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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第二章 旅立ち
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第26話 ラストエリクサー(1/8)

 鳥を耳元に引き連れながら、再び市場の露店にやって来た。以前と同じようにバンダナ商人に品質チェックをお願いするためだ。


「これも本物のラストエリクサーだといいんだが、どうだ?」


「ていうか、ラックさん。徴税バードなんて連れてどうしたんです? 脱税でもしたんですか?」


「そんなことはない。給料分、ちゃんと納めてる。それよりも、どうなんだ、このラストエリクサー……略してラスエリは本物か?」


 俺はラストエリクサーの束をバンダナに渡した。


「また手に入れたんですか。驚きました。これも本物ですね」


「値段はどのくらいになる?」


「そうですね、今回は、ナミー金貨十五でどうでしょう」


 バンダナはホクホクの営業スマイル。前回は渋っていたのに、今回はやけにすんなりと買取りを提案してきた。


 前回売り渡したラストエリクサーが、うまく売れたのかもしれない。


「それと、この袋をどう思う? これも本物か?」


 俺は、鳥が運んできたラストエリクサーが入っていた袋を見せた。


「あぁ、この紋は、三角に横並び三星の紋章。第三商会の印章ですね。ネオジュークピラミッドの東側にある大きな商会ですよ。つまり、このラスエリの取引相手は第三商会ということですか」


「いいや、まだ取引をしたわけではないんだ。交渉段階ってとこかな。だから、ここで売ることはできないんだけども、お前の目から見て信用していい相手だと思うか?」


「ええ」バンダナは頷いた。即答だ。「第三商会は、自分も出入りがありますが、ラスエリの取扱量はマリーノーツ随一で、品質も良いですよ。いい鑑定士がいるんでしょうね。ただ、大量入荷、大量販売を展開しているので、我々商人からの買取は安いんですけどね」


 バンダナはそう言って、黒地に金色の模様が書かれた袋を返してきた。そして続けて、


「なるほど第三商会か。そう言われてみれば、ラックさんの横にいる鳥も、第三商会で見たことがある気がします。もっと白かった気もしますけど、たぶん同じ鳥ですね。急ぎの重要な商談がある時に飛ばす白い鳥は、ネオジュークの東サイドではキャラクターグッズ化されて人気なんですよ」


「ほう、この鳥がね」


 あれ、でもこの世界って偶像崇拝禁止なんじゃなかったっけ。それで昔、まなかさんに描いてもらった絵を取り上げられてしまったんだけども。キャラクターグッズなんて商業主義の偶像崇拝そのものじゃないか。ネオジュークの東とやらは無法地帯なのだろうか。


 いや、今はそんなこと、どうでもいいか。


「遠目で見ると、可愛いんですけどね」


「ああ、近くで見ると、大きくて恐怖を感じるよな。ちょっと臭いし」


 俺がそう言うと、商談バードくんは怒った。言葉がわかるようだ。


「いたたたっ! いたっ! 俺の頭に爪を突き立てているぅ! やめろぉ!」


 しかし、やめろやめろよと叫んでも鳥は攻撃をやめない。商談に来ている鳥なので反撃して倒すわけにもいかないし、どうすればいいんだ。どうすれば地味に痛い攻撃をやめてくれるのだろう。


 まてよ。言葉がわかるなら、説得が通じるかもしれん。暴力では何も解決しないということを、商業に携わる鳥ならきっとわかってくれるに違いない。


「ごめん、格好いい、お前は格好いい鳥だ。イケメンだ! いたいいたいたいたい、やめろって!」


「ラックさん、この白鳥メスですよ」


「可愛い、大丈夫、可愛いからぁ。お前は可憐で可愛い白鳥だぁ」


 その言葉を引き出したら機嫌が直ったようで、俺の肩にとまって落ち着いた。


「ところでラックさん、このラスエリはサンプルですよね。てことは、第三商会からラスエリを買うんですか? いくらで……」


「さっきの一束で銀貨二十枚だそうだ」


「安ッ!」


 バンダナは目をむいた。


「それ、ラックさん、買いですよ。自分がこの間ラックさんから買ったものは、同じ量で、ナミー銀貨の一万倍の価値がある金貨に化けましたから、いやラックさんが買わないなら、自分が買おうかな。第三商会なら、顔もきくんで、もう少し値切れるかもしれない」


「いや、え、ちょっと待ってくれ」


 しかしバンダナは待たない。紙を取り出してペンを走らせ始めた。


「自分、ちょっと第三商会に連絡します。その鳥の足に自分の手紙を結んでいいっすか?」


「待てって」


「いやいや待てないっす。利益を上げるビッグチャンスですよ。うまく売り抜けることができれば、夢の大企業をつくれるかもしれない。将来的には、第三商会に匹敵する大商会を組織できる可能性だってある」


