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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第六章 解呪の秘宝
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第122話 満ちよ解呪の香(5/6)

 毒を食らわば皿まで!


 かつて宝物だった黄金を溶かし固めた時から、すでに覚悟はできていた。


 伝説の香木、紫熟香は、切り取って使うアイテムである。


 これまでマリーノーツを支配した人々は、その権力の象徴としてこの香木を切り取ってきたという。いくつか跡が残っていて、最も目立つ場所にある最も新しいものは、他のどの削り跡よりも大きなものだった。


 その大胆な切り取り方は、前の覇者の力を凌駕(りょうが)しているという自信の表れだろうか。


 あるいは……今の俺みたいにヤケクソになった挙句に切り取りに失敗して、結果的に深くえぐることになってしまったのだろうか。


 ……ああ、そうだよ、失敗した。


「や、やっちまったァ……やばいやばい、切り過ぎた、やばい」


 他の場所から削り出せばいいものを、一番深い削り跡の真横を、さらに深く切り取ってしまったのだ。


 このままだと天下取りを狙った偉そうな人間に成り下がってしまう。後世の人たちに、あえて深く切り出して権力を誇示しようとしたなんて思われたくない。絶対にだ。


 そこで、なんとか誤魔化すために、自然に崩れた感じを出そうとしてみたところ、どんどん悪化していった。


 ミスを取り返そうとして、かえって状況が悪化して、どうしようもなくなった。これでは、琵琶ケースを切り取って売り払ったアンジュさんのことをあまり悪く言えない気もする。


 とはいえ、待て。落ち着け俺。


 別に紫熟香とやらが無くなったわけではないじゃないか。


 雑に切り取ってしまったのなんて、ほんの十パーセントにも全然満たない量なんだから、アンジュさんのやらかした事件とは質が違うと言い張りたい。


 何にしても、何というか、もう、あれだ。アンジュさんの一件も含めて、過ぎたことは、どうしようもない。くよくよしたって、削りすぎてしまったものが再びくっついたりしないのだから。


 いつぞや飢えに苦しんでた賊軍の一人が別れ際に言っていた、「振り向くな、後ろには道はない」と。ここばっかりは、そういう精神でいかせてほしい。


 よし、これにて準備が整ったぞ。


 さあ、呪いを解く儀式をはじめようか。


  ★


 光を反射してキラキラ輝く大きな鳥型香炉が、最上階ホール舞台の中央に鎮座している。


「フリース」


 俺は今回の主役の名前を呼んだ。


 フリースは呪われている。


 エルフの評議会によって、魔女の烙印を押され「声を出してはいけない呪い」をかけられた。その内容は、簡単に言えば、声を出すと、その声に応じて禍々しい呪いの生き物が生み出されてしまうというものだった。


