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四枚目

 ここまで聞かされて、そろそろ美味しい話には裏があると思っていたら、案の定、条件と義務があった。

 一つ、一度、番の契りを交わしたら、死が二人を分かつまで、どちらからも離縁を申し込めない。

 一つ、月が満ちる夜は、必ず閨を共にして子孫繁栄に励まねばならない。

 ……一生老けない相手と月イチで性生活を送るべしとは、なかなか興味深い掟である。

 が、それと同時に、果たして途中でイヤにならないだろうかと、気の遠くなる思いがしたのも事実だ。


 魅惑のマーメイド暮らしは乙女の永遠の憧れだが、あくまで、それは夢物語としての話であり、いざ現実問題として直面すると、慎重にならざるを得ない。

 結論は、城下を見て回ってから決めることにしてもらった。

 この辺で判断留保してしまうところが、大人になった証拠であり、年寄り化してきたと実感する瞬間でもある。もう若くないわよ、悪かったわね。


 街には、細面の僧侶、屈強な戦士、妖艶な歌手など、様々なタイプの人魚男子が居た。

 見た目は色々だが、誰も彼も皆、女性に対して紳士的で、総じて顔面偏差値が高いところが好感触だった。 

 途中で銛を持った漁師にも会った。主食は魚で間違いないらしい。

 

 ここへ来て、ある一つの懸念材料が頭に浮かんだ。

 王子の愛情が、他の女に移らないだろうかという不安である。

 仮に番になったとして、将来的に私より可愛い子が現れる可能性は、決してゼロではないだろう。

 そうなったとき、王子がその子によろめかないとも限らないし、そうなれば、きっと私は嫉妬したり、絶望したりするだろう。

 このあたりは、自分でも面倒臭い性格だと自覚している。この歳まで異性からモテなかったのは、釣り好きだからというだけではないのだ。


 脳内でグルグルと悩んでいると、王子が体調を崩したのかと勘違いして心配されたので、思い切って打ち明けてみた。

 みたのだが、王子には、まったく理解出来ない様子だった。

 というのも、自分が惚れた女を招いたというのに、他の女に目移りしたとなれば、王家の家名にキズがつくし、何より、彼の純粋で澄み切った瞳には、私しか映ってないかららしい。

 若いって素晴らしい。育ちの良さも滲み出ている。どちらにしても羨ましいし、ひたむき過ぎて眩しいくらいだった。

 自惚れて良いのやら、この国の深刻な女性不足に嘆きたいやら、なかなか心境は複雑である。


 お母さんには悪いけど、この時点で私は、ストレスフルな毎日が待ってる陸上に戻りたいという気持ちが、ほぼゼロになってしまった。

 孫の顔を見たいという願望は、童貞で魔法使い寸前な上に、重篤なロリコンをこじらせた美少女アニメヲタクの草食系愚弟を、まともに同世代と結婚する気にさせて叶えてください。

 私は、異国で幸せになりますので。あしからず。


 この手紙は、アメジストのような吐息を詰めたビンに入れるつもりです。

 きっと、手を離せば、川面に向かって、風船のようにフワフワと浮かんでいくことでしょう。

 もし、この手紙が悩める乙女の手に届いた場合に備えて、別紙に穴場の正確な位置を書き残しておきます。

 運が良ければ、ほったらかしにしてしまった私の釣り道具で、この美男子天国に辿り着けるハズです。

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