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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第二章 旅立ち
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第27話 ラストエリクサー(2/8)

 バンダナ商人の紹介で荷馬車を手配してもらい、ラストエリクサーは出荷されていった。金貨十枚で買ったラスエリたちは、金貨五十枚で買ってもらう予定である。


 我ながら激安で転売したものだ。


 だけど、安いことはいいことだ。売値が安ければ安いほど欲しい人が買いやすいってことだから。いろんな勇者のもとに届いて、魔王討伐に役立ててほしいと心から思う。


 さて、それから数日は何事もなく過ぎていった。平和な日々だった。風呂に入ったり、日課のモブ狩りを続けたり、延々と一人遊びを続けていた。


 まずはラストエリクサー専門店としての商売を軌道に乗せて、この先の展望がひらけてこないと、仲間集めもできないだろう。ゆくゆくはあらゆるものを扱う世界最大の商業者になりたいと思うが、まずは一歩ずつ進んでいきたい。


 というわけで、まずは記念すべき最初の取引先からの連絡を待っている。というのが、現在の状況なのである。


「でも、妙だな。そろそろ品物は届いているはずなのに、金庫への入金もないし、何の連絡もない。まさか事故って届いてないとか」


 嫌な予感がして神殿風新居の外に出たところ、ふと、ガラガラガラガラと車輪が回る音が遠くからきこえてきた。


 真新しく整備された石畳を、一台の荷馬車が走ってくるのが見えた。四頭立ての馬車で、馬は少し疲労している感じがある。長旅を走ってきたのだろうか。


「あれは……?」


 馬車は俺を少し通り過ぎたところで停まり、後部の荷台からスキンヘッドの中年男が前かがみの姿勢で出てきた。


 身体が大きく、口のまわりに黒いひげを蓄えていて、とても強そうだ。


 しかし、そういう見た目とは裏腹に、人当たりのよさそうな声を出した。


「えーっと、こちらオリハラクオン様でよろしいですか?」


「はい、なんですか。郵便ですか?」


「そうですね、返品でーす」


 え、ちょっと、え、なんか今、とんでもない言葉がきこえてこなかったか?


 返品?


 何が?


 見覚えのある袋が運び出され、俺の前にドスンと置かれた。


 俺が数日前に送ったよな、これ。


 じゃあ中身は当然、あの高価な薬草だよな。


 開いてみたら、本当に送った草が入ったままだ。


「これは、一体……」


 よく見ると、袋の内側に手紙らしきものがピン留めしてある。


 破り取って内容を確認するも、殴り書きで、よく読めなかった。英語で言うところの筆記体みたいな感じだ。英語の筆記体なら読めるけれど、この世界の文字は地方ごとに癖もあるようだし、まだマスターできていない。


 俺は運び屋のお兄さんにきいてみることにした。


「すみません、これ何て書いてあるんですか?」


「どれどれ? 読んでやろう。ええとだな……『オリハラクオン殿。あなたから送られてきたラストエリクサーは検査の結果、偽物が紛れ込んでいることが判明したため、すべて返品いたします。誠に申し訳ございませんが、この取引はキャンセルとさせていただきます、こちらの調査不足であったため、調停所やギルドに訴えるなどはいたしませんのでご安心ください。返品のための送料等はこちらが負担いたします。』だとよ」


 わからない。何を言っているんだかさっぱりだ。


 何がどうなってそうなった。あれはたしかにラストエリクサーだったはずだ。


 風呂に入ってる間に、すりかえられていたのかもしれない。

 最初から、ラスエリじゃなかったのかもしれない。

 取引相手が、すりかえてだまし取ろうとしているのかもしれない。

 荷馬車の人間が、金に目がくらんで盗んだのかもしれない。

 誰も彼もが、俺を陥れようとみんなでよってたかってハイエナみたいに仕組んだのかもしれない。


「第三商会。バンダナ。荷馬車。取引相手……。どこが筋の通らないことをしたのだろう。誰か教えてほしい。嘘をついているのは、誰なんだ……」


 そんな俺の独り言に、運び屋のお兄さんは答えてくれるはずもない。


「それじゃ、届けましたんで」


 男は、そそくさと去っていく。


 その姿をを見て、俺は怪しいと思った。


「ちょっと、待ってください!」


「ああん?」


「もしかして……いや、違ってたらすみませんけど、運び屋さん、あなたが盗んだんですか?」


「はぁ?」


 思いっきり顔をしかめてきた。


「だって、物を運ぶときに、一人になるじゃないですか。その時に、そのへんの草を詰めて、金貨だけ奪って、手紙を捏造して……。きっと、もともとの荷物は金貨で、手紙には、『いい取引ができました機会がありましたらまたお願いします』みたいなオークションの定型文みたいなのが書かれていたはずなんだ! それを!」