 フリースを舞台上に置かれた椅子に導き、彼女は、ちょこんと浅く腰かけた。


 彼女の目前には、香炉が置いてあり、白銀の髪をした生贄(いけにえ)の少女が化け鳥に襲われているようにしか見えない構図になる。


「…………」


 無言のフリース。


 ちょっと不安そうな感じだ。


 多大な威圧感や圧迫感がある黄金香炉だが、ちゃんと煙を浴びるまで我慢してもらおう。


 俺は鳥の胸を開き、台の上に手のひらサイズの香木ブロックを載せる。


 彼女は今、何を思うだろう。


 もしもこの「あらゆる呪いを解く」と言われる名香が効かないような、「あらゆる解呪も受け付けない呪い」とか掛けられてた場合のことでも考えているのだろうか。


「フリース。大丈夫、きっと呪いはなくなるさ」


 俺は彼女の白銀の頭に手を置いて、撫でてやった。


「…………」無言で反応を示さなかった。


「覚悟はいいか? フリース」


 彼女は不安な感じはそのままに、小さく頷いた。


「よし、アンジュ、火をつけてくれ」


「オーケー。じゃ、いくよ……ファイアスポット」


 透かし彫りのなかで、炎上する紫熟香(しじゅくこう)。揺れる紫の炎。甘くて、香ばしくて、それでいて爽やかで、豊かな香りが満ちる。


 絹糸(シルク)で織り上げられた美しい布のような濃密な白い煙が、香炉ボディから次々に落ちてきて、フリースの頭を撫でてから、ゆったりと床に広がっていく。


 その様子を、レヴィアと俺とアンジュの三人が少し離れたところから見守った。更に離れたところからボーラさんが眺めていた。


 煙は次々とフリースの上に落ちて、落ちて、落ちて落ちて……落ちすぎじゃないの、これ。


「げほ、ごほ」


 思わずフリースが咳き込んでいる。


 そうこうしているうちに、もう前が見えなくなった。レヴィアの手を握ろうと思ったが、どこに手があるのかも、もうわからない。


 まるで火事。


 かろうじて見えていた香炉の頭部も見えなくなってしまった。


 尋常ならざる量の煙。


 目に煙が入って涙も出てくる。


 げっほげっほ、ごっほごっほと咳き込む音でしか互いの位置を把握できなくなった。


 この最上階ホールは、完全な密室というわけではない。桃の頂上部分は崩れて空が見えている部分がある。だが、この煙は周囲の空気よりも重たいらしく、下に溜まっていくから、逃げていってくれない。


 ああ、そうこうしているうちに、視界が本当に真っ白。三十センチ先すら見えない。


「ちょ、ゴホ、これッ、大丈夫? げっほごほ。目が痛ぁい」


 今の声は、アンジュさんだろうか。


「がっほ、いまの声――ゴッホ、だ……」


 誰ですか、という声も出せなくて、まるで有名画家のゴッホさんが声を出したみたいな意味になってしまった。


 その後はもう苦しくて声が出せない、声を出そうとした瞬間に咳き込んでしまう。


 もしもこのまま死ぬとしたら、ゴッホの声をきいたと言い張る人間としてこの世界から退場するのだろうか。


 そんなの心残りが過ぎるだろう。


 ふと、ダァンと大きな足音と振動。風が起り、一瞬だけ煙が薄くなる。煙の中から、トプンと無言で飛び出して、天井の穴からジャンプで飛び出して行く影がうっすら見えた。きらりと白っぽい布がヒラリと見えた気がしたから、多分あれはレヴィアのような気がする。


 こんな状況、脱出して大正解である。


 せめてレヴィアだけでも脱出してくれてよかった。


 ていうか、何でこんなことになってんだろうな。ひょっとして、俺ってば香炉にかける木片の量を大きく間違えたのだろうか。


 超貴重なものだから勿体なく思って、実験無しのぶっつけ本番で火をつけちゃったけど、むしろ、もっと慎重に実験してから火をつけるべきだった。知識のなさと軽率さを呪いたい。


 ボーラさんが遠くから、「ケホ、扉あけたよ」と言った。


 その声に一安心、次第に煙は抜けていくだろう……と思ったのだけれど、


「い、息ッ……が、できな……」


 そのかすれた声は、助けを呼ぶフリースの声だった。


 俺は自分の息苦しさなんか一瞬で忘れて、思い切り、濁り気味の叫びを上げる。


「ア、アンジュさん! お願いしまぁす!」


「ゴホッ、わかった。風だねっ、ゴホッ」


 煙に絡めとられて呪いが消えるって話だけれど、一体、どのくらいの時間、その煙にさらせばいいんだろう。


 もしかしたら、この選択によって木片が無駄になるかもしれない。


 だけど、もうたとえ無駄になったとしても、仕方がない。


 呪いを解く煙で息がつまって大事な仲間が死んだ、なんて結果になったら、もう取り返しがつかないじゃないか。


 どんなに紫熟香が貴重だって、仲間の命には代えられないんだ!


