表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/35

第12話 きよき"水"の魔法使い

命の起源こそ、まさに"水"……


これは恩恵と厄災、両の性質を併せ持つ。

 麗かで清らかな属性、それが"水"だ。


 属性の立ち位置としては、最も優しい力である。それと同時に、最も殺傷能力がある属性……


 次期七聖魔法士の決定は、彼女達が共同で住む大豪邸内で告げられる。選出者や志願者は固唾を飲んで、その決定を待つ。

 当然、それが意に沿うものでも、沿わないものでも無く、ただ必要と思われた故の結果だと言う事。


『私が、水の魔法使い……!?』


 彼女は志願者だった。

 現在のみならず歴代の七聖魔法士の中では珍しく、志願者で魔法使いになった唯一の例である。


 彼女は嬉しかった。別に属性は問わなかった、なる事そのものが夢で、それが遂に、念願が遂に叶った。その時の少女の喜び様と言ったら、正に天にも昇る心地だったに違いない。


 憧れの七聖魔法士、みんなを、世界を支える偉大なる魔法使いの頂点。それが今の自分なのだと、望んでいながらも実感浅いままに、早速訓練が始まるのだった。



 しかし、現実は甘く無かった。


 いざ属性の覚醒を目指して訓練を始めると、これが思う以上に難しい。ただ一つの属性を、世界を代表する属性を自分の中で目覚めさせるだけ、それだけだと言うのに……

 何故、こんなにも難しい? 体が震えて立てなくなる程に、汗だくで脱水症状に陥る程に体を酷使して尚、属性は開かれず。


 彼女には時間が無かった。いや、正確には、彼女の中での時間が無いと感じていた。選ばれておきながら、認められておきながら、このまま何も起こらず、自分はやはり相応しく無かった。

 そう思われる未来が見えた気がして、焦りを禁じ得なかった。


 1日、2日、3日────気が付けば6日、1週間近くが経過していた。

 嫌だ。このまま何も起こらないなんて、絶対嫌だ。私はなるんだ! 絶対に! ずっとずっと夢だった魔法使いに、七聖魔法士に選ばれたんだ! ここで終わるなんて、絶対に嫌だッ!!!


 その時、胸の中心から全身が濡れていくような感覚に襲われた。途端、少女の体は溢れんばかりの水に包まれ、一つの水の塊の中に閉じ込められた。

 だが不思議と苦しく無く、寧ろ、この水の中が、酷く心地良かった。


 これが、彼女の属性覚醒の瞬間である。同時に自分には才能が無い事を自覚し、以降、少女は魔法の鍛錬、格闘の鍛錬、学問、属性知識、思い付く限りの事を誰よりも努力した。


 それが例え誰にも及ばないのだとしても、決して諦めなかった、決して辞めなかった、決して立ち止まろうとはしなかった。七聖魔法士の選定当時から7年が経ち、気が付けば21歳。


 木、天、地の魔女を除いた七聖魔法士が引退をして、新しい火、光、闇の魔女が入った。光と闇の魔女は元々が名門家の魔法使いの娘と聞いていたのでわかるが、何故魔法使いの娘ですら無い火の魔女は、自分よりも才能に溢れているのか。


 新しく入った子達にすらも劣り、これが魔法使いなのか? 彼女は、感じたくも無い劣等感に苛まれ、今以上の努力に勤しんだ。

 しかし彼女は気付いていなかった。その弛まぬ努力こそが、恵まれた己の才能である事に。


『イグニスちゃん、私に火の呪いを!』


『あ、アクアさん!? 幾らアクアさんの特性が私に有利でも結構────』


『キツイ事なんて最初からわかってる。私は、私の意思で火へ飛び込む。私は、私には、努力しか無いから……だから、イグニスちゃんみたいにフォルテ様の呪いを受ける勇気が無い。でも、やれる事はある。罪悪感なんて要らない、遠慮無しに全開で呪いを掛けて!』


 これで何かが変わるだなんて思わない。何かが得られるとも思わない。結局は無為で、無意味で、無駄なんだ。でも、私は諦めない! いつだってそうして来た。それが私に有る、私に出来る、唯一の長所なんだから!








 ────────────────








「んーー……」


 彼は、シルクは、少し考えていた。優が手渡した自分の本、その意味。開いて確かめるも変わり無く、本は確かにこの世界の情報を載せていた。

 何より気を向けるべきは、本のページが、本当の意味で無限になっていた事だろう。


「終わりにいかない……」


 ペラペラとページを早捲りして、世界の情報が尽きて白紙の連続となって、まだ続く。ページは、3分の2から先へは進まず、捲り続けたページは、その厚みを増す事無く、ページ同士溶け合うように……


