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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第二章 旅立ち
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第35話 王室親衛隊(2/2)

「きこえなかったか? もう一度言うぞ、死刑だ。貴様には死んでもらう」


 ちょっと待って。おかしい。話が違うじゃないか。


「あのっ、死刑制度は廃止されたはずでは?」


 俺が慌てた調子で言ったところ、シラベールさんは、フンと鼻を鳴らし、


「反逆罪となれば話は別だ。それに、死刑制度廃止などという生ぬるいことをしているのは、この田舎町くらいのものだ」


「そ、そんな……し……しけい……」


 と、俺が絶望に震えかけた、その時であった。馴染みのある白銀の甲冑が人垣を割って現れたのは。


「――兄上! お待ちください」


 なじみ深い色の甲冑男は飛び出してきて、すぐに俺をかばうようにして割り込んだ。


 シラベールさんが、二人いる。


 赤みがかった甲冑と白銀の甲冑。二人のシラベールが対峙している。


「久しいな、クテシマタよ。父上がぶち壊しにした結婚の儀のときに会って以来か」


「そんなことより、王室親衛隊のサカラウーノ兄様が、なぜこの辺境の町に? そして、何故オリハラクオンを裁こうとしているのですか?」


 白銀のほうが俺の友人、クテシマタ・シラベールさん。十年の時を経て、ようやく俺の弁護をしてくれる気になったらしい。そして、赤っぽいほうが赤の他人、サカラウーノ・シラベールさんということである。


「何故裁くかって? 決まっている。ラストエリクサーは、魔王が残らずいなくなった今、何の価値もなくなった。このご時世に戦闘にしか使えないラストエリクサーを大量に集めるということは、何かと戦おうとしているということ」


「いや、兄上、お待ちください。オリハラクオンのは、そういうのではなく、もっとブザマなのですが」


 ちょっとブザマっていうのは言い過ぎなんじゃないのシラベールさん。そんなこと言うんなら、もう風呂貸してあげないよ。


「いいか、クテシマタよ。もう一度言うが、ラストエリクサーは戦いでしか効力を発揮しないのだ。特に魔王との戦いによく用いられてきた。今、マリーノーツで戦いが起きるとして、魔王並みに強い相手と戦うシチュエーションがあるとするなら、オトキヨ様と契約を交わした大勇者たちを相手にする時くらいだろう。ゆえに、反逆の意志があることに疑いようがない」


 大勇者というと、まなかさんみたいなのだよな。あんなのと戦うとか命知らずなことしないよ絶対。ラスエリなんか、いくつあっても足りないよ絶対。


 ていうか、あれ、ちょっとまって、さっきこの赤い甲冑のサカラウーノ氏は何て言った?


 ――魔王が残らずいなくなった。


 そんなことを言わなかったか?


 魔王のような強い相手がいなくなったのなら、ラストエリクサー大暴落は必然だったというわけか。にわかには信じがたいが……。


 そこで、俺は二人のシラベールさんの会話に割り込み、空気の読めない質問を飛ばす。


「でも、なんで急に魔王がいなくなったんですかね?」


 まなかさんの話では、魔王は、いなくなるはずないくらい大勢いるって話だった。転生者の数だけ魔王が生まれるんだってことを教えてくれた。


 ただし、魔王を倒すにはパーティを組んで戦うのが一般的であるという。そうしないと倒せないほど強いから。ということは、魔王一柱が消える際には、転生者はパーティ単位でいなくなるということなのだ。


 だったら余程のことが無いかぎり、魔王がいなくなるなんてことあるはずがない。それなのに魔王が残らずいなくなったってことは、その余程のことがあったということかもしれない。


 どういうことなんだろうか。


 これには、白銀の甲冑、クテシマタ・シラベール氏が答えてくれた。


「オリハラクオン、君は、そんなことも知らんのか」


 世間知らずだってのは自覚しているが、言い訳をさせてほしい。ラストエリクサーを検査鑑定するのに忙しかったんだ。


 白銀のシラベールさんは続けて言う。


「荒れ地での最終決戦があったのだ。大勇者まなか様を筆頭とするオールスター史上最強パーティによって大魔王軍が壊滅したわけだ」


「その通りだ」と赤い甲冑が頷く。


 いつか見た、まなかさんが戦う魔王らしきものと戦う夢は、マリーノーツの現実とリンクしていたのか。


 赤い甲冑は続けて言う。


「魔王軍は根こそぎ壊滅したのだぞ。長い長い戦いが終焉を迎えたということが何故わからぬ? 戦闘に特化したラストエリクサー。そのような呪われた薬が必要のない平和な時代になったというのに、ラストエリクサーをかき集めるということは、オリハラクオン、貴様が、反乱を企てているということ!」


