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ファイナルエリクサーで乾杯を  作者: 黒十二色
第五章 飢える賊軍の地
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第103話 ナンバンの遺跡へ(1/4)

 いざ、解呪の秘宝を手に入れる旅へ。


 ナンバンの城とやらへ。


 反乱賊軍の勢力範囲を抜け、人力車ならぬ氷力車で南西へと向かう途中、フリースが「眠い」と訴えてきたので、休憩することにした。


「あの岩の裏側が日陰になってるから、昼寝するといい」


 するとフリースはこう書いてきた。


 ――ひざまくらしてくれないの?


 俺のひざまくらなんてのが嬉しいんだろうか。それとも冗談なのだろうか。無表情な文字なので判断がつかない。


 どうすべきなのだろう、いや、どうしたいのだろう?


 俺はフリースをひざまくらしたいと思っているんだろうか。正直に言うと、ささやかな恩返しとして、やってあげたい気持ちもある。俺のヒザなんてのは、大して寝心地のいい感触ではないと思うが、フリースがそれを望むなら、ヒザを貸してやるのも全然悪くない。


 だが、そんなことをしてしまって良いのだろうか?


 俺が喜んで彼女にひざまくらしたがるとして、そんな景色をみて、レヴィアはどう思うだろう。


 フリースへの恩返しをとるか、レヴィアへの思いをとるか、俺は――。


 まごまごしていると、レヴィアが遠くから俺を呼んだ。


「あ、レヴィアが呼んでる。じゃ、フリース、また後でな」


「…………」


 すっごい不満そうな雰囲気を醸し出すフリースのところを離れ、レヴィアの側に寄ると、彼女は俺の腕を引っ張り、少し遠くへと歩いた。


「おいレヴィア、あんまり遠ざかると危ないぞ。敵が襲ってきたら、フリースなしじゃ俺たちなんてあっという間に消されちまう」


 やがて三階建ての廃墟の前で立ち止まると、俺の忠告なんてのはスルーして、レヴィアは自分のしたい質問をぶつけてきた。


「昨日、なにか夢をみましたか?」


「ああ、みたな」


「どんな夢です? あの青い服の女の夢とかですか?」


「ああ、青く悲しい夢だった」


 こんなことをわざわざフリースから遠ざかって質問してくるってことは、昨日フリースの言った通り、あの夢を見せたのはレヴィアなのだろうか。


「ラックさん、その夢は……たぶん本当にあったことを夢に見たのかもしれません」


「そう言ってたな。フリースは否定しなかった」


 レヴィアは一度深く頷いて、言うのだ。


「じゃあフリースという人は、もしかしたら悪い女かもしれないですよ。だって、いろんな血が混じってますし、悪者の血が入ってるかもしれません」


「ん? そういう考え方はよくないんじゃないか? 人間らしくない」


「なんでです?」


「人間は、生まれたところや目の色や肌の色で差別したりしないんだ」


「そんなの私の知ってる人間と違います」


「若いレヴィアには、まだわからないよ。信じることの大切さは」


 なんて、かく言う俺も、まだ肉体では二十三歳だからじゅうぶんに若いんだけども。ただ、レヴィアは、もっともっと幼く見えるからな。それこそ中学生くらいの見た目をしている。


「だってラックさん、あの人、ものすっごい年上ですよ? 見た目は若めですけど、おばあちゃんみたいなものです。ラックさんは、そんなに年上が好きなんですか?」


「あのなぁレヴィア。何かとフリースと張り合おうとしてるみたいだけどなぁ、俺が好きなのはお前なんだぞ。俺のことが信じられないのか?」


「だって、広場で待ってるって言ったのに、待っててくれなかったし」


 今になってもネオジュークでの事件(それ)を持ち出すか。


「いや、それはだな……護衛を探す必要があったからで」


「しかもあの女を連れてくるし」


「だ、だから、とにかく護衛が必要だったんだ。仕方ないだろ。事実、フリースには何度か命を救ってもらってる」


「なにも女の人じゃなくても」


「でも、大勇者クラスが必要だってアオイさんが言ってたから」


「アオイさんがアオイさんが……って、また年上の女の言いなりですか。本ッ当に年上が好きなんですね!」


「そんなことない。年上と一緒にいても、嫌な思いしかしてない」


「じゃあ昨日、ティーアのテントに呼び出されてましたけど、中で何してたんです?」


「別に、普通に話をしていただけだぞ」


「ハイエンジで絵描きの人に会った時も会話を楽しんでましたし、キャリーサのこともいやらしい目で見てました!」


「ちょっと目が曇ってるんじゃないか、レヴィア。曇りなき(まなこ)で見てみれば、そんな事実はどこにもないはずだ!」


「曇ってるのはラックさんの目のほうです! なんで次々に女の人と仲良くなってくんですか!」


「俺を信用してくれ」


「むりです!」


「何で」


「夢で見ませんでした? 人間が、そんなに善良な存在なわけないでしょ! 罪のない村を壊滅させた盗賊たちは、強欲で凶暴で、集団で相手をいじめて醜く笑って! ラックさんも人間なので、信用できません!」


