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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第六章 解呪の秘宝
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第118話 満ちよ解呪の香(1/6)

 ザイデンシュトラーゼン城の宝物が大きく移動したのはいつごろなのか。犯人は誰なのか。


 場合によっては、アンジュさんを問い詰めねばならない。


 そう思っていたのだが、思いのほかアッサリと犯人が姿を現した。


「あ、いたいた。手間が省けたよ。もうこの部屋見つけてくれたんだね」


 やはりと言うべきか、アンジュさんだった。


 ヒョウ柄の服をはためかせてやってきて、鼻歌まじりに黄金の指輪をはめたり、首飾りを装着したりしてご機嫌だった。


「どうよ、この部屋。きらきらでピカピカで、幸せな気持ちになれるでしょう?」


 この宝物庫を守ってるとか、仲間が戻ってくるのを待ってるとか、いろいろそれっぽいことを言ってたけど、実はアンジュさんってば、ただ宝物を独り占めしときたいだけなんじゃないのか。


 ――ここにあったものはどこに移動した?


「え? もともとあったのって……枯れた木片とか、朽ち果てた木とか、形になってない布切れとか、ゴミばっかで邪魔だったからね、裏庭の砂ん中に埋めたけど」


 ――何してんの!


 フリースの氷ハンマーが、アンジュを殴った。


  ★


 頭にタンコブをつけた元山賊アンジュの案内で、朽ち木を埋めたという裏庭の砂場に来た。


「で、どこなんだ?」と俺。


 しかし、アンジュは答えない。頭を掻いて、「あー」とか「うー」とか言っている。


「まさか、分からないんじゃ」


「そのまさかなんだよね……」


 たしかに、裏庭のゴミ捨て場として案内された場所は、すごく広大な砂丘であった。


 城壁のところまで続く砂場からは、ところどころ宝物の黄金の輝きが立ち上っていて、無知ゆえに宝物が捨てられまくったのだなと嫌でも実感させられる。ひどく罪深い行いだ。もうこんなの、裁判なしでギルティ確定だろう。


「あたしがひとりでやったんじゃないんだよ? あたしが来る前から、ここはゴミ捨て場でね、そりゃその枯れた樹木とかをここに投げたのはあたしだけどさ」


「言い訳は聞き飽きたから、さっさとどこに埋めたか思い出してくれ。だいたいの場所がわかれば、俺の『曇りなき眼』で黄金に光った場所を掘っていけば、見つかるはずだから」


「わ、わかったわよ」


 もともと朽ち果てていた木だから、さらに朽ちてなければいいんだけども。


 幸い、この裏庭あたりの頭上には屋根がせり出していて、雨が染み込むことは少なかったと思う。


 かえって砂によって守られて完全な状態のままを希望する。


 アンジュさんは、ぶつぶつ呟きながらウロウロした後、


「うあぁあああ!」


 と叫びながら頭を掻きむしった。


「どうしたんすか、アンジュさん」


「おぼえてるわけあるか! ゴミだぞ、ゴミ! そんなんテキトーに()いたに決まってんだろ! 普通に考えてさぁ、ゴミだと思って捨てたもんの場所なんていちいち記憶してるわけないだろ! ゴミが!」


 アンジュさんの中の山賊が、ついに顔を出してしまったようだ。


「あーもう、めんどくさ。とにかく砂をぶっ飛ばせばいいんでしょ?」


 そして短気なアンジュさんは、俺の意見を待つまでもなく呪文の詠唱に入る。


「――風よ舞い踊れ、旋回せよ、あたしの誇りを取り戻せぇ、ワルツダンス・ウィンド!」


 風魔法である。


 つむじ風が舞い踊り、そこにあった乾いた砂たちを吹き飛ばした。


 一気に巻き上げられた砂は城壁の外へと舞い飛んでゆき、黄金の輝きがいくつも残されていた。


「うぉお」


 息をのむような、大量の発掘品である。


 発掘品の中には、人が乗って戦う古代戦車と思われる車輪付きの物体や、カラフルな陶器、首飾りの類、さまざまな形をした用途不明の道具、そして、探していた枯れた樹木の枝がいくつもあった。


 それらすべては、俺の曇りなき眼で見たら黄金のオーラを(まと)っていて、一級品の宝物であることを物語っていた。


「アンジュさん、ナイスです」と俺は親指を立てる。


「ふん」アンジュさんは得意げに、「あたしだってねぇ、やればできんのよ」


 ――だからといって、罪が吹き飛んだわけじゃないよね。


 フリースは虚空に荒々しい文字(ツッコミ)を書いたが、それはアンジュの目に入らないうちに崩れて地面に落ちたのだった。


  ★


「よし、これで全部だな」


 ごつごつ岩場の地面に、宝物がごろごろ転がっている。俺はその中から樹木っぽい感じがするものを拾い集めて、一箇所に集めた。


 アンジュさんと俺が運搬を終わらせたタイミングを見計らって、フリースが再び巻物を見たいと言ってきたので、手渡した。


 青いゆったり服の少女は、白銀の髪を微風になびかせながら真剣に巻物を眺めていたのだが、やがて、


 ――ない。


 とか文字を示した。不穏である。背筋が凍りつきかけるひとことだ。


「おい、無いって? 何が無いんだ、フリース」


 ――落ち着いてきいてね、ラック。

 ――たしかにこの辺には朽ち果てた木がいっぱい転がってるけども、

 ――ラックが探してるものは無いかも。


「この中に呪いを解くアイテムは無いってことか? この乾いた木ではないと?」


 ――たぶん。

 ――目録(リスト)に記されている解呪の秘宝は、もっと大きい。

 ――こんな木片じゃなくて、かなり巨大。ラックがすっぽり入れるくらいの大木。


 バンダナの話では朽ち果てた木の枝だって言っていたけども、それもう枝ってレベルじゃなくない?


