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花菖蒲のほとり  作者: B星
第1章 別邸 5歳、6歳
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 013. 童謡(黒羽/隼人/大地)

黒羽(くろは)隼人(はやと)大地(だいち)視点


◇◇黒羽くろは◇◇


 お嬢様が童謡を歌いながら、廊下を歩いていた。僕に気づくと、一瞬歌うことをやめたが、すぐにまた歌い出した。


 お嬢様は、部屋でよく歌を歌っている。部屋の窓が開いている状態で歌っているので、表庭にいたり、下の階の食堂の窓を開けていると聞こえてきたりする。


 知っている歌もあれば、聞いたことないような歌を歌っていることもある。最初の頃は舌足らずで聞き取れなかった歌詞も、今ではちゃんと聞き取れるようになった。


 お嬢様の数歩後ろをついて歩いた。たぶん、行き先は裏庭だ。隼人はやとが洗濯物を取り込みにいった。大地だいちも馬小屋にいる。


 歌っている童謡が、輪唱できる歌だったので、続けて歌ってみた。お嬢様は、チラッと僕を見たが、また前を見てかまわず歌い続けた。


 お嬢様が歌い終わり、数秒後、僕が歌い終わった。お嬢様は振り返り、にこっと微笑んだ。


(かわいい)


「ちょ、ちょっと、ほどほど!」


 可愛らしかったので、思わず抱きついていた。お嬢様に嫌がられ、やむを得ず解放した。


「隼人のとこに行くけど、一緒に行く?」


「ええ」


 僕たちは、玄関で靴に履き替えて、外に出た。お嬢様の隣を歩いていると、また歌い出したので、僕もお嬢様に続いた。



◇◇隼人はやと◇◇


 裏庭で洗濯物を取り込んでいると歌が聞こえてきた。


(また歌ってますねえ)


 お嬢様は、部屋でよく歌を歌っている。お嬢様の部屋と食堂の窓が開いていると、食堂にいても聞こえてくる。

 知っている歌がほとんどだが、知らない歌を歌っているときもある。もし、あれが自作の歌なのだとしたら、お嬢様は作詞作曲の才能があるのかもしれない。


(ひとりじゃない?)


 聞こえてきた歌に、お嬢様以外の声が混じっているような気がした。洗濯物を取り込む手をとめて、声がする方を見ていた。


 建物の陰から、お嬢様と黒羽くろはがあらわれた。お嬢様はこちらを見ながら、黒羽はお嬢様を見ながら、仲良く歌を歌いながら歩いてくる。


「輪唱ですか?」


「うん、黒羽が続けて歌ってくれたの」


 お嬢様はにこにこと嬉しそうな顔をしていた。


「隼人、手つだ……、ここで応援してるね」


 洗濯物を見回し、自分が手伝えそうなものがないと判断したのだろう。手伝うと言いかけて、応援に切り替えた。

 黒羽はなにも言わずに洗濯物を取り込んでいる。


 お嬢様がまた歌い始めた。黒羽も歌い出した。私も黒羽のあとに続いた。お嬢様は楽しそうに、私たちを眺めていた。



◇◇大地だいち◇◇


「何やってんだ、あいつら」


 馬小屋から出て伸びをしていると、洗濯物を取り込んでいる隼人はやとが目に入った。お嬢様と黒羽くろはもいる。


(また、歌ってんのか)


 お嬢様は、部屋でよく歌を歌っている。部屋の窓が開いていても歌っているので、表庭の整備をしていると聞こえてきたりする。俺の知らない歌を歌っているときがある。あれは誰の歌なのだろうか。


 隼人と黒羽は、俺に気づかなかった。お嬢様とは、目が合った。お嬢様は口を動かしながら、にこっと微笑んで、視線を隼人たちに戻した。


 馬小屋に戻って作業を再開した俺は、微かに聞こえてきた童謡を口ずさんでいた。



 その日の夜、湯船に浸かっているときに、なんとなくまた昼間の童謡を口ずさんだ。すると、お嬢様が続けて歌い出した。


「今度は大地も一緒にやる?」


「いや、いいよ」


「なんで? 四人でやろうよ!」


 断っていると、頬を膨らませたお嬢様が別の童謡を歌い出した。主唱者しゅしょうしゃが歌ったふしを、同じように繰り返し歌う、エコーソングだ。


 黙っていると、お嬢様は何度も出だしを繰り返した。仕方がないので、同じように歌った。繰り返すたびに、水鉄砲で攻撃した。途中から、歌いながらお湯のかけ合いになっていた。


「もう、ひどい!」


 顔にかかったお湯を両手で払いながら、お嬢様はまた頬を膨らませた。


「ふぐぅ」


 お嬢様の膨れた頬を片手で掴んで潰すと、変な声を出した。


「ぶはっ、なんだ今の。ほら、十数えろよ」


 俺が笑うとお嬢様はジトッとした目で俺を睨んだ。そのままの顔で、「いーち、にーい、さーん……」と数えだした。それもまたおかしくて笑ってしまった。


「……きゅーう、じゅうっ!!」


 バシャッ!


 お嬢様は数え終わると同時に立ち上がり、俺に思いきりお湯をかけた。下からかけられたお湯が鼻に入った。


「うわっ、下からはやめろよ! 鼻に入っただろ」


「ふんっ」


 お嬢様は、苦しがる俺を横目に鼻で笑った。「ざまあみろ」と言うと、湯船から出て、シャワーを浴び、脱衣室へと行ってしまった。


 俺は少しの間、鼻から入ったお湯に苦しんでいた。


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