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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第八章 水難のまち
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第181話 カネシロの悪夢(6/9)

 考えてみれば、金城比(かねしろくらぶ)がカナノの南側で軽く暴れた事件というのは、さまざまな影響を及ぼしていたのではないかと思う。


 まず、カナノ南地区の無人化である。賊軍が攻めてくるから無人化したと思っていたのだが、どうやらそうではなく、金城のご近所さんでいることを嫌がった住民が逃げて行ったのが先だろう。


 そんでもって、誰もいなくなった土地を、賊を誘い込む作戦に利用しようとしたのが(あか)双銃(そうじゅう)のセイクリッドさんで、この私服調査員の親玉の計画を阻止したのが俺とレヴィアのシンクロ閉門だった、という関係である。


 それから、ラストエリクサーの価格崩壊がしばらく抑えられていたのも、金城の事件があった後に、権力をもつ上層部が手を打った結果であり、つまり、大量入手による反乱軍の強化を危惧(きぐ)して、あえて価格を下げないようにしたからだろう。


 そう考えると、俺が王室親衛隊に危険視されるようになったのは、二つの理由があって、俺がラストエリクサーを派手に集めていたことと、金城の取引先だったという理由からだと思われる。つまり、大量のラストエリクサーを使えば、大きめの反乱を起こすことができる、という事実が危険視されたのである。


 迷惑なことをしてくれたものだ。この男のせいで、俺のラストエリクサー商売がうまくいかなくなったばかりでなく、無実の俺が国家反逆者呼ばわりされて追い回され、そして、旅に出ざるをえなくなったのだからな。


 それにしても、この悪夢は、いつになったら終わってくれるのだろう。


 炎の槍に貫かれたレヴィアの安否を、はやく確かめたいのだけれど。


 ラキアの遊郭街は無事だろうか。何か大変なことが起きていやしないだろうか。それも心配だ。


 だけど、そもそも、俺も水着遊女の必殺技を受けたわけで……俺、死んでいないといいんだけれど。


 この悪夢が死に際の走馬灯でないことを祈るばかりだ。


  ★


 金城は、カラスの不気味な声が響く霧深い森の中にいた。


「絶対に許さない、ハタアリだか働きアリだか知らねえが、絶対に潰してやる」


 ネオジュークからみて遠く南東方向に広がる人里離れた森の中で、呪詛(のろいのことば)を吐きながら、新たなスキルを習得するためのモンスター狩りをしていた。


 復讐に燃えた金城は、偽装スキルを身に着けることにした。


 戦闘力は下がってしまうけれど、彼は強くなって正面から戦うという道は選ばなかった。本物のハタアリさん――つまり大勇者の一翼を担うセイクリッドさん――は、正々堂々と戦うなら相手になる、みたいなことを言っていたけれど、こっそり近づいて毒ナイフを刺しに行く戦法を繰り返し練習していた。


 不意打ちすることしか頭にないらしい。


 自分で満足がいくくらいに精密な動きができるようになって、ようやくカナノ地区の拠点に戻ったが、その頃には、みな危険人物である金城から遠ざかっており、彼の住処(すみか)周辺は、無人で閑散としていた。


「フハッ、都合がいい。いろいろと作らねばならないものもあるからな」


 金城は『曇りなき眼』の鑑定スキルを活かし、森から神仏をも殺す毒キノコを大量に伐採してきて、そこから猛毒を取り出し、他の毒物と調合するなどして、より強力な毒を作っていた。


 搾りかすのキノコは、その有用な副産物であった。もっとも、金城には使い道のないゴミだったので窓から放り投げて捨てていたのだが……。


 このキノコの搾りかすが、とある浄化スキルを持つ腕毛の濃い茶屋の手に渡った。このキノコを砕いて作った土壌で茶葉を育てることで『鑑定アイテム:幻の茶葉』となり、これが『福福蓬莱茶』なる商品の原料となったりしているのだが、それはまた別の話である。


 金城は、毒、麻痺、混乱、火傷、眠り。さまざまなステータス異常を誘発する毒物を収集していった。


「この毒すべてをハタアリのババアにぶち込んでやる。さすがに死ぬだろ」


 すっかり悪の道を疾走(しっそう)してしまっている。


 もはや同情はできないけれど、俺は金城のことを全くの他人だとは思えなかった。ラストエリクサーがらみで失敗していることもあるし、もしかしたら、俺自身が、金城比(かねしろくらぶ)のように()ちるところまで堕ちていた可能性があったんだ。


 ……要するに、だ。


 この男は、遊郭でプラムさんを操り、神聖皇帝オトちゃんを襲った犯人なのだろう。


 どういう仕組みなのかは不明だが、俺は今、その凶悪犯の人生を夢に見ているというわけだ。


  ★


 各種毒物を抽出し、調整し、ハタアリ殺しの素材が揃った頃、金城はハタアリの情報を集めはじめた。


 何としても正面からの衝突は避け、寝首をかいたり、一人でいるところに後ろから襲い掛かることを考えていたようだが、なかなか情報が掴めなかった。


 カナノの私服調査員の拠点も見つけて偽装スキルで姿を隠し、侵入してみたものの、そこに大勇者ハタアリの姿はなかった。ネオジュークギルドで冒険者に聞いて回っても、みな知らないと答えた。


