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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十二章 隔てられた世界
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第284話 レヴィアの旅 フロッグレイクとリュミエール

「ラックさん、なんでいなくなっちゃったんです……?」


 いつぞや、皆で仲良く収容された大樹の地下牢(プリズン)に、レヴィアの呟きがよく響いた。


 答えてあげたい。そんなつもりじゃなかったと言ってやりたい。でも声が出なかった。


 ここは夢の中なのだろう。自由にならないのは仕方ない。


 それにしても、よりによって、何で牢屋なんかにいるんだよ。


 俺の予想だと、たぶん、レヴィアがひとりで自主的に牢に引きこもっているのではないだろうか。


 そう、彼女は地下の闇とかが好きで落ち着くらしいから、好んでここに入っているだけであって、何か悪いことをして捕まったというわけではないと思う。


 それにしたって、こんな景色、見たくもない。


 見たくもないのに、夢の視界を選ぶことはできない。


 かなしそうなレヴィアのシルエット。膝をかかえて、背中を丸めて、帽子(ハット)を深く深くかぶって、ずっと一人で俯いて……。


 せめて、誰か来てくれと思う。誰かに彼女を闇から引き上げてほしかった。


 本当は、俺が行きたいけど行けない。だから、誰か、誰か……。


 そんな願いが届いたのだろうか。牢の床を叩くヒールの音がきこえてきた。


「見つけた。ほらな、やっぱり、あたいの占いの通りだろ?」


 高いヒールの主は、偽装スキルと占いスキルの使い手、合成獣士キャリーサであった。久しぶりの登場である。


 きっと毒々しい派手な服装なのだろうが、地下牢が暗いためよく確認できない。


 ホクキオからしばらくの間ストーカーしてきて、カナノ地区やネオジュークなどでは散々俺とレヴィアを困らせた迷惑な占い師だ。誘拐なんて暴挙に及んだことがあるので、俺はキャリーサのことを許していないのだが、どうもレヴィアとは仲がいいらしい。


 それともう一人、足音をたてず、裸足で滑ってきた者がいた。


 フリースだ。


「レヴィア、むかえにきた」


 フリースの美しい声も、ずいぶん久しぶりに聞いた気がした。


 レヴィアは耳を雑に塞いだ。塞ぎきれていないような形で。


「いやです! 外になんか出たくない!」


「ラックのことがショックだったの?」


 レヴィアのシルエットは、ビクっと身体を弾ませた。塞ごうとした手の間から、声が耳に漏れ入っているようだ。


「ラックがいなけりゃ外にも出ないってやつ?」


「だって、ラックさんが……。約束だったのに」


「へぇ、ラックもたいがいだったけど、揃いも揃って依存症だね」


「うるさいですね、呪いますよ!」


「どうしても、一緒に来る気、ない?」


「ないです! 帰ってください!」


 と、そこでキャリーサが言うのだ。レヴィアの顔を覗き込むように身を乗り出しながら。


「ラックの世界に行く方法があると言っても?」


「……え?」


「あたいと来なよ。ホクキオまで行くよ」


 右手でレヴィアの帽子を奪い取ったキャリーサ。反対の大きな左の手が、彼女の茶色い柔らかな髪を撫でた。


  ★


 大樹リュミエールからの、来た道をさかのぼる旅が始まった。


 清浄な霧がたちこめる森を歩きながら、フリースが言う。


「それにしても、フロッグレイクの池でラックがいきなり消えたのにはビックリしたし、そのあとしばらくして、転生者が全員消えたのもビックリだったね。アオイもマイシーも八雲丸もいなくなって、大混乱だった」


「…………」


 レヴィアは、まるで出会った頃のフリースのように黙り込んだ。


 その話はしたくない、ということのようだ。


「もう泣かなくなっただけ、一時期よりは落ち着いたみたいね」


「…………」


 レヴィアが泣いてくれたのか。それだけで、俺のマリーノーツでの旅が報われた気がする。


 キャリーサは言う。


「あたいの占いで出たのは、フロッグレイクでは『悲しみ』と大樹リュミエールでは『安堵』なんだけど、あってるかい?」


 レヴィアに向けてきいた形だが、答えたのはフリースだった。


「なるほどね。『悲しみ』は、ラックがいなくなったから。『安堵』は、お友達の一件か」


「お友達?」とキャリーサ。


「鋭い爪をもった、巻き角の魔族。バホバホメトロ族、だっけ?」とフリース。


「ペティです。ペティ・アッパー。そこそこ可愛い女の子で、私の一番の友達です」


「それの、何が『安堵』なわけさ?」


 キャリーサの問いに、レヴィアが語る。


「ペティとは幼馴染で、剣の人に殺されそうになってて、私が飛び出さなかったら危なかったです。ネオジュークの地下深くにあった魔王の学校が襲われて、ペティは捕らえられてて」


「その子が無事に済んだから安堵ってわけね」


「ええ、マイシーさんという人に、彼女の保護を頼んだのです」


「オトちゃんの近衛(そっきん)の?」とキャリーサ。


「そうです銀の鎧の人です。闘技場での戦いが終わってすぐに、私が必死にお願いしたら、彼女は渋りながらも言いました。『ふぅ、仕方ないですね。ラック様なら、あのようなおそろしい魔族あっても助けたがるのでしょう。なにせ、あなたを連れているくらいですからね……。ここにいないラックさんの幻影に免じて、わたくしが何とかしてみせます。彼女が自由に暮らせる場所を用意してみましょ』と約束してくれました。私は、『やった、やったね、ペティ』と言って、ペティちゃんは、『ありがとうレヴィアと』言って、お互いの涙を()き合いました」


 この出来事は、たぶん、俺がアオイさんと一緒にファイナルエリクサーづくりをしていた裏で起きていたことだろう。


 あの魔族の子が無事でよかったと思うけど、魔族と幼なじみということは、レヴィアも魔族ということなのだろうか。


 そんな気はしていたけれど、信じたくはない。


 きっと、この夢からさめた時には、この事実を知ったことを、俺は忘れているのだろう。


 それが悲しくもあり、救いでもある気がした。



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