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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第九章 戦いの果てに
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第203話 三つ編み裁判再び

 ホクキオ牧場のエリザベスさんには特殊能力があるという。


 これはホクキオ民の常識となっているのだが、しかし、実際のところ、本当に能力があるのかは不明だ。


 なぜなら、三つ編み裁判を成り立たせるスキル『正義(ジャスティス)』というのは、ベスさんが三つ編みを撫でながら問いを発することで成立するからだ。


 結び目を自分で(ほど)くこともできるのだから、いくらでもインチキ可能なわけで、実際、俺はこのインチキに痛い目に遭わされた経験を持つ。それが原因で十年くらいひきこもったのだ。できれば細かく思い出したくない思い出である。


 さらに、ベスさんがいるのと同じ側には白銀甲冑の我が友シラベール氏がいて、反対側の席を見ると、違う色の甲冑。ちょっと赤みがかった甲冑の姿がある。あれは反逆者を捕まえることを生業とするサカラウーノ・シラベールさんだ。さらに、その隣には本物のハタアリさんこと、大勇者、紅き双銃(そうじゅう)のセイクリッドさんがいる。


 かつて俺を問い詰め、追い詰めかけた人物たちが勢揃いしているではないか。


 これは、裁かれる側としたら、ひとたまりもない。どこにも味方がいない絶望を味わうことになるだろう。


 果たして、誰がこのインチキ裁判オールスターズに耐えられるのだろうか。たぶん無理だ。誰も耐えられない。


 でも仕方ない。本当に国家反逆で迷惑をかけたんだろうからな。あんな思いっきり黄色い服のやつらに指示を出して、あからさまに偽ハタアリさんに「裏切ったな」みたいな感じで文句を言っていたのだから、それはもう、あまりにもギルティだろう。


 そして、国家反逆者の運命といったら、マリーノーツにおいては死罪が濃厚だ。


 これから始まるのは、罪の減免(げんめん)をちらつかせることで事件の全容を解明し、別の罪人をあぶり出す儀式なのだ。


 ベスさんは手元に持った書類を開き、質問を始める。


「ドノウ議員は、王室親衛隊を私物化していましたが、黄色い服の軍隊には、王室親衛隊の隊員もいましたか?」


「ああ。そのようだな。だがそれは、私のあずかり知らぬことだ」


「むしろ、反体制の思想を持つ者を王室親衛隊に送り込んでいた。違いますか? そしてまた、ホクキオ自警団にも同じように送り込んでいた。死んだ偽ハタアリと共犯で」


「それは……」


 言いよどんだところで、三つ編みが解けた。


「はいワンギルティ追加ですね」


「お、おい……」


 有無を言わさずに、ベスさんはまた三つ編みを結い直し、調査結果を告げる。


「黄色い服の危険思想をもつ集団を、王室親衛隊とホクキオ自警団に潜り込ませていたうえ、(いにしえ)の禁術で催眠の呪いをかけ、一般人を大量に操っていた。それら全てオリジンズレガシーが裏で糸を引いていましたが、あなたはオリジンズレガシーの一員ですか?」


「違う!」


「では、オリジンズレガシーの本拠地を知っていますか?」


「知らない! 本当だ!」


 三つ編みは解けなかった。本当なのかもしれない。


 だが、ここで王室親衛隊のほうのシラベールさんが机を叩いて立ち上がった。


「嘘をつけ! 本当のことを言え! 本拠地くらい行ったことあるだろう!」


「し、知らない。本当に知らないんだ。弱みを握ろうと探ったことはあったが、見つけられなかった。広いネオジュークピラミッド内のどこかにあるというのは知っているが、それ以上のことは……」


「それだと、こちらと一緒ではないか……! しょせん貴様も捨て駒だったというわけだな……まったく、やってくれる」


 もしかして、ここで俺がネオジューク西の偽装された双子塔のことを教えてやったら、役に立てることがあるかもしれない。でも今すぐに、この不公平裁判オールスターズのところに出て行ったら、「何故今まで言わなかった! 未然に防げなかったのは貴様のせいだ!」みたいな流れになって、有罪にされる気がするから、出て行けないな。


 あとでこっそり、マイシーさんあたりを通して、教えてあげることにしよう。


 俺と仲良くないほうのシラベールさんは、「ふんっ、反逆者が」と、吐き捨てて、椅子にどかりと座り直した。兄弟ともに顔まで隠れた全身甲冑なので顔は見えないけれども、きっと苦虫を噛みつぶしたような表情になっていることだろう。


 ベスさんは次の質問に移る。


「なぜ黄色なのですか? これは、ドノウ議員の発案ですよね」


「そうだ。聖典派の連中が崇めていた化け物は、水を象徴する存在だからな。暴れ水をせき止めるための土を象徴する色である黄色を選んだのだ。汚水をせき止める堤防たらんとしたのだがな……結局アスクークの町は壊滅してしまった。どう責任をとるつもりなのか、と逆に聞き返したいところだ」


