華麗なる宮廷魔導師の受難
破滅の魔女
この世界に於いてその名が付けられた者は女神様の…ひいては世界総ての敵とされています………
「な……何を…仰ってるのですか…⁈」
「貴女は3年ほど前に勇者召喚を行いましたね?…本来勇者召喚とはライダ帝国が女神様のお力をお借りして行なわなければならない儀式です」
それはかつて世界を滅亡せんと災厄を率いて女神様へ剣を抜いた者の名……
「わ…ワタシは…敬虔な女神教の教徒ですよ⁈……魔女教なんて穢れたモノの洗礼を受けた憶えなどありません‼︎」
「…この儀式とは通常ならば数十名の魔導師が必要とされ、多くの犠牲を払い甚大な被害を及ぼしますが…女神様がこれを一手に引き受けて下さるからこそ成し得る極大魔導なのです」
魔族の…魔王の導き手…それが破滅の魔女
「破滅の魔女などと………何かの…間違いでは……⁈」
「…貴女はそれを単独で成し得た…そんな事が出来る存在は世界でたった1つしかありません……女神様と同じ力を持った…魔女のみです…」
過去…破滅の魔女と疑いを持たれた者達の末路は皆……同じだと言う……
「…ワタシじゃ……ありま…せん…」
「…………」
審判と言う名の…拷問の末の死……
「……何故…今なのですか⁈勇者召喚からもう…3年の月日が経過しております!
どうしてもっと早くにこの神託が降りなかったのですか⁈」
神託だからと……納得なんて出来ません…縋る思いで問いかけます…
「様子見ですよ…魔女の出現はそれだけで世界を震撼させますからね…間違いがあってはいけません…なので貴女の動向を伺っていました……そして確信したのですよ」
間違い?……女神様の言葉なのに何故…間違うと……?……神託とは一体……⁈
「確信とは……何をですか?」
「貴女は召喚に必要な犠牲を後回しにしましたね?…そしてその犠牲達を引き連れ魔王へ捧げようとしました……まぁ、勇者ヒロキとユイの活躍で最悪は防がれましたが……そこで貴女は魔族とのパイプが出来た……
先日…貴女の所へ魔族が接触して来た事が何よりの証拠です」
……‼︎……何て言い掛かり⁈ 話が矛盾だらけでとても理屈になっていませんっ…
「襲撃です‼︎ 魔族に襲われたのですよ⁈」
「はて、こちらで調べましたが魔族の襲撃など報告に上がっていませんでしたが?」
カノア外務大臣へ問い掛ける様に振り返る勇者リツ…その振る舞いに慌てた様な仕草を見せるカノア…
「き、聞いておりません!その様な報告は一切こちらへは上がって来ておりませんぞ⁈」
…っ!……ソースケさんの死の追求を隠す為…コトを荒だて無い様に内密にしていた事が此処で裏目に出てしまうとは……
このままでは…寄せ集めた"でっち上げ"に1つの辻褄が合ってしまう……こうなってしまうと全てに疑いの目が掛けられてしまいます……それに…
覆り様のない絶対がこの世には存在する…
バネロ侯爵達の叱責が飛んでくる……
「貴様⁈女神様の神託に異を唱え様とは!…その不信こそ何よりの証拠ではないかぁ!」
「…やはりその若さで宮廷魔導師などと何か裏があると思っておったが…賢者レーオを誑かしておったか⁈」
…もはや…今ここで何を否定しても無駄でしょうか……結局…結論は出ています…
…"女神様がワタシを黒と仰った"……
それがこの世界での正義であり絶対…
「衛兵ども!今すぐこの薄汚い魔女を捕らえて魔女審判の名の下に神罰を与えよ‼︎」
ふと……ここまで何の反応もなかったユイさんが気になりワタシは彼女へと視線を向けます……
……⁈
ユイさんは…この状況を見て…… 追い詰められたワタシを見て……楽しそうに…薄っすらと笑っていました……
そうして…怯えたワタシの目が合うと、蠱惑的に唇を吊り上げ……
……ニタァ…
「へぇー、リナリーが破滅の魔女だったんだ…通りで……アンタと居ると皆死ぬんだ」
_______________ ⁈
「っ⁈………ユイっ……⁈」
ユイさんの言葉が…ワタシの胸の芯に突き刺さる……全身に寒気が走り…急な立ち眩みに襲われ目の前が真っ白に歪み、前後不覚な感覚に襲われて行きました……
容赦無く衛兵達の手が近づいて来ます……
…もう……
どうでも……
親友の一言で容易く折れてしまう心……
きっと…これが…犯した罪への罰……傲慢に…彼等彼女をこの世界へ呼び出した報い……
……ならば
…いっそ…
そこへ伸びて来る衛兵の腕を蹴り上げながら颯爽と現れるネコ耳の影…!
‼︎ バキィッ ‼︎
「あきらめちゃダメにゃ!リナリー!」
____‼︎
「…ペンネ…さん⁈」
目の前に現れたのは獣人種のペンネさんでした。彼女はワタシの姿を衛兵隊とバネロ侯爵達…そしてユイさんから隠す様に立ち塞がり、彼等へ身構えます
「……っ⁈ いけませんペンネさん!アナタまで神に背いたと捉えられてしまいますよ⁈」
ペンネさんは注意を払ったままこちらへ目線を合わせずに答えます
「獣人はバカだから元々女神への信仰は薄いにゃんよ♪ …神様か友達…にゃらどっちが大切かにゃんて聞くまでもないにゃ!」
__________
……彼女の言葉に思わず泣き崩れそうになります……
「それに…ウチは生まれてこの方ポーション教だにゃ‼︎ ポーションの為に傷付き、傷付いた体をポーションで癒す!それがポーション教の戒律の1つにゃっ‼︎」
ビシッ! と決めるペンネさん……
「……んんん? ペンネさん…それではポーションの為にワタシを庇ってるみたいな言い方ですよ⁈違いますよね?美しい友情の為ですよね⁈」
縋り付くようにペンネさんの背中を揺すりますが、目の前へ視線を向けたままこちらに目を合わせてくれません‼︎ お願いします!否定してくださいよ⁈リナリーの為って言ってくださいよぉ!
