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どこにもなかった風景、経験しなかった思い出

闇市

作者: あめのにわ

闇市の中を歩いていた。


多数の露店がひしめく。

物売りの呼び声が、かしましく飛び交う。

多くの人々。


もんぺ姿の女たち。

国民服姿の男。

和装のテキ屋。

裸足の孤児たち。

物乞い。

傷痍軍人たち。

老人。

MPたち。


見慣れた風景の中、ひときわとおる声が耳に入った。

みると露天を出している男が、群衆に向けて熱心に演説している。


「そう、それはまさに、二千人が二千百人になろうとしている時代だった。今のように二千人が一度に生まれたり死んだりしている時代ではなく、……」


何を言っているのかよく分からない。

まるで布教者のようだった。たたき売りの口上にしては、外連味がなさすぎる。もとより、台の上には売り物もなかった。

男は憑かれたように延々と話し続けていた。耳を傾ける者もいたが、ほとんどの通行者はそのまま通り過ぎていった。


そのまま角を曲がると、トラックがやってきて、停車した。

荷台には、揚げ物のできる簡易調理台がついており、仕上がったかき揚げがたくさん用意されていた。

通行者は目ざとくそれを見つけ、わらわらと群がってくる。


「この列に沿って並ぶんだよ」


とトラックの主。

群がった客たちはすぐに列を作った。


そのとき少し向こうでざわめきが起こった。

そちらの方角から、パンパンらしい若い女が走ってきた。

追われているらしい。


「捕まえろ!スリだ」


声がかかった。

すぐにふたりの男が女の両腕を捕まえ、吊し上げた。

女はもがいたが、逃げられない。


「へっ、証拠があるのか? 出てこないよ」


女はそう叫んだ。

そして不敵に笑いつつ、連行されていった。

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