「兄上、少し落ち着いて考えてみてください、オリハラクオンは、ただの常識知らずのバカです。信じられないかもしれませんが、オトキヨ様を知らなかったのも本当でしょう。まず反乱など起こせるような力はありませんよ」


「クテシマタよ。オリハラクオンを擁護しても身を滅ぼすだけだぞ。こやつは悪魔教を信奉している。お前もコイツの仲間だと思われたくなければ、これ以上首を突っ込むな」


「悪魔教? 何を根拠にそのようなことを? たしかに以前は褐色の肌の女性が描かれた絵画を所持しており、偶像崇拝をしていたようでしたが、この十年の彼は品行方正そのものですぞ」


「カゲでこっそり信仰していたのだろう。証拠があるのだ」


 そう言うと、サカラウーノ・シラベールさんは、見覚えのある巻物をドロロロロと乱暴に広げてみせた。


 そこには、びっしりと『正』の字が書かれている。俺がラストエリクサーの鑑定本数を数えていた布である。


「見ろォ! ここに怪しげな図形が並べられている。時々筆が乱れているのは、悪魔が降臨して憑依したのだろう。どうだ、これは、どう考えても悪魔を呼ぶ儀式であろう」


 筆が乱れたのは魔力切れだ。スキル使い過ぎで眠くなった時の症状である。


 友好的なほうのシラベールさんはしゃがみ込み、布を掴み上げて言う。


「兄上、これは、転生者の数の数え方の一つです。オリハラクオンは、ただラスエリ草の数を数えていただけですよ。このひとつのブロックで五画なので、数を数えるのにちょうどいいのです。発音は『セイ』や『ショウ』と読むとのこと」


「ええい黙れ、小汚い三つ編み田舎娘なんぞを嫁にした面汚しの言うことなど、信じられるものか!」


「――なんですと?」


 白銀の甲冑が激しい音を立てた。


「よくも……よくもベスを小汚いなどと!」


 そうして甲冑は剣を抜いた。


 ざわつく聴衆。悲鳴を上げて逃げ出す人もいた。ギルティ祭りどころではなくなってしまった。


 この集まりの主役が、俺から甲冑二人に移行したのだ。


「兄上! 取り消していただこう!」


「取り消す? 何をだ? 貴様の奴隷を悪く言ったことがそんなに気になったのか?」


「ベスは奴隷ではない!」


「じゃあ何だって言うんだ? 牧場主など卑しい身分の仕事であろう」


「……すまない、オリハラクオン。兄上こそがギルティであった。ここは自分に任せて逃げるのだ」


「大丈夫なんですか? 相手は親衛隊とかなんとか言ってなかったでした?」


「親衛隊といっても所詮は末端。反逆事件専門の捜査官というだけで、大して強いわけじゃない」


 そうは言っても、クテシマタ・シラベールさんだって、食料盗難事件の捜査官だっただけで、全く強そうじゃないぞ。とても心配だ。


「顔に出ているぞ、そんなに心配するな、オリハラクオン。大丈夫さ、奥の手がある」


「シラベールさん。あなたは、俺がこの世界に来て初めてできた友達なんです。絶対に死なないでくださいね」


「正しき行いの結果ならば、死など恐ろしくはない。だがな、無実の人間を断罪するなど、神が許しはしないさ」


「その言葉、十年前にも、ききたかったぜ」


 俺は心配を押し殺し、笑顔を見せてやった。


 シラベールさんは叫びとともに斬りかかる。


「うおおぉおお! ベスに謝罪しろぉ!」


「甘いわ!」


 正面からの白銀の斬撃を、赤い剣が受け止めた。そのまま白銀の剣が連続で攻撃を繰り出し、何度も金属音が響く。やがて赤みがかった甲冑を柱に追い詰めた。





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