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第4話 伸ばした手

 「そっ、創介そーすけ!私っ、ず、ずっと前から好きだったの!」


 高校入学直後の放課後、その日は博樹が用事があるとかで2人きりでの帰り道。


 「んへ⁈、な、何が?」


 突然の結の告白に俺は相変わらずの間の抜けた返事を返す…いきなりだったし、勘違いだったらカッコ悪いとかそんな事ばかり頭の中でグルグルと回転していた。


 「だ、だからっ、ね…その…創介の…こと………」


 歓喜でドーパミンが溢れ出す。心臓がバッキンバッキンだ。


 「は…ははっ、そ、それは何とも奇特な…い、いや、も、もはや、リスペクトな感じ?有り難さ的にはマジ卍神、的な…?」


 あぁ、俺の阿保………こんなふざけた事が言いたいんじゃ無いのに…上手く言葉が出てこないよ俺って奴は…


 普段の結ならこんな寒いボケにライダーキック張りのマジ蹴りを炸裂させるのだが…


 「そう!そうよ!私は女神よ!尊いのよっ、ひ、ひれ伏しなさい!」


 …彼女も何やら出来上がっていた。


 俺は咄嗟に片膝を着き、崇める様に手を合わせる。


 「め、女神様。今の言葉 謹んでお受け致します。」


 俺達のアオハルは新喜劇だった…


 「……って!ちがーうっ!もっとロマンチックにしてよぉぉっ!」



 結の涙ながらの絶叫が空へと響き渡る。



 その横を孫娘を連れだった爺さんが横切る。

 「おじいちゃん!今日はハンバーグが食べたいっ!」


 「あまーーーいっっっ‼︎」


 うるせぇよ!ハンバーグ師匠‼︎




 その後、改めて俺の素直な気持ちを伝え、晴れて2人は恋人となった。


 …あの日の結の笑顔は今でも俺の胸に焼き付いている…



……………………………………………………



 ユイはほんのりと頬を染め博樹ヒロキと互いに手を繋ぎ、恥ずかしそうに民衆の視線の中寄り添っている異世界ファンタジーの勇者として…



  俺の……目の前で……


 周りは拍手喝采。おめでとうだとか、指笛を吹いて囃し立てる馬鹿も居る…



 何がどうなっているのか分からない。

嫌な汗が流れてくる、視覚の情報と俺の認識が噛み合わない。


 高い所からいきなり突き落とされた様な滑落感を感じ、自分が立っているのかどうか定かじゃ無くなって行く…


     「ぅっぷっ…っ…」 


 襲い来る嘔吐感…


 それを必死に飲み込みながら焦点の合わない視線を向け、人ゴミを掻き分ける。


 何も考えられない。それでもとにかく2人の所へ行かなくちゃ…


 …こんな悪夢は笑えない…


 ははっ…それにしても博樹ヒロキユイも変な格好してるなぁ…鎧なんか着込んで…立派なマントまで羽織って…今度の学芸会って異世界ファンタジーだっ…たっ…け…?


 何なんだよ2人して…笑い合って……


   何がそんなに………


 「なぁ…ヒロ…キ……ユイ…」


 「ヒロキ!……ユイィィィッ!!」


 俺は叫び声と共に2人の前に立つ。

遂に2人が、目の前に現れた俺に気付いた。


 「……そー…すけ…?」


 驚愕の表情を浮かべる2人。


 壇上も何事かとざわめき立つ


 「…創介そーすけなのか…?どうしてお前が()()に…⁈」


 博樹が呻く様に呟く。


 「俺…は、お前達を探しに…」


 「探しに?…はっ⁈お前も召喚されたのか⁈…一体誰に?誰に召喚されたんだ⁈」


 召喚?……「何…言って…⁈」


 すると豪華なローブを着たおっさんが博樹達に近付いてくる。俺には周囲にいた衛兵の様な奴等が…

 

