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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第五章 飢える賊軍の地
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第106話 ナンバンの遺跡へ(4/4)/ここまでのあらすじ

 氷力車(ひょうりきしゃ)は荒野を進む。


 俺たちは動力フリースの氷力車でザイデンシュトラーゼン城に向かうことになったわけだが、あの車はもともと二人乗りである。ぎちぎちに詰めて座ってようやく三人乗れるスペースなわけだ。


 だから、俺、レヴィア、フリース、ボーラさんだと一人あぶれる者が出る。


 乗車メンバーから外れるのは当然、俺。

 外れるのは俺。


 レヴィアが絵のモデルになるのに反対し、フリースに激怒され、ボーラさんと人間観が対立したために、三人からの評価はストップ安。というわけで当たり前のように三人が座席に陣取り、俺は徒歩移動を余儀なくされたのだった。


 とはいえ、そんなに苦痛があるわけではない。


 なぜなら実は三人は俺をそれなりに気遣ってくれたからだ。フリースは一時の怒りは過ぎ去ったようで、俺の歩くスピードに合わせて車輪を回してくれたし、レヴィアは心配そうに視線を送ってくれたし、ボーラさんはオトナだからどんなに意見が対立しても仲間外れにならないように声をかけてくれた。


 その優しい心だけで、俺は走り続けることができる。たとえマラソンスキルなんて持っていなくてもね。


 いやまぁ、ボーラさんに関しては、他の女性陣二人と話題がなく、しかも対抗意識を燃やすレヴィアとフリースの間に挟まれたり、自分を飛び越えて読めない言語で会話されたりするから、いたたまれなくて俺に話しかけてきただけかもしれないけども。


 そんなこんなで、絵描きであり記者でもある黒ずくめのボーラ・コットンウォーカーさんは、俺がここに至る経緯をうまいこと聞き出していった。


  ★


 まず転生者としてやって来てすぐに、山賊アンジュにカモられたこと。

 パンツ一枚で大勇者まなかと出会い、草原の鬼と戦ったこと。

 モコモコヤギを盗んで食った容疑で、三つ編み裁判の果てにギルティになったこと。

 そこから十年間の新規の転生者を教会へ案内する生活、そのやりがいと苦労。


 始まりの町ホクキオにひきこもっていたら、まなかさんに家を吹き飛ばされたこと。

 その爆発によって草原にクレーターができたこと。

 お詫びにもらった高価な薬草を高額で売って、温泉付きの豪邸を建てたこと。


 ラストエリクサー転売屋になって、詐欺にあってアッサリお金と信用を失ったこと。

 信用を取り戻すために鑑定スキルを身に着け、ラストエリクサーを買い集めたこと。

 良質なものを集めきって送り直し、感謝の手紙が来たことは一生忘れない。

 直後にラスエリ大暴落を知った時の絶望も一生忘れられないだろう。

 取り立てに来たアオイさんの指示で、買い集めた家具やら金品が次々に消えていったことも。


 しかも、すぐに王室親衛隊が襲ってきて、俺は再びの裁判にかけられて。

 それがシラベール家の内輪もめに発展し、混乱の中で俺は指名手配され逃亡生活に突入。

 何がどうなってそんなことに、って感じだろ?

 んで、俺はベスさんに背中をおされ、始まりの町を駆け抜け、貴族街に足を踏み入れることになる。


 その果てに俺は出会ったんだ。この上なく可憐な、案内人のレヴィアに。


 出会った頃のレヴィアは、今みたいな貴族っぽい服ではなかった。

 どっちかっていうと地味だったけど、あの、もこもこした帽子や服も可愛かったよなぁ。


 そこから追手のキャリーサと何度も戦いながら、東のネオジュークを目指した。

 何故かって? レヴィアの目的地がその巨大な黒ピラミッドだったからだ。


 ホクキオから出てアヌマーマ峠を越えたところで、キャリーサとの戦いがあった。

 レヴィアが倒れてしまって、あの時は焦ったよな。

 サウスサガヤの路地裏でアオイさんが声をかけてくれなかったら、どうなっていたことやら。

 ハイエンジ地区でも、キャリーサが何度も襲ってきて、本当しつこかった。


 キャリーサっていうのは、本当、とんでもない女だった。

 獣を合成するという攻撃方法で、建物より背の高い大怪獣を生み出したりする。

 ひどく気色悪い合成獣を生み出して喜ぶ変態女だ。


 あ、そうだ。カナノ地区といえば、壁に囲われたカナノ地区に入って、茶屋でぼったくられかけたなんてこともあった。茶屋がそんな悪いことしてたのは、鑑定士が逃げたせいだった。


