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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第一章 10年前
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第19話 三つ編み裁判(3/4)

 鎖につながれた手足をじゃらつかせながら、ホクキオの教会に連れて来られた。


 教会の室内は、神像や華美な装飾などは一切なかった。外観も質素だったが、内装も、あまり荘厳とは言い難い雰囲気である。


 いくつも並んだ蝋燭(ろうそく)の明かりと窓から入ってくる自然光だけのため薄暗い。


 普段は祈りの場である教会の真ん中に、俺が立つ場所が用意されていて、両側に座る場所が設置されている。


 片方が俺を追及する側で、もう片方が弁護する側ということだろう。


 左側には、三つ編みのベスさんと甲冑のクテシマタ・シラベールさんがいて、あいつらが俺を責める側なのかと思ったら、なんと弁護する側だって話だ。


 不穏な雰囲気しかない。


 茶番のニオイに満ち溢れている。


 俺の背後には、ずっと自警団の甲冑二人がにらみをきかせていて、逃げたり暴れたりできないようにされていた。


 そのまま時間が過ぎていって、やがて夜になって、太陽の光さえ見えなくなると、さらに暗くなった。


 太陽の光が失われるの待っていたかのように、長老っぽい雰囲気の長い髪と長いヒゲが真っ白の男が現れた。俺の前方十メートルくらい離れた場所に用意された席にどっしり座った。裁判官的ポジションの人なのだろう。


 こちらは背中を丸めてるとはいえ立っているのに、座った姿勢の長老っぽい白い老人の方が目線が高い。


 俺をゴミを見るような目で見下ろすと、威厳ある声を出した。


「時間になったので、オリハラクオンの裁判を始める」


 とんだクソゲーだよ。なんなんだよ。


 この教会でチュートリアルとか冒険者の心得とか聞けるはずじゃなかったの?


 そして、裁判長ポジションの老人は続けて言った。


「オリハラクオンには以下の四つの容疑がある。一つ目はベスが経営するエリザベス牧場への不法侵入と家畜泥棒。二つ目はホクキオ自警団への侮辱による公務に対する挑戦と妨害。三つ目は絵画を所持していたことによる偶像崇拝による戒律(かいりつ)違反。そして四つ目が……四年前に領主の家を襲い、領主の持ち物であるメイドを傷つけ、大量のナミー金貨を強奪したこと」


 何一つ俺は悪くないんだと主張したい。


「あの……」


 と、俺が弁解を口にしようとしたところ、


「――勝手に発言するでない!」


 長老が顔を真っ赤にして机をたたき、俺は背中を兵士にドスッと棒状のもので突かれた。痛い。


 もう、何なんだよこれは。ちゃんと俺のターンはめぐってくるのだろうか。


 長老はゲフンと咳払いして、話を続ける。


「今回は、嘘を見破るスキル『正義(ジャスティス)』を所持するベスさんの協力のもと、裁判を行うので、くだらない時間稼ぎの言い訳などできないものと思え」


 さあそれでは、ベスさんは前に出てきてくださいと老人が言うと、三つ編み少女が緊張した面持ちで歩み出てきた。


 出会った時とちょっと雰囲気が違ったのだが、それはおそらく先ほどはノーメイクで、今はバッチリ化粧をしているからだろう。


 マイクスタンドのようなものが用意されていて、何かと思ったが、三つ編み少女は、ごそごそと木の板を取り出し、そこに置いた。マイクスタンドではなく、書類台みたいなものだったらしい。


 そして彼女の両手は三つ編みに置かれた。板に書かれた文章を読み上げる。


「えっとぉ……あなたは、モコモコヤギ牧場に侵入し、モコモコヤギのモモを誘拐、殺害し、食い散らかした。そうではないと誓えますか?」


 食ったのは確かかもしれない。でも、牧場に侵入したことはないし、ヤギを盗んだのも殺したのもアンジュさんだ。だから俺は、


「誓えます」


 三つ編みがほどけた。これが嘘をついたという証になるらしい。


 教会の中が、ざわついた。尋常ならざるざわつきだ。会場からは口々に「あいつは終わった」的な声が響く。


「家畜泥棒とは……」

「ひどいやつだ」

「神に対する反逆だ」


 ベスさんの三つ編み診断は無条件に全幅の信頼を得ているようだ。彼女は髪を慣れた手つきで編みなおす。


「えっとぉ、二つ目は……あなたは、犯行現場に犯行声明文とともに、『捕まえられるものなら捕まえてみろ』という内容が書かれた看板を立て、誇り高き自警団を侮辱し秩序を乱そうとした。そうではないと誓えますか?」


