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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第六章 解呪の秘宝
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第114話 ザイデンシュトラーゼン城(8/11)

 扉が開くなり、レヴィアとフリースは別方向に駆け出した。それぞれが呪いを解くアイテムを探すために散っていった。


 ゲーム感覚で宝物庫を探検しようというのである。


 俺はヒョウ柄の服を羽織ったアンジュさんの案内で宝物庫を探検する形だ。


 さて、はっきり言って、俺はかなり期待していた。夢の景色でみたような、黄金や色とりどりに輝く宝物たちが出迎えてくれると思っていた。


 だけど、俺たちは忘れていたんだ。ここが、しょせん山賊が守る宝物庫だったってことをな。


 扉が開き、目に入ってきた光景に、俺は言葉を失った。もちろん悪い意味で。


 叩き割られて砕け散ったガラスたち、保存状態が悪く破けた布、さび付いた金属彫刻。壁や天井も巨大な穴だらけだった。


 かなり多くのお宝が持ち出されてしまった後らしい。


 いやはや、中身がこれなら、あんなに厳重に鍵をかけたりお札を貼ったりしなくて良かったんじゃないの、なんて思うんだが。


「あたしがやったんじゃないよ?」


「本当か? なあアンジュ、正直に言えよな。バレないと思ってちょっとはやっただろ? 絶対にゼロではないよな?」


「し、仕方なくない? さすがに昔の仲間とはいえ、あいつらをタダ働きさせるわけにはいかないし」


 宝物の一部がタバコに化けたとさっき言っていたが、仲間への報酬を渡すために売り払ったものもあると主張している。


 たとえそれが本当なのだとしても、全く褒められた話ではなく、墓守が墓を暴くようなマネしてどうすんだって話だ。


 けれど、いつか何かで返すべきだとは思うけれども、アンジュさんが宝を持ち去った財産でここが守られていて、そのおかげで解呪アイテムが手に入るってんなら、ぜひ見逃してやってくれと思う。


 本当に勝手な話だけども、どうか許してやってほしい。


 もし売っぱらった宝のなかに伝説の解呪アイテムが含まれているとしたら、全力で呪うけどもな。


「それにしても、ずいぶんと雑に扱われているものだ」


 俺の『曇りなき眼』という常時発動スキルは、偽装されたものは紅く光るのだが、どうやら神器クラスの物体を視界に入れると、そいつが黄金色に輝いて見えるという特性があるらしい。


 いつぞやの闘技場で試合を見ていたとき、八雲丸さんの能力で呼び出された七支刀(ななつさやのたち)とか、七星剣(しちせいけん)なども金色に光って見えた。そして今まさに俺の目の前には、黄金に輝く物体があった。


 ガラスケースは叩き割られていたものの、中にあった宝物は、ほぼ完全な形で残っていた。


 楕円形のボディに三日月型の穴が二つあけられ、五本の糸が張ってある。ギターに似た形状から察するに弦楽器だろう。指でおさえるところはグニャリと直角に曲がっているが、もともとそういうデザインであって、老朽化で折れたわけではなさそうだ。


 拾い上げ、ほこりをたたき、ステータス画面を確認してみる。


『鑑定アイテム:色あせた琵琶(びわ)


「なるほど、これが琵琶ってやつか。歴史の授業とかで聞いたことあるな」


 俺が鑑定にかけると、さっきまでより強い黄金の閃光がほとばしり、ホコリまみれで真っ黒だった琵琶がツヤのある茶色を取り戻したようだ。


 俺は、鑑定により明らかになったステータスを読み上げる。


貴重(レア)アイテム・創世の五弦琵琶。ザイデンシュトラーゼン城の完成日を記念して作られた琵琶であるとされているが、推定作製年代はさらに古く、この世界に存在するあらゆる宝物のなかで最も古い。そのため『創世の琵琶』と呼ばれる。高位の演奏スキルを持つ者が最も古い神聖曲をかき鳴らせば、究極の浄化と癒しの効果が発動するとされ、寿命さえ延びると伝わる。しかし、古の楽曲は全て滅びており、伝わっていない」


 と、ここまで読んで、珍しくステータス文がクソ長いなと思ったのだが、さすがは最古のレアアイテムとやらである。説明文がまだまだ続く。


 アンジュさんが、俺の画面をのぞき込んできて、続きを読み上げ始めた。


「なになに……。専用の琵琶ケースには、ザイデンシュトラーゼン落成の日に開かれた演奏会の様子が描かれており、長年、多部族国家の調和の象徴とされてきた。しかし近年、ザイデンシュトラーゼンの管理者を任された転生者アンジュが……あ、これだめだ、読むなラック」


「いや、そうはいかないだろう。まぎれもない真実を教えてもらおうじゃないか」


「ていうか、こんな情報ステータス画面に名前書かれるとか見たことないよ! 不名誉だ」


 それだけ重要な宝物ってことなんだろう。


「続きを読むぞ」俺はアンジュさんを突き放し、ステータス画面を読み上げる。「転生者アンジュが扱いを誤り特殊な繊維で編まれていた布製の専用ケースを破損。周囲に失敗を隠すために切り刻んで売ったため、豪華絢爛たる琵琶ケースは修復困難となってしまった」