 「ヒロキ殿この者は⁈」


 「ケイド儀典長。か、彼は…その…」


 博樹は何か言い澱みながら俺へ視線を向けている。

 そこへ更に見た目は中学生の様な少女も慌てた様子で博樹に詰め掛ける。


 「ヒロキさん先程、召喚と言いましたが一体どういうことですか⁈」


 「リナリー師匠…いえ、それは…」


 師匠⁈こんな小さな娘が師匠だって⁈

コイツ人が必死に探し回ってたのに何チビロリと師弟ゴッコしてんだ⁈


 「博樹何なんだよこれは⁈ 一体どうなってんだ? なぁっ…答えろよ!」


 「創介……っ」


 知らず声を荒げてしまう。しかしそれがこの場を最悪の方向へ向けてしまう。


 「…なんで?…っなんで今更来るの? 」


 ずっと黙っていた結が睨みつける様に俺を見下ろしていた。


 「どうしてもっと早く来てくれなかったの⁈ 私達はずっと頑張ってたんだよ⁈ 3年だよっ! 3年間ずっと2人きりで乗り越えて来たの! 今更じゃない!」


 「ユイさん⁈ 少し落ち着いて…」

     「リナリーは黙ってて!!」


 「3年?………3年って一体⁈…」


 結の拒絶の言葉に俺は動揺する。言葉の意味もその態度にも…たった3日で一体何が起きているのかその時の俺にはまるで理解出来なかった。


 「ヒロキがどんな思いで私を守ってくれてたか分かる⁈ アンタ(創介)にヒロキを責める資格なんか無いのよ!!」


 「何だよ資格って⁈ わけわかんねぇよっ! 何で裏切られた俺が責められなくちゃならない! ふざけんなよっ!!」



  「衛兵隊よその賊を捕らえよ!!」


 ケイド儀典長(ローブのおっさん)が壇上から俺に向けて叫んだ。 


 周りの民衆は蜘蛛の子を散らす様に俺から離れていく。


 俺の周りにいた衛兵達が一斉に俺へと飛び掛ってくる!


 咄嗟に俺は最初に掴みかかって来た奴を投げ飛ばし周りの奴等に牽制の蹴りを放つ。


 「こ、コイツ!なかなか出来るぞ!」


 既に満身創痍の状態だった…何時もの身体のキレもなく、無理に動かすと節々が悲鳴を上げるカラダ…


 それでも… こんな気持ちのままコイツ等に組み敷かれることが許せなかった。




 「皆離れろ。 これで決める! "ウインドカッター"!」


 1人の衛兵が叫んだ瞬間空気がブレた様に見えた……


 ヒュバッ!!


 「ぐはっ⁈」


 脇腹に熱い風が走り抜けた様な感触が駆け抜ける。  ……手で抑えるとヌルッとした感触が伝わる。


 脇腹を見るとザックリと傷が開き血が溢れていた…  何かをされた様だ…


 今のが魔法ってやつなのか⁈

痛みで俺はもう動く気さえ起きなくなっていた… 


 もぅ…疲れた…何もかも……


 「今だ!拘束魔法 "ロックバインド"」


 今度は周りに岩の塊が突如出現し、そのまま岩が全身を覆う。


 あぁ…忌々しい程ファンタジーだ…

       …クソッたれ…


 「うそ…いやっ!創介⁈ そーすけ!」


 「やめろ!!なんて事をするんだ!!」


 顔面蒼白の結が泣き叫び、博樹が壇上から駆け降りてこちらに走り出して来るのが岩の隙間から見える。


 2人に向けて伸ばした手は 誰に届くこともなく 絡め取られた岩の中で行く当てを見失った…


 精も根も尽き、流れ出る血流が意識を掠れさせる中、それでも俺は…泣いてくれた彼女と、今にも泣きそうに駆け付けてくれる友人に変わらぬ親愛を感じずにはいられなかった。




 そうして俺は暗闇に意識を手放した……

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