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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十一章 負の遺産を何とかせよ
267/334

第267話 世界樹リュミエール(2/5)

  ★


 サタロサイロフバレーを慌ただしく去った後、俺とレヴィアとフリースは、小川のそばに停車していた氷力車に三人で乗り込み、フリースの運転でフロッグレイクを目指すことにした。


 フリースが言うには、「ここからは一本道。マリーノーツ全ての水の(ふるさと)、フロッグレイクは、目と鼻の先」とのことである。


「だがフリース。近づいているのはいいが、状況的に安全なのか? 危険なモンスターが湧いたり、毒があったり、原住民から吹き矢の洗礼を受けたりとかしないか?」


「ないとは言えないけど、たぶん大丈夫じゃない?」


「まあ、フリースがいるからな。余程の不意打ちでもない限り、何があっても何とかなるだろう」


「ここを乗っ取った炎の魔王をあたしが追い払ってから、フロッグレイクは立ち入り禁止になった。何かエルフの特別な会議とか儀式とかがあれば別だけど、基本的には足を踏み入れてはいけない聖域扱い。だから、たぶん行っても誰もいないんじゃない?」


「それって、実は、呪いの魔王を沈めたのバレてたんじゃないか?」


「その可能性もなくはない。過去の記録とか景色とかを映像にして見れるスキルとかもあるから」


 氷力車が進むにつれて、周囲が霧深くなってきた。十メートル先も見通せない。


 風魔法の使える人でも連れてくれば、霧も吹き飛ばしてくれたかもしれないが、俺の横には氷の使い手フリースと謎の案内人レヴィアがいるばかりである。レヴィアに至っては、戦闘力がなく、呪いを感知する力があるくらいだ。


 このパーティは、フリースが抜けたら一瞬で全滅だろう。


 せめて非戦闘的な俺とレヴィアで、フリースに降りかかる危険の芽を事前に摘んでいくことにしよう。


「どうだ、レヴィアの目からみて、この霧に危険性はあるか?」


「いいえ、全く」


「そうか」


 あと、危険なことといえば、毒の場合だ。


 呪いと毒は種類が違うので、スパイラルホーンでも飲んでおけば両方の予防ができると思ったのだ。しかし、フリースは、長年この地を本拠地にしてきたエルフの血を引いているのだ。当然、この霧の意味も知っている。


 彼女は、俺の心を読んだかのように言うのだ。


「心配の必要はないよラック。『世界樹リュミエール』は、毒とか呪いとか、あらゆる悪しきものを浄化する。程度にもよるけどね」


「リュミエールっていう名前なんだな」


「そう。『光』っていう意味のことばらしい。陽の光に一番近いからっていう理由でつけられた名前なんだけど、浄化対象に陽の光も入ってたりする。矛盾を抱えた建造物。この樹と霧があるおかげで、フロッグレイク一帯には日向(ひなた)がないけど、エルフは深い森のいきものだから、陽の光を浴びる必要もなくて、快適そのものって話」


「エルフって、みんな日陰にこもる、ひきこもりさんなのか?」


「そういうとこはあるかもね。まあ簡単に言うと、ここの霧は、フロッグレイクに常に降っている雨を、世界一高い世界樹の枝葉(えだは)が受け止めて浄化したものということ」


「だとすると、この浄化の霧がたちこめてさえいれば、実は俺たちが手を下す必要もない気もするなぁ」


「そういうわけにもいかないでしょ?」


「何でだ」


「エコラクーンとかもそうだけど、各地の湧き水が地下で繋がってるから、水の底にいる大魔王の呪いが、だんだんと広がっていくおそれがある。今はまだ浄化の力が勝ってるけど、時間の問題」


「つまり?」


「オトキヨの力が戻らない限りは、浄化の霧も呪いに負けて汚染される可能性さえある」


 世界樹リュミエールの浄化能力に加え、オトちゃんの力が常に働いていたからこそ、これまで氷漬けの大魔王が存在していても無害でいられたということになる。


 言い換えれば、もしも、オトちゃんが力を一時的に失う黒蛇状態にならなければ、呪いが漏れることもなかったことを意味するんじゃないだろうか。


 呪いが漏れたりしなければ、当然、人間のモンスター化やモンスターの狂暴化なども怒らず、エコラクーンの壊滅状況も生まれなかったはずだ。


 あれ、ちょっと待てよ?


