。


 全部の大魔王が融合合体するんだって話になってたはずなのに、誰ひとりとして軍師の言うことを聞かなくて、六百六十五柱の大魔王たちは、思い思いの形態をとりました。


 荒れた砂漠に似つかわしくない巨大タコとか、荒れ地に似合うラクダとか……他にも、牛の頭の巨人とか、首のない巨人とか、巨大なハエとか、黒い翼の天使とか、熊とか、形のない何かとか、フクロウのような姿をしたものもいました。二つの頭が生えた蛇とか、ドラゴンもどきとか、魔犬とか……。


 ――え、ラックさんは、いかにも悪魔っぽい悪魔を夢に見た?


 まなかと一緒に二人の勇者が一緒に戦ってた?


 悪魔は爪先立ちで、目が赤く光ってて、翼があって、巻角?


 ああえっと、何でだろう。たぶん、その特徴だと、ラックさんが言ってるのは、バホバホメトロ族ですかね。


 あの戦いでは、バホバホメトロ族は全く活躍してませんけど、マリーノーツのバホバホメトロ族っていったら、本当に格好良くて、立派な巻き角をもち、鋭い爪と牙で敵を切り裂く種族だったんですよ。


 倒した勇者は数知れず、人々から超おそれられ、同時に敬われてもいました。


 そういう伝説的な大魔王一族だと言われています。


 だから、大魔王の中にも、その誇らしい過去の伝説にあやかって、バホバホメトロ族の姿を借りた者もいたのかもしれませんね。


 もっとも、ラックさんの夢が本当にあった戦いをそのまま再現したものだったとすれば、ですけど。


 さて、大魔王たちが六百六十五のグループに融合合体したことにより、荒れ地に膨大な魔力(マナ)が満ち溢れました。


 急に雷が鳴り始めたり、突然に禍々しい巨大な草が天空に向かって伸び出したり、何もなかったところから大噴火が起きたりと、戦場は地獄の混沌に包まれました。


 融合合体して一つになれれば、もっと効果が上がって、もっと地獄絵図になったのかもしれませんが……まあ過ぎたことを言っても仕方ないですね。


 とりあえず、このマナの爆発的増加は、大勇者パーティを壊滅に至らしめることはできませんでしたが、結果的にパーティの分断には成功したのです。


 何が起きたかというとですね、マナの激流による地形変化が起きました。魔王軍にとってはラッキーな変化だったと言えます。


 荒れ地に巨大な地割れができ、大きな裂け目に砂がドバドバ落ちていきました。これによって、勇者側は、後方からの補給や、マナ切れの際の休憩がとれなくなりましたし、ヒラ勇者たちも砂の流れに絡めとられて次々に裂け目のほうに落ちていきました。


 前線の形勢は逆転。もともと魔王なんていうのは燃費の悪いかわりに凄まじい動力炉をもった方々ですから、魔力(マナ)が溢れている場所での戦いに特化しています。逃げ惑う勇者たちを巨大生物たちが次々に襲っていきます。


 空中に浮いていた二人の大勇者、カードコレクターしまりすと神の盾ロックブロックは、しばらくは無事でしたが、さすがに融合合体した大蛇型の大魔王何十体にも囲まれてジワジワ締め上げられたら耐え切れません。盾が砕け散って、二人の魂は北に飛んでいきました。


 盾相手には、瞬発的な強い攻撃は全て跳ね返されてしまいますが、蛇になって巻き付いたりっていうような、じわじわダメージを与える系の攻撃は有効だったのです。


 それでも、カードコレクターしまりすが神の盾を本気で守ろうとしていたら、あの作戦もうまくいったかどうか……。その直前までは、しまりすがカードパワーで魔王を近づけさせないような結界を敷いていたのですが、この時は裂け目の落ちていくヒラ勇者たちを助けるために力を割いていました。その隙をついた形だったのです。


 こうして、運も味方になってくれたことで、カードコレクターしまりすと、神の盾ロックブロックの二人を、何とか倒すことができました。


 そして、荒れ地での伝説的な戦いは、第二ラウンドに突入していきます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