第1話 負けたくない!
いよいよ始まりました。第一回です。主人公、吉岡絆と、パートナー的存在、湊優の受験物語です!
闇に落ちた。受験で大事な時に余計なことばかりを考えて、自滅した。そのまま何も考えずに行けば、まだ希望はあったかもしれないのに、その可能性も捨ててしまった。もう全て終わりなのか。しかしそんな中で、高校の卒業式の最後にある卒業生から発せられたある言葉が、バカにした奴らを見返したいという思いが、もう一度コートに立つ決意をくれた。もう一度立ち上がりたい。勝ちたい。
そうして一人の人間が立ち上がった。
3月10日、SNSを開くと、合格、不合格を報告する人々が次々と現れた。ハッシュタグを付け加えて春から大学生になるユーザーが次々とツイートをした。
「東京大学文化科一類合格しました!皆さんありがとうございました!」
「京大合格!#春から京大」
「おめでとうございます!」
「お疲れ様でした!」
そんな中、そのような報告どころか、自分の夢を実現どころか、やりもせず、途中で諦めてしまったその人は、なんてことをしてしまったんだという気持ちがあった。自業自得だ。そう思った。自分はこのままではいけない。ダメな自分を変えたい。そう決意したその人は、腕にスマートフォンを装着して、頭にある装置を装着した。その人は一瞬にして消えていった。
✳︎
広大な土地が広がるとある島で、多くの人々が問題を出題する魔物、「デ問」を倒し、経験値を稼ぐのに躍起になっていた。その中で、黄色い長袖のシャツ、少し長めの短パンを着て、黒い髪をした168cm程で、見た目としては優しいイメージを持つタレ目の男、湊優は巨大な鳥型のデ問を倒すのに苦労を強いていた。
不等式|a^2-2a-3|≧3-aを解け。
「えぇ!?えぇと……まずは…絶対値を場合分けして……ううんと…ううんと………!」
逢坂良太さんのような声で独り言をして計算をするも、解法の糸口をつかめず、パッドでむだな計算をし、もたもたしていた湊は、デ問の一撃を受けて、倒れてしまった。デ問はその場から逃げてしまった。
その周りにいた人々に湊は笑われた。
「あんなの小学生でも解けるっつーの!」
「なんであんなの解けねぇんだよ!」
「ウゥ…どうして僕は…こううまくいかないんだろう…」
近くにある町に戻り、居酒屋のような場所のカウンターの席で一人、湊はぐったりと座っていた。
「はぁ…どうしたらいいんだろう。何が行けないのかな…」
カウンターの前に立っていたマスターのような服装をした男は言った。
「まぁ、でも湊君は仮面浪人生だからねぇ。仕方がないよ。他の現役の高校三年生や、予備校に通う浪人生とは違って勉強時間は少ないからねぇ。」
「ウゥ…言葉も出ません…」
「しかしすごいね。大学にも行きながら受験勉強するなんて。成功率が低いとわかっててやってるのかい?」
「はい…やっぱり諦めきれないというか…」
「まぁ、物事前向きがいいよ。頑張るんだぞ。」
湊優は早稲田大学を目指していたが、点数がほとんど届かず落ちてしまい、滑り止めに進学することになった大学一年生である。親の反対によって浪人が許されなかったので、仕方なく、仮面浪人をしたのである。しかし、仮面浪人というのは、大学に行きながら受験勉強をするということ。仮に落ちたとしても、大学には残ることはできる。しかし、特にデメリットとして大きいのは、大学の勉強もしなければならないゆえに、他の浪人生や現役生と比べると、圧倒的に勉強時間が減ってしまうということだ。インターネットやSNSでも、仮面浪人に対しては、よく思われておらず、批判的なコメントが多い。それでも仮面浪人をするとなれば相当な精神力が必要だ。湊はまだ諦められない気持ちで、受験勉強を続けていた。
「それより、バーチャルスタディシステム、通称VSSを考えた人は本当に天才だねぇ。仮想世界で勉強できるんだからな。」
「確かにそうですよね。」
