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花菖蒲のほとり  作者: B星
第2章 ① 別邸 6歳、7歳、8歳
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◆020. 嫉妬?


 家庭教師の田中ひな先生が通ってくるようになって、二ヶ月が過ぎた。


 私はイライラしていた。


 目につくことがある。先生と、大地だいち隼人はやとの距離が近い。先生が、黒羽くろはのことをやたらと触る。


(大地と隼人にくっつきすぎ!)


(黒羽に触りすぎ!)


 先生の行動が気に入らないと思っている。でも、私も先生と同じことをしている。

 大地や隼人との距離は、私も近い。黒羽のことも、よく頭をなでたりして触っている。


 自分が小さい子どもだからと気にしていなかった。でも、中身のことを考えれば、私だって先生と変わらない。


 これは、嫉妬なのだろうか。


 今まで、この家には女性が私しかいなかった。増えた女性の存在をうとましく思っているのだろうか。


(女の人と仲良くしているのを見て、イライラするなんて……)

 

 いつの間にか、大地たちを自分のものと思っていたような気がして、恥ずかしさと嫌な気持ちにもだえた。


 これは良くない、冷静に客観的になろう、と努力した。大地と隼人は使用人、私は二人が雇われている家の娘。黒羽は学園に通うためにここにいる。


(距離感は大事!)



「田中先生なんてやめてください。大地さんの先生ではないですし。ひなって呼んでくださっていいんですよ」


 大地と先生が立ち話をしていた。大地の腕に両手を添えている先生を見て、心の中で念じる。


(距、離、感!)


 でも、イライラが勝ってしまう。しかも、自分に対してではなく、先生に対して念じている。


 大地に対してだけなら「大地モテてる! いい感じなの?」とからかえたかもしれない。でも、この前、隼人にも同じようにやっていた。


(いや、たぶん……。どちらか一人だけにやってても、イライラしただろうな)


 大地も隼人も、笑顔でやり取りしていた。楽しそうにしていた。二人は先生を受け入れている。



 先生は、私が間違えても、優しいから怒らないと思っていた。しかし、そうではなく興味がなさそうだ。

 黒羽が間違えると手取り足取り教える。言葉通り、手取り足取りだ。


(なんなら、腰取りもつけましょうか)


 目の前で、黒羽にベタベタしている先生を見て、思わず心の中で悪態をついてしまう。そんな自分が嫌で、ガッカリしてしまう。


(今までみんなに可愛がられていたポジションを、ひな先生に取られそうで、嫌なのかも。最低だ……)


 自分の両頬をつねり、左右に引っ張った。頬がじんわりと痛い。右手でひたいをペチンと叩いた。涙が込み上げてきたので、こっそりと拭いた。


 先生は、黒羽への指導に夢中で、私のことは見ていなかった。でも、黒羽は私のことを見ていた。涙を拭いて顔を上げると、黒羽と目が合った。


 でも、黒羽は何も言わなかった。いつもなら「どうしたんですか? お嬢様」と駆け寄ってきそうなのに、私から視線を外し先生へと戻した。


(ちょっと寂しいかも……)


 黒羽の『お嬢様は僕のものにする』には困らされたが、いざ卒業となってみると、寂しいものだなと思った。

 今までのことを思い返していたら、また涙があふれてきた。こっそりと拭くのでは、間に合いそうになかった。


「お手洗いに行ってきます」


 涙を拭くために、部屋から逃げ出した。




「田中先生はどうだ?」


 一緒にお風呂に入っていた父に聞かれた。先生が来るようになって、三ヶ月以上経った。


「普通」と答えて、口まで湯に浸かった。


 本心を言えば、好きじゃない、もう来ないでほしい。でも、先生としてどうかと答えた。黒羽とは仲良くやっている。私に対しても、教えることは教えてくれている。

 生徒差別をしているとは思う。でも生徒は二人しかいない。そう決めつけてよいものか迷った。


 それに、大地や隼人も先生と楽しそうにしている。私だけの意見で、みんなの楽しそうな雰囲気を壊してしまうのは悪いと思った。


菖蒲あやめ、こっちを見て」


 モヤモヤと先生のことを考えていて聞いていなかった。


菖蒲あやめ


 父の手が私の顔を湯から引き上げた。父の両手が私の耳の下辺りを掴み、父の顔を見上げさせた。


菖蒲あやめ、もう一度。田中先生はどうだ?」


「普通」


 顔は固定されていて動かせない。視線を外したら不自然になると思い、頑張って父と目を合わせた。


「そうか」


 父の手から解放された。そのあとは、いつものように水鉄砲の練習をして、お風呂からあがった。


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