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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十章 書物のまち
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第229話 アオイさんの聖典研究(9/16)

「カノレキシさん」


「カノさんとかで良いわよ。アオイちゃんにも、そう呼ばせているからね」


「わかりました。それじゃカノさん。さっそくですけど、作戦を立てましょう」


「そうね。ちょっと待ってて。アオイちゃんを引っ張ってくるから」


 カノレキシさん、改めカノさんは、その後寝室からアオイさんだけを文字通り引っ張ってきた。腕を掴み、嫌がるアオイさんを無理矢理歩かせてきたのだ。


 戻ってきたアオイさんは、眼鏡をかけていた。二つのガラスレンズのおかげで、彼女の知的さが上がったように見える。


「ラックくん、さっきはごめん、ちょっとラックくんに部屋汚いとか言われてね……自分なりに頑張って片付けてたつもりだったんだけど、ショックで、冷静でいられなくなっちゃった」


「いえ、すみません、こちらこそ言い過ぎました」


 こうして、あっさりと仲直りを交わした後、すぐにアオイさんは部屋の変化に気付いた。


「ね、ラックくん、あの黒板の文字、あれ何?」


 アオイさんの質問に、俺は説明を返す。


「あれは、この『原典』に隠されていたメッセージを書き留めたものです。上が偽装された状態の文字を並べたもので、下が偽装を暴いた時の文字列だ。ばらばらに散りばめられた文字を集めて並べた形だな」


「えっ……もしかして、二人で解いちゃったの……?」


「解いたってほどじゃなかったな。偶然にも見つかった感じだ。な、カノさん」


 俺が呼びかけると、カノさんは微笑みながら頷いた。


「いやぁラックくんは、この世界じゃ珍しく、良い目を持ってたね」


 そしたらアオイさんは、また落ち込んだ。


「ラックくんとカノさんが仲良くなってるぅ……」


 自分の知らぬ間に仲良くなられたのが、ちょっと悲しかったらしい。


 それにしても、アオイさんは結構メガネ似合うな。これからもずっと掛けててもらいたいものだ。


  ★


「大書庫の構造は、だいたいこんなところだね。アオイちゃんとラックくんには、『しるし』とやらを探す作業をしてもらう。あたしは邪魔されないように足止めしなきゃだからね」


 カノさんは黒板に白チョークで大書庫内の見取り図を記してから俺の正面の椅子に戻った。黒板とカノさんとの間に、アオイさんを挟む形だ。


 描かれた図には、書架の並び方と、それぞれの棚番号が書き込まれている。アオイさんの描く図よりもはるかに精密で分かりやすい。でも、こういうことを言うと、またアオイさんが()ねてしまいそうだから、そこには触れないことにした。


「邪魔をしてくる人がいるんですか?」


 カノさんは頷くと。


「人っていうよりは、あれだね、警備の機械がうろついてるのさ。エリザマリー様の遺志を継いだご子息が、遺言を守るために書庫の蔵書を守るためにアレを放ったらしいんだけども、どうも過保護に過ぎるっていうか、なんというか……」


「ってことは、かなり長い間、動き続けていることになりますね」


 俺がそう言った時、アオイさんが斜め向かいから急に、こんなことを言ってきた。


「アルティメットエリクサーって知ってる?」


 これは、明らかに俺に向かってきいている。自分の知識をひけらかして、マウントを取りに来る行為だろう。


 対抗したくなったものの、悔しいかな、俺はアルティメットエリクサーという名を、聞いた記憶がなかった。


 案の定、斜め向かいに座るアオイさんはフフンと笑いながら、説明してくる。


「生きてないモノに命を持たせる霊薬なんだよね。質の高いアルティメットエリクサーを使えば自動で動く警備装置を作るのも自由自在なんだけど、質の低いアルティメットエリクサーで警備装置を作っても、単純な命令しか与えられないわけ」