 国とか世界を動かすような名香だろうが何だろうが、何度だって切り取ってやる。なんなら燃やし尽くしてやってもいい。


 だから、風よ舞い上がってくれ。


 フリースに新鮮な空気を吸わせてやってくれ。


 俺の願いはすぐに叶った。


 アンジュさんの詠唱ナシの魔法で、ふわりそよ風が渦巻いた。


 風は香炉の中にいた煙の元凶たる炎を消し、ついでにホールを満たしていた雲海みたいな分厚い霧を絡めとっていく。白をほとんど晴らした柔らかな風は、崩れた天井から高く高く螺旋を描きながら上昇していった。


 俺は咳き込むフリースの背中を優しくさすってやり、涙目で落ち着いたところで、おそるおそるたずねてみる。


「フリース、その……呪いは?」


「ラック。ありがとう」


 感情のこもった澄んだ声。


 それで成功だと喜ぼうとした。


 ところがどうだ。フリースの手の上をみると、黒っぽい物体が動いている。手のひらサイズの大きめの蟲が誕生してしまっていた。


「あぁ……失敗……か、呪いは解けなかったってのか? 何がいけなかったんだ……」


 こんなに大きな蟲が出てしまったのでは、むしろ呪いが悪化したようにさえ思えた。


 俺は肩を落としたのだが、フリースは言う。


「待って、ラック。この蟲をよく見て」


「え」


 言われた通りに蟲を見つめる。


「何か、気付くことない?」


 言われてみると、いつもの蟲より黒くない。灰色っぽい感じで、しかもここで話しているうちに、みるみる波打つボディが白っぽくなっていく。


 しかも、フリースが声を出したのに、二匹目の蟲が出ない。


「もしかして、雷撃ウナギじゃない? 別の……」


 フリースは大きく頷いて、いつものように空中に氷文字を描き出した。


 ――これ呪われてない。

 ――しかも、あたしが幼いころに家で育ててた可愛い蟲なの。


「イトムシってやつか」


 ――うん。すごく丈夫な糸を吐く可愛い子なんだよ。


「それって、どうなんだ?」


 ――どうって?


「前と同じように、声を出すとグニュグニュ増えてくのか?」


 ――ちょっと


 と書きかけたフリースはハッとして、自分の口から声を出しなおした。


「ちょっと違うかな」


「どう違う」


「喋るだけだと何も変わらないんだけど、あたしが魔力を使うと、それを吸って大きくなっていくみたい。新しく出てくるんじゃなくってね」


「ここからさらに大きくなるってことか」


「でも、ほとんど感じないくらいのスピードみたい」


 嘘か(まこと)か、現状手のひらサイズの白いイトムシが一匹だけ残り、魔力を使うたびに、その子がほんの少しずつ大きくなっていくように変わったのだという。


「魔力を使う際の制約が残ったけど、呪いはほとんど無くなった……といったところか」


「そうだね。うん。もともと純血派のエルフたちがかけたのは、呪いだけじゃなかったってことみたい。呪いの一部に、この子との契約が含まれてたんだとおもう」


「でも、蟲を連れて歩くなんて、フリースは平気なのか?」


「あれ、ラックは夢で見なかった? あたし、この子たちのこと、すごく好きなんだよ?」


 そう言ったフリースは、本当に()き物がとれたかのような透き通る笑顔だった。


「…………」俺は一瞬、言葉を発するのを我慢した。


 きっと、今何かを言ったら、声は容赦なく震えてしまう。


 ああ、ちょっと、これはダメだ。急に目頭が熱くなってきてしまった。


 出会った時には何もしゃべらなかったフリース。悲しみを乗り越えてここまで来たフリース。永遠みたいな長い間、ひどい呪いとつきあってきたフリース。夢のなかで、丸々と太ったイトムシたちの世話をした記憶。彼女を取巻く悲劇たち。仲間外れの魔女扱い。