「あぁー」


「おい……おいおい、これは最悪なんじゃないのかアンジュさん」


「仕方なかった。あの時は、ああするしか……」


「どうも文を読む限りでは、おもらしパンツを隠す子供みたいな感じだった気がするけども」


「……まったくもう! 今はあたしが守ってるってのに、そういう重要な情報は書いてないで、悪い事ばかり書かれてる! なんか釈然としない!」


「でも切り売りしちゃったんでしょう?」


「今あんたを切り刻めば、バレないかしら」


「いや、大丈夫。別に大丈夫ですよ。俺は誰かにアンジュさんの悪事を言いつけたりしませんから。だから、ナイフ二本を構えるのやめてください。」


 俺の反応が薄かったからか、彼女は少し不満げにナイフをしまい、どかりと地べたに腰を下ろし、「あぁー」と疲れたように息を吐いた。


 どうもかなり落ち込んでいるようだ。


「なあラック。なんかさぁ、このステータス画面をいじくれるスキルとか無いのかな」


「わかりませんね、現状で考えつくのは、偽装スキルを極めて別アイテムに見せかけるか、この超貴重な琵琶を修復不可能なまでにぶっ壊すか、そのどっちかくらいです」


「いや壊すとか、そんなの、できっこないじゃん」


「豪華な布は切り売りしたのにですか?」


「……あのねラック、本当のことだから何度だって言うけどね、あれを売らなかったら、防衛資金不足で盗賊どもに押し切られ、この琵琶も、他の宝物も全然残らなかったと思うよ。後でどう説明文にかかれようとも、あたしは、あの時の自分の判断に誇りをもてる」


 そして、アンジュさんは微笑みながら言うのだ。


「まあ何にしてもさ、あたしのヤラカシを記した説明文はちょっと不満だけど、一つだけ嬉しいことがあるとするなら、そこに『転生者アンジュ』って書いてあるだろ。『山賊アンジュ』じゃなしにさ。それが地味にめっちゃ嬉しいんだよね」


「できれば『宝物庫の管理人』とか『守護者アンジュ』とか呼ばれたかったですね」


「ねえ、あんたケンカ売ってる?」


  ★


 そこかしこにガラスの器だとか、布切れだとか、小さな彫刻だとか、キラキラ輝くお宝たちが雑に散らばっていたのだが、次に目を引いたのが笛だった。


 金色の輝きを放っているので、格の高い宝物である。


 大きさは手のひらサイズ。五本の管が並べて接着されたもので、片方にむかって長くなっている。


魔笛(まてき)ファイブカラー」


 アンジュさんは、説明が書かれたプレートを読み上げた。


「魔笛……?」


「五本の管しかないはずなのに、高音から低音まで何色もの幅広い音域を奏でることができる不思議な笛って書いてある」


 見ると、管の一本一本には十個以上の多くの穴があけられている。あの穴を何らかの方法で塞ぐことによって音に変化をもたらすことができそうだ。


 でも、こいつを変幻自在に演奏するには、指が何本必要になるんだろうな。


 大勢で演奏するサイズでもないし、謎の多い楽器である。


「アンジュさんは、何か楽器できますか?」


「いいや、ちっともできないね。ラックは?」


「昔ピアノやってましたよ。自由に弾かせてもらえないのがムカついて、すぐやめましたけど」


「本当に上手かったんなら勿体ないね」


「いや全然」


「じゃあ単純にカッコ悪いじゃん」


「んー否めない」


「他は?」


「あとは……そうですね、十九のころ、モテたくてギターを少しやりました」


「へぇ、じゃあ、そこに落ちてるギターみたいなのも弾けるのかい?」


「そうですね……」


 と呟きながら、俺はギター状の楽器を拾い上げた。琵琶とは少し違うひょうたん型をしていて、指を抑えるところにフレットがあり、弦も六本ある。ギターに限りなく近いものだった。黄金色のオーラをまとっていて、これも宝物だった。


「簡単なコードをおさえてかき鳴らすくらいなら」


「見かけによらないもんだね。ちょっと聞かせてよ」


 アンジュさんは、背もたれのない宝物の椅子に「ヨッコラショ」と腰かけると、まるで俺が昔好きだった人のように、両膝の上に両肘をついて、くっつけた手のひらの上に顔をのせ、期待のまなざしで俺を見つめてきた。


 なんというかな、胸元がチョットだらしなく見えるのも、俺の好きだった人に似ていた。


「じゃ、じゃあ……」


 俺は平静を装い、近くにあった宝物の椅子に腰かけ、足を組み、雰囲気を出しながら左指でコードをおさえ、右手の指で弦を弾く。


 ビベビョーンという音がした。


「…………」俺は言葉を失った。


 これでもかってくらいの不協和音である。


「…………」アンジュさんの冷たい視線。


 いや、どうしよう。アンジュさんの視線が俺を焦らせてくる。


 とにかく、音を調整しないと。俺は弦の締め付けを調節するツマミを回しながら、ちょっとずつ音を出していく。


 いやしかし、これはピンチだ。


 ここには楽器が溢れているくせに、チューニング用の機械もなければ、一定の音を発する音叉もない。


 こうなれば、自分の耳を頼りに音を整えるしかない。


 考えてみれば、マリーノーツに来てからもう十年が経つわけだが、その間に楽器を触ったことなど一度もなかった。


 正しい音を、俺は思い出せるのだろうか。


 だが!


 あきらめるわけにはいかないんだ。だって人間は強く願えば何でも実現できる生き物なのだから。


 今、俺の願いはただ一つ。


 可愛いアンジュお姉さんの前で、カッコつけたい!


「うおおおおお!」


 六弦すべてを「ここだ」と思う音色で揃え、俺は滑らかな白い糸を弾いて音を出した。


 ガラス同士をぶつけあうみたいな、かたい音色が響き渡った。




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