 難しい、否、証明し切れない。シルクの頭が爆発しそうだった。


 兼ねてから人間は永久機関に憧れを抱き、それの開発に取り組んで来た。そんな夢のような夢でしかない永久機関は、とある電気学者が既に開発していたのだと言う。

 だがそれがいけなかった。彼の存在は後の現代に至るまで名前が広まらず、その技術と発明に目を向けてもらえなかった。


 そう。人間が憧れて止まない存在は、同時に人間にとっての害悪でしか無かった。まぁ、これに関しては若干の語弊があるので修正するならば、"一部"の人間に、だろう。


 さて、それが段々と許容されていく現代において、『無限』とは、然して縁遠いものでも無くなっている。

 だが、これは、これは何だ? 明らかに原理に基づいた無限では無い。いや、これもまた修正すると、『無限』では無く『半永久』、だがこの本は確かに『無限』を与えられている。


「これを可能なのか? 歴史改変の存在証明に掛かる時間は……多分、これこそ無限だ」


 彼の能力は以前にも述べたが、『歴史を改変する』事にある。しかし、彼の成す力が如何なモノだとして、この真の意味での『無限』を再現出来るだろうか?

 瞬間、彼の脳内で言葉が()ぎる────「試したいなら人生を欲しいだけやっても良いが、それを手にする事はお前には無理だぜ? 誓っても良い」────


 過ぎった言葉は、優の実際の言葉では無く、彼が思った優が言いそうな言葉だ。だが、それをその場の現実と錯覚出来るほど、その言葉には厚みがあった。それに再現しようにも、今は魔女の救出をメインに動いている。

 それ以外は余計な真似だろう。


「後々の宿題……課題……まぁとにかく、今はね」


「さっきから何をぶつぶつ言ってるの、途中からあなたおかしいよ? 何か拾い食いでもしたの?」


「姉さん貴女意外に失礼だね! 僕は至って健康優良の変態さ! 何がおかしいと言うのだね?」


「わかった、あんたは何もおかしくない。何故って最初からオカシイから、最初からオカシイなら何も変じゃないよねそりゃ、変態なんだもの」


 (おど)けた様子で居るシルクに、夜桜が冷ややかな目と言葉で罵ってきた。第三者の立場で見ている霊乃は、そんな二人の様子を見て、今の殺伐とした状況が、少し和らいだような気がした。


 だが、その時間は一瞬だけだった。


「あの〜……夜桜さん、シルクさん。お取り込み中すみません、例の球体が……」


 雰囲気を壊さねばならない事の申し訳なさを口に出しつつ、霊乃はシルクと夜桜の目を自らに向けさせる。二人の視線を自分に集めた後、透かさずその視線を自分の指先へと誘導し、自然と目標の球体へ向かせる事に成功した。


 三人は発見する。それは見ただけで熱いと思える火の球体、宛ら太陽系の中心で輝く太陽の如き姿。

 赤く滾り燃え盛り浮かぶ球体は、建物内に在る……と、言って良いのか? 火の球体は、周囲のコンクリート瓦礫、鉄、ガラス、アスファルト、土、砂を燃やし、溶かし、焼き、消し、周囲100mを円く凹型に更地にしていた。


 想起する。絶大な力の奔流を感じ取り、向かってみると、そこには燃え盛る火炎と鋭く光る雷光を纏った火の魔法使い。当時はそう思っていた、だがそれが、過言では無い事を理解した、してしまった。


 改めて自覚せねばなるまい。これが、今の自分達と魔女の実力差だと。白谷とイグニスの戦闘中、力の奔流を感じ取って向かったものの、夜桜はともかく、霊乃はその場に立ち、立ったまま何も出来なくなってしまった。


 霊乃だけでは無い。あの場に訪れた幻真、活躍すらも、目前の実力差に物怖じする以外無かったのだ。

 それを唯一無視して対抗し、打ち崩す実力を持ち合わせて居たのは海斗だけだった。彼の放った一撃は最も容易くイグニスを打倒し、剰え白谷すら瞬時に助けてみせた。


 私にも、あんな力が有れば、助けられたのだろうか?


 自問をしたところで、その答えはおろか、問いすらも反響せず、無情に静寂を産み落とす。当然だ、わかる筈無い。強くなって勝てるなら大層楽に済むだろう話だ。

 そもその力が手に入るのかすらわからないのに、何が返せるか。


 嗚呼、自分の無力が憎い。何故気持ちに比例しない? どれだけ高尚な意識を持ったところで、実現出来ないのなら、それは無と同等。飾りを纏っただけで何を出来るのだと言うのだ? 霊乃。


 わかってる。だからこそ現実にする為に日々努力して生きている。努力が形にならないのは何もしてないのと同義、わかってる、それくらい、嫌と言うほどにわかってる。


 なら……なら────






 ────────ならばどうしたら良いのですか!?