「巨大な枯れ木が細切れにされた結果として。こういう木片になってるんじゃないのか? だって、こいつらも俺の眼からみたら、黄金オーラを放ちまくってるぞ」


 ――その可能性もなくはないけど、

 ――木片たちが一本の樹から切り出された感じがしない。

 ――手触りとか、匂いとか、明らかに違う。


「そうかな?」


 金色のオーラを放つ木片たちをよくよく注意してみてみると、たしかに形はバラバラで、光り方もまちまちだった。


 ステータス画面を確認してみると、多くが人の手によって加工されたものであるらしく、それぞれ原産地が異なっていたり、そもそも木の種類が違ったりしていた。効能もばらばら。


 なかには基礎攻撃力アップだとか、レベルアップだとか、睡眠だとか催眠だとか、幻覚だとか、珍しい効能も含まれる。しかし、副作用があるうえに、効果が一時的なものが多く、上級クラスの貴重(レア)ではあるものの、まだまだ上があるに違いない。


 全ての木片を調べ終えたところで、ふと俺は気付いた。


 しばらくザイデンシュトラーゼン城にいたら、どうやら宝物が放つ金色オーラの大小が見分けられるようになってきたらしい。


 オーラが強いもののほうがより貴重で、より効果も強いようだ。


 ここにある木片たちは、一緒に埋まってた戦車やら陶器やらに比べるとオーラが弱いものしかなかった。


 ――どう、ラック。鑑定の結果は。

 ――呪いに効くやつは無いでしょ?


「ああ」


 ――この目録(リスト)が正しければ、すべての呪いに効くアイテムは一つしかなくて、しかもサイズが桁違いに大きいはず。

 ――アンジュは、運んだ記憶ある?


「いやぁ、そんなに大きいのは無かったと思うね。そこらへんの木片サイズばっかりだったよ。正直なんつーか、木クズにしか見えなかったからね」


「アンジュさん、これ全部レアですよ」


「はん、そんなのあたしの鑑定スキルじゃ見抜けないよ。そんなことくらいわかるでしょ?」


 追い詰められた時に逆切れするところも俺の好きだった人にちょっと似てるから、もう許してやることにしよう。


 自分でもアンジュさんに甘いような気もしてきたけど、俺を路上に放置した頃と比べれば、じゅうぶん大人しくなったじゃないか。良くなったところに注目していくほうが幸せを感じられる。


 減点法の世界から加点法の世界へ。


 せめて異世界くらいは、そういう目線で生きたいと思うのだ。


 などと考えながら、遠い目をして岩場を眺めていたところ、ふと光あふれる場所が目に入った。


「ん、あれは……」


 よく見てみると、そこには扉があった。周囲よりも少し高く岩がせりだしていて、砂がなくなったことによって姿を現した場所に横向きの扉があり、そこから黄金の光が漏れている。


 かなり強い光のように感じられた。


 ――ラック? どうしたの?


「あんなところに扉があるんだが、心当たりは?」


「知らなかった」とアンジュさん。


 この人はザイデンシュトラーゼン城の主のわりに知らないことばかりだなぁ。


 ――行ってみよう。


 地面を滑るフリースの足元をみながら歩きにくい岩場を進み、アンジュさんに「あけろ」と言われたので、扉についてた取っ手を握る。しかし、引っ張ってもなかなか開かなかった。


「クッ、どうなってんだ、これ。重すぎる」


 思いのほか分厚いのか、鍵でもかかっているのだろうか。鍵穴がないところを見ると引っ張れば開きそうな気がするのだが。


「やれやれ、仕方ないね」とアンジュさんが呆れたように、「あたしが手伝ってやらないと扉のひとつも開けられないのかい」


 どうもアンジュさんは失敗の数々を取り返したいらしい。いいところを見せたい雰囲気を出しながらヒョウ柄の上着を脱いで露出の多い山賊巨乳スタイルになった。


「ラックの貧弱なパワーに、あたしの力を上乗せしてやる」


 そうして後ろから抱きつかれた。後ろから胸のあたりにしなやかな褐色の両腕がまわされ、抱きしめられる。


 かなりの密着。


 ドキッとした。柔らかい感触によろこびが湧きあがる。


 けど、心臓が高鳴ったのは一瞬だった。


「おおおおおっ?」


 思わずビックリして声が出た。アンジュさんが力を込めたのだ。


「んっ、んんっ?」とアンジュさんは吐息をもらし、「あれ、開かない? なかなかカタイね。じゃあ、もっと強くいくよ!」


 ぐいーんと強く引っ張られる感触――って痛い痛い痛い痛い!


「ァ、アアアアアアッ!」


 腕がちぎれる、ちぎれちゃう!

 あばら砕ける!

 あー腰! 折れる!

 魂がとんでっちゃう! 助けて!


「クッ、なんで開かないんだこれ」


 アンジュさんはこれまでの失敗を取り戻そうと、必死で扉を開けようと俺を引っ張る。


「ひらけ! ひらけ!」


 勢いをつけて引っ張るたびに、俺の身体が(きし)んでしまう。


 このままでは体力がゼロになってマジで死んでしまう。


 だけど、もうこの際だ、扉には開いてほしいし、アンジュさんに抱きしめられて死ぬのも一つの幸せな終わりなのかもしれない。


 諦めかけたそのとき、見かねたフリースが、


 ――あのね二人とも。


「なんだァ」

「なん……だよ」


 ――その扉、魔力で結界はってあるから、

 ――力じゃ開かないよ。


「なにぃ?」

「先に言えよ、そういうのは」


 フリースが氷の力で破壊した。




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