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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十一章 負の遺産を何とかせよ
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第259話 どのエリクサーかな?

 俺の大事な仲間フリースが、立場の近いエルフの混血たちにさえ受け入れられていない状況を目の当たりにしたのは悲しいことだったけれど、立ち止まってもいられない。


 フリースが残した過去の汚点を払拭(ふっしょく)しない限りは、胸を張れないのだ。


 知らなければ誰かほかの人に任せていたかもしれない。でも、知ってしまったら手助けしなきゃいけないじゃないか。


 だって俺は、フリースの呪いを解くと約束したんだから。


 過去の悪事なんてのは、呪いみたいなものだろう。


 大魔王封印と虚偽の討伐報告がフリースの(あやま)ちだったのは間違いない。だけど俺は、それを、せめて笑って語れる歴史にしたい。「黒歴史だよね」とか澄んだ声で言いながらへらへらするフリースに、「笑い事じゃねえだろ」とツッコミを入れたいんだ。


 アリアさんが馬のいなくなった馬車を借りてくれたので、その荷台に俺とフリースとレヴィア、三人が乗りこみ、氷の力で進んでいく。氷力車三代目である。


 タマサは「ザイデンシュトラーゼンに戻る」と言って去り、アリアさんも「報告しに行く」と左腕をおさえながら去っていった。二人とも、俺たちと同じくらい慌ただしい出発だった。


 そんなわけで、また三人旅に戻ったわけだ。


 目指すのは、大魔王が沈んでいるフロッグレイクという場所だ。いきなり呪いは解けないにしても、まずは本当に呪いの原因がフリースの沈めた大魔王なのかを確認しておきたい。


「なあフリース、水源に行けば、呪いの根本があるんだよな?」


「それはそうだけど、紫熟香ごときじゃ死なない不死身の大魔王なんだよ?」


「じゃあ、どうしたら死ぬんだ?」


「それがわからないから、封印した」


「まあ、そうだよな……」


「でも……思い返してみると……たしか、あの蟲の大魔王を倒したって報告しに行ったとき、エリザマリーがこう言ってた。『まさか、あのエリクサーを使ったの?』って、ちょっと慌ててた」


「あのエリクサー?」


「どのエリクサーかな。知る限りでは、思い当たらなかったから、曖昧に濁しておいた」


 エリザマリーと(じか)に話したのなら、「実は封印しただけです」って素直に言うチャンスはいくらでもあったということだけど、それは今は置いておこう。


 この世界には、色んなエリクサーがある。


 単なる『エリクサー』は不老不死と若返りの効能をもつため、非常に高価である。これはまた、ファイナルエリクサーの原材料でもあるというが、今回の問題を解決するものとは思えない。


 また『アルティメットエリクサー』は、生命(いのち)なきものに生命を与えるエリクサーである。秘密書庫の卵型機械が、この力で動いていた。似たようなものとして、マイシーさんの人形スキルがあるが、それはまた別のものらしい。それと、このエリクサーの製法が書かれた金属板を地下深くで見つけたが、潰されていて読めなかった。しかし、読めたとしても、呪いの大魔王を倒す鍵にはならないと思われる。


 『スイートエリクサー』は、甘くておいしい奇跡の飲み物。みんな大好き。最高だ。高いけど。


 『ラストエリクサー』は俺を窮地に追い込んだ役立たずのゴミである。……まあ一応、戦闘時のステータスを倍化できるという効能もある。だけど、味も雑草の中の雑草って感じで、俺を苦しめたことしかない。呪いを解くどころか、もはやラスエリ自体が呪われた草だ!


 あとは、何だろうな、『ミラクルエリクサー』については、飲むと呪われた人の呪いは完全に消え、呪った人のもとへ呪いが戻っていくという話だった。つまりは、呪い返しの妙薬である。原料は子育て中の野生のモコモコヤギの母乳だという話だ。


 どうだろう、大魔王に呪いがあるのなら、その強力な呪いを逆流させてやれば、強すぎる呪いが自らを()き、たおれてくれるんじゃないだろうか。ものすごいギャンブルだし、可能性は低いけども。一応フリースの意見も聞きたいから提案してみるか。


「もしかして、『ミラクルエリクサー』なら倒せるんじゃないかな」


 俺がそう言ったところ、答えたのはフリースではなかった。レヴィアがいきなり、


「イヤ!」


 とか言った。


 耳元で叫ばれたものだから、とてもびっくりした。


「ぉぉう……おいどうした、何だよ急に」


 レヴィアはちらちらと目線を切ったり繋いだりしながら、呟くように言うのだ。


「……ラックさん、やっぱり今すぐ私と赤ちゃん作りたいんですか?」


「え、まって、ごめん、何言ってんだかわかんない」


 その後、しばらく待ってもレヴィアは赤くなったまま俯いていた。


 その上、フリースからは氷の目で射抜かれて、(さげす)みの沈黙をいただいた。


「い、いい天気だなぁ」


 そう誤魔化して空を見上げたら、小雨が降り始めた。天気まで俺を追い詰めたいらしい。


 でも、何で急に赤ちゃんの話になったの? 全く意味がわからないんだけど。


  ★


 気を取り直して、不死身の大魔王に有効なエリクサーについて考えてみよう。


 とはいっても、思いつく限りのエリクサーと名のつくものの中で、その原材料を知っているものについては、もう出尽くしている。


 エリクサー、ラストエリクサー、ミラクルエリクサー、アルティメットエリクサー、スイートエリクサー。


 あとは、『ファイナルエリクサー』だけだが、これについては、現在カノさんとアオイさんが解読してくれているから、そちらに任せることにしよう。あまり期待できないが、何とか次につながるヒントがあればいいなと思う。


 他に、エリクサーのようなものを考えつく限り思い出してみる。


 薬屋でもらった呪いに効く薬、黒山羊の巻角『スパイラルホーン』とか。

 スキルリセットアイテムである『世界樹の樹液(なみだ)』とか。

 口にしたら長生きできる世界樹にみのる果実の種、『トキジクの種』とか。

 スーパー毒キノコを毒抜きして生まれる『福福蓬莱茶』とか。

 あらゆる呪いを解く白い煙を出す『紫熟香』とか。

 あと『雷撃ウナギ』なんかも呪い抜きして食べたら美味だった。


 適当に混ぜたら、良い感じの霊薬(エリクサー)ができたりしないかな、などと考えるのは、スイートエリクサー並みに甘い考えだろうか。


 だけど、甘くたっていいじゃないか。


 甘いものとか、おいしいものを食べたら、皆が元気になるんだぞ。


 まして、スイートエリクサーは、性別も種族も越えて万人に「うまい」を与える奇跡の霊薬(エリクサー)なのだ。


 だったらスイートエリクサーを水源の池とやらに流し込んだら、美味しすぎて魔王が死んだりしないかな――なんて思ったけど、それは現実逃避みたいなものだろう。


 どうにかして、不死の存在を倒す手段はないものか……。




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