「そちらからの質問は認められません。ギルティ追加です」


「なんで……」


 有無を言わさずに次々とギルティ認定させるやり方は俺のときと同じだが、強引さが以前よりもパワーアップしている気がする。


 一瞬は戸惑いを見せたドノウ議員だったのだが、もはや開き直ったのだろう、悪役じみた笑いを浮かべて言うのだ。


「くくく、しかし、知っているぞ。もう悪の皇帝は討伐されて死んだんだよな。いい気味だ」


 ドノウ議員には残念なことだろうけども、しばらくしたら復活するという話だ。今は俺の横の座席でにょろにょろしてる。


 ベスさんはドノウ議員の言葉を無視して、次の質問をする。


此度(こたび)の造反の動機を教えてください」


「聖典派を滅ぼすためだ」


「それは何故ですか?」


「聖典派は嘘をついている。この世界が終わりに向かっていることを隠しているんだ」


「そうなんですか? 聖典派の皆さん」


 と、ベスさんが皆に振ると、不公平裁判オールスターズは次々に見解を述べた。


「知らないね。世界が終わるとか何言ってるんだい?」セイクリッドさん。

「全くの事実無根だ。聖典にはそのようなこと書かれていない」赤っぽいほうのシラベール。

「ですよね、ウチも知らないです」ベスさん。

「この()に及んで、なおオトキヨ様への侮辱を積み重ねるか。最悪だな」我が友シラベール。


 聖典派の誰が発言しても、三つ編みはほどけなかった。


「ドノウ議員。事実無根の言いがかりで名誉をキズつける発言と見なします。ギルティ深いですね」


「フン何とでも言うがいい。滅びの時に後悔しても知らんからな」


「はいはいわかりました。では、次は、偽ハタアリと原典派の関係について教えてもらいましょうか。実際のところどうなのでしょう? 原典派の発端(ほったん)が、あの老人だったというのが有力なのですが」


「それに関しては、全くわからない。こっちは本拠地さえ知らされていないんだぞ。信じたくはないが、ただ利用されただけの駒だったんだよ。あの裏切り者のジジイのな」


「役立たずですね。ギルティです」


「なっ、理不尽すぎるだろう」


 ベスさんは、また次の質問。


「では、続きまして、芋づる作戦といきましょう。あなたの他に、オリジンズレガシーと手を組んでいる議会の人間はいますか?」


「いない」


 これには三つ編みがバツンと弾けた。ベスさんは結び直して追及する。


「それは誰ですか?」


「いないと言っている。誰でもない」


「原典派のダムゲンゼツ氏、それからティボー氏、聖典派とされてきたムィズノウ氏、中立派を気取るシッスイヴァーン氏、以上の四名ではないですか?」


「なっ、なに……ッ」


「どうやら当たっているようですね。彼らからも後で話を聞くとしましょう」


「だが、どうして……」


「ウチの横にいるクテシマタ・シラベールは、その人が何を食べたのか、数十日にわたって調べる特殊調査スキルを持っています」


「そんなもので……?」


 ここで、白銀甲冑のシラベールさんがゆっくりと立ち上がって説明した。


「ここに、全議員の食事記録と、議員ではないオリジンズレガシー幹部の食事記録がある。こいつと照らし合わせて見れば、いつどこで会食の席を設けたのか、だいたいの見当をつけることができる。そうしてその四人が捜査線上に浮上したものでな、あとは、王室親衛隊の兄に頼んで詳しく調査してもらったのだ」


 これは、地味に感動ものである。弟が突き止めた食事記録をもとに、兄が捜査を完遂(かんすい)させたというわけだ。かつて反目(はんもく)し合っていた兄弟が、巨悪に立ち向かい協力捜査をするアツい展開が、人知れず展開されていたのだった。


「偽ハタアリの腹からは何も発見されなかった。あるいは、食事記録さえ誤魔化す偽装や誤認があるのかもしれんが、手下や同志たちの食事記録までは手が回らなかったようだ」


「それはそうだろう。さっきも言ったように、我々は残念ながら捨て駒だったのだからな。だが、正直言って清々(せいせい)したよ。我々を駒扱いした愚かなハタアリも死んだのだからな」


 ところが、この発言には、待ったがかかった。


「は? 死んでない。本物のハタアリはここにいる」


 セイクリッドさんこと本物のハタアリさんが自分の存在を主張した。彼女にしたら、自分のこだわりを持った名前が勝手に使われて死んだことにされるというのは許せないのだ。


 そこでベスさんが、セイクリッドさんのために次の質問をした。


「あの死んだ老人の本当の名前は何ですか?」


「もともと名前などない、と言っていた」


 この後も、何度も休憩を挟んでドノウ議員への裁判は続いたが、結果として、やはり死刑が言い渡された、判決から部屋を出ていくまでの間、ドノウ議員は気が触れたように大笑いしていた。




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