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第7話 あつき"火"の魔法使い

燃え盛る"火"のような人


それは、誰をも凌ぐ強さを持つ者だった……

 鮮烈(せんれつ)溌剌(はつらつ)な属性、それが"火"だ。


 自然界の代表格の力。単純明快の魔法にして最も奥が深いと言っても良い、基本であり元祖の力。


 火の魔法使いとなる者は、大半が心に絶えない種火を持つ人物であり、性格も熱烈なのが殆ど。それでいて凄まじい努力家、歴代も皆己の魔法の鍛錬に余念が無かった。



 ただし、それは今を除いた話。


 現在の七聖魔法士の中で、その才能のみで選ばれた者が一人────



 彼女は火の魔女──天才である。





 まず、魔法の天才である。


 七聖魔法士になる時、まず属性の覚醒から入る。世界の基点となる属性故に、誰であろうとそれなりの期間を要するのだが、彼女は一日で……否、1分で覚醒した。してしまった。


 彼女が七聖魔法士になる前は、最短が1〜2日。最長でも1週間以内には確実に覚醒出来る。それをたった、たった1分で覚醒してしまったのだ。

 本来、全くの素人である彼女は魔法のマの字すら知らなくて、解らなくて、何も出来なくて当たり前だろう。それが普通ならばの話であるが……


 その後、彼女は魔法を一通り学んだが、これすらも2分で全て習得を完了させてしまい、火の魔法に至ってはもう始めから使えたと言うのだから驚きだ。

 これには魔法教育係の天の魔女も、驚きを隠せなかった。



 次に、闘いの天才である。


 七聖魔法士は魔法以外にも、自身やそれ以外を守る手段として、必ず素手や武器での闘い方を教わる。格闘教育係は地の魔女、格闘戦において、彼女の右に出る者は居なかった。

 そう、居なかった。今迄は────


 いざ地の魔女が格闘の手解きを軽くしたところ、地の魔女は簡単にあしらわれてしまった。予想外だったのか、暫く呆けていた地の魔女は、次に本気を出すが、直ぐに対応され、剰え強固な一撃をもらってしまった。


 その時、当の少女はこう言ったそうだ……



『ごめんなさい! くしゃみでちょっと力んじゃいました!』



 因みにその時の一撃は地の魔女を殴り飛ばし、厚い煉瓦壁を突き破ってから、更に50mをノーバウンドで飛ばしたそうで、この時に地の魔女は悟った。

 私が彼女に教える事など、最初から無かったんだな。と……


 彼女は、少女は天才だ。性格も明るく人懐っこく、何より熱いと言う難点はあるが、友達には苦をしてない。が、それでも、自身と立ち並ぶ者が居なくて、やや孤独を感じていた。


 小さい頃から何でも出来た。勉強はいつでも一番、遊びだって常に主導権を握れるくらい上手い。料理だって出来た、絵だって、音楽だって、やれば何でも出来た。


 何でも……何でも……


『フォルテさん、私に呪いをかけてよ』


『な、イグニス、お前……』


『知ってるよ、地の魔法の呪いは進み続けないと死ぬんでしょ? なら私が良いに決まってる! 私の元気の良さは、みんなが一番知ってる筈でしょ? 大丈夫! 私は、生き延びてみせるよ』


 私は私でしか無い。だから、ありのままを受け入れてくれるみんなが好きだ。何でも出来て、みんなと同じになれないけど、だったら私が何でもやってやる。私は、私に出来る事、全部やる!






 ────────────────






「なぁおいシルク、この岩の塊何とかしてくれ」


「へいへい。こんなのどうかな? 名付けて『解呪ハンマー』!」


 目前に数cm浮遊する岩の球体、その中身を見る為に白谷がシルクを呼び付ける。彼の要求に応えて狐面の男が現れると、素早くノートを取り出し、ペンで文章を書き込んで閉じる。

 ノートに書き込まれた内容が影響し、間も無くしてシルクの手元に玩具のピコピコハンマーが出現した。


「見た目を簡素にしたのはデザインが面倒だからね。でもこいつをこの塊に当てれば……」


 シルクがハンマーを弄びながら、それを軽く振り被る。即座に振り下ろされたハンマーはヘッドからピッと高い音を発して岩の球体に接触、直後に光と化して溶けるように消えていった。


 綺麗に球体が消失すると、中から赤色の服装に身を包んだ赤髪の少女が出て来た。その様子は、どうにも天の魔女、闇の魔女と違い、涎を口から溢しながら気持ち良さそうに眠っていた。

 一見して緊張感に欠ける様を見て思わず白谷とシルクは目が点になるが、アルマは違った。


 明らかに無抵抗の少女に対して身構え、二対の短剣をどこからか取り出した。短剣は二本共に宛ら背骨をモデルにしたようにゴツゴツと出っ張りが有り、緩やかなS字を描く刃となっている。


 この二本の短剣は『芥骨』と呼ばれる魔の双剣だそうで、刃らしき背骨の出っ張りのような部分が、確かめるように奇怪音を発しながら縦回転を行う。今のアルマの様子は幻真と同じく、魔女に対するアンテナが鋭くなっているようだ。


 ならば、それはつまり、こう言う事だろう……



『んん……ん〜、ふあぁ〜……』


 ふと目を覚ました少女は欠伸をして、伸びをして、頭を掻いて、白谷とシルクとアルマの三人を寝惚け眼で見る。その時に僅かに黒い流れが彼女の体から表出した瞬間、アルマは一息で必殺の間合いまで詰め、少女に双剣を振り下ろした。


