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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第七章 星の祭り
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第166話 フォースバレー宮殿(4/5)

 頭は茶色いカウボーイハット。身体はチェック柄の淡い色の半袖ブラウスに茶褐色(ちゃかっしょく)の小さな皮ジャケットを羽織り、デニム感のあるスカートを穿()いていて、太ももや膝の素肌が少し見えている。足は先端の尖った長いブーツを履いていた。腰に装着されたホルスターには銃が納まっているようだ。


 宇宙一かわいいカウガールが、そこにいた。


「その服、レヴィアが選んだのか?」


「どうですか? ラックさん」


 なんだか上目遣いで不安そうな表情に見えた。


 褒めてやろう。


 実際、褒めざるをえない可愛さだからな。


「これまでの白もよかったけど、ワイルドなカウガールが意外なほどよく似合っている。ああ完全にハートを射抜かれた。俺は今、牛や羊になってレヴィアに追いかけられたい気分に駆られているぞ」


「ラックさんもなかなかです。ハチマキとマントで台無しですけど、他は魅力が上がりました」


 あまり褒められてない気がする。俺が選んだデザインではないけれど、俺のセンスが悪いみたいに思われるのは気に入らない。言い訳をしよう。


「ま、まあほら、防御力重視にしてもらったんだよ」


「へぇ、そうですか」


 軽く受け流されたぞ。


 そんなやり取りを、他の三人はニヤニヤ笑いながらみていた。


 さて、ここで、ようやく贈りものをする側と受け取る側が揃った。


 用意された三つの椅子には、レヴィアとフリースと俺が座った。俺たちの前に一段高い台を置き、俺たちと向かい合ってオトちゃんが立ち、マイシーさんは壇上には上らず、助手的なポジションで待機する形となった。


 ゴホン、とわざとらしい咳払いをした後で、オトちゃんの挨拶が始まる。


「このたびは、わがフォースバレー宮殿にきてくれて感謝じゃ。ひとまずラックとレヴィアには新たな服を受け取ってもらった。……レヴィアには苦労させられたがな……。じゃが、わしの褒美がこれだけだと思うでないぞ? マイシー! あれをもてい!」


「はっ」


 返事をしたマイシーさんが、違う部屋からガラガラと車輪付きの台を持ってきた。


 きめ細かな白黒ストライプの布がかけられている。


 もうすでに、その布を通り抜けて、黄金オーラがだだ()れている。


 マイシーさんの手で、布がするりと外され、俺は、「おおっ」と声をあげた。輝かしい宝物が五つ並んでいたからだ。


 左から、琥珀色の結晶、古文書、瓶に入った液体、鳥型の黄金香炉、そして最後に手のひらサイズの四角い板。


 オトちゃんはフフフと笑いをこぼして言う。


「どれも珍しいお宝じゃ。ラックになら、どれほどの価値があるか、わかるじゃろう。マイシー、説明してやるのじゃ」


「かしこまりましたオトキヨ様。皆さんにはこの中から一つだけ、選んでいただきます」


 ひとつだけ……か。


 てっきり全部もらえるとばかり。だけど、それは欲張り過ぎというものだろう。これら一つ一つが、マリーノーツの通貨に換算したらトンデモ価格がつくシロモノなんだからな。


 俺の鑑定眼と知識から、それらの輝かしい物体たちの正体を申し上げれば、それは以下の五種類である。


 琥珀色の塊、スキルリセットアイテムとして知られる世界樹の樹液(なみだ)


 触ったら崩れるような古い本、『聖典マリーノーツ』のもとになった『原典ホリーノーツ』。


 水色の瓶に入った液体は、超高級品、無印のエリクサー。


 尾の長い鳥の形の小さな黄金香炉、これは紫熟香を()く専用だろう。かなり小型の手のひらサイズ。ザイデンシュトラーゼン城にないと思ったら、オトちゃんが持っていたのか。先に知っていてオトちゃんともっと早く仲良くなっていれば、黄金を溶かす必要もなかったのかもしれない。もう後の祭りだけども。


 そして最後に四角い板であるが、これは早い話がスマートフォン。


 どれもこれも貴重品であり、億の値段がつくこともあるだろう。


「この中から一つ……か」


「そうじゃ。全てくれてやってもいいがな、その場合は、この世界が終わるまで、今後一切ほかのことはせず、わしのために働いてもらうことになるぞ。マイシーのようにな。せいぜいよく考えて選ぶと良い」


 俺の欲しいものは、もはや決まっていた。


「その四角い謎の板をもらおうか」


 俺はスマートフォンを指差した。


「ふむ、さすが、わかっておるな。この中で最も希少価値の高いものじゃ。転売して金にするなり何なり、好きにすればよいが……しかし、女性陣二人と相談しなくてよいのか?」


 たしかに、そう言われれば問題があるようにも思うが、この中で全ての価値がわかるのは俺だけなのだ。他のものは、手に入る可能性があったり、借りるだけで事足りるものが多い。自分が持っておきたいのは、スマートフォン以外にない。


 スキルリセットアイテムは、偽ハタアリさんが欲しがっているから、所持していたら命を狙われる可能性がある。


 貴重な本である『原典ホリーノーツ』に関しては、アオイさんが欲しがるだろうけれども、中身を新たに手に入れたスマホのカメラで撮ってしまえばいいし、もし本自体が必要になる事態がきたなら、オトちゃんに頼み込んで貸してもらえばいい。


 無印のエリクサーは、異常な高値であるものの、一応、お金さえあれば買える可能性があるものだ。


 香炉に関しても、存在する場所がわかっていれば問題なく、黄金でできた宝物であることから、所持していることが誰かに知られた場合、命を狙われたりするリスクが発生するだろう。むしろオトちゃんが持っていて保管しておいた方が良い。使いたいときだけ貸してもらおう。


 となれば、スマートフォンしかないだろう。


 もちろん、スマホを持つことにだって狙われるリスクはあるし、こつこつ稼ぎ続ければ非常に高価なスマホってやつをお金で買えないことはないのだが、俺は今すぐにカメラにおさめたいものがあるのだ。


 レヴィアだ。


 この狩猟の女神のごときカウガール様を、俺は今すぐ静止画にして永遠にしたくてたまらない。この格好のレヴィアに、人差指でバァン、とかって撃ちぬかれてみろ。幸せ過ぎて俺の魂は北の果てに飛んでいってしまいかねんぞ。


 死なないうちにレヴィアを撮ろう。ついでにフリースも、あとオトちゃんもマイシーさんも加えて、記念撮影でもしよう。そうだ、それしかないんだ。


 色々と御託(ごたく)を並べてはみたが、要するにね、俺は今、欲望の忠実なしもべとなって、スマホのカメラをバースト連射したくてたまらないんだ!


「二人とも、ここは俺に任せてくれ」


 俺の固い決意に対して、二人は意外なことに、簡単にオーケーを出した。


「ラックさんが、それでいいなら」

 ――あたしは何もいらない。


 あまりモノに執着しない二人である。もしかしたらレヴィアのほうは、さっき服を選びまくって、すっかり満足した後だからかもしれないが。


 いずれにしても、これでスマホをもらう障害は何もなくなったわけである。


「では、受取るがよい」


 オトナモードのオトちゃんが、俺に四角くて薄い板を差し出した。




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