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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十二章 隔てられた世界
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第295話 レヴィアの旅 エアステシオンで羽化昇仙を(4/4)

 サガヤ地区の広場にて、ゆったりした青い服が、紫と黒の毒々しい水玉の服と対峙していた。つまり、フリースとキャリーサが向かい合っていた。


「荒れ地の『しまりすコレクション』って、知ってるかい?」


 キャリーサはそう言ったが、フリースとコイトマルは同じ方向に首をかしげた。全く知らないようである。たしかに唐突で、俺にもよくわからない。


「かつて、大勇者しまりすという最高の女がいた。あたいと同じように、カードの性質を読み取って、現実に効果を現すタイプのカード使いさ。もちろん、あたいとは細かな違いがある。しまりすは『直感スキル』の使い手で、あたいは『占いスキル』の使い手だった。それに、攻撃系のあたいと違って、しまりすは、支援系のカードを好んで使う最強のカードコレクターだった」


「その話、長くなる? あと三行で終わらせてくれない?」


「なっ、しまりす先輩に失礼でしょう。あんたも大勇者の(はし)くれなら、『カードコレクターしまりす』くらい知っときなさいよ」


 キャリーサはこう言うが、そんなに重要でもないと思う。変な名前だし興味がないわけではないが……。


「しまりすって変な名前で笑えますね!」


 とコイトマル。このイトムシは、やっぱり俺と思考回路が似ているかもしれない。


「はぁ、まったく、揃いもそろって、失礼なやつらだよ。いいかい、だいぶ端折(はしょ)って言うとね、大勇者しまりす先輩は、荒れ地の大決戦で魔王軍にやられたんだ。だから、しまりす先輩が散華(さんげ)した荒れ地には、しまりす先輩が集めたカードが、大量に埋まってるってわけさ」


「要するに、キャリーサは、そこにレアなカードをとりに行ってたってことだね」


「その通りさ。レアカードだらけの『しまりすコレクション』を、ツノシカでの修行で強化された偽装スキルを交えて使えば、あたいの合成獣スキルは、前人未踏の領域に突入する! それこそ、大勇者しまりす先輩を超越するレベルにまで到達できるのさ!」


 キャリーサは、背面に美しい装飾のあるカード三枚を取り出した。


「さあ、出なさい、合成獣(キメラ)三千三百三十三号! そして、青い髪の小さな悪鬼(あっき)を豆粒みたいにすり潰すのよ!」


 キャリーサが、三枚のカードをぴったりくっつけて、三角形をつくるように宙に浮かせると、そこに命を吹き込むように手のひらを合わせて、グッと押した。


 くるりとめくれたカードがこちらを向いて、偽装スキルによって具現化される。


「世界最高峰の戦い、重要な球技スポーツ試合のチケット! 豪華アーティストが夢の競演、激レアコンサートのアリーナチケット! コレクター界の巨人、カードコレクターしまりす先輩の名刺(ネームプレート)! この三枚によって、新たな合成獣が、今うまれる!」


 そして煙とともに誕生したのが、ギターのような弦楽器を抱えながら、歯茎をむき出しにして揺らぎながらデスメタル的ボイスを発する、ツギハギだらけの小さなリスだった。「モヴォォー」とか叫びながら出てきた。大きさとしては、コイトマルと互角くらいだ。


「きもっ」


 フリースの言うとおり、気持ち悪くて禍々しい。


 俺は、ネオカナノで『曇りなき眼』を手に入れていた。そのスキルをもっていると、偽装スキルが全て無効化されるため、キャリーサが合成獣を出しても、ただふわふわとカードが浮かんでいるだけにしか見えなかった。