VSSとは、受験生向けに開発された勉強をテーマにした仮想空間である。2018年の3月に発表され、1年後の2019年に最初のバージョンをリリースすることが、アプリ会社、「アプリコット」から発表され、一躍有名になった、机に向かう勉強をやめ、勉強を楽しませるためという目的のもと、RPGゲームのような感覚で、問いを出題する「デ問」という魔物を次々と倒して行くアプリである。スマートフォンを所持している人間はアプリをダウンロードし、仮に持ってなかったとしても、専用の1万円程で購入できるVSS専用スマートフォンと特殊なVRメガネがあれば、インターネットの環境がなくとも誰でも利用することができる。腕にスマートフォンを装着して、アプリを起動した後、連動したVRメガネをかければ、仮想空間にワープする。現実と仮想空間の時刻は並行しており、いつでも行き来が可能。魔物を倒して、金さえ稼げば、仮想空間の世界で生活することも不可能ではない。しかしそれは非常に困難で、ホームレスより難しい。なぜなら、その稼げる金は、たとえ倒しても2円や3円程度。難問を出題する強いデ問でさえ100円などである。現実の世界と比べると高が知れているからだ。稼げると言っても小遣いぐらいの量を稼げればいい方だ。小中学生、高校生。さらにいえば浪人生、いや、全年齢を対象としたゲームであるため、老人だろうが、子供だろうが誰でもプレイすることができ、学年や年齢に合わせて、問題の難しさも変わってくる。たとえ小学生でもごく少数だが、高校の学習範囲もプレイすることができる。逆もしかりだ。プレイヤーは、好きな武器を購入したり、すきなコスチュームで戦うことができる。魔王などと言ったラスボスは存在せず、存在するとするならば、受験生からすれば、センター試験や2次試験だろう。
「そういえば、最近、不良の噂を聞いたことあるかい?」
「?なんですかそれ?」
「最近、夜になると、10人くらいの不良のグループが、いろんな町を、バイクでうろついたりするらしいんだよ。そして、受験生を見つけては、そいつから金や武器を奪ったりするみたいだ。」
「なんかどこかの世紀末みたいですね…」
湊は呆れた顔で言った。
「だからここの人々はみんな、夜になると、ログアウト、つまり、元の世界に逃げちゃうんだよねぇ。湊君も気をつけたほうがいいよ。」
「………不良ねぇ………」
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そしてその夜、湊は疲れて眠っていた。戦いに疲れ、ログアウトをすることを忘れたまま、昼寝から4時間が経ち、気がつけば、夜の7時になっていた。起きた時、マスターから聞いた不良の話を思い出した。
「……は!!!早く現実世界に戻らないと!」
すると、外から妙な音が聞こえる。エンジン音だ。何が起きているのか、外へ出て小屋から覗くと、そこにはバイクに乗ったスキンヘッドやモヒカンなどの、いかにも不良らしい男たちがバイクを走らせていた。その不良たちの前方に、倒されたプレイヤーがいた。
実はVSSには、プレイヤー同士で問題を出し合うシステムも導入されている。二人で行い、お互いに問を出し合い、初見の問題を共有し合うという趣旨で作られたシステムである。問題は自分で作成することも可能で、特に上位のプレイヤーにその傾向が強い。勝利条件は先にプレイヤーの体力を0にした方で、勝てば相手から賞金を獲得でき、その賞金で、武器やスキルを購入できる。不良たちは倒したプレイヤーから所持金を奪った。
もしかして…あれがマスターの言ってたやつなのかな…?
湊の脳が危険信号を発している。すぐさまログアウトをしようと試みたとき、足元の木の枝を踏んでしまった。
しまった!
すると不良たちは枝の音がした方向へ一斉に向き、
「へへへ…まだいやがったのか!にがさねぇぜ!」
そういうと、不良の一人が腕のスマートフォンのVSSアプリからバトルモードを起動した。すると湊のスマートフォンもバトルモードが発動し、強制的にバトルが開始された。
「うわあああ!」
「知ってるだろうが、バトルが終わるまでログアウトはできねぇ!テメェの有り金全部かっさらうまでたんまり勝負してやんぜ!」
いくぜ!おらぁ!
