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花菖蒲のほとり  作者: B星
第2章 ① 別邸 6歳、7歳、8歳
42/351

 040. お夕寝 ×4 1-3/4(大地)

大地だいち視点。


(また、眠ってる)


 談話室の背もたれ付きのソファーで、お嬢様と黒羽くろはが互いに寄りかかりあうように眠っていた。黒羽の横には本が置いてある。


 黒羽がお嬢様に本を読み聞かせていると、お嬢様が眠ってしまうことがある。そうすると、黒羽はお嬢様にくっつき、一人で本を読んでいる。たまに黒羽も眠くなるようで、こうしてお嬢様と二人で眠っている。


「おい、起きろ」


「うーん……。大地だいち?」


 黒羽の頬をペチペチと軽く叩くと、ゆっくりと目を開けた。またつむろうとしたので、頬をつまんだ。


「いたい……」


「起きろ」


「はい……」


 黒羽がお嬢様側に傾けていた体を真っ直ぐにした。支えをなくしたお嬢様が黒羽のひざの上に倒れ込んだ。


「う~……」お嬢様は少しうなったが、起きなかった。黒羽がニヤニヤしている。


(あ~、しまった……)


「大地、あと十分」


「いや、起こす」お嬢様に手を伸ばした。


「お願い! あと十分!」黒羽に手を掴まれた。小さな声で懇願こんがんされた。


「……絶対、あと十分で起こせよ。起きてこいよ?」


「はい」黒羽は笑顔でうなずいた。



 二十分経っても、黒羽とお嬢様は起きてこなかった。仕方がないので、談話室に向かった。


 お嬢様が黒羽のひざを枕にしたまま本を読んでいた。黒羽は、座ったまま首を横に傾けて眠っていた。首が痛くなりそうな眠り方だ。


(なんで黒羽が眠ってるんだよ)


