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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十一章 負の遺産を何とかせよ
257/334

第257話 眷属の泉エコラクーン(6/7)

有明(ありあけ)あずみってのが、あたしの本名だ。この世界は三回クリアした。四回目にここに来たとき、あたしは驚いた。その場所が儀式用の宮殿で、目の前にさ、この国の女王様、エリザマリーがいたからだ。つまり、特別に召喚されたわけだね。その時に『是非に』と頼まれて、大勇者ってやつになった」


「そもそも、アリアさんは、何でこの世界に来ることに?」


「最初の切っ掛けってこと? お察しの通り、死にかけたんだよ」


「どんな風にですか?」


「おむすびを喉につまらせて」


「なんと……悪人っぽい目つきしてるから、単車(バイク)でガードレールに突っ込んで海にダイブとか、不良っぽいエピソードなのかと思いました」


「……ラックとか言ったっけ? 今のさ、すっごい傷つくんだけど」


 薄緑の包帯で巻かれてない方の、目つきの悪い右目でにらまれた。いや、もしかしたら、本人は(にら)んでいるつもりは無いのかもしれない。悲しみを表現したように見えなくもない。


「すみません」


 俺は謝罪を口にしたが、時すでに遅し。


 フリースが「ギルティ」と言った。レヴィアも「ギルティですね」と言った。ザイデンシュトラーゼンからはるばる来てくれた赤い花魁(おいらん)装備のタマサも「ギルティだろ、クソだな」と言ってきた。俺も罪深い発言だったと思う。


 さて、突然だが、どうしてここにタマサがいるのかというと、紫熟香の欠片を届けてくれたからである。


 長いつけまつげに、唇には鮮やかな紅を薄く引いている。前髪は揃っていて、アオイさんのような長い後ろ髪が風になびいていて、耳飾りも風に揺れていた。肩をあらわにした赤い花魁服がとてもセクシーで、深い谷間ができていた。


「ん、何だよ。じろじろ見て。わっちは、先に煙を浴びてきたから、心配はいらないぞ」


「いや、えっとだな……そうだ、アンジュさんに手紙を送ったはずなんだけど、何でタマサが来たんだ?」


「アンジュのやつが、助っ人として行ってこいって言ったからな。てか、何? わっちが来たら悪いっての? ぶっ飛ばして良い?」


 タマサといい、アリアさんといい、気性の荒い感じの人ばかり集まってきやがる。俺は、とりあえずタマサを怒らせない道を選択する。


「いや、大歓迎だ。アンジュさんは、今や調律スキルがメインだし、炎魔法と風魔法くらいしか使えないけど、タマサは全属性レベル高くて、本当に頼りになるから」


「……ほ、褒めたって何も出ねえぞクソが」


 そして、頬を赤らめて視線を逸らした後、誤魔化すように言うのだ。


「それにしても、ひどい有様だなぁ。誰がこんな(むご)いことを」


 人々がゾンビ的な有翼モンスターになってしまった原因はどうやらフリースにあるらしいが、今はそんな責任を追及している場合でもないし、あまり過去の悪事を広めてもデメリットばかりだろう。


 秘密にしたまま、人知れず解決してやろうと思う。


 俺はタマサの呟きには答えを返さず、また別の方向から言葉を探した。


「タマサ、協力してほしい。事態は一刻を争うんだ。魔法を使える準備はあるか?」


「わっちはいつでも大丈夫だけど……。大勇者が二人もいるなら、わっちの出る幕ないだろ」


「そんなことはない、俺の計画には、タマサの力が必要なんだ」


「は? おかしくない? だったら最初から、わっちを呼ばなかったのは何で?」


「それはだな……えーと、本当は最初からタマサの強力な魔法が欲しかったけど、転生者であるアンジュさんのほうが安全だと思ったんだ。だから、アンジュさんに来てもらうよう頼んだってわけだ。でも、あれだな、紫熟香を浴びて呪い対策してきてくれたなら、タマサの方が理想的だ。来てくれて本当にありがたい」


 正直に言えば、紫熟香を安全に運ぶことができて、炎魔法と風魔法が使えれば誰でも良かった。それと、ついでに言えば、フリースとアリアさんが対立した時、アンジュおねえさんならその場を収めてくれそうだと思ったし、単純に久々に会いたいとか思ったわけだけど、この緊急時には嘘も方便のスタンスも許されるんじゃないだろうか。


 どうか許してほしい。


「まったく、しょうがねえな。世話が焼けるよな、ラックってやつは」


 タマサはどこか嬉しそうに言って、小さな手で俺の背中を強く叩いたのだった。


「……てかさ、あらためて思うんだけど、ラックの人脈やべえだろ。ティーアと知り合いだったし、そのうえ多くの大勇者と親交があって、しかもそのうちの一人を連れて旅してて。しまいにはオトキヨ様とその側近とも仲良しとか、何なんだよマジで」


 一体何なんだろうね。それは俺にもわからない。ただの成り行きってやつである。


  ★


 アリアさんは、俺の解呪計画を聞いて、一瞬で理解してくれた。


「先輩が氷を作って、その氷を数倍にして返すのがあたし。二人の氷の力で、エコラクーンを丸ごと覆うドームを作る。こりゃ大仕事だね。んで、その中に巨大な紫熟香を置いて、仕上げに、だらしない胸をした遊女が、紫熟香に火をつけて煙を出し、その煙を風魔法でエコラクーン全体に行き渡らせる」


