二枚目
何を言ってるんだ、白昼夢か? とでも思っていそうだが、どうか、ありのまま受け止めてほしい。
私だって、この時は目の前の出来事に困惑してしまったものだ。
とりあえず、掴んでいる手の指を開いてルアーを回収し、竿をクーラーボックスの横に置く。
こうして、私はクニマス級の珍魚を釣り上げてしまったわけだけど……、いや、正確には魚ではなくて人魚少年ね。
釣り上げた少年は、ぐったりしていて食べる物を欲しがったので、試しにリリースする前の淡水魚を与えてみた。
すると、両手に魚を持ち、美味しそうに平らげていった。少年は、生魚を丸ごと食べられる体質だったのだ。
一瞬、共食いではないかと思ったが、すぐに違うと考え直した。おそらく、サメが小魚を食べるようなものなのだろう。
食べてるあいだに、じっくりと観察させていただいた。
人間で言うと、臍に当たる位置から下が魚になっていて、背中のヒレは、背骨と骨盤の境目あたりに生えているのが分かった。
余談だが、股間に当たる場所には小さなスリットがあるだけで、雄のシンボルは露出していないので、ご安心を。
それにしても、見れば見るほど美少年であった。
思わず目を奪われるという言葉が、これほどまでもシックリくる人物は、めったに居ないだろう。二次元を除いて。
これだけ綺麗な身体をしていれば、裸だろうと恥ずかしくないわけだ。
水を得た魚のように、人魚少年は元気になった。
ここまでジェスチャーで意思疎通をしていたが、どうやら言葉が通じると分かり、ここからは日本語でオーケーだった。
ショタくんからは、まず魚の礼を言われ、続いて、自分は滝壺の遥か下にある国の者で、そこを治めている竜王の息子であり、第三王子だと説明された。
可愛いルックス、甘い声、謙虚な性格に、すっかり私はノックアウトされてしまった。
たとえ、これが熱中症で朦朧とした意識が見せる幻覚だとしても、醒めてほしくないと思ったくらいに。
そして、捕まえようとした魚が上へ上へと逃げていくので、気になって追いかけて来たのだとか。
そのまま、うっかり魚の動きに夢中になって知らぬ間に遠くまで来てしまい、空腹で倒れたという次第。
私のルアーが大事を招いてしまい、悪いことをしたと思った。
説明する間も、少年には足が生えてる私の身体が珍しいのか、腰から下をシゲシゲと眺められた。
純粋な好奇心に基づくものだったので、悪い気はしなかったが、カモシカとは程遠い大根脚なので、正直、顔から火が出そうだった。
御礼がしたいと言われ、断るに断れなかった私は、少年が持っていたビー玉サイズの球体を飲み込み、滝壺へ潜ることになった。
飲み込んだ球体は、水中でも息が出来る魔法の玉なのだとか。
言い忘れたが、少年は水草を編んだポシェットのようなものを下げていて、玉は、そこから出したものだ。
気が向いたら泳ごうと持って来た水着に着替え、いっせぇのーせいっ! でダイブした。