奴隷勇者編 第1話 自己否定と大義名分
召喚勇者。
この世界ペゼリオンに於いて魔王と戦うために異世界から召喚された戦士。
女神より託された2つの力を用いて一騎当千の戦神と成り、魔族を狩る勇ましい者。
しかして魔王は強く。多くない犠牲を払いながら討ち取っても総ての魔王を倒す事は叶わない…
そして、時代の流れと共に新たな魔王が降臨する。
…いつしか世界は疲弊する。
終わらない戦争に失われる生活。
勇者達もまた、思い至る。こんな筈じゃなかった 自分こそが世界を救う真の勇者に、なるつもりだったのに…
それでも世界は止まらない
次第に狂い出す軋んだ歯車の様に世界は回る。
粘ついた笑い顔を上げ、磨り減った歯車の悲鳴など気にする素振りなど見せずに…
………………………………
「…疲れた…ホント…もう歩くの嫌い…
コーラ…てりやき、バーガー…」
俺は今、見渡す限りの草原と小高い丘が広がった平野を彷徨っていた。
目的地は勇者召喚の正規窓口である、ライダ帝国だった。
そこでなら元の世界に戻る手段の手掛かりくらいは見つかるかも知れないと考えて、意気揚々と出発したのだが……
人の手の触れていない大自然とは斯くも自分という存在を不安定にするものなのかと思い知らされている。
物語などでよく次の町へ向かうのに地図程度を片手にのんびりと旅を満喫しているのが嘘だと思い知らされていた…
いや…これはあれだ、俺の認識の甘さだ。
登山にちょっとだけ齧った様な軽装でパンプスを履いて来る女子高生の様な愚かさだ…
地図はある。リナリーさんに用意して貰ったリュック型の背負い袋に入っていたからサクッと見たが、現在地がわからない…
地図の精度がどれだけ高いのか分からないが街道を行けば着くと思い込んでいた。
しかしこの世界の街道はきちんと整備されてなくて、人が通る事で土が均されてそれが道になっている。 そこに自然と生えてきたペンペン草でも広がってしまえば最早何処が道なのか…素人の俺には見当が付かない…
そんなのを何回か繰り返したら気が付けば迷子…俺は道なき道を彷徨い歩く孤高の家なき子と成り果てている…
同情するならナビをくれ‼︎である。
何の準備も覚悟も無いまま知りもしない世界へ勢いで飛び出した俺に待ち受けていた最初の難関だった。
誤算だったのが俺自身の身体だ。
謎のファレター因子で無敵に素敵状態だと勘違いしていたが、素の状態の俺は何の変哲も無いままだった。ただ人より体力が自慢の何処にでもいる高校生というやつだ。
ならばと恥を忍んでファレンモードに変身して一気に町まで行こうとあのフレーズを叫んで見たが…
《ピーーーー。》
《現在、熱いパルスを確認出来ません。もう一度はじめに戻って操作するか、「金髪ブタ野郎ー‼︎」と叫びたくなる程の怒りを感じてから行って下さい》
とだけ返された。…今だよ!今テメェに叫びたくなる程の怒りを感じてるよ‼︎
回転海老名固め喰らわすぞ!
