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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第十章 書物のまち
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第223話 アオイさんの聖典研究(3/16)

 アオイさんの地図を炎に近づけてみたが、特にあぶりだしの仕掛けがあるわけではなかった。側溝(そっこう)のキレイな水に()けてみたけれど線が浮かび上がるわけではなかった。わかり切ったことだ。アオイさんはこの地図の情報が不十分だと思っていないのだから。


 かといって、意地悪をして遠回りさせようとか、暗号を解くテストなどをしているとか、そういう悪だくみをしているとは思えない。


 だって、アオイさんは良い人だからな。


「すみません、この店ってどこにありますか?」


 坂の中腹あたりで店名を見せながらたずねると、やさしいマリーノーツ住人は親切に答えてくれた。


「あぁ、これなら、書店街の大通りから裏路地に入ってすぐだよ」


 細かな説明とともに、地図に書き足してくれて、店の前で待っていた彼女と簡単に合流できた。


 雨の中を、それぞれ傘をさしながら徒歩で移動する。


 ぞろぞろと三人で坂を下り、アオイさんの前に立った時、挨拶もなしにいきなりアオイさんは言うのだ。


「昨日なにたべた?」


「いきなり何ですか?」


「いや、ラックくんが泊まったの、金持ち専用の超高級なとこでしょ? どういうものが出るのかなって、興味があってさ」


「そうですね、美味しいものばかりでしたよ。なかでも、やっぱりスイートエリクサーは味覚を最高に幸せにしてくれましたね」


 そしたらアオイさんは急に怒りだした。


「はぁ! スイートエリクサーぁ? そんなお金、どこから……もうさぁ、どんな悪い事したら、ラックくんみたいな微妙な男が、あれ飲めるの?」


「その言い方は、ひどくないですか? もう言葉の暴力ですよ?」


 とはいえ、ここまでの旅の中で、悪事と言われても仕方ない出来事は、いくつかある。


 たとえば、偽造通行証での関所の通過とか、反乱軍への食糧提供とか、宝物庫での黄金溶かしとか、皇帝暗殺を止められなかったりとか、他にも枚挙(まいきょ)(いとま)が……あれ、極悪人かな?


 しかし、ちゃんと取り返す活躍もしている。(あば)(たけ)るオトちゃんを(しず)めるために、黒龍玉とやらの在処(ありか)を見破ったのは俺なのだ。どうかスイートエリクサーを飲むことを許していただきたい。


「ていうかさ、そんな豪華な食事なら、呼んでくれるものじゃない?」


「アオイさんを?」


「そう。アオイさんを」


 彼女は自分を指差しながら不満そうだ。


「そうはいっても、昨日はさっさと帰っちゃったし」


「鳥でも飛ばせば一瞬でしょ。すぐ近くに住んでるんだから。『いざ、スイートエリクサーで乾杯を』とか書いてくれたら、真夜中だろうが何だろうが、満面の笑みで飛んでいくわよ。こっちはそんなの飲んだことないんだから」


「アオイさんにはお世話になっているので、そうですね……まあたしかに……でもなぁ、あの飲み物、たった三杯で金貨十枚とか持っていくんですよ」


「どういうこと? ケチじゃない? 十枚も十五枚も変わらないでしょ? なんなら、こっちの働きは金貨にしたらもっと多いはずじゃない? そのくらいお世話したよ? 忘れた?」


「あ、そういうことを自分から言ってくる人には御馳走したくなりますね。それに、ホクキオの温泉にタダで浸かりに来てたじゃないですか? それで色々お世話になった分はチャラですよ」


「は? なんかラックくん調子乗ってない?」


「浪費する癖をつけたくないんですよ。アオイさんも知ってるでしょう? 借金の悲惨さを。さんざんケツをむしってきたんだから」


「……ねえ、今のは明らかにケンカ売ってきたでしょ? なんなの? こっちの取り立ては仕事でやってただけだし、ケツむしりとか言われるのすっごく嫌だって知ってるでしょう? 何で(あお)ってくるの? 口は災いの元だよ?」


「だって、さすがに金貨単位のモノを御馳走するとなると、何か見返りを欲しがってしまうのは人として仕方ない事かなって思いますし」


「そこは否定できないけども……じゃあ耳よりな情報と交換っていうのはどう?」


「情報?」


「実はね、スイートエリクサーよりも、甘くておいしいエリクサーが有るらしいんだよね。興味ない?」


「それ、いくらするんです?」


「売ってない。たぶん珍し過ぎて値が付かないレベルなんじゃないかな」


「え? どういう……」


「レシピはあるけど実物は現存しないのよ。自分で作るにしても、材料とか揃えられないし。だって、無印のエリクサーをベースにするっていう時点で、ねぇ……?」


 その時点で、半端なく高価だ。○○(ナントカ)エリクサーではないただのエリクサーは、金貨数百枚か数千枚レベルのお宝なのだ。そいつを売り払っただけで、長いこと遊んで暮らせるほどの財が手に入る。


「効能も全くもって不明だし……しかもね、聞いた話だと、レシピ通りに作っても一度も成功しなくて、失敗するとエリクサーが失われてただの水になるから、誰も挑戦しなくなったらしいよ。そんな特別なエリクサーは、とても貴重で普通の人間に手が届くようなシロモノじゃない。ただ……」


「え、何です? もしかして、何か手に入れる方法が?」


「いや、入手方法は全くわかんないね。だけど、名前だけは伝わってる」


「へぇ、どんなですか?」


「――ファイナルエリクサー」


 ファイナル、つまり、最後のエリクサーというわけだ。全てのエリクサーの極点(きわみ)にある最終形態なんだろうなと想像した。


 スイートエリクサーよりも美味しいとなれば、ぜひとも味わってみたいところだ。




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[一言] ここに来てタイトル回収の予感が…
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