 鑑定スキル持ちの俺のおかげで店は持ち直したわけだが、感謝されたのはレヴィア。

 俺にはお礼の言葉もなかったぜ。

 いやいや、なんかこの言い方じゃあ俺ばかりが損してるようだが、そんな事もなく、その時に俺は手に入れたんだ。

 そう、複合スキル『曇りなき(まなこ)』ってやつをさ。


 それでもって、カナノ地区からネオジュークへと進む途中で、アオイさんと再会。

 新たに手に入れた眼を使って看板の調査を手伝っている間に、なんとレヴィアが誘拐された。

 犯人はキャリーサだ。


 俺は手掛かりを探るべく、曇りなき眼で見つけた偽装ビルに突撃してみた。

 ところがこれが悪の組織の偽装ビル。

 キャリーサとは全然関係ない連中だった。


 オリジンズレガシーとか名乗る、偽のハタアリさんが君臨する犯罪スパイ組織だったわけだ。


 あいつらは、俺を殺そうとするわ、ぼったくり偽装バーを経営するわ、賊から食料を横取りするわ、ひきこもるわ、やりたい放題で、でも多分そんなの氷山の一角で、きっとこれから大きな事件を起こそうとしてるに違いない。


 レヴィアの居場所を突き止めてくれたのは本当に有難かったけど。


 そんなこんなで、俺はネオジュークの広場でレヴィアを見事に助けだした。


 え、どうやったかって? キャリーサの強さは有名で、俺ごときじゃ絶対に敵わない並外れた実力者のはずだって?

 なんと、俺の検査スキルが弱点だったんだよ。

 キャリーサの技には、偽装スキルが使われていたから、『曇りなき眼』をもつ俺には一切の攻撃が届かなかったのさ。


 そういえば、あのあとキャリーサの姿を見ていないけど、今頃どうしてるのかな。

 あの年上の女は香水がにおうし、センスが気持ち悪くて合わないし、もう会いたくないけど、去り際に「おぼえてろよ!」とか言ってたから、いつかまた現れるんだろうなぁ……。


 さて、その直後、俺はレヴィアと一度お別れすることになった。

 理由は、レヴィアが用事があるって言ってたから……そういやレヴィア、あの時言ってた用事ってのは、一体何だったんだ――って寝てるっ?


 まあいい……寝顔も可憐だ……。

 おっと失礼。話を戻そう。


 俺はレヴィアが戻ってくる前に、闘技場に行っていた。

 目的は、護衛してくれる人間を探すためだ。アオイさんの指示だった。

 そう、知ってるか? コロッセオ的なところ。

 猛者たちが命がけのバトルを繰り広げる円形闘技場のことだ。


 ネオジュークのギルドで出会った八雲丸さんって人に案内してもらったんだけど、本当に怪しい場所だった。

 ハリボテの壁の前に、仮面をつけた巫女が二人ほど静かに(たたず)んでるとか、ヤバさ満点だったね。


 扉の先で行われていたのは、オトキヨ様が観戦する御前試合。

 おとなげない八雲丸さんがプラムさんに負けないもんだから、オトキヨ様が怒ってしまって、「おぬしより強いやつを連れてきてやる!」とか宣言した。それで現れたのが、そこにいる大勇者フリースだった。


 俺は気絶して勝負の結果は見られなかったけれど、最終的に八雲丸さんが勝ったらしい。


 俺としては、八雲丸さんに護衛を頼みたかったけど、別の仕事が入ってるって話だったから諦めて、ネオジュークに戻って強い人を探してたんだ。そしたら探し方が悪かったみたいで、うっかり犯罪集団に襲われてしまった。


 そこにフリースが現れて助けてくれて、いや本当は八雲丸さんの方が頼りになりそうだったけど、フリースがついてくることにな――つめたっ、やめろフリース。氷で話を邪魔するな。運転に集中してくれぇ。


