第10話 これが七聖魔法士 -上-
三人の魔女を無事呪いから解放した一行……
暫くの小休止である。
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【バトルリザルト】
ミッション:魔女の救出、及び保護
内容:魔法都市の基盤である魔女7人を呪いから救い出せ!
達成済み:火 闇 天
未達成:水 木 光 地
一言:がんばりましょう!
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火の魔女、闇の魔女、天の魔女を無事救出した一行は、既に拠点となっている総合中央広場に戻ってきた。早速そこに異様な光景が有った。
アスファルトが剥がれ、荒れて水分が少ない地面の上に、何故かフカフカのベッドが三つ用意されていた。
無論、並んだベッドの前には、ズボンのポケットに手を入れて佇む優の姿が在った。確実に彼が用意したと容易に予想出来る。
「よぉ、そいつら寝かせな。呪いの影響で肉体も精神も疲弊している、それを回復するには何よりも寝る事が大事だ」
だが今は、優の起こす驚きの事象にばかりフォーカスを合わせてはいられない。霊乃と海斗は天の魔女を、幻真と活躍は闇の魔女を、白谷とアルマは火の魔女をベッドに寝かせる事にした。
「一先ず出来る事はやれたみたいだなぁ? どうだったよ? あんた等、魔女との闘いは」
優はポケットから手を抜き、天の魔女が寝るベッドの端に座って彼等彼女等から話を聞こうとした。しかし言葉が思うように出て来ず、皆暫く口を噤んだままの状況が続く。
これに誰よりも先に答えたのは、最初の時も先制して喋っていた霊乃だった。
「……私達は、正直完敗してもおかしく、いえ、完敗して当たり前でした。あの勝利は、海斗さんのおかげでした。海斗さんが居なければ、私は今頃……」
「それを言うなら俺も同じだ。無双が消された時、抵抗する暇すら無くて、その時間を作ってくれた霊乃の勇気に感謝してる。お前があの時クロノス……シエルの注意を引いていなかったら」
それ以上先の言葉は優の開手で止められた。霊乃と海斗が助け合って天の魔女を倒した事など、優にしたら既知の事だ。
「お前等がどれだけ身に染みて相手の強さを実感したかわかっただけで良い。ほら、他の連中は?」
「気は引き締めてたつもりなんだが、それでもどうにもならない敵が居るのがよくわかった。シエルに一瞬で負けた後、オンブラと闘って、運良く弱点を突けたから幸運だったが、これが通じなかったらと思うと、ただただゾッとする」
「そうだな……俺も火力に期待の持てる武器を持ったところで、あの頑丈さの前じゃ無意味だって、正直諦めちまう」
「私は、もう死んだと思った。あの時、オンブラの空間を破る攻撃が無ければ、本当に────恐かった……!」
最初の頃より落ち着きを得た幻真だが、そこに至るまでの経験は僅かな時間だと言うのに、事の凄惨さが、人を変える。活躍も、俯いて悔しそうに述べる。そして夜桜は、当時の恐怖に涙を流した。
「ぶっちゃけ、ナメてた。俺の性格だから変わらないんだけど、それでもこの体が治らなかったらって考えるようになった。多分、あんた等の中で俺は一番幸いなんだ。"不死身"と言う盾がある限り、心配が減るんだから」
「俺は、この闘いを通して、得るべきモノを得た。だから強くなれたし、相手を圧倒出来もした。でもイグニスは、火の魔女は俺の強さをずっと上回っていた……! 反則過ぎるだろッ……マジで……」
アルマは当初の闘いの様子からあまり変わらずだが、気楽さが少しだけ抜けた気がした。中でも進化を果たした白谷は、全員の中でより相手の強さを実感していた。余裕ある勝利なんて、望めない。
「僕はまだ何とも。あぁだけど、取り敢えずの要点は掴んだ。ところで気になったんだけど、みんな能力しっかり使える?」
唐突にシルクは皆に能力がしっかり使えるか尋ねた。真意は定かでは無いが、皆は互いを見合わせて各々口を開く。
「特には……」
霊乃は眉を寄せて答える。使えないと言うよりは、シエルの攻撃が複雑過ぎて能力が機能出来なかった。言ってしまうと、ただそれだけなのだ。
