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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第七章 星の祭り
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第162話 レヴィアと逢引き(9/9)

 昼下がりの石畳を、レヴィアと手を繋いで歩いていた。


 薬屋で傷の手当をした後、レヴィアが、ちょっと東に行きたいと言ったので、二人で歩いて、ハイエンジとの境にある草原に行くことにしたのだ。


「レヴィア、今日は疲れたろう。ちょっと座って話さないか?」


 これに頷いたレヴィアは、草原にそのまま座った。服が汚れたりするのを気にする素振りも見せなかった。


 レヴィアの白い服はあらゆる汚れを弾く性能を持っているけれど、もう少し躊躇(ためら)いをもってくれたほうが女の子っぽいんだけどな、なんて思う。


「ラックさん? 座らないんですか?」


「ん、いや、座るぞ」


 俺の服は、脱獄のときにだいぶ汚れてしまったし、そもそもこのような地味服は汚れてしまっても大して気になるものでもない。俺も、どかりと芝生の上に座った。


「ラックさん、デートとは、こういうものなんですか?」


「何を言うか。こんなユニークなデートは、そうそうないぞ」


「そうですか……では、どんなことをするのが普通のデートなんですか?」


「普通のデートがしたいのか?」


「いえ、べつにラックさんと一緒なら何でもいいんですけど、普通のデートって何なのかなって思いまして」


「今日の脱獄なんてのは、遊びを通り越して命がけだったもんな。ごめんな、変なデートにしちゃって」


「いえ……」


「あと、俺のほうの服装は、ちょっと違うかな。デート用にもうちょっとオシャレするのが普通だ。見つかると捕まるおそれがあるから、目立つ服装はやめたけど、できれば、レヴィアに釣り合うような、もっとちゃんとした格好で来たかった」


「はぁ。それで、デートっていうのは、結局何をするものなんですか?」


「そうだなぁ、遊びとか食事とか、そういう触れ合いを通して、お互いのことを知るものだ」


「お互いのことを知る……ですか。今日のラックさんは、相変わらず、げきよわでしたし、こわがりでしたし、私の身体に触りたがりでした。けど、そこそこ頼りがいがあって、まあまあ責任感の強い人なんだなって、わかりましたよ」


 これは良い評価なのかどうか、微妙である。


「レヴィアは、デートしたことないの?」


「なかったです。それに、ここ十年は、ずっとお父さんと二人で、家で暮らしてましたから」


「たびたび話に出てくる大好きなお父さんか。何してる人なんだ?」


「ひきこもりってやつです」


「え、何て?」


「ですから、ひきこもりです」


「もう一回」


「ひきこもってます」


「…………」


 なんてこった。そんでもってレヴィアもずっとホクキオあたりの外に出てなかったわけだよな。ものすごいワケありな感じがするぞ。重たい家庭環境のようだ。


 今はまだ、あまり深入りしてはいけないかもしれない、そう思って話題を変えようとしたが、レヴィアは平然と語り出した。


「昔は立派だったんですよ。多くの部下をもつ誇り高いお仕事もしてました。私は、お父さんと遊ぶのが好きで、立派なおヒゲにぶら下がったり、肩車してもらったり……それが、頭の大事なところを怪我しちゃって、外に出れなくなっちゃったんです」


「事故か何かか?」


「ええ。事故みたいなものです。その後、地位も名誉もなくしちゃって、お母さんも出ていっちゃって、部下もいなくなって、怪我しちゃったところも完全には治らなくて、いまだに引きこもってます」


「ひどい事故だったんだな……」


「ええ。今は、別の人がお世話したりお話し相手になってくれてるんですけど、それまで私はいつもお父さんのお世話をしてましたから、デートってしたことなくて……今日の私は、ちゃんとデートできてましたか?」


「ああ。手も繋げたし、俺はすごい満足してるよ。レヴィアは楽しかったか?」


「こわいこともありましたけど、楽しかったです。今も、すっごく楽しいです」


「そうか、ならよかった」


 さわやかな午後の風が、草原を吹きわたって波を起こしていた。ホクキオでも草原でスライムやら犬やらを狩っている時間が長かったから、慣れ親しんだ落ち着く風景である。


「ラックさん」


「なんだ、レヴィア」


「ラックさんは転生者でしたよね?」


「そうだけど?」


「こことは違う世界があるってことですよね」


「まあ、そうなるなぁ」


「ラックさんの世界でのデートって、どんな感じなんですか?」


「少なくとも本気の脱獄はしない」


「でしょうね」


「だけど、こちらの世界よりも色んなものがあるぞ。レヴィアに見せたいのはそうだな……映画とか見たら、すごいすごいって言うと思うなぁ」


「えいが……ですか」


「絵が動くんだ」


「はぁ」


 あまりピンと来てないようだった。


「あとは、二人で一緒に高いところにのぼって夜の景色とかを眺めたり、並んで歩いたり、手を繋いだり、面白いお店に行ったり、一緒に体を動かしたり、一緒に写真を撮ったり、ドライブしたり……そうだ、遊園地なんかもレヴィアを連れて行きたいな。ジェットコースターとか、すごいんだぞ、こう、ビュウンってすごいスピードで上がったり下がったり、一回転したりする」


 俺はジェスチャーを交えて説明してやった。


「遊園地。行ってみたいです」


「よっしゃ、じゃあ約束だな。レヴィアは俺の世界に、ジェットコースターに乗りにくるんだ」


「わかりました! 約束です。ジェットコースターを倒して、ハイタッチしましょう」


 それは約束できねえな。


  ★


 帰り道は、人力車を拾った。


「飛ばすぜぇ、お客さん。しっかり掴まっていてくれよな!」


 この人力車は、なんと無料で乗せてくれた。


 ハイエンジ側の草原から、サウスサガヤにある宿泊施設までわずか十数秒。後になって知ったが、これこそが、いつぞや乗ろうとしていた『(とり)ックの音速人力車』なるものであった。死ぬかと思った。短い距離で本当によかった。


 走行中、俺の心臓は恐怖で跳ねまくっていたのだが、レヴィアはキャハハと笑いながら楽しんでいた。


 降りた後も、しばらく鼓動がおさまらなかった。


 レヴィアが俺の胸に手を当てて、「すごいドキドキしてますね。やっぱりラックさん、こわがりです」なんて言って笑ってきた。


 俺もやり返そうと思いはしたけれど、音速人力車のおかげでフラフラだったから、そんな力は出なくて、レヴィアはよく元気でいられるな、とか思う。


 そんなレヴィアなら、ジェットコースターを楽しむ素質が十二分にあると思うけれども、敏捷スキル全振りの人力車のほうが、身体を支える安全バーがない分、スリルがあるかもしれず……レヴィアが現実の遊園地にガッカリしないといいなぁ。


 まぁその前に、レヴィアと一緒に現実に帰る方法を探し出さなきゃ、話にならないんだけど。


 人力車の代金を払い、俺たちは手を繋いで宿泊施設に戻っていく。


 手を離し、手を振り、フリースの待つ部屋へと向かう彼女を見送って、レヴィアとのデートは終わった。


 レヴィアは、今日のデートのことをフリースに語ってしまうのだろうか。


 できれば、二人っきりの秘密の思い出にしておきたいのだけれど。




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