第9話 異世界ヒーロー
《アクセス開始 ____クリア。》
《各セクションの結合 ____クリア。》
《ファレター因子解析 ____クリア。》
《ファレンモード最適化…8%…24%…36%…》
《ファレンモード40%で最適化完了。》
《あとは…何だっけ?えーとまぁいっか》
《システムオールクリア。》
えぇ⁈ 何これ?誰が喋ってんの⁈
…てか、最後端折ったなコイツ…
それは抑揚のない女性の声質だった。一体何処から聴こえたのか頭にハッキリと聴き取れた音。
リナリーさんが言ってるのかと思い、彼女の顔を見る
彼女は驚愕の表情をして俺を指差していた。
「そそ!ソースケさん⁈どうなさったのですか?…その身体…」
リナリーさんに言われて自分の身体を確認する…
化石病とさっきの攻撃で相当酷い事になっていると思っていた俺の体は…何故か綺麗に直っていた。
炭化していた皮膚はボロッと炭化部分だけ抜け落ちているし、裂けて血塗れだった所は綺麗さっぱり傷すら無くなっていた…
服は…流石に駄目だったGUはやはり本物のモンスターには勝てなかったか…
…っは⁈…下は⁈………ホッ。 ちゃんと履いてる。大丈夫、俺のモンスターは飛び出しちゃいない。
……まぁ、ぶっちゃけモンスター連呼はコレが言いたかっただけだ。
今の俺は脱皮したての蛇の様にツルツル (頭以外)のピカピカだった…
新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーに………
「あのリナリー…さん?化石病って脱皮するんですか……?」
「…いえ、しないと思います…」
じゃぁ何⁈何なのコレ⁈⁈
《……長……とっとと次行って下さい》
「あの…今、とっとと次行けって言いました?」
「?…いいえ?…何も言ってませんよ??」
「じゃあ…今の声聞こえました?」
「⁇何も…どうなさったんですか?」
…どうやら俺にだけ聴こえるらしい…
そこへ何やら怒った水牛みたいな角生やした人が怒鳴り込んできた。
「貴様は何者だ⁈ 先程まで死に掛けた芋虫だったではないか⁈」
「そんなのコッチが聞きたいよ…」
《…ポーションの最適化です………次へ行って下さい》
…さらっと応えてくれました…ってポーション⁈…猫のオッさんから貰ったアレ?
《…そのポーションです………ポーション飲んで元気100倍……もうお分かりですね。……》
いや、全然分かんねぇよ⁈説明が雑過ぎない?
《…………………はぁ……………………》
オイ!何でため息だよ⁈今ので分かれと⁈
俺が脳内で激しく突っ込んでいると牛角男が大太刀を構え出す
「何であれ 貴様らが死ぬ事には変わらんがな!」
牛角の男から又も黒い靄の斬撃が振り下ろされる
「ソースケさん!…貴方だけでもココから離れて下さい!」
リナリーさんも立ち上がれる位には回復した様だがまだまだ足元がふらついている。
俺は伸びてくる黒い靄を視覚に感じながらリナリーの身体を掬い上げ地を蹴る様にその場から離れた。
何も無い壁へ激突する黒靄。
牛角男が驚愕の表情に染まる。見ればリナリーさんも何が起きたのか理解出来ないで俺を呆然と見つめていた。
そんなに見られると照れちゃう…///
「お前は…本当に…何者なのだ⁈」
出来るだけ優しくリナリーさんを床に立たせ、ちょっと得意げに俺は答える。
「訓練?修行かな、 元の世界で俺は、ずっと修行してたんだ」
「訓練…だと…?」
「なぁ、こんな世界だ。死に掛けた事の一度や二度あるだろ?
そん時に頭の中で色んな事考えて目の前が全部ゆっくりになったりした事ないか?」
牛角男は何の事?って顔してるけどリナリーさんは何か心当たりがありそうな顔をする …リナリーさん死ななくて良かったね
「その時のさ、感覚?の中でさ、自由に動ければさぁ、楽しそうじゃない?」
『……………』
あれ?二人とも何言ってのコイツって顔してるぞ? あれあれぇ?