 写真でも撮れれば、スキルレベルによっては合成獣が見えることもあるようなのだが、残念ながらスマートフォンとは縁がなかったからな。


 だから、俺はこの時、久しぶりに彼女の合成獣を見たことになる。夢の世界では『曇りなき眼』の効果は発動しないからだ。


 これは何とも、センスを悪い方に磨きを上げてしまっている。みんなが吐き気を我慢するように口をおさえていた理由が理解できた。気持ち悪すぎる。


 キャリーサは言う。


「今回のは失敗かもね。デザインは、そっちのコイトマルなんかより可愛いけど、もうちょっと大きさで圧倒したかったよ」


 彼女が思い描いていたのは、もっと立派な合成獣だったようだが……その前に、だ。キャリーサ、やはりこいつの感覚は間違っている。可愛いだと? コイトマルのほうが可愛いし格好良いし、良い子だ。


 こんな気色悪い相手には、絶対に負けて欲しくない。


 フリースも同じように思ったようで、氷の力を使うために手を持ち上げた。


「まってくださいご主人様! ここはコイトマルにお任せください」


「そう?」フリースは、コイトマルの言うとおり、不安ながらも手を引っ込めた。


 キャリーサは「うーん」と唸りながら、「いやはや、陽の気が強すぎたかな……。あの組み合わせで、どうしてコレに……」と呟き、続けて言うのだ。


「まさか、カードが荒れ地で呪われてしまったとでもいうのっ? いや、でも、あたいはね、あたいの合成獣(キメラ)スキルを信じる! ゆけっ、三千三百三十三号!」


 命令された獣は、「ヴォーヴィヴォー」という小柄な身体には似合わない喉の奥からのデスメタルボイスを撒き散らしながら、コイトマルに突進した。


「くらいな! あたいの合成獣(キメラ)アタックをさ!」


 ものすごい高速で向かってくる気持ち悪いリス型の獣。


 その時、コイトマルは、目を閉じた。気持ち悪い小動物を見たくないのかとも思ったが、敵の動きに惑わされず、心の()でもって相手を斬るつもりらしい。


 なるほど、これは良い手なのかもしれない。


 偽装スキルの鎧を纏ってはいても、所詮正体はただの三枚のカードなのだ。


 そのカードの場所さえわかって、斬ることができれば、一瞬にして勝利を掴むことができる。


 コイトマルは、青い頭の上についた(くし)形の触覚をぴくぴくと動かし、そして刀を抜き、刀身を要求した。


「ご主人様! 氷を!」


 力を借りないみたいなことを言っておいて、結局フリースの力は必要だったのだが、そんな細かいことは今はどうでもいいことにしよう。


 コイトマルは、右手から糸を三回に分けて放出した。


 高速で飛び出た細い糸は、その粘着性でもってリス型の合成獣にくっついたように見えた。


「なっ、あんたまさか、看破スキルとか、上位の偽装破りスキルがあるっていうの?」


「いいえ、そんなものはありません」


「じゃあ……じゃあ、なんでカードの正確な位置がわかるのよ!」


「ふふふ、それはですね……コイトマルの触覚には、優秀な空間把握能力があるのです!」


 フリースは、「おお、偽装破り、ラックに似てる」と小さく拍手して嬉しそう。


「いっけえええええええ!」


 コイトマルは、糸を一気にたぐり寄せると、三枚のカードが目の前に並び、キャリーサの合成獣は煙になって消え去った。


 そして、「ま、待った!」というキャリーサの声の中、コイトマルは待たずに氷刃一閃。横に薙ぎ払い、三枚のカードは六枚になった。コイトマルの勝利だ。


「うそ……負けた……生まれたての下っ端に……」


「下っ端じゃない。コイトマルは、ラックが名付けたあたしの相棒なんだから、強くて当然」


 三千三百三十三号という形を失って無意味になってしまったカード。急いで駆け寄ったキャリーサは膝をつき、悲痛に叫ぶ。


「嘘でしょ! あたいの、とっておきの三枚がぁ! わざわざ荒れ地に行って取ってきたレアなのに、どーしてくれんの!」


 とっておきをこんなところで出したキャリーサが全面的に悪いと思う。


「また拾いに行かなきゃいけないじゃん!」


 拾いに行って手に入るんだったら、まだよかったじゃないか。


 キャリーサは、しばらくずっと、膝をついたまま両手も石畳に置いて四つん這いになり、悲しみを表現していた。




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