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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第九章 戦いの果てに
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第204話 残った謎

 ドノウ議員と同じようにオリジンズレガシーの支援を受けて反逆の芽を育てていた議員らに加え、捕らえたオリジンズレガシー幹部たちなどからも話を聞き、裁判は三日三晩に及んだ。


 オトちゃんがこの裁判を聞きたがっている感じがしたので、休憩時間中にオトちゃん用の水桶を用意して漬け込みながら、俺もその場でゆるりと傍聴(ぼうちょう)を続けた。


 こういうのは転生者の利点である。スキルを使わない限りは、眠くもならないし、腹が減ることもない。


 途中、フリースが来て文句を言ってきたり、わざわざ八雲丸さんが愚痴をこぼしに来たり、プラムさんが催眠の呪いに掛かってしまったことを謝罪しに来た、なんてこともあったけれど、なかでも印象に残っているのは、サカラウーノ・シラベール氏の訪問だった。


「すまなかった」


 と、彼は頭を下げてきた。相変わらず甲冑はとらなかったので、顔は見えなかったが、声や態度から、真剣な謝罪の気持ちは伝わってきた。


 だから、俺は言うのだ。姿勢を正して、頭を下げて。


「その一言が聞けただけで、うれしいですよ、ありがとうございます」


「以前は変な言いがかりをつけて捕まえようとして、本当に申し訳なかった」


 ん? 待てよ?


 今の発言には若干の違和感がある。


 捕まえようとしたことの謝罪、って、だいぶやらかしたことが軽くなってるよな。この薄紅甲冑は、無実の俺を思い切り捕まえた上に、死刑宣告して処刑台に送り込もうとしたんだけども、都合の悪いことは忘れてしまったのだろうか。


 いやいや、まあまあ、落ち着こう。いちいち深く掘り返すこともない。とにかく和解できたという結果を抱きしめて、喜びとともに先に進むとしよう。


「サカラウーノさん。これからも、よろしくお願いしますね」


 そうして俺は握手を求めた。


 彼は俺の手を甲冑の籠手(こて)で握りながら、心配して寄ってきた弟に語りかける。


「クテシマタよ。お前の親友は、なかなかの人物のようだな」


「ええ。私の自慢の親友なのですよ」


  ★


 裁きたい人を裁くための、裁判と呼んでいいのかって感じの不公平裁判を傍聴していて、気になることが残った。


 一つは、モンスター議員についてである。


 たとえば、学校に不当な文句をつける野蛮な保護者という意味のモンスターペアレンツという言葉があったり、店に理不尽な文句をつけるモンスタークレーマーという言葉があったりする。


 この場合の「モンスター」は、ただの比喩である。あくまで、モンスター並の蛮行をしてくる人間のことである。けれども、いま、俺が気になっているのは、本当の意味でのモンスターである。


 リアルにモンスターで、ビーストだったりアンデットだったり魔族だったり羽根はえたり植物だったりしてる人外の議員たちが、マリーノーツの議会には大量に混ざっていて、俺のスキル『天網恢恢(いつもだれかみてる)』の能力によって、正体が暴かれてしまったのだ。


 本当の姿になってしまったモンスターたちは、議会を脱出して逃げていった。素早い判断だった。再び偽装スキルが使えるようになるまで、どこぞで身を潜めていると思われる。


 とはいえ、俺の『天網恢恢(いつもだれかみてる)』は、三日間は偽装も誤認も使えないというスキルなのだ。三日が過ぎた今、そろそろ戻ってきてもいい頃だけれど、誰一人としてモンスター議員の姿は見ていない。果たして一度モンスターであることがバレた連中が簡単に戻ってくるのだろうか。


 そもそも、人間とエルフは、そんな人間のふりをした魔物の議会参加を認めるのだろうか。


 以前、俺は金城という男の旅を夢に見たことがあった。その夢の中で、モンスターが人間に溶け込もうとして、そしてまた人間以上に人間をやっている場面があった。


 あの四ツ目が菱形(ひしがた)に並んだ、やさしい熊の魔物。あの一家のような者たちであれば、ともに幸福な未来を選んでいくことができるのではないかと思うのだけれど……。


 この案件について、マイシーさんは、次のように決定を下した。


「たとえモンスターであろうとも、世の中をよりよくしようという気持ちは一緒です。オトキヨ様もそう言うでしょうし、この国を作ったエリザマリー様も同じように選択するでしょう。わたくしは会ったことがありませんがね。とにかく、彼らには再び議会に参加してもらうように、鳥を飛ばしておきます」


「大丈夫……なんですかね?」


「大丈夫です! そもそも、オトキヨ様だって、人間でもエルフでもありませんからね」


 またしてもマイシーさんは大丈夫だと言った。今度も本当に大丈夫だといいなと思う。できれば今度こそは、一歩間違えばオシマイの窮地に陥ることなく、すんなり問題解決がなされてほしい。


 ともあれ、これにてモンスター議員の問題については、現状維持の先送りとなった。偽装によって成り立っていた混沌の伏魔殿(ふくまでん)議会は、今後も存続していくようである。


 いずれまた問題になる日もくるのだろうが、それはきっと、俺のあずかり知らないところで起きていくことだろう。


 受け入れるのか、敵対して排除してしまうのか、手を取り合うのか、崩壊するのか。


 できることなら、三つ編み裁判みたいな、裁きたい者を一方的に裁くような厳しいものじゃなしに、互いの主張が同じテーブルにのぼるような、公平な話し合いをしてもらいたいものである。


