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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第六章 解呪の秘宝
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第130話 緑と獣のさきわう大地(6/6)

 あまり遅くなってはいけないからって理由で、さっさと用事を済ませることにした。


 俺がここに来た目的は、二つあった。一つは、ティーアさんの無事を確かめることであり、それっていうのは言い換えれば、短気な首領娘が無茶してカナノに攻め込んでいないか確認することである。そしてもう一つは、レヴィアの服の呪いが解けているかどうか、しっかりと確認することであった。


 ティーアさんには会えなかったが、その腹心のダーパンが無事だというのだから無事なのだろう。


 となれば、あとは(ドレス)の呪いの問題だけだ。


 フリースの声が出せない呪いを不完全ながら解き外したものの、あれはエルフ族最悪の呪いだっただけである。


 レヴィアの着用する白い服には、フリースのやつ以上の、即死レベルの大いなる呪いが染みついていたというから、ちゃんと正常になっているかどうか心配だった。レヴィアは一人だけ煙を浴びた時間が短かったというのもある。


「なあダーパン。頼みがあるんだが」


「何でしょう? ラックさんは、ぼくらを救ってくれた大恩人ですから、ぼくにできることならなんでもしますけど」


「レヴィアの服が呪われてるって言ってたよな。それが今も続いてるのかどうか、見て欲しいんだが」


「ム、そういえばラックさんは、この大地の呪いが解けた理由を知っているんですよね。ぜひ詳しく教えていただきたいのですが」


 ダーパンは腰のポケットから一枚の紙を取り出すと、分厚い本を下敷きにして手をかざした。メモを取りたがっているようだ。


「ペンもなくて文字が書けるのか。フリースみたいだな」


「あの氷の人とは方式が違います。この紙は熱に反応するんです。僕の炎の術は威力こそ低いですが、精密さには自信があります。おかげで戦闘力は大したことないのに記録係として四大幹部に加えてもらってるんですよ」


「へぇ……」


「それで、ラックさん。知ってることを教えてください。呪いがなくなったのは何故なのですか?」


「その話はあとだ。レヴィアの呪いチェックが先だ」


 ダーパンは、呪いを計測する眼鏡を持っていたはずである。一刻も早く、俺は安心したいのだ。


「しょうがないですね……。ラックさんが望むなら、みてみましょう。眼鏡ごしに視ただけでこっちが呪われそうな呪いでしたからね、昨日の今日でなくなってるなんて考えにくいんですが……」


 彼はポケットからヒビの入った眼鏡を取り出した。何度か躊躇いながら、ゆっくりと装着して、ダーパンは言った。


「なんと! 不思議なことがあるものですね……あれだけ強烈だった呪いがゼロになっています」


 ダーパンは右手に抱えていた巨大な本を開き、転がっていた石の塊に向って「ヌクテメロンビーム!」とか言いながら闇の光線を放った。


「何してんだ、ダーパン」


「いえね、ラックさん。ぼくの眼鏡がおシャカになってないかって確かめるために、この石ころを呪ったんですよ」


「ちゃんと呪われたか?」


「ええ。闇の波動が当たったところの呪い数値が高まりましたので、故障はないようです」


 と、いうことは、これは喜んで良いことなのだろう。


「よかったな、レヴィア」


「え、何がです?」


「呪い、解けたってよ!」


「はぁ」


 へぇそうなの、とばかりに無関心で、あまり嬉しそうではなかった。何なんだ一体。


 ここは抱き合ってワーイと喜んでもいい場面なんじゃないのだろうか。少なくとも俺はレヴィアのテンション次第では抱き着く気満々でいたんだけどな。実にさっぱりしたもんだ。


 いや待てよ、そろそろレヴィアとも長い付き合いになってきたから、もしかしたら俺の下心はアッサリ見破られていたのかもしれない。


 振り返り、遠く(かす)んで見えるザイデンシュトラーゼンに向かって、俺たちは急ぐ。暗くなるまでに帰るとしよう。夜が深まる前に戻らないとフリースやアンジュが心配するだろうから。


 ともかく、白い服からも広い大地からも呪いがなくなって本当によかった。


  ★


 急いで城に戻ろうとしたら、「待ってください」とダーパンは(そで)を掴んできた。


「何だよ。はやく戻らなきゃいけないんだが」


「そうはさせません! ラックさんが呪いを解いたって話を詳しくお願いします。急に呪いがなくなった理由とか、その直前に広がった甘い香りとかに詳しいはずです。そのことについて教えてもらうまで、この手を、ぼくは離さない!」


