It’s that kind of person is you
授業間の短い休憩時間。真琴は手鏡をポーチから取り出すと、自分の顔を見つめた。最初こそ静かだった真琴だが、しばらくするとうーん、と唸り始めた。
真琴の様子に気が付いたクラスメイトの美里が、彼女の肩を軽く叩いた。
「マコちゃん、何してるの?」
化粧っ気がなく、些細な髪の乱れくらいなら気にしない真琴が鏡を見ているのは珍しい光景だった。
「確かにそんなに整った顔じゃないけどさ、ブスは流石に酷いと思うの。ブスは」
真琴は手鏡から目を逸らすことなく言った。それはどことなく棘を帯びた言葉だった。
美里はああ、と心の中で納得の声を漏らした。真琴が最近会っているという上級生のことが思い浮かんだのだ。
「なに、ブスって言われたの?」
一応確認の為に美里が聞くと、真琴はムスッとした顔で頷いた。どうやら美里が思った通り、原因はその彼らしい。
「いやいや、マコちゃんはかなり可愛いよ」
美里は大真面目な顔でそう言った。実際に真琴が気付いていないだけで、入学当初は男子生徒から多くの熱視線を送られていた。まぁそれもいつからか、真琴の男勝りな性格のせいで恋愛に発展せず、友達という関係を築いたのだが。
_まぁ、例外もあったけどさ。
美里は通路を挟んで隣の席に座る男子生徒を盗み見た。本郷圭一。真琴と同じ弓道部に所属する真面目な生徒だ。第三者から見れば彼の想いは驚くほどわかりやすいのに、鈍感な真琴はさっぱりである。
美里の言葉を信じていないのだろう真琴は、胡乱な目で彼女を見つめ返した。美里はやれやれと首を振る。毎日を顔を見ているのだから、自分の整った容姿にくらい気付いてほしいものだった。
「本当だって!ただちょっと素行が男っぽいというか、ガサツなところはあるけど、黙ってればこのクラスでは一番だから。ね、圭一」
美里は正直な感想とともに、話の外にいた圭一に同意を求めた。急に話を振られて焦っている圭一に、美里は彼にのみ見えるようにウインクしてみせた。
真琴がじっと圭一を見つめる。
圭一はしばらく口をパクパクさせていたが、ほんの少しの間を置いて、美里の言葉に同意した。
「まぁ、男勝りなところが目立つけど、見た目はいいんじゃないか」
美里はがっくりと肩を落とした。せっかくチャンスを作ってやったというのに、この男は。
圭一にすればよく言った方だが、美里からすれば三十点だ。
当の真琴も渋い顔で圭一を見ていた。
「どーせ、私は女の子らしさの欠片もないガサツな女ですよー」
しかしその言葉に圭一はでもっ、と声を上げた。
「明るくて気さくなところが東城の良いところだと思うし、俺はそんなお前も悪くないって思うよ」
キーンコーンカーンコーン。
電子音のチャイムが鳴り響き、圭一の渾身の言葉を搔き消す。
「あ、予鈴」
真琴はさっさと手鏡をポーチに片付けて、教科書を机から引っ張り出した。残念ながら、真琴の耳に圭一の言葉は届かなかった。
肩を落とす圭一に、美里はできるだけ軽い調子で声をかけた。
「どんまい」
授業が始まって三十分。真琴の腹が大きな音を立てた。
_お弁当、食べればよかった。
真琴は早弁しなかったことを後悔した。そもそもの発端は蒼介のブス発言なわけで、怒りの矛先がそちらを向く。なぜこんなにも、蒼介の一言に腹が立つのか。訳がわからずまた苛立つ。きっと圭一に同じことを言われても今ほど腹は立たない気がした。
校庭から人の喧騒とホイッスルの高い音がする。
真琴は嬉々として窓の外へと視線を向けた。窓際の席は余所見ができるし暖かいのでお気に入りだった。これで空腹が少しでも紛れればいいのだが。
そう思いつつ外を見ると、太陽が照りつける校庭で体操着に着替えた生徒達が白と黒のボールを追いかけていた。どうやら体育の授業が行われているらしい。校庭を前と後ろの二つに区切って、サッカーが二試合行われていた。生徒達は緑のラインが入った運動靴を履いているので、授業を受けているのは三年生のようだ。
真琴は駆け回る生徒達を目で追った。しかしそのどこにも真琴の探す人物はいない。別のクラスかと思い諦めかけたその時、隅で一人座っている蒼介を見つけた。静かに同級生を見つめる蒼介は、ただ一人制服のままだった。どうやら見学しているらしい。
体育会系の真琴には、蒼介の姿が勿体無く映った。すると唐突に蒼介が校舎の方を見上げた。視線を逸らす間も無く真琴と蒼介の視線がぶつかる。真琴の教室は三階にある。まさか目が合うとは思いもしなかった。
お互いに目を丸くしていた二人だが、最初に視線を逸らしたのは蒼介の方だった。
蒼介はおもむろに立ち上がると、石を拾って地面に文字を書き始めた。真琴は目を凝らしてそれを見た。
_勉強しろ、馬鹿。
地面に現れた文字を見た瞬間、真琴は立ち上がった。
「はあーーー!?」
大きな声とともに椅子が後ろへと倒れる。
教室がしん、と静まりかえり、全ての視線が真琴に注がれた。
_やばい、やってしまった。
まるで金縛りにあったように真琴の体が固まる。冷や汗まで出てきた。するとポキン、という可愛らしい音を立ててチョークが先生の手から落下した。
「東城、あとで職員室な」
先生は笑顔こそ浮かべていたものの、額には青筋が浮かんでいた。真琴の顔が青ざめる。図ったようにタイミングよく電子音のチャイムが鳴り響いた。
真琴は視界の端で美里がアチャー、と顔を抑えるのを見た。