そんな意味の分からん理由で変身すら出来ず途方に暮れる俺…
今時、変身に制限があるなんて販促の為にポンポン変身してる平成ライダー馬鹿にしてんのか‼︎ 古いんだよ発想が!お手軽で良いのっ もっとスマートなのが求められてんの‼︎
もう良いや!っと俺はペンペン草の生えたその場に大の字で倒れ込む。
そして、もう1つの誤算は食欲だ。
当初おれは何日も飲まず食わずで過ごしていた。 病に伏せてもあれだけの期間延命していたのは何かしらの理由がある筈だから、これからも食欲とは無縁だと高を括っていた。
けど、あのチュートリアル?終了辺りから空腹感が出だして、今では疲労と共に飢餓感へと変わり果てている。
何もかも誤算続きである…
「グルルルルゥ…」
すげぇ音が鳴ったな俺の腹…自分でもビックリしたよ。
こうして見るとその辺の石すらジャガイモに見えるな…俺ももうじきあれがドロップに見えてしまうのだろか… ドロップやない、お団子の方か…
…少し落ち着いたので俺はまた歩き出す為に起ち上がろうと膝を起こした。そこで、眼が合った…
「グルルルルゥ…」
ソイツは眼が3つ並んだ様な犬だった…獰猛な牙が口角から飛び出し、グレート・デーン程の大きな図体からは野性の威厳を感じさせる…
そんな奴が眼の前に立っていた。
「っ⁈………」
声が出せなかった。突然の事だったし、完全に気を抜いていた ただ、お互い眼を逸らす事が出来なかった。
………魔獣
この世界に於いて瘴気という物質から自然発生的に産まれて来る化け物…その姿は異世界の人々を持ってしても異形と言わしめる。
恐らくコイツがそうなのだろう。よく見ると先日の牛角男が変わり果てた時に出ていた黒い靄がコイツからも立ち込めている。
あの日の後悔が顔を覗かせる…
容易く揺れる覚悟…
情けなくも俺らしい戸惑いを、無理やり押さえ込み…
俺は、脳のリミットを外した。
途端、何かを感じた様に敵と見据えた俺に向かって来ようとする獣。
一足速く俺の蹴りが獣の喉元へと突き刺さる
「⁈ ギャゥンッ!」
振り抜くと器用に肢体を回転させ、斜め後方へと4足同時に着地。そのまま飛び掛る姿勢で構える獣。
俺はその間合いを一瞬に詰め寄って、相手の反応を急かす。すると獣は大きな顎門を開きながら飛び掛かろうとする。
俺はその半歩手前で立ち止まり奴の放射線状に向け前蹴りを置く様にして差し出した
‼︎ ブチョッ!
開いた口へ足先を吸い込ませて、奥の障壁に触れた瞬間一気に足をねじ込んで突き破る
後頭部からブチまけながら獣は絶命する…
なるべく俺はソレを見ない様に眼を逸らし反撃がこない事を確認する。
どうやら大丈夫のようだ…
気付けばどっと汗が噴き出していた。
少しすると獣から黒い靄が噴出してその死体だった物が、綺麗さっぱりと消えていた
ソレを見た瞬間俺は背筋が凍る思いがした…
「あぁ…そういうことか…」
俺が今行ったのは殺生だ。命を奪った… なのに、その証明が…重りが…消えたのだ… 跡形もなく何事も無く…
それはまるでゲームかのような…
その光景を見た時の俺の心情は安堵だった…
背負わなくていい…そう、頭が過ってしまった。
心が軽くなった…
これが日常なら戦士は、勇者とはどれ程気安いことか…
いや、違う…だからこそ俺達みたいな平和だった少年少女が生きていけるのだろう。この感触に痛みばかり重ねては気持ちが持たない。…せめてもの救いだ。
そう俺は自分へ言い聞かし魔獣のいた所を見てみる。そこには、黒い靄を固めた様な結晶が落ちていた。
ゴルフボール程の結晶を拾い上げる。
少し、ベタついているが特に触っても異常は無さそうだ
…目に見えない放射性物質とかが出ていなければだが…
「スゴイねキミ 一匹とはいえ大型のダイアウルフを蹴りだけで倒すなんて
初めて見たよ」
掛けられた声の方へ振り返ると、そこには黒髪でショートヘアーの活発そうな女性が立っていた。
年の程は俺より少し年上か…服は軽装。動き易さを意識したって感じでフードの付いた外套を纏っている。
「ダイアウルフって言うんですか?
今のは魔獣ですよね?」
「うん そうだよ、手に持ってる魔石が出たでしょ?間違いないよ
それにしても大きな魔石だね!高く売れそうじゃん」
「…こんなの売って何に使うんですか?」
「…燃料だよ〜。燃やすと一晩位は燃え続けてるよ。その大きさだと3日くらいイケるんじゃない?」
魔石?ってのは燃料になるのか…なら需要はあるだろうな……これが金に変わるのか…ははっ、最低だな。大義名分が簡単に手に入った……
魔石をまじまじと眺めている俺に向かって彼女は
「その反応って事は キミ、日本人でしょ?」
俺は彼女を見つめる…恐らくこの人も…
「もしかして、君も?……」