 ハタアリさんの組織は、ホクキオで発足し、カナノ地区に移動し、そこから二つに分かれて、片方がカナノに残り、もう片方はオトちゃんの王宮警護の任についている。


 金城が怪しいと思える場所を探索し、各所で偽装を見破ってハタアリの痕跡を探していた頃、一人の黒装束の女が、背後から金城に声を掛けた。


「ハタアリを倒したいなら、ネオジュークの西を目指すと良い」


 俺は、この黒装束の女に見覚えがあった。こいつは、偽ハタアリおじいちゃんからの刺客の一人。忍者的な身のこなしで天井に張り付いたりしていたけれど、フリースの氷の力によって敗北し、ダイナミックに自刃して果てた暗殺者である。この頃は、まだ生きていた。


 つまり、この女から話しかけられるということは、偽ハタアリの組織『オリジンズレガシー』という、ひきこもり偽装者集団からの接触というわけである。


 これを、女のほうの大勇者ハタアリの情報だと勘違いした金城は、耳を傾ける。


「何か、知っているのか。ネオジュークピラミッドの西側には何がある?」


「おや、見えてないわけないよなぁ、数々の偽装を暴いて調査していたではないか」


 金城は『曇りなき眼』をもっている。だから、確実に見えている。ネオジューク地区の西側にある、偽装された双子塔を覆う、禍々しくすら見える紅い光を。


 女は言う。


「なあ、おまえの眼になら見えてるんだろう? 凡人には見えぬ高層建築がそびえ立っているのが。まがいものの勇者を倒し、英雄になるような……そんな宿命をもった、選ばれたヤツには見えるようになってるんだ。あの大勇者、『造反のハタアリ』の城がな」


 この言葉は、なにもかも間違いだらけだ。まず、本物のハタアリさんは確かにやり方に丁寧さが足りないけれど、まがいものの勇者では絶対にない。その人を倒したからって英雄になんかなれない。それから選ばれたヤツじゃなくても偽装を見破るスキルさえあれば見える。あと、本物の大勇者ハタアリは造反のハタアリなんて呼ばれるような人じゃない。そんな不名誉な呼ばれ方をするとしたら、おじいちゃんの見た目をした偽ハタアリのほうだ。


「おまえ、何者だ?」


 金城はたずねたが、不敵に笑っただけで女は答えなかった。


 罠の可能性も考えた金城は、周到な準備をしていくことにした。偽装スキルだけではなく、誤認スキルにまで手を出し、戦闘力が下がるかわりに敵を(あざむ)く力に磨きをかけた。残ったラストエリクサーも全て持っていくことにした。


 自分を侮辱した大勇者に、あらゆる毒をお見舞いしようと舌なめずりして、慎重な足取りでネオジュークのピラミッドに向かった。


 しかし。金城の思い通りになどいくわけもない。


 情報を渡した女が偽ハタアリの仲間である以上、監視がつけられ、対策も打たれていた。


 いざ双子塔の頂上にのぼり、仰々しく飾られた鍵を手に入れ、偽ハタアリおじいちゃんの待つ地下の大広間に誘導され、あっさり銃を突き付けられた。


「お前は、ハタアリの影武者ってわけか」


「何をいう、全ての大勇者は、むしろ儂の敵じゃ」


 金城は移動しようとした。スキルを使って身を隠しながら。しかし、すぐに偽ハタアリおじいちゃんの銃撃に左足を撃ちぬかれた。


「くっ……なぜ偽装と誤認が……」


「知っておるかね。映像を記録する装置を通して確認すれば、おぬしの付け焼刃程度の生半可な『偽装』や『誤認』など、無意味なんじゃよ。もっとスキルを磨けば話は別じゃがな。……そして儂の左の目は、機械がはめこまれておる」


 偽のハタアリは、ニタァと嫌な笑いをみせた。


 簡単に言えば、偽ハタアリに、まんまとおびき寄せられたということだ。


「実は、以前から目をつけておった。カナノの南で暴れ回った時から、こやつは使えると思っていたものだ。どうじゃ小僧、儂とともに、この地獄のような世界(マリーノーツ)を変えていく気はないか?」


 周囲を円形に囲まれている状況では、反撃も反論もできなかった。


「なに、悪いようにはせぬ。大勇者ハタアリだけではなく、この世界を支配する巨悪を、ともに排除していこう。そしておぬしは、英雄となるのじゃ」


「英雄……? おれが……?」


「おぬしには、才能がある。半端ではない憎悪の才がな。普通は、こうまで憎みはせんよ。いくら自分の思い通りにいかず、道を(はば)まれたとしても、大勇者ハタアリを毒殺するために、不確かな情報をたよりに殺しに乗り込むなど」


「何もかも、バレてたってことかよ……じいさん、何者なんだ?」


「その熱情、儂がうまく使ってやる。ハタアリを殺すなど小さなことは言わず、儂の毒刃(どくじん)となり、()をも殺すがよい。ともに世界を薄汚い嘘つきどもから解放しようではないか」


「嫌だ、とは言わせない状況だよな……参ったぜ」


 逆らうことができなかった、というよりは、積極的に手下になったように見えた。


 こうして偽ハタアリの組織『オリジンズレガシー』の一員となった。




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