 振り下ろされた双剣は瞬く間に少女の体を肩から引き裂き、一瞬で真っ二つにしてしまう────


 ────筈だった。


「くっ!? こいつ……!?」


 アルマは驚いた。最初から全力、最初から殺す気で振り下ろした双剣が、二対共、寝惚けた少女の手に阻まれたのだ。殺気なら無に等しいほど抑えている、集中力や意識が有耶無耶の状態で止められる程の速度で攻撃した覚えも無い。


 だからこそ驚く。集った8人の中でも少女のような状態で、必殺の一撃を平手で受け止める者はそう居ない。居ても強化に左右されるので、やはり居ないと断言して良いだろう。


『ふぅ〜……すぅー……』


 今まさに、目の前に、自らを殺そうとする者が居て尚、少女は眠気に身を任せて微睡みに落ちようとする。この様子を見て、白谷とシルクは目を見開き、アルマは驚きと怒りを込めて口を開く。

 先程の優との事、闇の魔女戦での事もあったのだろう、僅かに彼から怒りと殺気が漏れる。


「こいつ────」


『うるさい』


 その瞬間、白谷とシルクの間を途轍もない衝撃波が通過する。もしかしたら、五感と六感で捉えたのかもしれない。彼女から一発の拳と、アルマの言葉を騒がしく感じて返した言葉が同時に飛び、そのまま彼の胸にバスケットボール大の穴を穿っていった。


 余りに突然の出来事に反応も反射も出来ず、アルマは胸に空いた大穴から血を流しながら地面に倒れ伏した。直後に白谷とシルクは我に返り、既にアルマが倒されてる事実に目を向けた。

 少女の状態ならば彼等も見ていたからわかる、だが、相手の少女は明らかに常軌を逸している! 一撃で倒されたアルマを見て、それが如実に伝わるだろう。


『もぉ……はあぁ〜……目ぇ覚めちゃったじゃんかー。あれ? 誰この人? あんた達誰?』


 最早驚きを通り越し、呆れて物が言えなかった。相手の、少女の様子は、どうやら今の今まで本当に意識が無かったようだ。

 だのに、だ……この少女は、赤髪の少女は、自分を必殺しようとした相手を必殺してしまった。しかも一撃で……


『待った、言わなくても良いよ。察するにシエルさんの言ってた人達だね? なぁんだ! 態々ありがとうね来てくれて! 早速で悪いんだけど……


 ────ここで死んでくれる?』


 それまでの言葉の陽気さとは裏腹に、最後の言葉だけは、黒い流れの表出と同時に現れた。やはりこの子も操られている、だがそれを白谷とシルクは知らない。事情を知るアルマは地面に沈んで動かない!


「おいおい、何だあいつサイコパスか? つかアルマが一撃でやられちまったぞ!」


「どうやら霊乃ちゃんの言葉は大当たりだったね。まさか、あんな少女が、彼を一瞬で倒してしまうとは……だが彼は聞くに不死らしいじゃないか、回復を待ちながら僕達だけで何とかするしかないかね」


 一瞬で出来上がる緊張した空間。目前の少女は、艶のあるボブヘアーの赤髪を揺らし、僅かに身構えた。瞬間だった────


「……あら? え、ちょっマジ!? 俺格闘とか苦手なんだけど────」


 気を散らしていたワケでは無い。寧ろ頭と意識は全て少女に向けて、口だけを潤滑に動かしていた。それでも、そうだとしても、少女はシルクの、意識の限界速度を容易に超えて来た。

 言葉を言い終えた直後の彼は、目の前の出来事にまごついた後、口から言葉が出て、それから直後に遥か彼方に殴り飛ばされた。


「アッーーーーーーーー!!!!!」


「……あいつ倒される時でもキャラを崩さなかったな、ある意味凄ぇわ」


 シルクのギャグの有り様にある種の感心を持った白谷だが、それよりも気にすべきは少女の身体能力の異常なまでの高さだ。反応速度も彼からして尋常じゃないと言わしめるほど速い、速過ぎる。


『ねぇそこの人』


 唐突に構えを解いた少女が残った白谷に声を掛ける。次は自分がやられる番かと覚悟をしていた彼は、またもや驚きながらも、その姿勢は崩さずに居た。


『あんた強いよね、わかるよ? 殴った二人はともかく、あんただけは違うって私はわかる。ここはさ、一対一(タイマン)で闘おうよ! こっちだって殺すとは言ってもただで殺すワケじゃない、多少は遊んでおきたいじゃない』


 少女は提案を寄越してきた。白谷の実力の高さを見抜いたのか、一対一で闘う事を望んだ。だが白谷が戦慄したのは、闘いを遊びと称した事にある。

 この、どっちが死ぬかもわからない闘いを、遊びだと? いや、百歩譲ってそれは良い、寧ろどうでも良い。死ぬ割合ならこっちの方が圧倒的に高い。


 そう、強いて言うならば、一方(白谷)の死を前提としたデスマッチ。その枠に少女は入らない。


『私はイグニス・シャイニー! "火"に属する魔法使い!』


「ハハ……お前本当にヤベェ奴だな。俺は白谷 磔だ」


 最初に軽く笑ったのは、相手の可笑しさに耐え切れ無かったからか、将又自らの運命を悔いてかはわからない。それが何なのかは、この先で確かめるべきだろう────




「『行くぞッ!!!』」








続く……

海「お前あっさりやられてんじゃねぇか」


シ「それよりやられた直後にネタぶち込んだ事を褒めて」


海「フタエノキワミか……」



また次回

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