「毎日毎日死の直前?って奴を作って頭の中のスローモーションの世界を自由に動くって事を何年もやってたんだよ」
切っ掛けは趣味だったフリーランニグ中に起こしてしまった事故だった。ビルの隙間から落ちて、死ぬ!って思った瞬間に脳のロックが解除された様な感覚。周りの膨大な情報が瞬時に脳に伝わり延命手段を演算する。まるで止まった世界にいる様な不思議な高揚感に冷静さを混ぜ合わせたかの様な臨場感。
俺は魅了された。その世界に。
恐らくアドレナリンの過剰分泌で引き起こされるとか何とかなんだろうが、そんなのどうでもいい。
俺は貪る様にその世界に酔いしれたかった
「気付いたら俺は何時でも、どんな時でもその状態になれる様になったんだよ」
コレが俺が元の世界で培った技術だ
「ソースケさん…独創的過ぎますよ…普通そんなの誰も出来ません…」
「はは…褒め言葉だと受け取っておきますね……だから…」
瞬時に俺は牛角男へ接近する
「⁈…貴様…!」
牛角男は接近して来た俺目がけ袈裟懸けに大太刀を振るうが容易く躱し、相手の顔面の鼻っ面に思いっきりの拳を打ち上げる‼︎
ゴキンッ!
「ぐへぇ‼︎」 牛角男が鼻から鮮血を散らせてぶっ飛んだ。
「今からお前を倒すぜ!答えは聞いてない………って!…いっでぇぇぇ⁈」
見れば、俺の拳も砕けていた。…確かにこの力を喧嘩には使わなかったからね…
魔族恐るべしってやつだ。
激痛が続く手を見つめていると、徐々に傷が治っていく。 直ぐに痛みも引いて何もなかったかの様に元通りになった…⁇
「何だ⁈…これ…」
《……ポーションポーション……》
…………………あっそう…。
よく分からんが、これで心置きなくアイツが泣くまで殴るのをやめない!って事だ‼︎
「きさっ…きさきさ!貴様ぁぁぁ!」
ボタボタと鼻血ブーしてる牛角男へ俺は駆け出す。またあの斬撃をリナリーさんに向けさせる訳には行かないので接近戦あるのみだ!
迎え撃とうとする所へ蹴りを放ち、返す刀を掌底でいなして殴りつけ、砕けた拳も次には元通り。相手が何も出来ず、恐怖に顔を歪めても手を緩めなかった。
このまま何とかなりそうだな…と思ったところで牛角男の全身から黒い靄が一気に溢れ出す。 そこへ運悪く左のジャブが触れてしまい立ち所にズタズタにされた。
「いっぢぃぃ⁈」即座に後ろへ飛び距離を取る。さすがに左手は直ぐに完治出来ずにジュクジュクと爛れ煙を上げている。
やっぱりクソだなファンタジー! 一般ピーポーに華は持たせちゃくれないってか⁈
「ゆるざん…ゆるざん…ゆるさんぜよぉぉぉぉ!」 なんで土佐弁?
牛角男を覆う黒い靄が更に濃く膨大に膨れ上がって行く。
「マズイな、これじゃ近づけないぞ⁈」
…打つ手がない……
《…それでは"ファレンモード"を発動してはどうですか?…それがいいです。…ね、そうしましょう…で……とっとと終わらして下さい………ホント…》
…何か腹立つわ〜コイツ…
何だ?ファレンモードって?それになるとどうなるんだ?………?……、おーい!
《……え?…あぁ、ファレンモードとはアナタがコッチの世界へ来た時に通った…世界の狭間で身に付けたファレター因子の力です…》
ファレター因子って何?この世界じゃ普通な物なの⁈…って言うか、そもそもお前は何なの?