 そのすべてが報われた瞬間が、ここにある。


 もうそろそろ、泣いてもいいだろうか。


 いやいや、フリースが泣いてないのに、俺が泣くわけにはいかない。


 そういうわけのわからない理由で必死に涙を我慢した。


 涙を流さないように力をこめるのに必死になるあまり、彼女の言葉をちゃんと聞いてやることさえできない。


 (なめ)らかに続く彼女の声。滑らかすぎて耳から耳へと抜けていく。


「実はね、ラック。今からずっと昔、あたしの母親が生まれるよりもずっとずっと昔のことらしいんだけどね、人里に住むエルフの血を引く女は、生涯で一匹だけイトムシを飼う風習があったんだって。イトムシとの間に契約を結ぶと、その子は、一生そのエルフのためだけに糸を吐く蟲になって、エルフの血を引く女は、その糸で柔らかな布を編んでね、我が子を最初に抱き上げる時に使ったらしいよ」


 だめだ。本当にだめだ。折角フリースが滑らかに、何も気にすることなく滑らかに喋っているというのに、もう胸がいっぱいになってしまう。


「そうなのか」俺はとりあえず頷いた。


「そうなの。だから、呪いはもうないんだよ」


「ああ……」


 今にも泣いてしまいそうなので、ひとことずつしか返せない。


「あ、ちゃんときいてないな?」


「すまん……」


 そんな不誠実な返しに、フリースは一度呆れたように笑ったが、すぐに気を取り直し、言うのだ。


「とにかく、(いにしえ)のイトムシとの契約術式を組み合わせた呪いだったってことがわかったからさ……本当にひどいことするよね」


「ああ」


「ねえ、ラック」


「ん?」


「ラックに、もう一つお願いがあるんだけど」


「俺に、できることなら」


「たぶん、ラックにしかできないこと」


「どんなんだ?」


「あたしの耳、ちゃんと皆に見えるように治してほしい」


「お安い御用だ」


 フリースは目を閉じた。


「いくぞ。――検査!」声が震えた。


 尖った耳を(おお)っていた紅いオーラは、綺麗さっぱり消え去った。


「アァ、なるほど」アンジュさんは頷き、「エルフだったのね……道理でヤバイ魔力だと思った」


 ゆっくりと澄んだ目を開いたフリースは、白銀の髪をそよ風になびかせながら言う。


「ね、触ってみて。ラック」


 かすれた囁き声を受けて、俺はもう紅くない彼女の耳に手を伸ばした。


 やわらかくて冷たい。


 彼女の耳に触ったとき、彼女は恥ずかしそうに身をよじった。


 それで俺の感情には雑味が混じり、号泣したい気分からは解放され、落ち着くことができた。


 これで、やっとまともな会話に戻れそうだ。


「ラック、ラック。ラック」耳を触られながら、彼女は色んな高さの声で俺の名を発音した。


「な、なんだよ。そんなに呼ばなくても、目の前にいるし、きこえてる」


「ラックはこんなあたしの耳を、可愛いと言ってくれた。そのとき、なんだか、心に強い風が吹いた気がした。呪われてばかりだった自分の血を誇れなかった時もあったけれど、一気に晴れ渡った気がした。自慢したかった。エルフの血が入ってるって自慢したかった。隠していたくなかった。声も出したかった。両親に褒められた、あたしの声。みんなに聞かせたかった。自分の声で自慢できるようになった。あなたが褒めてくれたから」


