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So I wii be attracted to you

 真琴は走ってきた勢いそのままに勢いよく美術室の扉を開けた。教室はいつも通りガランとしていて、蒼介が一人昼食を取っていた。

 大股で近寄って来る真琴に、蒼介は意地の悪い笑顔を浮かべた。

「職員室に呼び出しくらった東城真琴じゃないか

「誰のせいでっ」

 真琴はジトっとした目で蒼介を睨むと、彼のすぐ隣に座る。真琴は先ほどのことが思い出されて溜め息を吐いた。職員室に呼び出され説教をされた挙句、雑用を押し付けられてしまったのだ。これにはかなり気力を持っていかれた。しかしそこで一つの疑問が浮かんだ。

「あれ、なんで私が職員室に呼び出されたこと知ってるんですか?」

「職員室の前を通りかかったら説教してる声が聞こえて、もしかしてと思って覗いたらお前だったんだよ」

「あぁ……」

 真琴はそう言って項垂れた。かなり大きな声で説教を受けたので廊下にまで聞こえていても不思議ではなかった。いくら図太い真琴でも羞恥心はあるので死にたくなった。

「まぁ、ちゃんと授業受けてなかったお前が悪い。自業自得だ。お前くらいだったよ、間抜け顔で外を見てる馬鹿は」

「何回も馬鹿って言わないでください!和泉先輩のせいで空腹だったんですよ!?」

「はぁ?」

 真琴は必死の形相で訴えた。そう、彼のせいで早弁し損ねたのだ。

 しかし空腹と自分がどう結び付くのか、蒼介に分かるはずもなかった。

 真琴はそんな蒼介を横目にランチバックの中からお弁当を取り出した。それを見た途端蒼介の顔が引きつる。

「お前、なんだその弁当。それ全部食べるのか……」

「え、何かおかしいですか?」

 真琴はキョトンとして聞き返す。彼女が取り出したお弁当は、特大サイズのタッパだった。それも女の子らしい可愛い柄などなく、冷蔵庫によく入っている無地の白いタッパだ。大きさは蒼介の弁当の二倍はある。

「タッパって……。お前中身男なんじゃないか?」

「なに訳わからないこと言ってるんですか。むしろこれでも足りないくらいです」

「あっそ。ちょっと心配になる量だよ」

 蒼介は青ざめ口元を押さえた。

 一方の真琴はといえばそこまでの反応をされるとは思っていなかったので驚いた。

「私からすれば和泉先輩の小さいお弁当の方が心配ですよ。ちゃんと食べなきゃ元気出ませんよ」

「俺は元気だから問題ない」

「え、でもさっき体育見学してたじゃないですか」

「別に全然平気だけど」

 蒼介はそう言うと顔を背けた。

「えっ、じゃあ仮病ってことですか」

「まぁ、そんなとこ」

「駄目ですよ、ちゃんと授業受けなきゃ!人のこと言えないじゃないですか」

 しかも体育なんて真琴からすれば遊びであって授業ではなかった。

「うるさい。お前と一緒にするな」

 いつもより棘を帯びた、拒絶するような蒼介の言葉に真琴は押し黙った。そして心の中で、同じじゃん、と悪態を吐いた。あからさまに気落ちした真琴を蒼介は盗み見る。そして小さい溜め息を吐いた。

「あのさ、ずっと不思議だったんだけど、なんでそんなに俺の絵が好きなわけ?」

 蒼介は空になったお弁当を鞄の中にしまうと、問いかけた。

「なんでって」

 真琴の箸が止まる。脳裏にかつて見た絵が蘇った。

「小学三年生の夏休み、ショッピングモールに展示されてた和泉先輩の絵を見たんです。それは家の近所の公園が描かれた風景画でした。その絵の中には、私が昔飼ってた猫もいたんです」