「ちょっと霊乃? 大丈夫?」


「……え? あ、大丈、夫、です」


 気が付けば、彼女の意識は自身一人の内のみに向かっていた。声を掛けてもなかなか反応しない霊乃に、夜桜が肩を揺すって意識を戻すまで、応答すらままならない状態になっていた。


 気を取り直す為、霊乃は自分の頬を平手で叩く。パチンと平手が両頬を揺らし、衝撃と打音が耳の鼓膜に響き、霊乃は痛さと煩さで完全に我に返った。

 いざ火の球体を如何するか考える事にするが、周囲の建物を焼いて溶かして消し飛ばす火力がある以上、不用意には近づけない。


 ならば────


「夜桜さん、遠くから能力で何とか出来ませんか?」


「そりゃそうね。任せて」


 始めから自分が頼られる事を予想していたのか、霊乃が彼女の名前を呼んだ瞬間から笑顔になっていた。無論、それは同時に対策も講じていると言う事だが、尤もな話、彼女の能力なら当たり前に出来る事を為すだけなので、別段優れた対策でも無い……


 それと言っていなかったが、彼女の怪我と腕や脚の欠損は既に優が元通りに治している。ただ服は『どうせまた破くんだろうから、よっぽど酷く無い限りは面倒だから直さねぇぜぇ?』と、他の皆にも言い回っていた。

 夜桜は復活した右腕を確かめる様に手を開閉し、そのまま開いた右手を火の球体に向けて突き出す。


「斬撃、繊細、滅裂、そんで両断!」


 遠方から右手を向けられた火の球体は縦に綺麗な切れ目が入り、球体そのものを粉々にして散らし、中に居た女性を一切傷付ける事無く解放する。序でに地面と球体の位置が離れている為、念の為にと"空壁"と"弾力"で女性の真下に空気のクッションを敷いて優しく下ろした。


 女性を下ろし終えた瞬間、霊乃は透かさず駆け出した。だがその進行はシルクの足払いをくらい、前から転んで止められる。

 体験した出来事と、操られていた事を考慮するならば、近づく事は御法度。だが霊乃の性格はそれに関係無く動くので、力尽くで抑える他は無いと、彼は踏んだようだ。


「霊乃ちゃん、キミは天の魔女と交戦したのだろう? なら今下ろした魔女がどうなるか、キミの甘ったるい正義感でもよく解る話だ、違うかい? 二度同じ轍を態々踏みに行くのはやめなよ。ボクは(かれ)ほどじゃないが、ダメな事はダメと、しっかり言う主義だからね?」


 仮面の男、シルクの表情は隠れているので窺い知れない。だが、仮面越しでも判る程、彼の今の言葉には途轍もない、冷たさと重たさが含まれていた。

 狐の面の目から覗く鋭い眼光、地面に倒れている霊乃を見下ろして、静かにプレッシャーを掛ける。


 その時、蛇に睨まれた蛙の気分どころか、シルクのプレッシャーで、本当に彼女の、霊乃の体が1ミリたりとも動かなかった。何故シルクに気圧されたか、と言うのは、今は言うべきでは無いだろう。


 何より、シルクは既に霊乃よりも遠方に浮かぶ容姿に目を移していた。最重要保護対象にして撃破対象、七聖魔法士────その姿、セミロングの青い髪を靡かせ、薄茶色の褐色肌を空気に晒す。


 遠くからでも判るほど黒い流れを表出させ、徐々に体を浮かせる。自らの輪郭をシルク、霊乃、夜桜に晒し切ると、瞬間全身から暴風が如き衝撃波を放ち、彼等彼女等を薙ぎ払わんとする。


「ッ、ほらね。行かない方が良かった」


 シルクが言う通り、魔女は黒い流れと共にこちらに敵意を向けてきた。そんな事、既にわかっている筈なのに、どうして……? どうして我武者羅にも助けたいのか。


 ふと気が付くと、魔女はいつの間にか三人の1m前にまで迫っていた。魔女から目を離した覚えなど一切無い。寧ろ瞬きすらしてない、してないのに、彼女は、魔女は、三人の前に一瞬で現れた。


 だが攻撃はしてこない。敵意、殺意を向けられて尚、未だ攻撃をする気配が無い。不思議とこちらも、攻撃をする気が無いとわかった。

 しかし向けられる意は攻撃そのものに匹敵する程の重圧、当然ながら三人は身構えて然るべきで、当然に態勢を整える。


『私は────』


 突然耳に飛び込んで来た声、代名詞。唐突に口を開いたのは、霊乃でも、シルクでも、夜桜でも無い。この場に居る4人の中で、唯一魔女(かのじょ)だけが言葉を放っていた。


『私は────アクア・シュトゥルム……水の魔女。7人の内の、"水"に属する魔法使い』


 自己紹介の最中、水の魔女ことアクアの表情が、何処か寂しさを含んだように見えたのを、霊乃は見逃さなかった。だがそれも意味は無く、即座に彼女の全身から黒い流れが衝撃波と共に放出され、先程まで無かった攻撃意識が鮮明に解るくらい殺気をぶつけられた。


 わかっていた事だが、闘う以外には無いようだ。



『御足労お察し致しますが、生憎と今の私は貴方達を……殺したくて殺したくて堪らないのです。ですから────今すぐココで死に晒せェッッッッ!!!』








続く……

シ「どうだい? 僕のシリアス風味は?」


夜「似合わない」


海「似合うワケが無い、つかウザい」



シ「そ、そこまで言う?」



また次回

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