「何やってんだよ……」


「んー? 黒羽が眠ってるから、起こさないように本読んでるの。勝手に離れたら、何か言われそうだし」お嬢様が本を閉じ、小さい声で答えた。


「はあ~。黒羽! 起きろ!」


「へっ? あ……」黒羽はビクッとして目を開けた。俺と目が合うと、ハッとし、ばつが悪そうな顔をした。


「十分経ったら起こすんじゃなかったのか?」


「えっと……」


「お前が眠ってどうすんだよ」


「あ、はは……、ごめんなさい」黒羽は、頬をいたあと、うなだれた。


「はあ~。まあ、いいけどな。俺は」


「大地のおこりんぼ~」


 俺が大きなため息をくと、お嬢様が口を挟んできた。


「で、お嬢様は、いつまでそうしてるつもりなんだ?」


 お嬢様は、黒羽のひざに頭を乗せたまま、こちらを向いて話していた。


「今、起きますよっと……、あれ? 起こして~」


 お嬢様は、勢いをつけ体を起こそうとしたが失敗し、またひざの上に倒れ込んだ。起こすのを手伝えと、こちらに手を伸ばしてきた。


「ったく」お嬢様の手を引いて起こしてやった。


「かわいい」起こしたお嬢様に、黒羽が抱きついた。


「おい、何やってんだよ! ほら、二人とも立て」


 そのままお嬢様の手を上に引き、立ち上がらせた。黒羽も一緒に立ち上がった。でも、抱きついたまま離れなかった。


「黒羽、離れて~。ほどほど~」


「もう少し」


 お嬢様の頭に黒羽がグリグリと頬をすり寄せている。お嬢様が黒羽の腕の中で「も~」とため息をいた。


「大地、痛い!」黒羽の頭を掴んで、時計に向けた。


隼人はやとの手伝いをするんじゃなかったのか? 別に、お、れ、は、困らないけどな」


「ああっ! 大地の役立たず! ちゃんと起こしてくれないから!」


「ちゃんと起こしただろ!」


「ううう~、お嬢様、またあとで!」


「頑張れ~」


 黒羽はあわてて食堂へと駆けていった。お嬢様は、黒羽に後ろ姿に声をかけると伸びをした。本を手に取り、部屋へ向かって歩き出した。俺はそのあとをついていった。


「大地は暇なの?」


「暇じゃない」


「じゃあ、なんでついてくるの?」


「部屋でまた眠らないようにだよ」


「眠らないよ!」


「はいはい」


 部屋に本を置いたお嬢様を連れて食堂に移動した。食堂では、にこにこした隼人と顔をひきつらせた黒羽が、食事の準備をしていた。


 その日の夜、黒羽は風呂に入る前、体幹を鍛えて、いや鍛えさせられていた。とてもプルプルしていた。


「も、もう、無理!」


「まだダメです。頑張ってください」


 隼人がにこにこしながら、黒羽を追い詰めていた。手伝いに遅れた罰だ。しかも遅れた理由が理由だ。ついでに、腕立て伏せと腹筋もやらされていた。



◇◇◇


 お嬢様が、ベッドの足側に座り、そのまま仰向あおむけになったような状態で眠っている。その隣で、黒羽くろはがお嬢様のほうを向いて眠っていた。


 隼人はやとの手伝いまで時間があった黒羽は、いそいそとお嬢様のところに向かった。

 それからしばらく経ち、約束の時間まで残り五分をきった。いつもは十分前には姿を現すのに、黒羽は戻ってこなかった。


(嫌な予感が的中したな……)


 部屋を訪ねたらお嬢様が眠っていた。その横に寝そべり、顔を眺めているうちに眠ってしまった。といったところだろう。


 以前、黒羽から起こして失敗したので、お嬢様から起こすことにした。


「おい、起きろ」お嬢様の鼻をつまんだ。


「ふがっ……」


「起きろ~」左右に揺らし、指を鼻から離した。


「うう~ん……」


(どうして、そうなるんだ……)


 息苦しさから解放されたお嬢様は、ゴロンと寝返りを打った。黒羽の胸元に顔をうずめ、腹の辺りの服を握りしめている。


「ん……。ん~、かわいい……」


 黒羽はゆっくりと目を開けた。自分の胸元におさまっているお嬢様に気づくと、お嬢様の体の上に手を置き、また目をつむった。


(抱きつかない。寝ぼけてんのか?)


「はあ~。起、き、ろ!」少し大きな声を出した。


「んぐっ」

「へっ?」


 俺の声に驚いた二人は互いに抱きつきあった。


「んんっ、ビックリした~」お嬢様は、は~、と息を吐いた。


「だ、大地だいち? あれ? お嬢様? か、かわいい!」


「く、苦しい~」


 お嬢様が、自分にくっついていることに気づいた黒羽はギューッと抱きしめた。お嬢様は、顔を胸元に押しつけられ、苦しがっている。


「黒羽、時間。また、隼人にしごかれるぞ」


「え? 時間? あ、あと五分ある」黒羽は飛び起き、時計を見てホッとした。


「あ、あのね、黒羽」お嬢様がゆっくりと体を起こした。


「なんですか?」


「お約束で申し訳ないんだけど……。時計、遅れてるの。たぶん、五分以上は……」


「え? ええ! 僕、行きますね」黒羽は、あわてて部屋から出ていった。


 風呂に入る前、にこにこしている隼人の前で、黒羽がプルプルしていたことは言うまでもない。



◇◇◇


 談話室を通りかかると、お嬢様が背もたれ付きのソファーの真ん中で眠っていた。隣に座っている黒羽くろはは、お嬢様に寄りかかり眠っている。逆隣では、隼人はやとがお嬢様に寄りかかり眠っていた。


(隼人まで……)


 背もたれのないソファーに腰かけ、三人を観察することにした。


 黒羽と隼人に挟まれていたお嬢様が、どんどん前に押し出されてきた。前にずれたお嬢様は、隼人のひざの上に倒れ込んだ。

 寄りかかっていたお嬢様がいなくなった二人は、うまいこと互いに寄りかかりあった。


(起きないな。まあ、夜に頑張ってるからな……)