「あ?」とタマサは怒りを隠せない。


 この怒りは、「だらしない胸をした遊女」という呼び方に対して向けられたものだろう。


 どうしてアリアさんは、他人を中傷しないといられないのだろう。思ったのと反対の言動をしてしまう不器用なスーパー天邪鬼(あまのじゃく)なのか、性格が破綻(はたん)しているのか、それとも他に理由があるのか……。


 いずれにしても、俺はフォローに回らなくてはならないだろう。


「あー、おちつけ、タマサの胸はだらしなくない。大きくて勢いがあって、魅力がこぼれ落ちそうなだけだ」


 タマサが「ちょっ」とか言いながら、赤い派手な着物の袖で胸をおさえたが、服の派手さに負けないほどの、こぼれんばかりのお胸様は隠し切れるものではない。肩もはだけてるし、谷間もがっつり見えている。とても魅力的だ。


「でた、エロエロクソ野郎」フリース。

「ほんとですね」レヴィア。

「どこみてんだよ、ぶっとばすぞ」タマサ。

「あたしのこともそんな目で見てたの? きもちわる」アリアさん。


 いやいや、アリアさんは長身でバランスの良い細めの体型だとは思うけど、現在の姿は全身に薄緑色の包帯を巻いた目つきの悪い片目隠し系の女子であるから、非常にマニアックであると言わざるを得ない。要するに俺は、アリアさんのことを()()()()では見てはいないということである。


「やだ。あたしのことも()()()()で?」


 とかフリースが棒読みで胸を抑えながら冗談を言ったけれど、馬鹿を言ってはいけない。フリースが一番すっきり爽やかな胸をしているじゃないか。マジでふざけないでいただきたい。


 この中で一番おっきいのはタマサ。次にレヴィア。アリアさんがそれに続いて、一番の寂乳(じゃくにゅう)はフリースだ。


 こんなことは、口に出すと怒られるだろうから、絶対に言わないことにしよう。


「私、ラックさんのそういういやらしいところ、ちょっと嫌いです」とレヴィア。


「だ、大丈夫だ。レヴィアのことは、そんな目で見ないから!」


「えっ、それはそれで、もやもやな気もします……」


「どうしろっての」


 このような話題、さっさとやめればよかったとも思うけれど、結果的に、タマサとアリアさんがケンカにならなくて良かった。フォローの仕方を間違えたかな、とも思ったけど、俺のおかげで争いが避けられたとも考えられるから、問題なしってことにしようか。


  ★


 氷の建築を開始する前に、まずタマサが土魔法とやらを使って、周縁を掘り進めていった。レヴィアの目にはどういうわけか呪いが見えるみたいなので、呪われた土地の外縁を囲う形で(みぞ)をめぐらせることができた。


 まるで、お堀のように。


「っはぁ! 疲れたな」


 外周を掘り終えたところでタマサが呪われた土に倒れ込んだ。紫熟香の効果でタマサにかかる呪いは無効化されているから問題はないけど、せっかくの鮮やかな花魁服が汚れてしまいそうである。


「おいラック、何か甘いもんとか無えのかよ」


「甘いものか。……わかった」


 タマサにはこの後もひと働きしてもらうわけだし、ご機嫌取りもかねて、腕毛の濃ゆい茶屋のおっさんから菓子でも取り寄せよう。


 そうして注文を書いた紙を取るために飛んできた俺のレンタル鳥だったが、この上空に近づくなり呪いを受けてモンスター化した。


 グゲァと鳴きながら、我を忘れて俺を攻撃しようとしたが、タマサの炎魔法で焼却されて命を落とした。


「まじかよ……俺のレンタル伝言鳥が……弁償案件かなぁこれ……」


 どうしたもんか……。


 そしたら、その一部始終を見ていたレヴィアが呟いたのだ。


「そういえばラックさん。私にスイートエリクサー飲ませてくれるって約束してませんでした?」


 余計なことを言いやがってレヴィアこの野郎。


 急いで口を塞いで周囲を見回したが、すでにタマサの耳に入ってしまった。


「スイートエリクサー!?」


 驚きの声が大きめだったので、残りの二人の耳にも届いてしまった。


「スイートエリクサー……」フリース。


「飲んだことないけど、どうなの? 先輩」アリア。


「味わったほうがいい。人生損してる」


「はぁ? 別に、いつでも飲めると思ったから飲まなかっただけだし」


 アリアさんは本当にプライドが高いなぁ。


「スイートエリクサーは本当にスイート。みんながおいしいと言う。性別や種族や年齢を問わず、ひとりのこさず、みんながおいしく感じる奇跡の食品。モンスターや魔王さえも『オイシー!』って叫ぶはず。でも、この世界でアリアだけは美味しく感じないかも」


「は? 何なの?」


 そして二人は互いに牽制(けんせい)モードに入ってしまった。いつでも氷の応酬が始まりそうである。


 そんでもって、これは、やっぱり俺がスイートエリクサーを買ってくる展開になるんだろうなあ。


 持ってこなかったら、レヴィアに「約束破った」って指差されるし、レヴィアにだけ持ってきたら、「あたしたちの分はないのか」と責められることになる。


 レヴィア、フリース、タマサ、アリアさんの四人分。量にもよるけど、また金貨十枚くらいが、俺の財布から逃げていくことになるのだ。


 まあ、仕方ないよな……。


「タマサ、ちょっと俺は出掛けてくる。レヴィアの護衛を頼んだぞ」


「ん、ああ。準備は進めとく」




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