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第18話 碧空の下に



 ーー ミレーナは暫くの間、リナリーに抱き付いて泣いていた…のだが、「ほへ…⁉︎」 と間抜けな声を出すと、ようやく自分の身体が幼児体型になって、しかも全裸だって事に気が付き大騒ぎする


 「…な⁉︎ っ‼︎ …創介……見た…?」


 更には男の俺に裸を見られた事がショックだったのか半泣きで抗議して来たので「チビっ子に興味は無いから安心しろ」と優しく言ってやると、顔を真っ赤にして怒られた。


 どうやら見た目は幼女、中身は乙女だった様だーー ってそんな事よりも、リナリーが氷の微笑を浮かべ俺に無言の圧力を掛けてくるのだが……マズいな… "チビっ子 "という単語が地雷だったか⁉︎



 ……取り敢えず、素知らぬ顔でやり過ごそう……今のリナリーを怒らせてはいけない気がする…

 触らぬ神に祟りなしという奴だな


 苦し紛れに口笛をピューっと吹いて空を見上げる俺に、リナリーはちょっぴり冷ややかな視線を向けるがそれ以上は追求してこなかった……ほっ、助かった…


 〈〈 …ソースケさんの態度が気になりますが……こほん、それよりもミレーナ、あのお2方もそろそろ目覚めそうですよ… 〉〉



 リナリーは気を取り直す様に咳払いをすると、ぶかぶかになった上着をワンピースみたいに着込んだミレーナへ話し掛ける


 

 その言葉に瞳を大きく見開いてジッと繭の行く末を見守るミレーナ。 その肩を勇気づける様にリナリーはそっと手を置く



 ーーやがて、輝きを放つ2つの繭の中から少し幼くなった兄弟が現れた


 「これ…は?」「オレ達…どうして⁉︎」


 年の頃は15・16歳位だろうか、利発そうな兄と活発そうな弟… 元は俺より年上だったと思う、その2人の顔立ちは少し中性的になり、身長も縮んで青年から少年へと変化していた。


 まあ、幼女化したミレーナ程のインパクトはないから全く別人とまでは感じないが…


     「お兄さま…‼︎」


 そんな事を考えている俺を余所に、瞳を輝かせて2人に飛び込んだミレーナ


 だが、自分たちの身に起こった事態に理解が追いつけない2人は困惑しながらミレーナの抱擁に目を白黒させる



 俺達は暫く、そんな奇跡の光景に見つめていた……



 「ウチには何がにゃんだかサッパリにゃ…夢でも見てるにゃんか? …ポースケは落ち着いてるけど何か知ってるにゃ?」


 全く流れについて行けないペンネが釈然としない顔で俺へ問いかけてくる……そりゃそうだろう俺も " ファレン " に聞かされてなければ馬鹿みたいに狼狽えている自信がある。


 「そうだな、敢えて言うとすれば……リナリーマジ天使!ってやつだな‼︎」


 「それ只の感想にゃ! しかもポースケの主観だけの!テキトー過ぎて説明になってないにゃんよ⁉︎」


 そんなペンネのツッコミに俺は、晴れやかな笑顔を返した。 ーー 今はまだ、リナリーの素性に関して公にしない方が良い気がするし… 俺の下手な説明では更に混乱を招きかねない…なにより、リナリー自身が自分が女神の生まれ変わりだと自覚しているのかすら解らないしな



 〈〈 アナタ方に施されていた魂の改変を本来在るべき輪廻に回帰させました。肉体の損傷が激しく、使える素体が少なかったが故に見た目が幼くなってしまったのは止むを得ません…ですが、3人の魂は完全に元通りです。勇者ユミカの呪縛から解放されていますよ 〉〉


 リナリーの説明で4人は更に混乱したが事実なので仕方ない…真実はいつも1つ!って見た目は子供、頭脳は大人な彼も言っているのだ。

 間違いない、じっちゃんの名にかけて!