「つまり、大書庫の警備マシンは、単純な命令を遵守するだけなんですね?」


「その通り。さすがラックくん」とアオイさん。


「どんな命令なんですか?」


 この問いには、正面のカノさんがあっさり答えてくれた。


「――エリザマリー様以外の書庫で出会った生き物を排除する」


「頭悪すぎません? それって、事実上書庫を使えなくしてるじゃないですか」


「書庫に入っている時に書物が傷つけば死刑、無抵抗でも命を落とす、その結果、見事に書庫に近づく人間がいなくなったわけだから、遺言を守るっていう意味では、むしろ頭が良かったとも言えるかもしれない」


「なるほど、逆に頭いいのか……。でも、問題ですよね。このままだと書庫は使えないじゃないですか。何か対処法は無いんですか?」


 そしたら、カノさんは自信満々に答えた。


「あたしに任せておきな」


「何か策があるんですね?」


 カノさんは、目元に笑いじわを発生させて頷くと、椅子に座ったまま、みょーんと腕を伸ばしてチョークを掴んだ。そして、書庫の横に四角い部屋を書き足した。


「フェッ!?」


 どっから出したんだって言いたくなるような甲高い悲鳴を放ったのは、アオイさんだった。腕がのびることを知らなかったらしい。


 唖然(あぜん)としてメガネをずらすアオイさんを見て、カノさんは楽しげである。


「ちょっとラックくん。何で驚かないの?」とアオイさん。


「いえ、俺は、さっき見せてもらってましたし」


「ずるい! 自分ばっかり!」


「いや、そう言われましても、成り行きで……」


「まあまあ、落ち着いて、アオイちゃん」


 カノさんはそう言いながら、伸ばした手でアオイさんの頭をなでた。綺麗な髪が、わさわさと左右に揺れた。


 びっくりしながらも、なんとか落ち着いたアオイさんは、話を本筋に引き戻す。


「それで、警備機械をどうにかするって話ですけど……カノさんはどんな手を使うつもりですか?」


「そうね。今しがた見せた通り、あたしの手はかなり長い距離、自在に伸びる。そして警備機械たちは、必ず、今描き足した書庫脇のスペースを通って魔力を補充してから書庫内に入っていく。これがどういうことかわかる?」


 俺とアオイさんは首をかしげた。まったく分からん。


「じゃあ追加のヒントをあげる。警備機械には、書庫を巡回する決まったコースがあって、昆虫のアリみたいに規則正しく行列をなしている。書庫の隅々を探った後、外側の通路をぐるっと回るようにして最初の場所に戻ってくるわけよ」


 そこまでヒントをもらっても分からない。アオイさんと俺は示し合わせたかのように、反対方向に首をかしげてみせた。


「あたしの長い手を使えば、警備機械が書庫に入るのを防ぐことができるってことさ。そして、この警備機械に下された単純な命令をがどうだったか、おぼえているかい?」


 それは、ついさっき聞いたから、さすがに(おぼ)えている。


「エリザマリー以外の書庫にいる生き物を排除する、でしたっけ?」


「ざんねん、ラックくん不正解。微妙に違う」


「え、どこが」


()()()()()生き物ではなくて、()()()()()()()生き物。これはだいぶ違う」


 俺はそう言われても何が間違いなのか気づかなかった。このヒントでアオイさんは気づいたようだ。さすがメガネを掛けているだけのことはある。知的だ。


「わかった! 書庫にいるやつを攻撃するのは、書庫の外からでもできる。書庫で出会ったやつを攻撃するのは、書庫の中でしかできないんだ! そこに隙がある」


「アオイちゃん正解。書庫以外での警備機械は、魔力を節約するために攻撃機能を全て失うからね、この書庫の外にあるエリアで警備機械が暴れることは無い」


「つまりね、ラックくん」とアオイさんは得意げに、「機械が書庫に入れなければ、襲われる心配は無いのよ」


「そうそう」とカノさんが赤髪を揺らして頷く。


 さも完璧な作戦を思いついたとばかりに誇らしげな二人だったけども、俺は内心、そんなうまくいくだろうかと疑っていた。




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