  ★


 最後に、なおも残った謎がある。


 偽ハタアリさんは、以前、オリジンズレガシーの仕事内容を語るときに、こう言っていた。


『――主な仕事は、情報収集じゃ。たくさんの人間が行きかう夜のない町ネオジュークは、情報量も他とは比較にならないくらい圧倒的に多いのでな。そこで、奴隷だった者たちを雇い、その中の転生者をスキルリセットさせ、高位の偽装スキルを身につけさせ、情報機関を組織しているというわけじゃ』


 ここでいう転生者をスキルリセットさせるためのアイテムってのは、高値で取引される『世界樹の樹液(なみだ)』というものである。一年に一度しか分泌されない樹液であるから貴重なのだ。


 そして今回、幹部たちを一斉に捕まえたことと、俺がこっそりもたらした本拠地の情報によって、悪のひきこもり組織の全容が見えてきたのだけれど、スキルリセットに関する情報に食い違いが見られた。


 偽アリおじいちゃんがスキルリセットアイテムを求めていたことは間違いないし、幹部の証言によれば、多くの副業でもうけた金銭で、実際に大量のスキルリセットアイテムが手に入っていたという。


 一つや二つではない。組織全体で百に迫る『世界樹の樹液』をゲットしたというのだ。


 これならば、さぞかし偽装スキルや誤認スキルなどの危険スキルの持ち主を増やしまくっていたのだろうと思ったのだが、どうもそうではないという。


 幹部として偽装や誤認を使って活躍していたのは、それらのスキルを元々持っている人間ばかりだった。つまり、犯罪に役立つスキル習得のためにスキルリセットアイテムが使われたことは一度も無かった。


 理由をきかれた幹部どもは、「知らない」とか、「ボスに聞け」、というような答えしか返さない。


 セイクリッドさんが早まって偽アリさんを撃ち殺したのは、ちょっとした失敗だったんじゃないかと思うけど、実はハタアリさんは体内に大量の爆薬を抱えていたらしいから、自爆される前に撃ったのは間違いじゃ無かったような気もする。


 ……と控えめに考えてみたものの、やっぱりあの銃撃なんてのは悪手で、単に運が良かっただけだろうな。


 だって、銃で撃ったことで爆薬に引火してたら、今頃みんなこの場にいないはずだ。


 これについて、運のいい本物のハタアリさんこと大勇者セイクリッド氏は言うのだ。


「そんなの、爆薬とやらが無い場所を狙って撃ったに決まってるじゃないさ」


 ベスさんがその場にいたら、三つ編み裁判にかけてもらいたい答えである。間違いなくバツンと激しく(ほど)けるだろうからな。


 やや話をがそれたので、戻そう。スキルリセットアイテムの話だ。


 俺は、このことが妙に引っかかったので、レアアイテムに詳しいであろうアオイさんに手紙を飛ばしてご意見をうかがってみた。


 一通目への返信。

『ラックくんへ。お手紙ありがとうございます。本当にご無沙汰ですね(怒)。スキルリセットアイテムは、いろんな薬の材料になるから、もしかしたら、無印エリクサーの原料として使ったのかも。それ使って不老不死でも得ていたんじゃないの?』


 二通目。

『アオイさんへ。偽ハタアリさんが不老不死になっているのだとしたら、それこそおかしいです。死んだんですよ。目の前で。ちゃんと死体も残ってました』


 二通目への返信。

『待って待って。それだと話が違ってくる。死体があるってのが、この世界ではそもそもおかしいよ。砕けるか急に消えるかのどちらかのはず。ただの分身で、本体は隠れてコソコソ生きてた、なんてことだったら、またラックくんが命を狙われちゃう』


 三通目。

『たしかに、その可能性は考えつきませんでした。気をつけることにします』


 三通目への返信。

『でもねラックくん、それを調べる前にね……まずはいいかげん、さっさとミヤチズに来なさい。もう待ちくたびれてます。はやくラックくんに会いたいです。いつまで待たせるつもり? おばあちゃんになっちゃうよ?』


 四通目。

『アオイさんは転生者なんだから、年齢を重ねることはないじゃないですか。冗談はよしてください』


 そしたら、四通目の返信は、全く役に立たないであろうアバウトなミヤチズの見取り図が一枚、送られてきただけだった。ここにいますよ、というバツ印が力強くつけられている。


 うるさい、早く来い、という怒りの返信なのだろうけど、まずはフリースの疲れがとれて、レヴィアが戻ってくるまで、ミヤチズへの旅は再開されないのだ。


 五通目。

『すぐに向かいたいと思います。びっくりするお土産がありますよ』


 鳥を飛ばして手紙を送ったが、五通目に返信はなかった。


 すぐに向かうってのが嘘なのは見破られてるんだろうけども、びっくりするお土産っていう記述にも反応を示さないとはな……。せっかく次の手紙で、アオイさんが欲しがるであろう『原典ホリーノーツ』の手がかりを持って行くって言おうと思ったのにな。


 もしかしたら、本格的に怒っているのかもしれない、などと思い至って不安になる。


 それでも、ミヤチズに向けて出発するのは、レヴィアと合流してからだと俺は決めていた。




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