 ただ、ユミカの呪縛から解き放たれた事は理解出来たようで…3人はお互いを抱きしめ合い喜びを分かち合っていた


 落ち着いた頃を見計らって俺は、2人にいつまでもフルチンで動き回られるのもアレなので服を着ろと注意する。

 そこで初めて自分達がマッパだと気付いて慌てて服を着る2人…だが、流石にサイズが大き過ぎて無理だった


 仕方ないので応急的に外套で隠しておこう


 というかこの2人…俺に裸を見られたとか言って、赤面しながら恥ずかしそうに俺を上目遣いで見て来るが…目付きがなんというか……イヤイヤイヤ! 辞めておこう俺の気の所為だ!そうに違いない!!

 知らぬが仏って奴だっっ!!!


 外套をナイフで短くし、紐を腰に巻いて簡易的なローブにする事で何とかそれっぽく見える…元々エルフ族特有の美男美女な3人なのだ、何を着てもそれなりに着こなしてしまうのは素直に羨ましい……


 居住まいを正した3人は真剣な表情になって、改まった姿勢…(片膝を立て、手を組んで祈る様な格好)になると、突然俺達に畏まりだした


 「この度は我ら兄妹……何よりミレーナをお救いいただき、心からの感謝とこれまでの非礼をお詫び申し上げます」


 タイラ…いやマルクスと言ったか、兄の言葉に続いて弟のウレイオとミレーナも深々と頭を下げる


 「わたし…みんなを騙して…酷い事をしようとしてた……本当に…本当にごめんなさい!」


 頬を強張らせ自責の痛みで今にも押し潰されそうな顔をする3人…だけど、人格を弄られ従わなければ肉体が崩壊する呪いを掛けられて…聞けば、命すら既に奪われていたとう……



 そんな彼等にどれだけの罪があるのか…



     俺には分からなかった。

 ただその元凶は今尚、何食わぬ顔で何事かを企んでいる…


 「……お前らはこれからどうしたいニャンか?」


 責めることもなく、ペンネはただ3人へ質問するーー それを聞いた兄弟2人が真っ直ぐな目を向け、それぞれの想いを口にする


 「今回の件をエルフ国へ持ち帰り、国王へ報告したいと思います… 勇者ユミカが起こした今回の事件…最早、一個人の問題では治りません。重大な条約違反としてライダ帝国へ責任の追及を行ないたいと考えております…」



 「オレは…ユミカをこのまま野放しには出来ない! 今すぐにでも復讐がしたい… ミレーナを利用したあの日の奴の顔をオレは一生忘れない…‼︎」


 マルクスに次いでウレイオが答えた…というか、ウレイオが若干危ない橋を渡ろうとしている…策も無しに突っ走って、また操られでもしたら折角取り戻した命を無駄にしてしまうかも知れないのに……だけど、その想いを鼻で笑う様な真似は出来なかった。

 


 「そう言えば聞きたいんだが、ユミカはダイレンで何をしてるんだ?」


 ふと俺は頭に浮かんだ疑問を聞いてみる。


 俺達がユミカに出会った時、アイツは大型魔獣の調査に来たとか言っていた だけどリナリーが破滅の魔女だと知っていたとなるとそれがただの方便だと分かる


 温泉地でのんびり観光…なんて事はあり得ないよな


 「ボクも具体的に何をするのかは聞かされていません…ただ、ユミカが "超越者" という存在へと至る為、ダイレンという舞台が必要なのだと言っていました」



  "超越者" ? 一体何の事かとリナリーやペンネに目線を送ってみるも、2人とも首を横に振って心当たりがなさそうだった。


   ……嫌な予感しかしないな。



 それぞれが押し黙り、沈黙が俺達を包む中……唐突にリナリーが痛苦の声を上げた



 〈〈 ーーこれはっ…⁉︎ まさか……ぐぅっ! 〉〉


 その場にバタリと倒れ込むリナリー

      「ーー⁉︎ おねえちゃん‼︎」



 ミレーナが大声を上げ、俺は慌ててリナリーを抱えて彼女の状態を確認するーー


 目を見開いて浅く忙しい呼吸を繰り返すリナリー……ひどく顔色も悪い。 いきなりどうしてこんな事に!?