「だから待てよ! 俺が買うんだよぉ!」


 バンダナの書きかけの手紙を奪い取り、俺はラスエリを注文する自分の紙を白鳥の足に結んだ。


  ★


 第三商会からのラストエリクサーが届いたとき、俺の自慢の新居は完成していた。


 大量の金貨とラスエリを抱え、大富豪としての第一歩を踏み出そうという門出の日だ。苦節十年。みじめな異世界人生だったけれど、ついに大逆転の日を迎えたというわけだ。


 ラストエリクサーは魔王との戦いに必須のスーパー回復アイテムのようだからな。魔王と戦う転生者がいる限り、買い手には困らないだろう。それが、どういうわけか格安で手に入ったのだ。


 なーんも大変な思いをせずに簡単に手に入ってしまった。「濡れ手で(あわ)」とはまさにこのこと。


 きっと、現実世界の不幸とか、異世界での不幸とかの反動なのではないかと思う。きっと世界は、しあわせとふしあわせのバランスが取れるようになっているのだ。


 そういう、よくできた世界への感謝を抱きつつ、俺は、白鳥が落としていったラストエリクサーの袋を大きな袋を空中でキャッチした。


 金貨を渡すような取引なのだから、品物はもっと丁寧に扱ってほしいものだ。もっと小分けにするとかさ。


 この両手に抱えないと持てないくらいの大きな袋には、ラストエリクサーが五千束も入っている。アイテム数にすると、ちょうど十万本のラストエリクサーが入っていることになる。


 まなかさんから最初にもらったラストエリクサーよりも何倍も、いや何百倍もの草が、俺のものになったわけだ。しかも、この高級な草たちには、すでに別の買い手がいて、また金貨単位での取引きとなったわけだ。


 銀貨十万、つまり金貨十枚で買ったものが、金貨五十枚で売れる。


 バンダナ商人の紹介である。やはり隠れた善行は積んでおくものだな。彼が転生したてのころにホクキオの教会に案内したおかげで、こんなにもいい思いをすることになった。


 どんどん資産が増えていく現象を目の当たりにして、へッへッへッへと下卑た笑いが止まらない。


 これでは悪徳商人のようだが、極めて良心的である。相手が欲しいと言った額で売っているのだから、フェアなトレードと言うほかない。


 こんなにうまくいくのも、どうやら、ラスエリ取引の最大手である第三商会の鑑定書つきというのが決め手になったようだ。


 一本一本、しっかり確かめていって、中身を全て確認し終わったのは、太陽が何回か昇ったり沈んだりした頃だった。


「ふぅ、疲れたなぁ」


 本当に疲れた。なにせステータス画面を確認すること十万回だ。単純作業だが、大金を扱う仕事なのだから、これは絶対に必要なことなのだ。


 調査の結果、すべて一つ残らず本物のラストエリクサーだった。やはりネオジューク第三商会は信用できる会社だったらしい。


 俺は西洋神殿風の柱が並んだ建物にラストエリクサーの袋を運び込み、まなかさんがあけた大穴に向かった。源泉かけ流しの異世界温泉に浸かって一日の疲れを癒すのだ。


 岩風呂に白濁した温泉があふれている。常に丁度よい温度の湯が供給され続ける。ギリシアやローマとかにあるような神殿風の建物を眺めながら、朝でも昼でも晩でも、いつでも湯に浸かれる。


 これはもう、全知全能の神になったかのような気分だ。


 俺は服を脱ぎ捨て、湯に浸かる。あまりの気持ちよさに、そのまま眠ってしまった


  ★


 目覚めると、視界は真っ白、湯気の中。


「やっべ」


 大金を生む大切なラスエリを放置したまま寝てしまっていた。


 慌てて湯から上がり、急いで服を着て、神殿へ走った。宝物の草をざっと確認してみる。


「よかった。大丈夫だ」


 盗まれていなかった。人が侵入した形跡もない。


「危ないところだった」


 すでに買い手が決まっている商品が無くなった……なんてことになったら、ようやくはじまりかけた『大富豪ラックの異世界ビジネス物語』が終焉を迎えてしまうからな。


「金貨はホクキオ市街の金庫に預けてあるし、このラスエリ草も、早いところ先方(せんぽう)に届けてしまったほうがいいかもしれん」


 一人うなずいた俺は、とりあえず風呂上りにベスさんの牧場で作っている高級モコモコヤギミルクを飲んだ。


「これからは、この豪邸の警備とかも必要になるかもしれない。仲間を集めてみるか」


 だんだん、やる気が出てきたぞ。




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