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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第九章 戦いの果てに
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第212話 埋葬

 そうこうしているうちに、周囲の景色は草原となり、こんもりと石垣が積まれている場所が見えてきた。草原の中にあって、草の一本も生えていない場所だったので、とてもよく目立つ。


 石でつくられた円形の丘の奥に、まるで角でも生えているかのように反り立つ壁面が、印象的だった。


「あれがミョウジンさんって人のお墓?」


 俺の問いに、マイシーさんが冷静に答えてくれた。


「中心部であるとは言われますね。ですが、どこからどこまでが墓かと言われると、決めるのは難しいです。このマリーノーツという国が丸ごと、ミョウジン様の墓だという説もありますから……。他にも、祭壇を中心とした狭い範囲という説もありますし、あの埋葬地を南端として、川を挟んで向こう側にある何の変哲もない森までを中心とする人もいます。実際のところ、何が正しいのやら、わかりません」


「なんか、ミョウジンさん関連の情報は、わからないことが多いみたいだな」


 それは、そう、まるで隠されているみたいに。


「ええ、そうですね」マイシーさんは頷いて、「詮索(せんさく)してもいいことないと思いますよ。下手に秘密を掘り出して、わたくしを忙しくさせた場合、ラックさんをどこまでも追いかけて働かせますから、覚悟しといてください」


「それは困るな。墓暴きは悪徳だろうし、掘り出さないようにしよう」


「ひとことで言いますと、エリザマリー様が国を作るにあたって、人々の敬意を集めていた者の存在を消して神話を創作したんですよ」


 おい、詮索するなと言っておいて、気になることを言ってくるんじゃないよ。ちょっと興味が湧いてきてしまったじゃないか。


「エリザマリー様が、なぜそんなことをしたのか。その理由としては、ミョウジン様が望んだからですとか、エルフ勢力からの独立のためですとか、とにかくオトキヨ様を大事にしたかったからですとか、色々言われますけどね、結局これも――」


「――わからないと」


「その通りです」


 また謎が増えたけれど、果たして全ての謎が解ける日は来るのだろうか。


 できれば、マイシーさんの仕事も増やさない形で、謎が解けてほしいと思う。


 大丈夫。俺たちはフリースが諦めるくらいの雷撃ウナギの呪いを解いた実績があるんだからな。呪いと謎は違うだろうけど、「解く」という点では同じだ。


 この先、ミヤチズに行けば、古文書の情報を紐解(ひもと)く機会もあるかもしれない。エリザマリーとミョウジンのこと、頭の隅っこにでも入れておこう。


 だんだんと近づいてくる墓場。その視界には、黒い服を着た人々が十人ほど並んでいた。


 まるで葬式みたいだなと俺は思った。


  ★


「はじめましょうか」


 そう言ったマイシーさんは、十人くらい並んで待ち構えていた黒い服に合図をした。


 どうやら、並んで出迎えてくれたのは、マイシーさんの操る人形だったようだ。


 十人の黒い服の手によって、箱が一つ運ばれてきた。


 かなり大きい。大人の男が余裕で入れそうなサイズである。中身の想像はついているけれど、その極悪人をこの神聖とされる場に埋めようとしているわけで、そんな行動は不可解だった。


 マイシーさんの一声で儀式が開始される。


「それでは、ハタアリの名を(かた)った偽物の埋葬を始めます」


 どうやらマイシーさんの目的は、俺たちをこのイベントに立ち会わせることだったらしい。


 といっても、俺たちは、人形が穴を掘り、土をかけていく光景を眺めているだけだったけれど。


 俺、フリース、レヴィアは、それぞれ無言で、箱が埋められていくさまを見つめていた。腕に巻き付いているオトちゃんも、興味ありげに、その光景を覗き込んでいた。


 遺骸(いがい)が暴れ出したり、しないよな。


「それにしても、ここは神聖な場所なんだろう? どうしてここに埋めることにしたんだ?」


 俺の問いに答えたのは、マイシーさんである。


「こういう遺骸(いがい)には、怨念がありそうじゃないですか。だから、すごく強大で徳の高い人が祀られた場所に封印すれば、(しず)めてもらえるのではないかとね」


「ミョウジンさんの魂は、ここにあるんですか?」


「絶対にありませんね」


「じゃあ、意味なくないですか?」


 そしたら、マイシーさんは困ったように笑った。


「あまり意地悪を言わないでください」


 その瞬間、銃声が響いた。何事かと思って振り返ったら、レヴィアが銃を構えていて、そこから縄が飛び出してきた。


 放物線を描いた縄の輪っか部分が、俺の肩に掛かった。


 縄が触れたのにびっくりして、俺に巻き付いていた蛇はにゅるにゅるっと逃げて、フリースのほうに向かっていった。


「人を追い詰めたらだめなので、つかまえました」


「ごめん」


 カウガールレヴィアは、初めて縄が役に立ったのが嬉しかったらしく、小さく笑っていた。


「でも、その銃は危ないから没収な」


 俺はレヴィアの小さな手から、銃を奪い取る。


「あぁっ、何で」


 何故かと言えば、銃を撃つことを覚えてほしくないからだ。たとえ縄が飛び出るオモチャであっても、引き金を引く感触を快感にさせるわけにはいかない。


 ただでさえ、レヴィアの言動は時々おそろしかったりするからな、これ以上銃などという暴力アイテムを持たせとくわけにはいかないのだ。


「なんでですか! なにするんですか! 返して! 返してください!」


 俺はレヴィアの帽子を上から軽く押さえながら、銃を頭上に持ち上げ、ぴょんぴょん飛び跳ねるレヴィアに渡さないようにする。


 跳ねても届かないとみるや、服の胸のあたりを掴んでグイグイ引っ張ってくるのが、とても可愛らしい。今すぐにも抱きしめたくなったけれど、我慢だ。


 今はレヴィアをちゃんと教育しなくては。


「いいか、レヴィア。銃ってのは、持っているだけで危険なんだ。それだけで危険なやつだと思われて、他のやつに後ろから撃たれるかもしれない。嫌だろ、そんなの」


「でもオトキヨの形見ですし」


 俺がフリースに吹っ飛ばされた場所でおなじみのフォースバレー宮殿で、カウガール服と一緒に銃も受け取っていたようだが、今の発言には大きな間違いが一つある。


「死んでないぞ」


「え? そうなんですか?」


「ああ。聞いてなかったか? あの黒い蛇がオトちゃんだ」


 俺は、フリースが生み出した氷の柱に巻き付く蛇を指差した。


「えぇっ……あの気持ち悪いにょろにょろがですか? そうだったんですね……。のこされたマイシーさんが寂しくなって、ペットにオトキヨって名前つけて可愛がってるんだと思ってました」


「お前……オトちゃんの自我(いしき)が戻ったら気をつけろよ」


 そんなこんなで、銃を没収することに成功した。


 レヴィアには戦いは似合わないからな。




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