 最近、黒羽は隼人に社交ダンスを習っている。お嬢様に内緒にしているので、練習は夜に行っている。

 社交ダンスは学園で習うので、別に今から覚える必要はない。入学前から踊れるのは、主に伯爵以上の華族かぞくと王族くらいだ。それにそんなに重要でもない。ダンスを教える、または、みせる職業以外の人は、楽しく踊れればそれでいい程度だ。


 黒羽が今習っているのは、単にお嬢様と踊りたいからだ。お嬢様と一番最初に踊るのは自分だと頑張っている。

 昼間にお嬢様と一緒に習えばいいのに、と黒羽に言った。黒羽は、たどたどしいお嬢様をリードするんだ、と意気込んでいた。どうやら思い描いている理想があるようだ。


(ま、疲れてるんだろ)


 隼人も一緒に眠っていたので、起こさずに放っておこうかと思った。でも、悪戯心いたずらごころいてしまった。


 そおっと、ゆっくり、お嬢様を抱き上げた。間にいたお嬢様がいなくなっても、隼人と黒羽は起きなかった。隼人の肩に黒羽が頭を乗せ、その頭に隼人が頭を寄せている。お嬢様が抜けたところが、きれいにそのままの形で残った。


(やばい、笑いそう)


 抱っこしたお嬢様は、「お父様」と寝ぼけて首に抱きついてきた。


「違うぞ」


「ん? なんだ、大地だいちかあ」目を開け、俺の顔を確認すると、また目をつむった。


「おい、起きろ。見てみろ、おもしろいぞ」


「なにが~?」


 お嬢様は、俺の肩の辺りにグリグリと顔をこすり付けると、ゆっくりと目を開けた。


「ほら、あれ」


 抱っこをしながら、あごで隼人たちをさした。お嬢様は二人を見ると「ふふ」と笑った。


「おもしろいっていうか、微笑ましいよね」


「いや、おもしろいだろ?」


「微笑ましい、だよ」


「笑えるだろ?」


「まあ、ニヤニヤしちゃうかな。……ふあぁ」


 お嬢様は、俺の肩に頭を預けるとまた目をつむろうとした。


「せっかく起きたんだから、眠るなよ」


「だってえ……」


「ったく。お茶でもいれるか。食堂に行くぞ」


「それってちゃんと飲めるお茶? いてっ」


 頭を肩から離して、ニヤニヤしながら失礼なことをいうお嬢様に、軽く頭突きをした。


「ほら、おろすぞ」


「このまま運んでよ」


「はあ。階段までだぞ」


「ケチ」


「ケチじゃない」


 食堂に移動し、お茶をいれた。お嬢様は、変なものを入れないように、と俺に張りついていた。隼人がいれるよりも少し苦くなってしまったお茶を、お喋りしながら飲んでいた。お嬢様はいつもの席ではなく、俺の隣に座っていた。


 しばらくすると、廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。


「大地さん!」


「なんだよ」


 食堂の出入り口から、こちらをにらんでいる隼人に、頬杖をつきながら返事をした。


「なんで起こしてくれないんですか!」


「俺は目覚まし時計じゃないぞ」


「目覚まし時計ですよ!」


「なんでだよ!」


「今日は大地が、腕立て百回ね」


 隼人の後ろにいた黒羽が、おかしなことを言い出した。俺がやる意味がわからないし、回数も黒羽がやらされていた回数より大分多い。


「大地、腕立て伏せやるの? 私が背中に乗ってあげるよ」


「やるべき分はやったから、もうやりません」隣でにこにこしているお嬢様の頭を、グリグリとなでた。


 時間が、とぶつぶつ言いながら、隼人は台所に消えていった。黒羽も手伝うためについていった。


 俺はお嬢様とホールに向かった。一階にある何も置いてない広い部屋をそう呼んでいる。雨や雪の日などはここで体を動かしている。社交ダンスの練習をしているのもここだ。


 お嬢様が、自分を乗せた状態で腕立て伏せをやってみせてとせがむのでやりにきた。最初に、重い、と潰れたら、ひどい、と頭を叩かれた。仕切り直して、何回かやってみせた。お嬢様は俺の背中で、すごいすごい、と喜んでいた。


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