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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十一章 負の遺産を何とかせよ
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第281話 水源の池フロッグレイク(2/2)

 おいしいと言われるファイナルエリクサーをたらふく飲むために、ファイナルエリクサー節約する方法を考えてみる。


「池の水をぜんぶ抜くとかすれば、紫熟香とかの力で魔王が滅んだりしないかな」


 フリースは以前、蚊みたいなやつだって言っていたし、封印が解かれた瞬間に空を飛んでいるところに蚊取り線香の要領で滅びたりしないかな、なんて思ったのだが。


 しかし、そんな愚かな俺の言葉に、フリースは不快感を示した。


「むり。なんであたしが氷で封印するしかなかったと思う? 効かないよ、紫熟香でも。だいたい、ラックは敵のおそろしさをわかってない。相手は大魔王。とくにあいつは、死を超越してるし、強い。しかも、ものすごいスピードで空を飛べる。ラックとかレヴィアとかアオイを守りながら戦う余裕は絶対ない。一人くらいしか守れないと思う。この状況で水を抜いたりして復活させるのは、本当に危険」


「要するに、足手まといの俺たちがいる前では、負けるかもしれないってことか」


「負けないけど、勝てもしないし、守ってる余裕ない。再封印する前にラック以外の二人は死ぬか、死なないにしても直接太い針を撃ち込まれて転生者であろうと耐性があろうと魔物化させられるかもしれない。そんなの、ラックだって嫌でしょ?」


「まあ、そりゃそうだ。誰にも死んでほしくはない。魔物化なんて、もってのほかだ」


 どうやら、どう頑張っても使うしかないようだ。


 だけど、ああ、とても格好悪いことなんだろうけども、やっぱり苦労して作ったから手放したくない……。


 そんなケチなことを考えていたところ、何も言ってないのに俺の気持ちを読んだ人がいた。


「こっちに渡してもらえれば、節約スキルが活きるかも」


 なるほど、アオイさんのスキルであれば、一つのファイナルエリクサーを一気に使わずに半分ずつ使える。ということは、半分を呪いの原因を消すために使って、もう半分を皆で味わうということが可能なわけだ。


「こっちが考えるに、たぶん、どんなに深くても、この広さの池だったら、半分くらいで十分な効果が得られるんじゃないかな」


 ちょっとよだれ出てない?


 この人も、ファイナルエリクサー飲みたくてたまらないんじゃないだろうか。だから、これは、ただの願望で言ってる可能性もある。


 俺をそのように誘導しようというのだ。


 まあ、アオイさんが突然の裏切りでファイナルエリクサーを持ち逃げする可能性は低いと思うし、俺たちがファイナルエリクサーにありつく方法がそれしかないのも事実。


「どう思う? レヴィア」


「何がですか?」


 レヴィアにきいても、何のことだかわからないようだ。


「フリースは、どうだ?」


「いいんじゃない? それしかないでしょ」


「そうだな……もし、半分で大魔王を倒せれば、用意するのは……レヴィアと、フリースと、アオイさんと、俺と……マイシーさんと八雲丸さんの分も……六人分はとっておかないとな」


「うん。じゃあ、決まりね。ファイナルエリクサーをちょうだい」


「大事に扱ってくれよ? また作るとなったら、大変だからな」


「わかってるって」


 俺は虹色の光をまとった石を手渡した。ファイナルエリクサーのもとをアオイさんが慎重に受け取った。


「おぉ、やっぱりすごいね、きれいだよ、あざやかな赤色で」


「ああ、虹色の光彩(オーラ)も、激レアっぽい感じがほとばしってる」


「うん? 虹色の光……は見えないけど」


「そうなのか? じゃあ、『曇りなき眼』の効果なのかな」


「たぶんね。こっちには、ただただ輝くスカーレットの石だもん」


 なるほど、やはり曇りなき眼には、最上級の宝物は虹色の輝きをまとって見えるようだ。


 もしかしたら、もっと上位の宝物があって、それは本体も虹色に見えたりするのかもしれないな。


「えっと……それでさ、ラック。あと必要なのは……清浄な水だけど、どこから調達したらいいのかな。池の水は使えないから、雨水でも集めたらいいのかな、ここの雨は、それなりにキレイらしいし」


 アオイさんはそう言ったけれど、いつもこの地に降り注ぐ雨水さえ、ここに近づけばある程度呪われて汚染されてしまうと思われる。この地に入るときに、洗浄後のはずの霧が呪われていたくらいだからな。


 もしも、確実に完全に清浄な水が欲しいなら、俺に心当たりがある。


 なんといっても、そいつが放つ魔法で生まれる水は、清浄な水を好む皇帝(くろへび)がその中でくつろぐほどの清浄さを誇るのだ。まさに御用達(ごようたし)の名水。


 そう、それは――。


「フリース、出番だ」


「いいけど、あとでスイートエリクサーちょうだいね」


「ん? ファイナルエリクサーじゃなくていいのか?」


 俺の問いに、フリースは小さく頷いた。


「ファイナルエリクサーは、一度は味わってみたいけどね、そんな特別なものじゃなくていいんだよ。普通でいいの、普通で」


「いや言っておくが、スイートエリクサーは全然普通じゃないからな」


「そう? みんなおいしいって言うよ?」


 普通じゃなくトンデモなく高価だっていう話なんだが、どうもそのあたりは、あえて無視したいらしい。


「ああもう、わかったよ。スイートエリクサーな。今度また買ってやるから」


「交渉成立だね」


 静かに笑った彼女は、透明の氷の器を生み出して、両手に抱えて持ったのだった。


 その中には、ごつごつした細かな氷が生み出されていた。中の氷が溶けたら、それが清浄な水になるという仕組みだろう。


「なんか技の名前とかあるのか?」


「ないけど、ラックがつけてもいいよ」


「じゃあ、『アイス・コンペイトー』にするか」


「こんぺいとー?」


「そういう、この氷の粒々に似てるお菓子があるんだよ」


 お菓子、という言葉にレヴィアが反応した。


「私、まだ食べさせてもらってません」


「そんな上等なもんじゃないぞ、砂糖のカタマリだ」


「あまくておいしそうです」


「いやまぁ、確かに甘いけど……。そんなに言うなら、俺の世界に来た時に買ってやろう」


 金平糖くらい、安いものだ。スイートエリクサーに比べたら全然普通だ。


「約束ですよ?」


「ああ、約束だ」


 また一つ、ささやかな約束ができた。


 さて、氷のボウルに敷き詰められた氷は、しばらく待つときらきら輝く水になった。その中に、ファイナルエリクサーのもとを入れて、しばし溶けるまで待つ。


 氷のボウルに入った輝く赤い液体、ファイナルエリクサーが完成した。


 大魔王が沈む池は、浄化の力を無効化し、ぼこぼこと沸騰するように呪いを吐き出し始めたが、ここに沈む呪いの根本を断つための準備が整ったわけだ。


 半分のファイナルエリクサーで足りなければ、もう半分を足す。

 もし半分で足りたら、残りを皆で味わって楽しむ。


 だいたい、こういう流れだ。


 俺はフリースから冷たい氷のボウルを受け取って、三人の顔を順に見た。


「じゃあ、レヴィア、フリース、アオイさん。一緒に流し込みましょう!」




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