「獣人風情が女神様を愚弄するかっ!衛兵隊!その獣人は殺しても構わん‼︎リナリー・ユーナリカを即刻捕らえよ‼︎」
帯刀していた剣を引き抜いた衛兵達が王宮剣術の構えを見せてワタシ達へ向かって来ます!……その動きを逸早く捉えて、ペンネさんは腕を前方へ振るい圧倒的速さで詠唱を唱えました
「雷鳴よ!切り裂くにゃ! ライトニングスピナー‼︎」
‼︎ バチバチッ!バチバチッバチィィィ‼︎
ペンネさんの掌から高速で回転する雷刃が数人の衛兵へ叩き込まれると呻き声を上げながら衛兵達がその場に崩れ落ちる
「! ぐはっ‼︎」
「馬鹿な⁈…じゅっ獣人如きが魔法を使うだと⁈」
カノア外務大臣が驚愕する様に叫ぶ
「ウチは獣人とエルフの混血にゃんよ♪中級魔法程度ならポーション片手にお茶の子にゃ!」
構えを解かずに答えるペンネさん……
「っ…くっ⁈」と、苦虫を噛みながらこちらへ憎悪の視線を向けるバネロとカノア…
「そんな事よりユイ!オマエも手伝うにゃ!…さっきからオマエ変にゃんよ⁈」
ペンネさんが怒鳴りつける様にユイさんへ声を掛けますが…ユイさんはこちらへ冷ややかな顔をするだけでした……
「リナリー、一体ユイはどうしたにゃんか⁈まるで別人の様にゃ……」
「………分かり……ません…」
先程話していた時から少しずつ…ユイさんの様子が変わっていました…
…そしてあの表情………
「リナリー・ユーナリカ殿…これは女神様への反逆と捉えてもよろしいですか?」
ユイさんの態度に違和感を感じている所へ勇者リツが質問して来ます……
…衛兵に危害を加えた時点でもはや言い逃れの出来ない状況ですね…
「ウチはヒロキに言われたにゃ……もしもリナリーの元へ女神の名を語る奴や…ライダの勇者が訪れた時は……リナリーを守れって!」
「⁈…ヒロキさんが⁈」
ヒロキさんは…こうなる事を予測していた…⁈……これは……先日の魔族の襲撃と何かが繋がっている可能性があると……⁈
「分かりました……どうせこのままでは審判へ掛けられ処刑される身……ならば一歩でも真実に近いてからでも遅くはありませんよね‼︎」
ワタシは覚悟を決めて勇者リツ達を見据えます……!
「……そうですか…では、神に逆らった貴女へ神罰を下しましょう」
無表情なまま虚空より先端に豪奢な宝玉が飾られた突槍を取り出す勇者……恐らく…あれがあの方の聖槍なのでしょう……
「ペンネさん!逃げますよ‼︎」
「ガッテンにゃ!」
‼︎ ____バッ !
ペンネさんと2人、踵を返し即座に逃避します!正直言って勇者と戦える程ワタシ達は強くはありませんからね…
逃げるが勝ちです!
「なっ⁈えっ衛兵ども追え!あの逆賊供を逃すでない‼︎」
バネロ侯爵が焦った様に衛兵達へ檄を飛ばします。皆さん勇者の動作に気を取られていた様で反応が遅れてくれました、今の内に少しでも距離を稼がなくては……
「にゃにゃにゃ!こんな時こそウチの得意な身体強化魔法にゃー!」
「⁈っきゃあ‼︎」
__‼︎ バヒュウゥゥ ‼︎
ペンネさんが突然ワタシを抱え上げ飛ぶ様に駆け出します!…これは脚力を倍増させる魔法の類いの様ですがあまりの速さで振り落とされないように必死でしがみ付くのが精一杯です……!
「なんて速さだ⁈…逃がさんぞ!カノア外務大臣!至急王都全域に伝令を頼みますぞ!」
「承知した!背神者供めっ袋のネズミにしてやるっ‼︎」
……………………………
「……やれやれ…こうもアッサリ逃げるとは…まぁ、賢明な判断ですがね…」
「………ところで…貴女は助けなくても良かったのですか?……勇者ユイ殿?」
「……別に……」
(…なんですか?この様付けタレントみたいな反応は……⁈)
「…はぁ…彼女のお仲間だとお聞きしてたんですけどね…」
「……親友だと思ってたけどね……でも…辛い時に1度も顔を出さない奴を親友とは言わないわ………」
「…まぁ……そうですね?……」
(……何?この拗ねたガキみたいな反応……ここでリナリー・ユーナリカに与すれば始末する予定だったけど……まぁ良いか…コイツも…イイ感じに歪んじゃってるなぁ……)
「貴方こそ良いの?このまま逃して…」
「そう…ですね…女神様に怒られちゃいますね…」
「大丈夫なの?…そんなに呑気で⁈」
「ははっ…その時はその時です…」
(くははっ…これはこれで面白しろそうだし……ルトラもなかなか…楽しくなって来そうじゃないの……)