「俺の絵……?でもお前、最初に会った時俺の名前も知らなかったよな。なんで昔見た絵の作者が俺だと思ったわけ?」

「同じだったんです。絵を見た瞬間に感じる感動が。だからすぐにわかりました」

 真琴は真っ直ぐに蒼介を見つめた。彼の目はこちらを試しているような、挑戦的な目だった。

 数瞬の後、蒼介はふと目元を和らげた。

「お前、馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、実は凄いやつだったりするわけ?」

「えっと……?」

 真琴がどう言えばいいのかわからずに目を泳がせていると、蒼介は遠くを見つめた。

「覚えてるよ。背中にハート模様の猫なんて見たの、あれが最初で最後だったから。お前があいつの飼い主だったのか」

 それは蒼介の肯定の言葉だった。聞いた瞬間、真琴の胸が熱くなる。思い違いなんかじゃない。やっぱり彼がそうだったのだと。

「でも残念だな。同じ作者だって気付かれるなんて。あれから六年も経ってるのに。俺って全然成長してないのな」

 悔しさの混じった言葉に真琴は首を振った。それは違うと。

「私がすぐに気付けたのは、和泉先輩の絵が生きてるからです」

「俺の絵が、生きてる?」

 蒼介は思わぬことを聞いて目を丸くした。

「初めて先輩の絵を見た時、感動したんです。平面に描かれた絵が、現実に生きる人に影響を与える。それって、絵が生きてるってことでしょう?」

 少なくとも、真琴にとってはそうだった。もう二度と会うことのない愛猫にもう一度会えた。彼女は確かに絵の中で生きていた。

「絵画ってきっと永遠なんです。それが和泉先輩の絵にはあったんです。私はもう一度、愛したあの子に会うことができた。だから、永遠を創り出す先輩の絵が好きなんです」

 絵画は見る人によって意味を変える。そしてまた、同じ絵でも見る人間が変わればガラリとその色を変える。まるで万華鏡のように美しいもの。

 蒼介は真剣な表情で真琴を見つめていた。もともとが美しい顔立ちなので、真顔になられると少し怖い。

「えっと、和泉先輩。お、怒ってるんですか?」

 恐る恐る真琴が尋ねると、蒼介は深い溜め息を吐いた。そして顔を押さえて黙り込んだ。


_や、やっぱり怒っている!


 真琴は慌てて弁解した。

「あ、あの、なに知ったような口きいてんだって感じですよね、本当すみません。あ、あは、あはは……」

「やっぱり馬鹿だ、お前」

 蒼介は真琴の引きつった笑いを遮るように呟くと、おもむろに顔を上げた。

「逆だよ。サンキュな」

 蒼介が微笑む。優しい、自然な笑み。それは初めて見る表情だった。

 真琴の心臓が跳ねる。知らず顔が赤く染まった。急に熱くなった顔に真琴は戸惑った。

 その時、ガラガラガラっと美術室の扉が開かれた。振り返ると美里がひょっこりと顔を覗かせていた。

「マコちゃーん。次移動教室だよー」

「呼ばれてるぞ、マコちゃん」

 蒼介はいつもの意地悪な笑みに戻って言った。

「っ、からかわないでください!」

 真琴はいろんな感情を誤魔化すように叫んだ。それから鞄を掴んで美里の元へと駆け寄った。しかし途中で思い出したように足を止め、振り返った。

「和泉先輩!今度私のこと描いてください!」

「それは無理」

 間髪入れずに帰ってきた答えに真琴はぼそりと呟いた。

「ケチ」

「聞こえてるぞ」

「聞こえるように言いましたからっ」

 真琴はそれだけ言い残すと、逃げるように美術室から駆け出した。そのすぐ後ろを美里がついて来ていた。

「ね、マコちゃん。あの人が例の和泉先輩?結構かっこいい人だね」

「口の悪さがそれに比例してるけどね」

「そんなこと言っちゃって、結構仲良しなんでしょ。って、マコちゃん!顔赤くない!?」

 美里は前を歩く真琴の顔を見て飛び上がった。白い肌が、今はゆでダコのようになっていた。真琴の足がピタリと止まる。美里は真琴の言葉を待った。

「和泉先輩がね、笑ったの」

 真琴は驚いた顔で、美里にそう伝えた。


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