第3話 辿り着いた先に待っていたもの
最後でNTRあります。シナリオ的にはそこまで酷くなく、ざまぁ無しです。不快な方はご注意下さい。
其処は煉瓦造りの家々が並ぶ路地だった。
道路は舗装されないままに大小様々な石が混じり合った土の道。
家の外壁を確かめる様に触ってみる。感触はひんやりとして硬い観たままの感触だった。
間違いではなかった
俺は向こうに見える陽が射している場所までフラフラとした足取りで歩く。
何とか到着した処は少し開けた商店らしき物が建ち並ぶ場所だった。
露天販売らしき屋台や店舗を構えた店。置いている物も野菜や食器類、食事処など雑多な雰囲気。
一見すると何処か海外の市場の様な風景だ。
しかし、その野菜も見た目は見たこともない様な根菜、葉物や果実。食器の皿やコップは陶器製から土を固めただけの見た目の物、更にどうやって使うのかも分からない形をした物まで、元いた場所とは少し違った物が多かった。
そして極め付けはその市場に溢れている人達だろう。少し日に焼けた外国風の男性女性。だけど髪の色がマトモじゃなかった。
赤や青、緑や中には綺麗な銀髪の人も居る。とてもじゃないが日本橋のコスプレイベントでも拝めない様な風景なのである。
中には動物みたいな耳と尻尾を生やした人も居る。ってか目の前を二足歩行で人の大きさをした猫が鎧を着込んで横切っていった…
やっぱり間違いない。
此処は……異世界だ。
あの魔法陣は俺達が元居た世界と此の世界とを繋ぐゲートみたいなもので、やはり博樹が言っていた異世界転移の魔法だったようだ…
ここで漫画やアニメのナウでヤングな主人公なら「異世界さんチィース!!」なんて飛んで喜んでいるかもしれないが、生憎俺は肺炎寸前の病み上がりなシャイボーイだ…挙句、どっかの転移主人公みたくオサレな上下のジャージではなくGUの上下スウェットの寝間着1980円なのだった。
俺はそこで、あの亀裂を通った時の痛みや身体のノイズの影響はどうなったのだろうと気になった。
そういや服とか破けてないかな? 裸だったらどうしよう⁈猥褻物を陳列してしまって無いよな⁈
焦った俺は自分の身体を見渡すが服はそのままのGU。指や手足などもなんの影響も無さそうだった。
取り敢えずは良かった…。
しかし痛みの残滓か或いは風邪のぶり返しなのか心身ともに異常に疲れていた。
半端なくしんどかった。
疲れを意識してしまったからか俺は段々と目の焦点が合わなくなって来る。
あぁ、ヤバイ…倒れそうだ…
そう思い、その場に倒れそうになったが誰かが不意に支えてくれる。
「兄ちゃん大丈夫かい?」
見ると先程の二足歩行の猫が俺の身体を支えてくれていた。
「すみません…ちょっとフラついただけです…」
支えられた手をそっと押し戻しながらそう答える。
「おぅおぅなんでぇ、顔色が悪りぃじゃねぇかい! 待ってな今いいの出してやっから!」
がらっぱち口調の猫のオッサンはそう言うと腰に下げた袋から何やら怪しい小瓶を差し出してきた。
「ほらよぉ!ポーションでぇ!一本やっときな!」
ポーションってゲームに出て来る回復薬の事?スゲェな異世界…
しかし、見るからに怪しい小瓶をおいそれと口には入れれないので持ち合わせが無いと言い訳をして断った。
ところがこの猫オヤジは顔を顰めながら
「べらんめぇ!オレっちから差し出したポーションに金なんか取ったらポーション様に叱られらぁっ!」
ポーションって崇める物なのか…?
が鳴り付けながら小瓶をオレに握らせた猫オヤジは満足そうに毛むくじゃらの顔を綻ばせ、頷きながらして去って行く。
「ポーション呑んで元気100倍!っとくらぁ!」
去り際にそんな謎の言葉を残して…
異世界のアンパン◯ン的な存在なんだろうか…それともこの世界では皆あんな感じなのか?
