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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第七章 星の祭り
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第160話 レヴィアと逢引き(7/9)

 崩れる足場、落ちてくる天井、倒れてくる壁。


 暗闇に目を慣れさせないためだろうか、暗い場所ばかりではなく、たまに明るい場所もあった。


 偽装、罠、猛獣、怪物。


 流れてくる鉄砲水だとか、転がってくる巨大な鉄球やら何やら、無数に襲い掛かるトラップたち。


 熱に反応する罠だったり、音に反応する罠だったり、もしかしたら光に反応する罠もあったかもしれない。


 俺とレヴィアのコンビネーションで、全て回避してやった。


 自分でも思う。なんだこの奇跡は、と。


 特に、転がってきた二つ目の鉄球が、襲い掛かってきた怪物を打ち砕いたときなんか、自分が神の加護でも受けてるんじゃないかって思ったくらいだ。


 そして、一本道の果てに、俺たちはついに辿り着いた。


「ラックさん、それっぽいところに出ました。ここが地下牢なんですかね」


 レヴィアはそう言うが、俺の目には何も見えていない。偽装も宝物も見当たらない。この部屋には、無明(むみょう)の闇が広がっているばかりである。


 もしも、こんなところに長時間一人で置かれようものなら、きっとマトモでいられなくなってしまうだろう。


 閉じ込められたエアーさんは無事でいるだろうか。


「どうだレヴィア、誰かいるか?」


 俺の問いにレヴィアが答える前に、暗闇から何者かの声がした。


「だれ……ですかぁ?」


「お、その声は」


「だれ、だれですかぁ? もしかして……もう? いやだ、うち死にたくない! やだよぉ!」


 俺を死刑台に連れて行く役人と勘違いしてしまった。ひどいことだ。精神的に追い詰められている。


 ここは落ち着かせるためにも、一つゴホンと咳払(せきばら)い、知り合いの声を聞かせてやろう。


「落ち着くのだ!」


 と、俺は大声を出した。それなりに広いスペースがあるようで、大きく反響した。


 冤罪(えんざい)死刑囚は戸惑い、「えっ」という声をあげたけれど、俺に言われた通りに、少し落ち着いてくれたようだ。


 俺は優しく語り掛ける。


「おやおや、こんなところで泣いている小ウサギちゃんは誰であろうか。そのような甘い人間を免許皆伝にしたおぼえは無いんだがね」


「その声……もしやマスター?」


「ああ、その通りだ」


「マスター、ごめんなさい。うち、捕まってしまいました」


「謝ることじゃあない。全てわかっている。エアー、君は何も悪くない」


「そうなんですぅ、しつこい人に取り調べされてぇ、なんか偉いっぽい人が出てきて、うちを死刑にするって言いだして……反論しようとしたら、叩かれてぇ……うぅ……」


「もう大丈夫だぞ、今助けてやるからな」


「マスタぁ……」


 感涙にむせぶ声がきこえる。


「――エアー、君に傘を返しに来た!」


 などと格好つけてはみたものの、本当に助け出せるのだろうか。全く景色が見えないけれど、地下牢ってくらいだから鉄格子とか、硬い素材を使った逃げ出せない仕掛けがあるのだろう。


 俺やレヴィアに鉄格子を破壊できるだけの力があるとは思えない。


 どうしたらいいものか……。


 と、俺が思考を巡らせようとしたとき、カラカランと耳障りな金属音が響いていた。その後も、ガッシャーンと揺れを伴う激しい音が鳴り響いた。


 な、なんだ。何が起きているんだ。もしかしてレヴィアが、何かをやっているのか。


「マ、マスター? 何ですかぁ、この音! こわい」


 エアーさんが怯えてしまっている。俺だってこわい。安心させてやる余裕もない。暗闇で何が起きてるかわからない状況は、これほどまでに恐ろしいのか。なんだこれ。


「レヴィア、どうした? 何が起きている? 敵か?」


「今、壊しましたので、いつでも外に出せます」


「え、何を? 何を壊したって?」


「外に出れなくしてた、硬い(おり)みたいなものです」


「どうやって? どこにそんなパワーが」


「闇の力? ってやつですかね」


「まじで今更なんだけどさぁ、レヴィアって何者なの?」


「ご想像にお任せしますけど、とにかく、私はラックさんと一緒にいるの、楽しいですよ?」


「レヴィア……それって」


「好きか嫌いかって言われたら、好きです」


 暗闇の中で、いつぞやの告白の返事のような言葉をくれた。


 本当にうれしい。


「俺の気持ちは、変わらないからな。ずっと、大好きだ」


 などと、まわりが見えないのをいいことに、気持ちを伝え合っていたら、おそらくエアーさんという第三者の存在を思い出したのだろう。レヴィアが少し恥ずかしさを混ぜて言う。