「それは……でも、俺は違う! 人間は悪い存在じゃないんだ!」


「うそつき」と呟くように。


 その言葉で、俺はカチンときた。


「あぁ? そんなこと言ったら、レヴィアだって嘘つきだ」


「私はいいんです!」


「ちょっと、さっきからヒドイんじゃないか?」


「だって、私は……私は……!」


 と、互いに興奮してわけわからなくなり、周りが見えなくなっていたようである、ふと俺たちは窮地に陥っていることに気付いた。


 囲まれている。


 いつのまにやら逃げ場がない。


 まさに夢で見た盗賊たちの下卑た笑いそのものを浮かべた連中が、レヴィアをロックオンしていたのだ。


 龍の刺繍が浮かび上がる美しい白い服を着て、貴族感あふれる帽子をかぶっていたからだろうか。それともレヴィアが可愛すぎるからだろうか。あるいは両方の要素が彼らの目にとまってしまったのだろうか。


 男たちは半裸であり、そのむきだしの上半身は傷だらけで歴戦感を漂わせている。


「よう、いい服着てるじゃあねえか。さては貴族だな? ちょっくらおじちゃんたちに貸してくれないかなー、なんてな」


 リーダーっぽい男が言った時、取巻きたちがドッと笑いを起こした。


 その笑い声が途切れるか途切れないかといった刹那に、リーダーは巨大な斧を抜き、いきなり俺に向って斬りかかってきた。横への薙ぎ払い。


「おわぁッ!」


 ギリギリすぎるタイミングで飛び退き、回避できたけれども、すぐさま二撃目が振り下ろされる。


 避けたところの荒れた砂地がヘコみ、砂が巻き上がる。


 こんなに何回も襲撃されるなんて、やはりここは世紀末なのかな。


「女に傷はつけんなよ野郎ども。お得意様のオリジンズレガシーに女まるごと卸す予定だからよ」


 まーた偽ハタアリおじいちゃんの組織がらみかよ。どんだけ闇の組織なんだ、あの引きこもり集団。


 ただ、あまりに詰めが甘いというか、こんな風に黒幕の名前を軽々しく声に出してしまうなんて、教育が徹底してなさすぎると思う俺であった。


 不意に、「うぉらぁ!」と後ろから声がしたと思ったら、背中に衝撃。一騎うちってわけではなくて、集団で俺を殺す気でいるらしい。


 俺は倒れかけたところをリーダー男に蹴飛ばされ、仰向けになってしまった。


 雲が流れる青い空を見ることになった。


 逃げ回るレヴィア。


 盗賊がレヴィアを追い回し、「こいつッ、すばしこい」とか、「逃げんなこら」とか悔しがっていた。


 とにかく、彼女には俺を助ける余裕など全くなさそうだった。


 俺は、頭を掴まれ、転がされた。


「ナンダァ? 貴族様の護衛にしちゃ、やけにザコいな、この男。ちょっとは楽しめると思ったんだが……じゃあせめて、サンドバックにしてストレス解消といくか!」


 リーダー男は重たそうな斧を投げ捨てて、俺に馬乗りになった。


「うぅ……」


 視界には、ヒヒヒと笑いながら両手の拳をかまえる男の姿。


「……ッ」


 やばい、と思った。こんなところで本当に死んでしまう。


「フリース!」


 叫んだ。けれど彼女は来なかった。声が届かなかったのだろうか、まだ眠りの世界にいるのだろうか。


「ラックさん!」


 そう心配そうに声を出したのはレヴィアだ。それで隙ができたようで、ついにレヴィアも襲撃犯に捕まってしまった。


 俺たちは、こんなにも弱い。弱すぎる。


「くっ、誰か……誰か! 助けてくれぇ!」


 情けなくも、俺は叫んだ。


 まなかさん、フリース、アオイさん、シラベールさん、ベスさん、ティーアさん、八雲丸さんに、プラムさん、アンジュさん、この際、キャリーサでもいい。だれか、誰でもいいから俺とレヴィアを助けてほしい。


「検査! 鑑定!」


 苦し紛れにスキルを放ってみたけれど、「あ?」と首をかしげられた。


 何も起きない。


 もうだめなのか。


 覚悟を決めるしかないのだろうか。


 俺の旅はここで終わって、魂だけの存在になって、北のほうに飛んでいくことになるのだろうか。


 魔王相手だったらまだしも、くだらない賊に殴り殺され、レヴィアはどこかに売り飛ばされる……。


 そんなの絶対、ダメだろう。


「うおおおおおおおおおおお!」


 抵抗してなんとかマウント状態から逃れようとしてみるも、全く動かない。鍛え方が違う。相手のほうがレベルが高い。俺のレベルじゃ全然勝てない。逆転の目があるとしたなら、それは何らかの特殊戦闘スキルなのであろうが、ご存知の通り、ない。一切ない。


「おっほほ、いいねぇ」と俺にまたがる盗賊リーダー。「必死な抵抗してるやつは、殴りがいがある」


 そして、拳が振り上げられ、今にも殴られようとした時。


「なんだい、さわがしいねぇ」


 頭上から、そんな声が響いた。




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