「いや、何言ってんだ、できるようになったのは、呪い抜きのお香のおかげだ。みんなの力がなくちゃできないことだったんだ。俺が褒めたからってのはおかしいだろ」


 俺は耳から指を離しながらそう言った。


 しかし、フリースは俺のツッコミをスルーして、俺の目を見て話を続ける。


「ねえラック。約束、おぼえてる? 呪いを解いた見返りに、護衛になってあげるって話。用心棒、さがしていたんでしょう?」


「いいのか? 呪いの蟲は出なくなったけど、今度は綺麗な虫がちょっとずつ育つようになったって話で、つまり解釈によっては呪いが残っちまったってことじゃねえか」


「そうくるか……やっぱ、さっきのイトムシとの契約の話、聞いてなかったな」


「え、契約? 何の」


 俺の問いに、彼女は少しだけムッとした。


「もういい。でも、そうだね……だったらさ、解けるまで面倒みてもらわないとだね」


「まぁ、そうだな」


「約束だからね? このイトムシの糸で編んだ布を使う時がくるまで、あたしにあなたを守らせて」


「いいけどさ、その布を使う時ってのは、どんな時なんだ?」


 俺の問に、彼女はさらにムッとして、そして、声を出すのをやめて虚空に短い文を記した。


 ――教えてあげない。


 そしてすぐに彼女は「あ、そうだ」と思いついた声を出す。


「ね、ラック。名前、どうする?」


「え、名前? 何の?」


「イトムシの名前。二人で決めようよ。あたしは、やっぱり糸に関係した名前がいいと思うんだけど」


「糸ねぇ……」


 単純な名前のほうがいいとは思う。だけど、名前にはちょっとした意味をもたせておきたい。感謝とか、祝福とか、そういう類の願いみたいなものを込めてあげたい。


 たとえそれが蟲であっても、フリースの大切な相棒になるのならなおさらだ。


 そこで俺の中途半端に悪くない頭は、オシャレ名付けを閃いた。


 漢字を使うのだ。


「うーん、じゃあこういうのはどうだろう、『紫熟香』という漢字の一部を取り出して、『小糸丸(こいとまる)』とか」


「カンジ……。漢字って、転生者の文字だよね。ちょっとしか書けないや。シジュクコウの、どの部分がコイトマルになるの?」


「ああ、そうだな……」


 俺は紫熟香の白い灰が積もった舞台の床に、三文字の漢字を記す。指でなぞった部分の粉がとれて、つるつるの木目があらわれる。


「まず『紫』の下の部分が『糸』だ。イトムシの『糸』だな」


「うんうん」


「次に、『熟』の右上部分を取り出すと、『丸』になる。これは、意味的には(たま)だな。円とか球状のもののことだ。あとは、なんか戦士の幼名とかに使われたり、船の名前としてくっつけられたりもする。(まゆ)を作って丸くなるから名前に『丸』を入れてみよう」


「へぇ。じゃあ『こ』は? こいとまるの『こ』はどこから?」


「こいつは少々トリッキーなんだが、『香』という字の真ん中らへんを取り出す。まず一番上のナナメの線を消して、二番目の横線も消して、下についている『日』の字も消す。すると、ちょっとムリヤリだけど、『小』の字が浮かび上がるってわけだ。小さいって意味をもつ字だな」


 俺は言いながら、『紫熟香』を部分的に消していって、『糸』と『丸』と『小』の字を浮かび上がらせた。


「これの順番を、こう……こっちに入れ替えて……こうすれば……『小糸丸』ってわけだ」


「すごくいい!」


 フリースは喜んで、手のひらの上をゆったり動いていたイトムシを、そっと小さな胸に優しく抱いた。


「コイトマル。これから、よろしくね」


 イトムシのコイトマルは、彼女の呼びかけに応えているようにも見えた。


「うれしいってさ。よかったね、ラック」


「蟲の――じゃなかった。えっと、コイトマルの言葉がわかるのか? フリース」


「わかんないけど、名前をよんでもらえたら、嬉しいものでしょう?」


「あぁ、まぁ、そうだな」


 俺が納得すると、彼女は得意げに笑った。


 全く表情が無かった時間が嘘のように、すっきりとした笑顔を見せてくれた。


「ところで、コイトマルくんは、オスメスどっちだ?」


「どっちでもよくない? そんなの」


 メスだったらコイトマルはちょっと合わないかなと思ったけど、そこらへんに対しては、こだわらないようである。



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