《…ファレター因子とは……さぁ?知りません……この世界じゃ普通なんじゃないですか?…知りませんけど… プッw… あと、私は元々あなたの中にあった知的生命体です…ファレター因子に触れた事によってこんな状態になった様ですね…うっとおしい……もういいですか?……喋り過ぎてしんどいんですけど…》
いやいや!殆ど愚痴しか言ってないよね⁈ しかも途中吹き出しただろ!
ってか、知的生命体⁈ 元々居たって…怖っ⁈マジ?マジなの⁈
《ぴーーーーー。》
《システムエラーです。 システムを再起動する為には約8年必要です。》
………巫山戯んな!ばーか!ばーか!アホー‼︎……クソっ!とにかくファレンモードってのはどうやるんだよ⁈
《…………………………………………》
あれ?……おーい、返事しろぉっ!
《………………………………ブフッw…》
頼むよぉぉ!何? 謝ればいいの⁈ごめんてぇぇ!早く教えてよぉぉ!
《…ファレンモードは特定のキー…言葉を言う事で発動できます……掛け声は……》
《" 変身!ファレンカイザー‼︎ "……です》
……うそん……めっちゃ恥ずかしいやつやん…
…マジで? 《…マジです…》
…誰かが言っていた気がする…人生は恥の上塗りだって…恥を恥で塗りたくって自棄っぱちになるんだって…
俺はリナリーさんを見つめる
「?……ソースケさん?……」
綺麗な双眼が心配気に俺の様子を伺っている。 天使とか女神って表現がしっくりくるな…
彼女を狙ってやって来た男は今にも暴れ出しそうだ…
彼女を守りたい…スッと目を閉じ覚悟を決める。
「変身! ファレンカイザー‼︎」
《……ブフォッw》
その瞬間俺を照らす様に眩い光が集まった!
……その前にアイツ笑いやがったぞ…
《 説明しようっ‼︎ 翼希 創介はヒーローであるっ! 彼の心が正義に燃える時! ファレターの戦士!ファレンカイザーひろしになるのだぁっっ‼︎ 》
…超ハイテンションだった…
《……お約束というやつです……》
…っていうか、お前今"ひろし"って言ったよな⁈ 誰だよひろしって⁈やるならもっとちゃんとしろよ‼︎
《……お約束というやつです……》
ねぇ何の⁈ 何なの一体?
そんな事をやってる内に俺の変身は終わっていた。…もっとこう、ガシャーン !ガシーン! みたいな見せ場があるだろうに…
で、手を見てみる。…やっぱり…
胸から下も見る…間違いないな。
恐らく顔もそうなのだろう。あのよくあるスタイルだ。仮面ライダーやアイアンマンみたいな赤と黒を基調としたフルプレートアーマー…所謂、スーツアクターみたいな格好だ。
「ソ!ソースケさん⁈今、ピカーッて!ピカーッてしたら!ソースケさんが鎧?何?何ですかコレ⁈」
慌てた様に俺に近付いて来るリナリーさん。…慌て方がちょっと可愛かった…
「えー…とですね、これは…ファレター因子って分かります?」
「…ファレ?……ごめんなさい、聞いた事ないです…」
やっぱりか⁈やっぱりアイツテキトーぶっこきやがったな‼︎
「…ですよねぇ…その、ファレター因子の力を使うとこういう姿になるみたいなんです…」
俺だってなんて言っていいのかわかんないよ!誰か取説プリーズ‼︎
「そ⁈ そうなのですか…凄いですね…」
そう言うしかしかないよね…
「俺も、なんて言っていいのか…」
「……けど、…とってもカッコいいですよ」
リナリーさんが瞳を潤ませ俺を見つめる…
「ソースケさん とっても似合ってます!」
言われると少し勇気が出る
「グゲッ…ゴロズ…ギザマラダゲバ…」
待っていてくれた様に話し掛ける牛角男
意外と良いやつかもね、
「待たせたな。今、終わらせてやるよ」
リナリーさんに危険だから少し下がっててと言って離れて貰い牛角男に対峙する。
さて、カッコつけたは良いがあんな状態の奴に勝てんのか?
牛角男が纏っていた黒靄が質量を持っているかの様に蠢いていた…