 ……で、ここからは最近の話だ。

 たぶん、ボーラさんも近くにいたなら掴んでる情報だと思うけど。


 フリースに掛けられた呪いを解くために、茶屋のあるネオカナノから南西に行くことにしたのだが、大勇者セイクリッドという二丁猟銃おばさんの作戦をうっかり邪魔してしまった。


 レヴィアと一緒にハッタガヤ門を閉めたから、賊がカナノに攻め入ることができなかったんだ。


 なんでも、セイクリッドさんは、賊にあえて無人の地域を攻めさせ、門を越えた瞬間に大義をふりかざした砲撃で全滅させる予定だったって話だ。

 ひどく暴力的なやり方で、セイクリッドさんが本物のハタアリだっていう話だけど、本物も偽物も、やり口はあまり変わらないのかもしれないな、なんて思う。なんて、こんなことを言うと怒られるかもだけどな。


 で、やむなく迂回を選択した俺たちは東に向かい、ピラミッド手前あたりで南に転進し、そこで今度はセイクリッドさんが滅ぼしたがっていた賊たちに出会った。


 あれはとんでもない悲劇だったね。

 実はさ、賊の首領のティーアさんとか、下っぱ呪術研究家のダーパンくんとかに出会う前に川を渡ったんだよ。ネザルダ川っていう川をね。そうネオジュークとカナノ地区の境目あたりを北から南へ流れるそこそこの急流だ。

 このとき、賊たちが敵の侵入を防ぐために橋を全て破壊してしまっていたから、対岸に渡る方法が限られてた。


 俺たちが選択したのは、川の水を広範囲に渡って凍らせ、水をせき止めてから渡るという方法。フリースには悪いが、これが最悪の結果を生んだんだよ。


 せきとめられた水は、氷の結界とともに少し下流の一帯をのみ込み、食糧倉庫や畑が壊滅してしまった。


 賊たちは、飢えに飢えた。


 俺は、自分たちのミスを取り返すべく走り回ったけど、なかなか上手くいかない。

 土地が呪われてるし、賊たちも嫌われているから協力してもらえないし、政府も支援物資を送ってくれてたというけど、その支援物資は横から悪の組織に奪われたりしていた。


 ホクキオからネオジュークまでを何度か行き来して、ベスさんなどにも協力を願ったが、反乱軍に味方するのは無理だと断られた。


 八方ふさがり、なすすべ無し。


 いよいよ悲しくも餓死者が出てしまった頃に、フリースが秘密を打ち明けてくれたんだ。……って、ちょっと待った。ええっと……これは言って大丈夫か、フリース。


 ……そうか、わかった。じゃあ言っちゃおう。


 実は、フリースは声を出すと呪いの生物を生み出す能力を持っていたのさ。

 そう、雷撃ウナギと呼ばれる高級食材だ。


 ……だよな、驚きだろ?


 この謎の生物を、フリースはずっと食べれないと思っていたらしいんだ。


 でも違う。雷撃ウナギは、食えないどころか最高にウマい。


 俺は呪い抜きの方法をつかみ、フリースとの共同作業で食材を見事に確保した。


 反乱しようとしていた人々を飢えと戦争から助けたわけだ。

 彼ら彼女らが戦おうとしてたのは、明日へと食いつなぐためだったのだからな。


 そして今、俺はフリースに掛けられたいくつかの呪いを解くために、ナンバン地区のザイデンシュトラーゼン城とやらを目指して美女三人と一緒に旅をしているってわけだ。


  ★


 そんな激動のマリーノーツ生活ダイジェストだったが、三人の反応はと言うと……レヴィアは早々に睡魔に敗北し、フリースは興味深そうに何度も頷き、ボーラさんは適度な相槌とツッコミを入れてくれた。


「それで、呪いを解いた後はどうするの?」とボーラさん。


「ミヤチズに行く予定だ」


「へぇ、あの書物だらけの街に……。何か探してる書物とかあるの?」


「書物というか、欲しいのは情報だな。俺とレヴィアが一緒に現実世界に行く方法を探すんだ」


「……いや無理でしょ」


 また現実をちゃんと見ろ、とでも言いそうな目をしてきた。


 どいつもこいつも、年上の女ってやつはこれだから。


 無理は通すもんだ。


 俺は誰が何と言おうとレヴィアと一緒にいたい。そのために出来る事は、全てやり遂げてやる。




【第六章につづく】


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