「ものすごい失礼な男だな、君は。あまり馬鹿にしないでくれよ。おれぁな、この仕事に誇りを持ってやってんだ。相手の喜ぶ顔が見たくって、長旅をして町から町へ物届けをしている。いくら取り乱してるからって、言っていいこととダメなことがあるだろうが」


「じゃあ誰が! 誰が、やったんですか!」


 声を裏返して、俺は叫んだ。


 運び屋のお兄さんは、あくまで落ち着いていた。


「おれから一つ言えることがあるとしたらな、もう一度よく考えてみるんだな。いいか、まず一つは、お前は本当に自信をもって、品物が偽物じゃなかったって言えるのか?」


「そ、それは……でも、一本一本確かめたんだ。全部、ちゃんとラストエリクサーだったんだ……」


「自分で使ってみたのか? 効能をちゃんと把握しているか?」


「え、ええと、回復する。すごく」


「フン、じゃあ二つ目だ、仮にお前が仕入れた草たちがすべてが本物で、すりかえられたんだとして……本当に大事なものだったら、運び屋に頼まずに、自分の手で届けるべきなんじゃないのか」


「うぐぐ……」


 運び屋はさらに続ける。


「そして三つ目は、本当に一切の後ろめたさが無いのかってことだ。お前は世界を知らなさすぎる。したたかな商人の世界に入っていくには、あまりにも赤ちゃんだ。そんなやつが、大量の高価な薬草をどうやって手に入れたのか、それなりに興味があるんだがね」


「もういいです! わかりました! 俺が悪かったです!」


 スキンヘッドの運び屋は溜息を吐いて去っていった。


  ★


 運び屋は言った。「後ろめたさは無いのか」と。


 あるに決まっている。だって、俺が手に入れたラストエリクサーは、人から譲られたものだからだ。


 まなかさんは言った。「ちゃんと使うんだよ」と。


 ごめんなさいという言葉しか出てこない。


 転売して、金貨をたくさん手に入れて、商人デビューだぜとか調子乗って、だましとられて泣いて、もう本当に何をやってるんだ俺は。


「謎の草になってるぅ……」


 袋を開けてみたところ、送る前は『ラストエリクサー』とはっきり表示されていたものが、なんということだ、『鑑定アイテム:謎の草』になっている。


 これはどう考えたらいいのだろうか。


 とりあえずバンダナ商人に相談してみることにした。


 バンダナに対する疑いは無いわけじゃない。もう誰もが疑わしくて仕方がない。もう全員がグルになって俺をはめようとしているんじゃないかと思う瞬間もある。あの三つ編み裁判の時のように、何もかも俺が悪いことにされていくんじゃないかって不安もある。


 ふとした瞬間に、トラウマがよみがえりかけてしまう。


 だけど、まずは信じることだ。俺はホクキオ市街に行き、バンダナ商人に話を聞くことにした。


 ところが、いつもバンダナが露店を出している所に行ってても、いなかった。ただ石畳があるばかりだ。


 いや待て慌てるな大丈夫だ。俺をだまして逃げたと考えるのはまだ早い。きっと忙しいんだ。


「ここにいたバンダナの商人がいつ戻るか、わかります?」


 近くにいたサングラスのアロハ商人にきいてみたところ、


「あぁ、あいつはまとまった金が手に入ったから、拠点をネオジュークに移すって言ってたぞ。引っ越しも済んだって話だから、もうホクキオには戻る気ないんじゃないのか?」


「なるほどぉ、ありがとうございます」


 まとまった金っていうのは、きっと、最初に売った分のラストエリクサーのことだ。きっとそうだ。絶対そうだ。


 まさかネオジューク第三商会を名乗る何者かと手を組んで、俺から金貨をだまし取ったなんてこと、あるわけないんだ。




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