「影響無しだ。無双も遺憾無く使えたしな」
世界を超えた力を持つ海斗に、そのような邪魔はまるで用を為さない。"無双"は完全なる純粋、故に何にも汚されず、何も汚さない。
「俺はそもそもそんなに使ってないし、最初の時に龍出してたし」
幻真は、言っては悪いが、余り使用用途があるような能力では無いので、使えようが使えまいが然程変化は無いだろう。
「似た意見だ、俺は戦闘の際は必ず銃を作成する。使えなきゃ何も出来ない」
活躍は能力有りきの戦闘方法の為、能力が使えなければ、確かに何も出来ない。一応他の能力もあるようだが、それはまた別の話。
「俺はぁ……感情の無い相手だったし、わからないな」
能力にも通用するしないは必ず有る。彼にはそれが偶々、闇の魔女に該当しただけだ。
「俺は少し気になったが、実際俺の能力は相手次第だってのを気付かされた。だがまぁ、結局は通用しなかったワケじゃ無いし、別にだな」
何事にも動じず動けたのだとしても、相手がスケールで上を行っていた場合、能力はその効果を十分に発揮出来ない。予測を立てても上回られてしまう始末である。
「私は使えたけど、妙だったわ。オンブラに対して使おうとした時だけ、能力が発動しなかった。闇の空間に閉じ込められた時は、能力そのものが全く使えなかったわ」
夜桜だけ、能力の違和感をハッキリと伝えた。寧ろ、夜桜だけその違和感が有ったと捉えるべきか。
「そうか。実は僕、何度か能力を使おうとしてるんだが、世界の書き換えどころか、さっきやった地図の複製すら出来なくなっている。そしてノートから、字が消えた。僕の能力で、このノートにはこの世界のありとあらゆる情報が載っている……筈なんだ。それが、綺麗サッパリ消えている」
シルクの能力は『歴史の改変が出来る』事にある。物事、事象、世界の全てを文字通り"書き換える"のがこの能力だ。
この力は、"反則"だ。一言、それだけで足りる能力である。
だが、その反則は違う【反則】に捩じ伏せられていた。
「そいつぁお前、きっとこの世界をこんなにした誰かさんだろうよ、常識的に考えて」
優が割って入り、澄まし顔でその元凶を言い当てる。確かに、そう思うのが妥当だろう。しかし、そうなると相手は、歴史の書き換えすら通用しない凄まじい存在となる……勝てるのか?
『────あの……』
その時、優の座るベッドから全員に対し声が掛かった。向くと、目蓋を閉じたまま天の魔女ことシエルが上半身を起こしていた。そこで彼女達の服や体がボロボロのままである事を思い出した優は、指を打ち鳴らし、怪我と衣服を元通りに治した。
「なんだ、まだ寝てて良いんだぜ?」
『そうは行きません。私は、貴方達に御礼を……』
優のおかげで怪我も体力も回復したシエルは、無理に起き上がろうとして、優に止められた。肩を掴まれて止められたシエルは、その際に加わった肩の負荷に驚愕した。
明らかに彼のその力は、自分達、魔女達の力の範囲を圧倒している。制止するだけなのに、優しく掴まれただけなのに、掴んだ右手は、シエルの左肩を静かに、粉々に砕き散らした。
『んッ…………!?』
「良いか? よく聞けクロノス・ルーラー。礼を言うのはまだ全然早過ぎる。それに真に礼をしたいなら、そこで横になってろ、わかったか?」
言葉は非常に重々しく、目は睨む半歩手前だった。シエルが目前にした高圧な恐怖は、肩の骨が砕けた痛みを容赦無く恐怖一色に塗り潰していく。
目蓋が閉じられていても、彼女には視える。否、視せられている。
「頼むぜ。……痛くして、悪かったな」
突然、優の態度は先程シエルに掛けた言葉の時と同じに戻った。優の右手は彼女の左肩を放し、優しく撫でると、シエルはみるみる内に左肩が治癒していく事に、また静かに驚愕した。
彼は一体、何者なのだ? そう思っているのは、明白だ。
「まぁ楽にしてろ。それより、あんた等に何があったか教えてくれ。あぁ、話すのが難しいなら無理強いしない、もう少し休んでからでも構わないからよ」
優しい。シエルもそうだが、全員が優が優しいと思っていた。あの自然な笑顔、菩薩のような慈しみに溢れた表情は何だ!? あの顔、彼等彼女等には一度たりとも見せてはいなかった!