 だいぶ必死だけども、情報収集のノルマでも課せられてるんだろうか。


「歩きながらでいいなら話をしてやってもいいぞ」


 俺はダーパンにザイデンシュトラーゼン宝物庫で起きた出来事を詳しく説明してやった。


紫熟香(しじゅくこう)ですってエエエエエ!」


「あぁ、まあ驚くようなアイテムだってことは知ってるけどもな」


「けどもな、じゃないですよ! なにを冷静に言ってるんですか! 天下人しか切り取ることができないと言われた伝説の香木ですよ! それを……」


「見るか? 木片を持って来てる。ティーアさんに見せようと思ってな」


 俺が木片の入った袋から香木を取り出すと、ダーパンは目を丸くして、アゴが外れるんじゃないかってくらい顔を変形させた。


「ハァ! 切りとり過ぎですゥ!」


「ザイデンシュトラーゼンにいると宝物だらけで感覚がマヒしちまうからな、黄金の宝物を溶かしたりすることに比べれば、こんなもんは何ともない」


「宝物……溶かしッ……なにして……なにしてんですかラックさんッ」


「あ、これナイショだぞ。つっても、その巨大怪鳥型の香炉のステータス画面を開くと、バッチリ書かれちゃってるんだけどな」


「やばい人だと思ってましたが、ここまでとは……」


 ダーパンがそう言った時、さっきから黙りこくってるタマサの顔色が俺に対する不信の色を帯びた。おおかた、賊軍の危険な人たちから危険視されるなんて、ラックはやっぱヤバいヤツだったんだ、とかなんとか思ってるんだろう。


 ザイデンシュトラーゼンの中では元気に暴言を吐いていたのに、外に出たら大人しくなるとか、そういうの内弁慶っていうんだぜタマサちゃん。


「ラックさんは、本当に他の人にできないことをやってくれますね」


「いや何て言うかな、偶然巻き込まれてるだけのような気もするけども」


「そうだとしても、あらためて、救われたみんなのかわりに一言だけ言わせてください」


「いや。そんな……」


「ラックさん。ぼくらを救ってくれて本当にありがとうございました。このご恩は決して忘れはしません」


「やめろって。俺は本当に何もしてないんだから」


 これは食べ物を見つけてくれたことに対するお礼も含まれているのだろうから、なかなか素直に受け取れるものではない。なぜなら、川を氾濫させて食糧倉庫壊滅させのは俺の仲間のフリースだからだ。


 だけどまぁ、なにはともあれ、これで一区切り。


 ようやく、俺は俺として俺の責任ってやつを果たせたと思う。


「それじゃダーパン。俺たちはザイデンシュトラーゼン城に戻るから、この辺でいいよな」


「ええ。もう知りたいことは聞けました」


「元気でな、ダーパン」


「ラックさんもお元気で。僕らは荒れ地のあった場所を目指してみようと思います。もし呪いがなくなっていれば、そこにみんなで住むことになると思いますので……」


「もし呪いが残ってたら手紙くれよ。香を炊きに行くからな」


「ありがとうございます、ラックさん」


「ティーアさんによろしくな」


「ええ、また会いましょう」


 ダーパンは口に手を当てて笛を吹き、馬を呼んだ。


 以前よりも肥え太った馬が迎えに来た。()せる時も()える時も飼い主と一緒というわけだな。


  ★


「タマサ、今日はありがとうな。案内してくれて助かったよ」


「ほーんと大変だったぞ。はじめは外に行くとか言ってなかったのにな。ぶっ飛ばしていいか?」


 自分の暮らす城に戻ってきたら、いつものタマサに戻ったようだった。さっきまでは、おとなし過ぎたから心配してたけど、どうやら大丈夫そうだ。


 というわけで、タマサの先導でザイデンシュトラーゼン城の宝物庫のある建物まで戻ってきた。出迎えてくれたアンジュさんは、「遅いじゃないの」と軽くキレかけていた。


「ったく、どいつもこいつも、夕飯に間に合うように帰ってこいっての。せっかくあたしが肉焼いて待ってたってのに」


 などとトング片手に腕組しているアンジュさん。


 ザイデンシュトラーゼンは今日も肉であった。


「あれ? どいつもこいつもってことは、他にもまだ帰ってない人がいるのか?」


「シノモリのやつがさ、フリースを連れて外に出かけたっきり帰ってないんだよ」


 シノモリってのは、初めて聞く名前だけども、たぶん乱暴なほうとお淑やかなほうがいる城の雑用担当の二人娘のうち、お淑やかなほうだと思われる。アンジュさんの昔の仲間、ナディアさんの妹であろう。


「何しに行ったんですか?」


「いや、慌ただしく出てったからわかんないけど、ハイエンジ方面に滑ってったよ。氷で大規模なジャンプ台つくって飛び上がってさ、シノモリの悲鳴が遠ざかっていったよね」


「それは、心配ですね」


「ああ、ほんとにな。心配だ」


 城壁の外も呪いがなくなったとはいえ、まだ賊の残党が残ってないとも限らない。フリースの戦闘力なら絶対に大丈夫だと思うけど、不意打ちとか不慮の事故に弱いところあるからな……。


「せっかく良い肉焼いたってのに、余っちまう」


 そっちの心配かい。




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