 「リナリーどうした!何が起きた⁉︎」


 返事はなく、苦痛に顔を歪ませるリナリーの見開かれた瞳を覗き込む……其処には、俺の姿を映すことなく角膜の上を猛スピードで文字の羅列が移動して行くのが見えたーー



 息を呑んでその光景を観察していると文字が途切れ、同時にリナリーの瞼がスッと閉じて深く息を吐いた……やがて、意識が途切れたと"ファレン"が教えてくれた


 《 ……ここへ来るまでの外傷…そして、覚醒時の消耗が限界を迎えたようです…暫く休めば意識を取り戻すでしょう…心配要りませんよ… 》



 俺を安心させるように"ファレン" がリナリーの症状を説明してくれた。 それを聞いてホッと胸をなで下ろす俺だったが……

 よく見ればリナリーの白い服にはあちこち血が滲み、その透き通る白い肌に幾つもの裂傷や痣が出来て痛ましい…


 その姿を見て、俺はリナリーに頼り過ぎて無理をさせていた事にようやく気が付いた……


 不安げな顔をしているミレーナへ大丈夫だと告げて、 "ファレン" から聞いた事を説明する。ともかく今はこの洞窟から出る事を優先しようと皆んなに伝えたーー



 《 …この洞窟を侵食した寄生樹は既に絶命しております… "ニュートンアメージング" ならばこの寄生洞窟ごと消滅させる事ができるでしょう…先程通って来た、天井が透けた広い空間ならば崩壊の影響も少ないかと…》


 (……分かった、そうしよう…)


 一瞬、俺が吹き飛ばした寄生樹の実が脳裏を過ぎったが…今は何も考えるのはやめよう…


  "ファレン" の言葉に従いリナリーを抱きかかえて、俺達は開けた場所まで戻る。

 そんな俺の後ろを皆んなはただ黙って付いて来た




 「変身…   ファレンカイザー 」


   瞬間、眩い光が俺とリナリーを包み込んで行く…


    「ーー⁉︎ 創介、真っ黒な鎧の姿になった…?」


 ミレーナが俺の変身に目をまん丸にして驚いているが、説明は後回しにして全員を俺とリナリーの周囲に集まってもらう。

 もし天井が落ちてきてもこの距離なら対処は簡単だしな



   「 ニュートン・アメージング!」


  洞窟全体を標的に定め、俺は叫んだ。


 対象を内側へ吸い込み消しさる必殺の技が洞窟内を震えさせるーー

 瞬時に視界の奥の壁面へ、まるで渦を巻くように寄生樹の樹海が吸い込まれて行った


 「うにゃん⁉︎」 「ぐはっ目が回る!」

 「じ、地面がうねったぁ!」 「創介とぉおねえちゃんがぁ…ぐるぐるぐるぐふ〜…」


 うぷ! 目が酔うなこれは! ほんの数秒程度だけど視界が無茶苦茶になって皆んな腰が砕けた様に地面に手を着いている

 リナリーを抱えて倒れられない俺は回る視界を何とか戻そうと頭上を見上げたーー

 次の瞬間…俺の目に飛び込んできたのは 辺り一面、遮蔽物のない見事な青空だった……



 見渡せば…俺達がいた洞窟だった丘が綺麗さっぱり無くなって、辺り三百メートル程の大地が何も無い更地と化していた……



 あ、コレやっちゃいけないやつだ。



 ………これはアレだ、"ボクまたやっちゃいました?" 系だ。 無自覚を装った確信犯だ。だってほら、皆んなの顔が若干引いてるもん…



 「ふわわ…そ、創介って…何者…⁉︎」


 「にゃはは…♪ タイラントの時もビックリしたけど、やっぱり今回も無茶苦茶にゃん!さすがポースケ♪」



  「「「……え…タイラント⁉︎」」」


 突然自分達のいた洞窟が跡形もなくなって驚愕するミレーナ達に、更に拍車をかける様に俺の武勇伝を熱く語り出したペンネ…… 恥ずかしい!そーいうの要らないから!スネ夫に煽てられて威張ってるジャイアンみたいだから!!


 「タイラント…ってあの宙に浮かんで爆発した…?…うえぇぇぇぇ⁉︎」


 「兄さん、やっぱり()()()は凄い人だったんだ!」


 「ああ! こんな奇跡を軽々と起こすなんて…創介様にボクたちが束になっても敵わなかったのは当然だったんだ!」


 居た堪れない気分になってコソコソと変身を解いていると、珍しく大口開けてマヌケな顔で絶叫するミレーナに、何故か高揚した顔ではしゃぎ出すウレイオとマルクス……ア、アニキって俺の事? って言うか、何でそんなに頬を染めて俺を見てるんだこの兄弟!? 怖い!怖いよ!?