いや、周りの視線がなんか気の毒そうに変な奴に絡まれた憐れな被害者を見る目で見られている…。
俺は手渡されたポーション?を見つめながらも悪い人 (猫?)では無かったと感じていた。
小瓶の蓋を開け匂いを嗅ぐ。
思ったよりいい匂い。仄かに甘い清涼感のある香りがする。
ペロ…⁈…こ、これは!
躊躇しながらも一気に飲み干す。
とても馴染みのある味だった。
なんというか元気ハツラツな味だった。
勝利の法則が決まりそうな味だった。
ぶっちゃけ、ポーションは栄養ドリンクでした。飲んだら体がピカーっと光ってHP回復!なんて期待したのだがなんの変化も感じられない…
まぁ、そんな都合のいい良い物なら簡単にただで貰えるわけないか…
俺はフラつきながらも先程より力強く歩き出した。何というか、栄養ドリンクとかって飲んだという気持ちの方に効果がある気がする。プラシーボ効果ってヤツだろう。
少し脱線したが俺はやらなければならない事を思い出しす。
あの日消えた2人の事。
もし結達も此処へ来たのならば何か情報があるかも知れない。こんなに人が居るなら誰かしら事情を知っているかも…
俺は目に映る光景が、此処が異界なのだと思い知らされながら市場を進み、少し気の良さそうな人を見付けては3日前に此処へ来たかも知れない2人の事を聞いて回る。
が、手掛かりは掴めなかった…
不安が過ぎるが何とか気持ちを前に向かせ更に進む。
市場を抜けると其処はさっきよりも開けた広場の様な場所に辿り着いた。
広場には人が溢れかえっており、中央付近にはステージの様な壇上が備え付けられその上に数人の人が立っている。
皆そちらへ向きながらザワザワと歓喜の声を挙げている。
周りからは「勇者様」とか「ルトラの希望」「ルトラ王国万歳!」とか声を出して壇上に注目していた。
壇上には豪華なローブを纏った厳格そうなおっさんが何か二言三言叫んでいる。
俺は少し気になり人垣を掻き分けながらその壇上に近づいた。
「300年もの長き間、多くの勇者が成し得なかった偉業を成したのだ!あの我等の宿敵、魔王の一人をなんと!ここに居る勇者様一行が討伐したのだ!!」
瞬間、広場は一斉に歓喜の声に包まれた。
『うおおおおぉぉぉ!!!』
俺はその声に1人だけビックリして飛び上がった。
やめてよそういうの!お母さんビックリするでしょ!と心の中で苦言を呈す。
魔王とか勇者とかファンタジー満載の単語が聞こえたがそんな事よりも俺は壇上の上に居る人物が気になっていた。
するとローブのおっさんがその人物をみんなの前に紹介した。
「その者こそここに居る勇者ヒロキ殿である!」
またも広場に歓声が上がる!
ヒロキ……?今、そう聞こえた…
俺は夢中で人波を掻き分ける。
「ヒロ…キ…⁈…博樹!」
声を上げても壇上にはまだ遠く、俺の声は民衆の歓声にかき消される。
博樹は皆んなの声に応える様に手をあげ話し出した。
「みんな有り難う。長きに渡りこの世界を苦しめている魔王の一人"ジャックル"をオレ達は討ち取った! これもみんなの応援有っての事だっ! そして全ては偉大なる我等が女神様の導きに他ならない!」
「勇者サマー!」「女神様に感謝を!」
博樹の言葉に皆ヒートアップして行く。中には涙を流し祈りを捧げる人達もいる。
そんな渦の中を少しでも近付こうと揉みくちゃにされなが進む。
博樹の演説はまだ続く。
「それともう一つみんなに伝えたい事があるっ」
そう言うと皆は水を打ったように静まりかえった。
そして広場には博樹の良く通る声だけが広がって行く。
「オレはここ居るもう1人の勇者。聖女ユイと結婚する!」
そう言うと博樹は俺の良く知る人物を招き出し、2人で手を取り、寄り添いながら皆の前に立った。
………結だった……
『うおおおおぉぉぉ!!!』
またもや起こる歓声。
「へ⁈…は…?…はあぁぁぁ⁈」
俺の混乱と絶叫はやはり民衆の歓声の中に掻き消されるのだった……