 これに関しては本当に俺のせいじゃない。すべてアンジュさんが改心する前に仕組んだことだ。これでベスさんの三つ編みがほどけるわけがない。


「誓えます」


 ばつんと解けた。なんでだ。


 どよめく聴衆。


「自警団をバカにするとは」

「悪魔の手先としか思えぬ所行(しょぎょう)よ」

「捕まってくれてよかったわ」


 ベスさんはまたしても髪を編みなおし、絶望する俺に次の問いを浴びせる。


「三つ目は……あなたは神の定めた法に逆らい、美しい女性が描かれた絵画を所持していた。目的は以下の二つ。偶像崇拝による悪魔儀式を行うため。蠱惑的な絵画を配って意欲を失わせ、社会を乱すために。そうではないと誓えますか?」


 一つ褒めてやってもいいと思えるのは、絵の中の彼女を「美しい女性」と言ったことだ。非常に見る目があると言わざるを得ない。


 だけど……悪魔儀式? 社会を乱す?


 ふざけた話だ。そんなのどうだっていいんだ。俺は現実での楽しかった彼女との日々を思い出すためだけに、まなかさんの描いてくれた絵画を一生胸ポケットに入れて生きて行こうと思ったんだ。だから――。


「誓えます。はっきり言いますよ、俺が絵画を持っていたのは、俺が彼女の絵を眺めて楽しむためだ!」


 しかし三つ編みはほどけた。ふざけんな。


 またしても聴衆は反応する。


「偶像崇拝者は死すべし」

「世を乱すテロリストめ」

「女性をヒワイな目でみることしかできない変態なのね」


 何がどうなってそんな評価になってしまうのか。俺はただ、彼女と俺が並んで描かれた最高の絵を眺めて微笑むために絵を持ち歩いていただけだ。ただそれだけなのに。


「四つ目は……あなたは四年前に女装をして領主様の家に侵入し、金貨五千万ナミー分を奪い取った。そうではないと誓えますか?」


 四年前には、俺は現実世界で、大学に入りたてで希望に満ち溢れていた。そんな時に強盗なんてできるわけがない。そもそも強盗なんて犯罪だから、やっちゃダメなんだよ。


 それに、アンジュさんの隠れ家にあったのは、二千万ナミーだ。五千万とかいって、二倍以上に増えていっているのは何でなんだ。


 しかも、転生者は女装なんてできないシステムになってる。男キャラは男キャラの服しか着られないし、女キャラは女キャラの服しか着られないのだ。


 ただし、もしかしたら女装スキルとかが存在する可能性がゼロではないから、百パーセントの説得力を持たないのは難点だ。


 というかさぁ、さっきから思っていたんだけども、ベスさんの嘘を見破るスキルはインチキなんじゃないのか。真実を正直に言っても三つ編みが盛大にほどけるのは、ベスさんが自分の手で三つ編みをほどいているに違いない。


 考えてみると、能力(スキル)の発動条件が三つ編みにした髪をなでることなんだから、常に髪の毛に手に触れていることになる。彼女が自分の髪を派手にほどくことができるのだから、嘘を真実にすることもできるし、真実を嘘にすることだってできる。


 きっと、俺がここで「誓える」と言っても、また三つ編みをほどくに違いない。だが、そう答えることしかできない。本当に身に覚えがないのだから、俺にはそう答える権利があるはずだ。


 ベスさんは三つ編みを撫でながら俺の答えを待っていた。


「誓えます。そんなことしていません」


 すると、何と、驚いたことに三つ編みはほどけなかった。ようやくベスさんのスキルがマトモに機能し始めたのだろうか。


 そう思ったのも一瞬だった。彼女の声が続いての質問を発する。


「では、金貨二千万ナミーを奪った。そうではないと誓えますか?」


 嫌な予感しかしない質問だった。


「ちか……誓えます……」


 弱々しくつぶやくと、予感は現実のものとなった。


 ベスさんの手が、自らの三つ編みをファサリとほどいてみせた。


 これで、俺が奪ったのは五千万ではなく二千万だったということが判明した。同時に、強盗犯であることが確定したのだった。


 いや、ありえないだろう。


「うそだ! こんなのはおかしい! 間違ってる! 俺は何もやってない!」


 どれだけわめいても、ここに俺の味方はいなかった。


 聴衆が叫ぶ。


「ギルティ!」

「ギルティ!!」

「まじギルティ!!!」




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