 何だか背筋に変な汗が流れてくるんですけど…気の所為ですよね?ボク何かやっちゃいました?



 そんな俺達に向かって洞窟の入り口があった方角から複数名の一団が近づいて来るのが見えたーー

    あれは盗賊の残党…か?



 「ダ、ダンナこりゃあどうなってるんでブヒか⁉︎ オレ達のアジトが……」


 ブタがドタドタと引き連れて来たのは、昨夜俺達を襲撃しに来た獣人達のようだ


 自分達のアジトが綺麗さっぱりと砂漠化したからか顔面蒼白になってブタの後ろを歩いてくる一団。


 「なんにゃ? オマエら何しに来たニャンか⁉︎ またちょっかいかけて来るって言うなら容赦しないにゃ」


 ペンネが怪訝な顔で連中を睨み付けながら、俺がアジトだった洞窟を物理的に消滅させたと説明する。


 その文句を言わせない言動にブタ達は震え上がり、まるで俺が恐怖の大王とでも言いたげに怯えられた… 俺は何も言ってないのに…そうやってまたジャイアン扱いするのやめて欲しいんだけど……


 「めめめ、滅相も無いブヒ〜!オレたちゃダンナのお陰で目が覚めたんでブヒ、今日限りでクライム盗賊団は解散するつもりでいるんでブヒ〜!」


 そう叫ぶとブタの後ろにいた子分達が一斉に俺達に頭を下げてくる


 どうやらブタは俺が寄生樹達を殺さずに助けようとしていた事を知って、自分達が今まで行っていた盗賊という生業が恥ずかしくなったらしい…


 「ダンナの心意気に感銘を受けたでブヒ…今まで落ちこぼれだったオレ達に、こんな情けを掛けてくれた人はダンナが初めてなんでブヒ! オレ達アンタに一生付いて行くブヒ‼︎」


 よく分からんが、別に悪党を好き好んで助けたわけじゃないぞ? 今回はたまたまコイツらが理不尽に晒されていただけ コイツらがもし、俺の目の前で誰かを襲っていればその時は容赦なく叩き潰していただろう


 「俺は聖人君子じゃない、お前達が都合良く改心しようが知ったこっちゃない 犯した罪は消えないんだ。 一生付いて来るとかフザケた事言ってないでまずは自分達の罪を償うのが筋だろ?」


 ブタの目を見てハッキリと告げる。

付いて来るとか絶対お断りだし、コイツらの面倒なんて真っ平ゴメンだ。


 当然のことを言われ情けなく引き退るブタ達を尻目に、腕の中で未だ意識を取り戻さないリナリーの様子を伺っていると、薄っすらとその瞼が開いて行くのが見えたーー


     「あ…れ、ワタシは…」


「気が付いたかリナリー、大丈夫?」

          「…ソースケさん」


 まだ顔色は優れないが、少しだけ頬に赤みが射したリナリーは俺に気付いて笑顔を見せた。


 「おねえちゃん‼︎」「起きたにゃんかリナリー!」


 目を覚ましたリナリーへミレーナ達が嬉しそうに近寄って来る。

 まだフラつくリナリーを支えながら立たせると、弱々しく微笑んでもう大丈夫ですと、半ベソをかいているミレーナの頭を撫でた…


 そんな微笑ましい光景をマルクスとウレイオの兄弟、そしてペンネが取り囲んで見守る



 こうして、俺の冒険者として初めての仕事は終わった。



 色々な事が起きたミレーナの依頼だったが、最後は全員の笑顔で終われて良かった……まだ解決してない問題は山積みだし、何をすべきかも決まってはいないが、今はこの瞬間を大切にしよう。



 リナリーを中心に喜び合う彼等、彼女達の晴れやかな表情を眺めながら、俺は青く澄み渡った空を見上げた。





 だが、リナリーが次に発した言葉が、まだ問題は解決していない事を……最悪の舞台が待っている事を告げるーー





 「ーー 現在、国境の街ダイレンに於いて大規模な集団殺戮が繰り広げられています。 既に殆どの者が勇者ユミカの手に依って彼女の傀儡とされました……」






        女神と魔女編   終わり


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