「さ、さあ、話はあとです。脱出しますよ、ラックさん」


 この促しに、俺は頷いた。


「ああ、道は開かれた! 行くぞ二人とも、脱獄だ!」


  ★


 暗闇の中、俺とレヴィアの間にエアーさんを挟む形で、手を繋いで外を目指す。


「いやはやぁ、マスター、本ッ当にありがとうございます。闇の中に一人きりで放置されるのって、こんなに恐ろしいんだなって思いましたぁ。外では何日が経ちました? うちの感覚だとぉ、もう一週間くらい経ったかなぁってくらいなんですけどぉ」


「捕まった翌日だ。まだ一日経ってないんじゃないかな」


「うそぉ」


「すぐに助けに来て正解だったな。精神崩壊しなくて本当によかった」


「本当にこわかったですぅ」


 帰り道にも少しだけ罠が仕掛けてあったが、微々たるもの。往路で体験した怒涛の連続ピンチを乗り越えた俺たちには死角はない。闇をものともしないレヴィアと、偽装を見抜く俺。息の合った見事な連携で進み、ついに出口の光が見えた。


 この階段を登り切れば、救出は完了したも同然のはず。


「二人とも、ここからは階段だ。段差に気を付けていこう」


「はい、マスター」とウサギ女エアー。


「いきましょう、ラックさん」レヴィアが胸の前で拳を握ってたのが、闇の中にうっすらと見えた。


 そして、慎重に登り切ったとき、俺たちは、数時間ぶりに外の空気を吸った。


 ずっと闇の中にいたからか、陽光がものすごいまぶしかった。


 視界が真っ白になる。


 落ち着いた頃に久々にレヴィアの顔を見ると、(すす)(ほこり)で汚れていたり、身体には、どこで怪我したのだろうか、腕や足には血が流れて乾いたあとが見えた。痛々しい。あとで薬屋にいって手当てしたり、高級回復薬とかを買ってやらないとな。


 服や帽子に汚れ一つ付いていないのは、服の能力によるものだろうか。帽子がずれていたので直してやろうと手を伸ばしたら、「ヤ!」と言われて叩き落された。


 この暗闇探検で仲良くなれた気がしたのだが、まだ頭を触られるのは拒絶状態である。帽子のずれは自分で直していた。


 俺はエアーさんに向き直る。


「外に出たぞ。お店のみんなが待ってるから、会いに行って安心させてあげよう」


「うん!」


 エアーさんは、薄汚れたウサミミを揺らしながら満面の笑みでこたえてくれて、ああ助けてよかったな、と俺は思った。


 ところが、そうそう全てが思い通りにいかないのが、このマリーノーツという異世界である。


「――そこまでだ脱獄犯! お前たちは完全に包囲されている!」


 俺たちは薄紅色の甲冑、すなわち王室親衛隊にすっかり囲まれていた。


 槍やら剣やら、鋭利な刃物を突き付けられ、少し離れた草原の丘からは弓を持った兵がこちらに向けて構えている。


 ああ、この既視感(デジャヴ)。懐かしい感じがする。


 新米親衛隊員のグッドが裏切った……わけではないと思う。さすがにそこまでのクズではないと信じたい。


 つまり、これは、あれだ、扉を開けたまま閉めなかったものだから侵入に気付かれ、ここで見張られていた、といったところだろう。この地下牢の出入り口には警備を置いていないとはいえ、見回りくらいはしているのだろう。


 もしも、一つだけ反省を述べさせてもらえるなら、俺はきっとこう言うだろう。


 ――外に出た後のこと、もっと細かく考えておけばよかった!


 そうなのだ。脱獄したところで、エアーさんへのべちゃべちゃの濡れ(ぎぬ)が脱げないことには、いつまでたってもピンチは続くのだ。そのへんのことに気が回っていなかったのは、本当に反省すべきことである。


 どうしよう、どうしたらいい。


 人の生き死にが関わっていることだから、誰にも迷惑をかけずに俺の力だけで切り抜けたいところなんだが、しかしもう、多くの王室親衛隊が俺たちを囲みにきているからには、想像以上の大事件になっていると思える。


 そりゃあそうだ。レヴィアと一緒だから格好つけたくて調子に乗ってたけど、冷静に考えれば脱獄なんて治安維持組織への大いなる挑戦だからな、必死に取り締まるのも当然である。


 俺だけの手に余るこの事件を何とかするためには、もう……。


 本当は、この手は使いたくなかったんだが。


「これを見ろ!」


 俺はアイテムを持った手を、頭上に(かか)げた。




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