出題されたのは数学の問題。しかし湊は数学は大の苦手科目。
「ええ!?数学!?うわぁ!!確率の問題だ!えぇと…ええと」
「時間切れだぁ!おらぁ!」
問題には制限時間が存在し、時間切れ、もしくは不正解だと、相手に攻撃されるのだ。湊は時間切れのため、不良から棍棒による一撃を受けた。
「うわああぁ!」
「こいつ数学ができねぇみてぇだな!」
「ちょうどいいぜ!数学の問題たくさんサービスしてやるよ!」
すると不良たちは数学の問題を多く出題し、湊を混乱させた
「こ……こんなに無理だよ…僕、数学は…」
「ヒャーーッはっはっは!時間切れぇ!喰らえ!」
棍棒などの攻撃に耐える湊。しかし、このままでは解けないまま体力が尽きてしまう。
「とどめだぁ!」
不良が棍棒を振り上げて湊にとどめを刺そうとした。
「うわああああああああ!」
その時、空からナイフが降ってきて、棍棒が弾かれた。
な…!?
不良たちは驚き剣が降ってきた方を振り向いた。するとその先にはひとりのプレイヤーが家屋の上に立っていた。その顔は子供っぽい、いわゆるショタと呼ぶにふさわしい顔をしており、青ぶちのスクエア型のメガネをかけている。袖が少し短いボタン全開で赤いポロシャツに黒いシャツを着ており、紺色で脚が少し見えるGパン、赤いスニーカーを履いていた。湊と不良は中性的な髪型と少し大きな黒い瞳をしていたことから女性だろうと思った。
「だ……誰だ!」
するとその1人のプレイヤーは飛び出し、湊の前に着地して、本泉莉奈さんのような声で話した。
「吉岡絆。東京大学を目指す受験生だ。」
「な……!東大!?」
「東大って……あの東大かよ……!!」
湊も驚いた。東大を目指す人とは初めてあった。しかしいくら東大志望者とはいえ、この不良たち相手には多勢に無勢。いくらなんでも無理がある。
「よ…吉岡さん!逃げて!いくらなんでもこんなに大勢相手するのは……!」
しかし吉岡は何も返事をしなかった。
「く…東大となりゃ、相当なやつだ!おいお前ら!あいつに出題だ!」
「おおおお!」
「吉岡さんあぶない!」
吉岡は腰に装着していたスマートフォンを腕に装着し、ナイフを持ち、バトルモードを起動した。
「いくぞ!!吉岡とかいうやつ!」
「おらぁ!」
吉岡に大量の問題が出題された。数学だ。すると吉岡は敢然と問題に対して計算を始めた。
すごい速さだ。計算をどんどんと進めてる。あの計算の速さ、メカなのだろうかと疑うほどだ。湊には冷静に計算してるように見えた。
計算が終了した中、回答をスマホ内に入力し、吉岡はデ問に向けてナイフを振りかざすと、ナイフから三日月型のビームが出てきた。
「よし!これでデ問を……!」
しかしおどろいたことに、その攻撃は跳ね返った。その攻撃は吉岡に直撃し、えっという一声とともに吹っ飛ばされた。計算ミスをしてしまったのか、考え方、指針が違ったのか、どちらにせよ間違ってたら返り討ちにされてしまうのだ。
「………は?なんだこいつ、東大っつった割には………」
不良たちがざわざわとするなか、吉岡を見ると、変な汗をドロドロと流しているのが湊にはわかった。
「あの………吉岡さん……?」
「あ………いや……あの……その………い今のはあれだよ、その〜〜あれ!問題の読み間違え!」
いや、東大志望者でなくてもやっちゃあいかんでしょ。
心の中で、不良たちはそう突っ込んだ。
「と……とにかく、今のはちょっと気を緩んでただけだ!もういっちょ!」
不良は次は地理の問題を出題した。
問題
ナイル川にダムが建設されたことで洪水が減少したが、あることで問題が起きた。それは何か説明せよ。
湊はおそらくさっきのはちょっとしたミスだろうと思い、次こそは解いてくれると期待を寄せていた。しかし、吉岡を見ると、
な……はぁ!?ダム!?やばい………知らん…
と言わんばかりの顔だった。一応回答は書いているが、それは全くの不正解。当然攻撃も反射して吉岡に当たった。
「ぎゃああああああああ!」
「吉岡さぁーーーーん!」
ツッコミと哀れみが混ざったような表情で湊は言った。
ぽてんと落ちた吉岡の姿は哀れという表現も可愛く感じた。
読んでくださってありがとうございました!第2話も読んでいただけたらと思います!では!