 だとすると、遊郭のまちでオトちゃんが襲われたのを防げなかった俺にも、その責任があるんじゃないか。


 決して、ないとは言い切れないんじゃないか。


「やっぱり、解決の必要はあるか……」と俺は呟いた。


「そうだね」とフリースは力強く頷いた。


 オトちゃんが力を取り戻すまでの間に大きな被害が出ないとも限らないし、力を取り戻したとしても、浄化が間に合う保証もないわけだ。


「ちなみに、世界樹の高さってのは、どのくらいなんだ? 遠くからみた感じでも、サタロサイロフにあった樹とは比較にならないサイズだよな。根元の地形にもよるけど、二百五十メートルくらいはあったように見えたぞ」


「正確な高さは知らないけど、地上六十階の高さに()()()()()。高く伸びた枝の上のほうには、大きな鳥やドラゴンさえ着陸できる見晴台(みはらしだい)がある」


「そこにラスボスでもいるのか?」


「いない」


「え、ていうか、ちょっと待って、さっき『作られた』って言った? 自然の樹木じゃないの? 樹木の中に都市でも築いてるの?」


「自然の樹木でもあるし、人工物でもあるらしい。今は無人って聞いてるけど、実際はどうか知らない。昔はすごく栄えてた。エルフの始祖でもある開拓者たちが、この世界に来た後に一番につくった建造物でね。世界のすべてを再現したっていう説がある」


「世界のすべて?」


「あくまで一説だけどね。上層にいくほど寒くて、地下深くには燃え盛る炎があるらしい」


「地上も六十階あるのに、地下もあるのか」


「たぶん、地下の方が深い。それは、エリザマリーの遺言があった場所を思い浮かべればわかるでしょ」


「たしかに。あれはものすごい深かった」


「ただ、リュミエールの地下に関しては、牢獄として用意されたっていう話もエルフには伝わってる」


「へぇ、すごい詳しいけど、フリースはそういう話、誰から聞いたんだ?」


「…………」


 フリースはやや沈黙し、やがて少し悲しみの雰囲気を混ぜた声色で言うのだ。


「本で読んだ。ずっと本を読んでた時があったから」


「そ、そうか……」


 親から語り継がれてきたのかと思ったが、そうでもないようだ。ずっと一人で生きていた時代に蓄えた知識の一つとのことである。寂しさを思い出させてしまって、なんだか申し訳ない。


「ここの中層の会議室みたいなとこで嫌なことがあったからね。いつか攻め落としてやろうと思って調べた」


「なんて悲しい動機だ」


「中層あたりは快適で、中の温度はいつも一定に保たれている。夏は涼しく冬はあったかい。燃えないし、崩れない。丈夫な樹木型の特殊建造物。今のマリーノーツの技術では再現できないと言われてる」


 なかなか興味深い話である。観光気分で高層建築を探検してみたい気持ちになったけれど、今はとにかく、大魔王を無害化するのを急がなければならない。


「ところでフリース、水源の池っていうのは、どこにあるんだ?」


「大樹リュミエールの近く。まずはリュミエールに行って、建物の中には入らないで、樹の横にある細い道から奥に行けばすぐに着く」


「じゃあ、急いでいくぞ」


 フリースが無言で頷いて、氷力車を走らせた。しかし、フロッグレイクの東側、世界樹リュミエールに到着しようとした時、入口の重たそうな金属製の扉に寄りかかっている人がいた。


 スーツのような形をしたギルド服に身を包んでいた。


 長い黒髪を自分で撫でた後、彼女は言うのだ。


「待ってたよ、ラック」


 アオイさんだった。




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