その余りに優し過ぎる様子を見て全員が引いてる中、シエルは意を決して口を開いた。
『大丈夫です。せめて、話だけでも。それくらいなら、出来ますから』
シエルの言葉に、優は一言「そうか」と言ってベッドから腰を上げ、彼女の話を訊く姿勢を執った。彼等彼女等も、シエルの言葉を静聴する事にした。
『まず、自己紹介をさせてください。私は天の魔女、シエル・アルカンジュ。天に属する魔法使いで、七聖魔法士を纏める者です。
私達は、自らの魔力をこの世界全体に供給する事で、世界を生かしています。なので、この魔力が断たれた時、人間で言うと呼吸が出来なくなるのと同じで、世界はその活動を止めてしまいます。魔法使いとしての力を極め、魔力を膨大に生成出来る身体を作る事で、七聖魔法士として役目を為せます。故にと言ってはなんですが、私達はこの世界の力を簡単に超越しているのです。
この世界で私達に敵う者は、私達以外居ない。ですが、その均衡は、異世界からの来訪者に崩されました。世界を超越した私達でさえも、全く敵わなかった脅威……あれほど────あれほど! 強いだなんて……! 全力で挑み、敗れた私達は、自らの属性が持つ特性の呪いを互いに掛けるように強制されました。そうしなければ、せ、世界を消し飛ばす前に、ひ、ひ……人を、民を……! 皆殺しにすると……!
そんな惨い事をさせられるワケも無く、私達は最低限の被害で済むならと、自分達同士に呪いを掛けました。それからはわかりませんが、どうやら各地にバラバラに飛ばされ、更に頭に何かを植えられました。簡単に解けるモノでしたが、呪いを掛け終えた私達はもう、身動き一つ取れなくて……そして、今に至ります。救世主様達を、まさか自分達の手で傷付けてしまうとは、私は、私は……何とお詫びをしたら良いのか……!!』
話していく内、自責に耐えられなくなったシエルは大粒の涙を閉じた目蓋の隙間から流し始めた。責任感が強く、心優しい彼女は、自らの無力さを悔いていた。
これ程までに、自分以外の為に涙を流せる人もそう居ないだろう。彼女こそ正に"天"の魔女、シエル・アルカンジュだ。
ふと、左右のベッドから火の魔女と闇の魔女が上半身を起こし、真ん中のベッドで泣き噦るシエルをそっと抱き締めた。その二人ですらも、両目に涙を浮かべていた。
『シエルさん、実は泣き虫だったんだね……ダメだよ、七聖魔法士のトップが簡単に泣いたら……私だって、泣いちゃうじゃないかぁ……!』
『私は感情が無いから、涙とか出ないんだけど、何でだろ……今私、泣いてる……泣けてる……! 私、泣けてるよ……! シエル様ぁ……!!』
ベッドの上で、三人は抱き合いながら大声で泣き出した。今までずっと抑えていた感情が爆発したのだろう、彼等彼女等の目の前でも構わず存分に泣いた。
その姿を見て優はこの場から消え、他が三人の様子を見て少し嬉しそうにする。
だが、一人。霊乃は、憤りを覚えていた。悔しい、余りにも悔しい……魔女達の涙を流す姿を見て、元凶を、この状況を、彼女が許せるワケが無かった。
「シエルさん、オンブラさん、イグニスさん……貴女達の涙、私が決して無駄にしません……! 私が、この手で、元凶を……
倒すッ!」
続く……
天「でも私、操られてる中でもちゃんと手加減は出来ました。ホンの僅かですが、力加減が出来るみたいです」
闇「え、私加減とか知らないから……割と簡単に腕や足千切っちゃった」
火「私は意外と楽しかったよ! 久しぶりに全力で遊べたよ」
海「そうなのか。あれ? 磔どうした?」
白「ちょっ、闘いを遊びと勘違いしてないか?」
火「遊びは遊びだよ、闘いだったらソッコーでドカーンって殴るし」
白「……俺もう諦めたい」
海「あれ? 磔? 磔! おいしっかりしろ! 目が死んでるぞ!」
ア「現実って残酷だよねー」
また次回




