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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十二章 隔てられた世界
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第289話 レヴィアの旅 ネオジューク

「マリーノーツには、あたいしか知らないエリクサーがあって、あたいしか知らない秘儀(ひぎ)がある」


 案内人キャリーサがロウソクの明かりしかない薄暗い占い用のテントの中で、二人に向かって説明していた。


 夜のない都市ネオジュークは、ピラミッド型の屋根に(おお)われた場所である。


 町の中心地にあるフレイムアルマ広場の直上には、白い螺旋の炎がゆらめいていて、その炎はレヴィアのお気に入りなのだが、今、三人がいるのは薄暗い場所。広場に張られた紫色のテントの中でお茶を飲みながら話していたので、小さなアロマキャンドルの明かりしかなかった。


 なぜここでテントを広げることになったかというと、キャリーサは疲れていたからだ。


 フリースに変な飲み物を飲まされたこともあるが、()()()()()を持ち歩く精神的苦痛が、彼女を消耗(しょうもう)させたようだ。


 休憩させてほしいと申し出て、誰に許可をとることもなく毒々しい紫色のテントを設置して、二人を招き入れ、比較的香りの弱いアロマキャンドルを選んで火をつけた。


「フリース、それからレヴィア。二人は当事者だから説明しておくよ。この世界であたいしか知らない、()()()()()()()()エリクサーのことを」


「それを使えば、ラックさんに会えるんですか?」とレヴィア。


「あたいも、時空を飛び越えたことなんか無いから知らないけど、その人の肖像画とか写真とかがあれば、その人の世界と繋がれるって話だよ」


「キャリーサしか知らない秘儀だって話だけど、何で?」とフリース。


「それはね、あたいがただ一人、エリザマリーからいざという時の逃げ道を受け継いだ女だからさ。あの人は言ったよ。『本当にどうにもならなくなったときは、ベスを連れて逃げてほしい』そういう言葉を、あの人は残したのさ。


世界脱出に必要な霊薬。

――その名は、第五(フィフス)次元(ディメンジョン)エリクサー。


時空をこえる霊薬さ。シガンバナっていう幻の花を大量に使うのと、五龍の歯がそれぞれひとかけらずつ必要。それをすり潰してから、イトムシの糸を織ってつくった布で(くる)んで絞ると、汚らしい、どどめ色の液体になる。油のように水に浮くソレを池に流し、その汚水の中に飛び込むことによって、異世界の池から出て来れるっていうものらしい」


 そんなエリクサーがあったのか。それならば、俺とレヴィアは、もう一度、再会できるかもしれない。俺がもといた現実世界で。


 ちなみに、キャリーサの精神的疲労は、『五龍の歯』という宝物群を所持していることによるものに違いない。おそらく、五龍と交渉やら戦闘でもして認められなければ、このアイテムは手に入らないのだろう。


 そしてキャリーサは水玉の服の胸のあたりに手を突っ込んでから、中に縫い付けてあった布をぶちぶちっと破って、中から五色の石を取り出した。青、赤、銀、黒、金。それをフリースに手渡した。


「あたいじゃ不安だから、フリースが持ってて」


「これは?」


「この流れから言ったら、普通あれでしょうよ、五龍の歯よ」


「ふぅん」


 フリースは喉を鳴らしながら、それを青い服のフードの中に雑に突っ込んだ。


 大事なアイテムなのに、扱いが良くない。でも、コイトマルも大事にしているのだから、そこに入れたならフリースとしては最も安全な場所なのだろう。


「でもキャリーサ、どうして、あたしたちのために、そんな貴重なエリクサーを?」


「忘れたのかい? あたいは、オリハラクオンとは因縁がある」


 何だろうか、心当たりがあまりない。レヴィア誘拐事件のことは一生憎み続けることに決めたとはいえ、終わったことだし、俺としては、もはやあまりキャリーサに関わりたくないのだ。けれども、こうしてレヴィアとフリースによくしてくれるのだから、何かお礼をしないといけないとは思うけど……。


 レヴィア、「もしかしてキャリーサ、ラックさんに負けたことを気にして――」と口にしかけたが、キャリーサは遮るように、


「あたいは負けたんじゃない。負けたふうを(よそお)って、レヴィアから手を引いてあげたのさ」


 じゃあ因縁なんか無くない?


