第1話 はるか彼方の来訪者
0話の続きです
英雄召喚の儀、とは、これまたどこかで聞いたような響きだ。
だが、今回はそんな大義名分を差し置き、半ば強引に連れて来る誘拐に近い真似事だ。誰かがパチンと指を打ち鳴らすと、同時に音も無く数人の男女がその場に立った。
突然の出来事なのは勿論の事、彼等彼女等には何も知らされては居ない。得意げな表情をする目前の少年は、片方の手をズボンのポケットに入れたまま彼等の中心まで歩いた。
「さぁてさてさて、ようこそ! あんた等、何故、いきなり、こんな辺境に、何の前触れも無く呼ばれたか? 察する事が出来るかぁ?」
言葉は途中から言い方に嘲りを込められ、姿勢も真上へ顔を向け、そこから視線を周りへ落とすと言った、明らかな挑発行為となり、周囲で訊いている数人の彼等も内心穏やかでは無い。
すると、そんな彼に対し一歩前に踏み込んで物を申す少女が現れた。
「あなた、一体何者ですか? まず名を名乗りなさい! それからここが何処か教え、私達を元の世界に────」
言葉の途中、少女は少年に頭を鷲掴みされて止まった。本来なら手を離せ等の言葉を飛ばせるだろうが、それが出来ない。何故なら……
「囀んなよ霊乃、一から十まで説明してやるからよぉ」
……少年の掴む手は、異常な程強かった。
「ア゛…………ァッ……!!!!!」
一見華奢に見える少年の手からはゴリラの推定握力500kgと同じ力が出されている。それ以上に、頭をその力で掴まれて声を上げられないほど悶絶する程度で済んでいる少女も、実際異常である。
言葉を言い終えた少年は手を離し、少女の頭を自由にすると、そのまま説明に入った。
「まずは名乗ろうかねぇ? 俺は優、この世界の水先案内人……とでも言おうか。まぁ言葉ほどのモノじゃねぇからあんま深く考えんな。そしてこの世界は、巨大魔法都市〔セブンス・ベル〕!」
少年の言葉から出た名前を訊き、彼等彼女等は周囲を見回す。どう見ても魔法都市のマの字も見当たらない。それどころか、ただの荒れ果てた荒野しか……
「ただの荒れ果てた荒野しか無い、か? まぁそうだろぉ、つい1日前の話だ。突然やって来たたった一人の来訪者が、この世界の基盤たる魔女7人を一瞬で倒しちまった。そうなった後の都市なんてのは壊れるのは簡単で、1日経てばこの有様だってワケだぁな。
可哀想な話で、その魔女達は自らの持つ魔法の呪いを互いに掛けさせられ、今各所に散っているってところだ。
そこでだ、お前等、しっかりとチート能力持ってるよなぁ? 持ってないワケ無いよなぁ? 当然、俺はそう言う連中を集めた。今回はそれくらい当たり前に持ってないと、即死ねる敵が待っている。この世界でお前等にやってもらう事は、まず魔女の呪いを解いて魔女全員の救出及び保護。そして黒幕の打倒だ。幻真、桐月 アルマ、白谷 磔、春夏秋冬 活躍、シルク、夜桜、転流 海斗、君咲 霊乃、簡単だろぉ? 何せこんだけチート連中が居るんだ、成せない事は何も無いよなぁ? つー事だからあとよろしくぅ!」
長い説明の後、少年は静かにその場から姿を消すと、また数人の彼等彼女等の周囲から離れた位置に現れて口を開く。
「そうだ、最後の質問の答えだが、NOだ。事が片付くまでは帰さない。まぁ安心しろ、傷付いたら治すくらいはしてやるからよ」
言い残す事も言い終えて気が済んだのか、今度こそ少年は消えた。それに続いて今まで黙っていた少女を除いた全員が一斉に喋り始めた。
「だぁぁぁぁッ!!! 何だあいつクソむかつくなぁぁぁ!!! 一回わからせた方が良いなやっぱ!」
「やっやめた方が良いッ!! あの人相手にしたら命が幾つ有っても足りないから! 本当の意味でッ!!!」
第一声喋り始めて怒りをぶちまけたのは全体的に赤色のスーツに身を包む青年、白谷 磔。それを如何にかして宥めようとする黒いタンクトップと赤い袴を履いた姿の青年、転流 海斗。どうやら海斗は優と面識があるようだ。
「いや、ここは僕の能力で彼の存在を無かった事に────ってするワケ無いじゃ、あれ、名前が消えてく……これどゆこと姉さん」
「どういう事って、あんたが知らないなら私が知るワケ無いでしょ!」
唐突に懐からノートとペンを取り出し、優の名前を途中まで書いたところで止めた狐面を被った怪しい人物、シルク。何の変哲も無いノートに書いた字は、ペンを1ミリ動かしただけで最初から何も無かったかのように消え、それが当人には不思議だったようだ。
続き、その不思議を訴えられた少女、夜桜。それを言われて何をしろと言うのか、これでもかと怒りが込もってる。
「面倒くさいけど、何かヤバそうだなこれ」
「激しく同意、俺もチョー面倒くせぇぇぇ」
「まぁ一々癪に触るが、協力しない理由も無いだろう」
面倒くさがり第一号、春夏秋冬 活躍、面倒くさがり第二号、桐月 アルマ。そしてジーパン半袖野郎の幻真。幻真は他より冷静な視点を持ってるようだ。
「少しお静かにお願いします!」
最後に、優に頭を潰されかけた赤い巫女服姿の少女、君咲 霊乃。身体的にも年齢的にも、恐らく彼女が一番下だろう。
「おい大丈夫か? さっき頭ミシミシ言ってたぞ、罅いってんじゃねぇか?」
先程まで苛々していた白谷が小走りで駆け寄り、霊乃の肩に触れようとした直後、霊乃から静止の掌が白谷の眼前に突き出された。頭を抱えながらも力強く立ち上がり、彼等彼女等の方を向いた。
「少し落ち着きました。並外れた状況だったので取り乱してしまいました。ですが、事は全て頭に入りました、私達は、選ばれるべくして選ばれたのでは、と思うのです。この荒んだ世界、囚われた魔女、それを蹂躙した悪。倒さねばなりません、全力で、何が何でも! なので、今ここに集う皆様のお力、何卒お願い致します! 私一人では、何も出来ません。皆様の強い力が必要なのです! この私の、一生のお願いです!」
少女、霊乃は根っからの勇者だった。そのカリスマ性は、知らずに誰かを惹き付け、その思いは、分け隔て無く誰かを救い、その力は、きっと悪を討ち滅ぼすのだろう。
まだ、先の無い未来。その当ての無い未来に皆が賭けた。
「わかった、あの優とかは気に入らないが、お前に付いて行こう」
「俺も、折角新しい力があるから、試す良い機会だし」
「馬海斗くんが行くなら俺も行こっかなー」
「あら、じゃあ私も」
「面倒だけど賛成〜」
「同じく賛成」
「俺も協力する、期待してるぜ」
「では、決まりですね……行きましょう!」
少女は踏み出す、一歩を。踏み締めた大地が、青々とした生命に変わるように……
だが、これより先に待ち受ける敵の強さを、まだ誰も知らない────
続く……
活「面倒くさがり第一号って……」
ア「面倒くさがり第二号って……」
そこはすみませんね、僕の雑さです