 俺に偽装が効かなくて負けたことを気にしてないなら、フリースとレヴィアを送るために時空超越の霊薬まで使うのは何のためなのだろう。彼女の罪滅ぼしだとは思えないし、彼女には何ひとつ得にもならないような行動に思える。


「あたいは思うんだよ、この世界から転生者がいなくなって、魔王もいなくなったのなら、あたいとか、ベスおばさんが危険にさらされることもないだろうし、使わないと勿体ないかなってね」


 これも、なんだか言い訳っぽいし嘘っぽい。いや、完全なる嘘ではないのだろうが、まだ少し、どこか優しい感情を隠しているような、そんな気がする。


「まさか、ラックのこと好きなの?」とフリース。


 何がどうなってそうなるんだろうか、ありえない、と思ったのだが、キャリーサは言うのだ。


「執着があるっていうのは、たしかに、好きって感情に近いのかもしれないね」


 と意外な返事をしてきた。


 本当に意外過ぎるだろう。キャリーサに好きになられる要素なんか無いぞ。俺は一生、レヴィアを誘拐した彼女を許せないし。あと気持ち悪い生き物を生み出して恍惚(こうこつ)とするのも、好きじゃない。


 レヴィアはあきれ顔で空を見上げる。


「ラックさぁん、またですか。相変わらず女とみたら見境ないですね」


 そうは言うけどもね、レヴィアちゃん。普段からレヴィアひとすじを気取っている俺は見境なく女性に手を出しているわけでは絶対ないし、今回に至っては、本当に一ミリも身に覚えがないんだ。キャリーサの思考回路はどうなっているんだ。


 その答えは、ものしりフリースが持っていた。


「まったく、キャリーサお嬢ちゃんは、本心を隠して面倒くさい。何枚重ねの服着てんのかって感じ。本当のところ、あたしたち二人への恩返しなんだよね。照れ隠しでラックのせいにしてるけど」


「え、どういうことですフリース? 恩を返されるようなこと、何もしてないですけど」


「レヴィア、それはね、まずレヴィアに対しては、自分なんかと仲良くしてくれてることに対しての感謝があるんだよ、キャリーサは。それで恩を返したいんだね」


「え、()()でいることに恩返しなんて必要なんです?」


 こんなレヴィアの自然にこぼれた言葉には、キャリーサは感動を隠しきれなかった。思わず狭い紫テント内で立ち上がって、「レヴィアぁ」と、らしくない甘い声をあげながら、向かい合って座るレヴィアに手を伸ばし、抱きしめようとした。


 友達、という存在に、これまでめぐり会ったことが無かったのだろう。


「くさいです。ちかよらないでください」


 これは、友達にかける言葉としては、あんまりな気がする。人間らしくない。元魔族だからしょうがないけど。


「あ、あっと、ごめん」


 目を泳がせながら先ほどまでと同じ場所に座ったキャリーサを見て、フリースが話を続ける。


「それとね、あたしに対しては、ラックの置いていった紫熟香の解呪セットで呪いを解いてあげたから、そのことで恩返ししたがってる。これは、まあ、あたしがね、ラックにしてもらったことと同じようなことしただけで……」


「ちょっとちょっと、待ってよフリース」


「なに?」


「あたいの格好悪い話をそれ以上、暴露(ばくろ)しないでほしいんだけど」


「は? なんで? カッコ悪くなんかない。ラックのせいにして、『仕返しをしに行く』とかって思っても無いことを言う方が、よっぽど恥ずかしい。素直にならないと不幸になるよ?」


 キャリーサは、雷にでも打たれたかのように、感激しているようだった。


「……フリース、あんた、占い師にならないかい? あたいより向いてるかも」


 キャリーサは小さく笑いながら、その笑いを隠すようにティーカップに口をつけた。


「これは占いじゃなくて、現実を冷静に観察した結果。占いは、スキルをもってるキャリーサに任せる」


「……ああ、じゃあ、占いテントを建てたことだしねぇ、せっかくだから、二人の恋愛運でも占ってやろうかい」


 キャリーサは、タロットカードのようなものを取り出し、台の上に置いた。


 そして、それを縦も横もわからなくなるくらいぐちゃぐちゃにすると、二人にも混ぜるように指示した。


 しばし、なごやかに、三人で一緒に混ぜる時間が続いて、やがてキャリーサはその中からランダムにカードをピックアップし、十字型に並べたり横に四、五枚くらい並べたりしながらめくっていき、なんだか気持ち悪いデザインのカードを全てをめくった後、目を閉じ、頷きをみせた。


 そして、言うのだ。


「へぇ、このカードの構成や並びから伝わる感じ……二人とも、ほとんど望み通りにうまくいくよ」


 俺の記憶では、レヴィアとフリースは、二人とも同じ人間が好きだったと思うのだけれど、二人ともうまくいったらまずいんじゃないかな。


 俺と同じように感じたのかもしれない、レヴィアとフリースは二人、顔を見合わせて困惑したような表情のまま、首を傾げあっていた。


 この占い師だいじょうぶかな、とでも思っただろうか。



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