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開始三分でゲームオーバー

                     ♪NOW……LOADING♪

                      

「さま……――キ様……起きてくださーい! リューキ様―!」


目を覚ますとそこには燦々と輝く太陽があり、同時に羽をはやしたライオンが通り抜けていく。


 体を起こすとごつごつとした岩の感触に、嗅いだこともない匂いを乗せた風が俺の頬をくすぐっていく。


 現代の鉄の匂いが混ざったような重苦しい空気とは違う……名前を付けるならそうだ……自由の匂いがその風からはした。


「おはよーございまーす! ご主人様!」


「あぁ、おはよう……」


 底抜けに楽しそうに笑いながら、分身体はひらひらと俺の周りを飛び回る。


「いしのなかに飛ばされてなくてよかったですね」


「シャレになんねーよ」


ゆっくりと体を起こして立ち上がり、周りを見ると……眼下に広がるのは一面の大自然。


灰色無粋なコンクリートジャングルの姿など見渡せど見渡せどついぞ見つからない……森と草原のみが一面に広がっている。


「すげぇ」


心の中で響いた言葉が……ついつい漏れ出してしまう。


目標も、任務も使命もない……そんな異世界転生であったが……退屈だなんてとんでもない。


俺はこれから……この世界のどこに行ってもいいのだ。


「感動のところちょっとすいません……」


そんな目前に広がる絶景に感動をしていると、不意に分身体は俺の頬をペタペタと触り始める。


「……何してんだ?」


「……時空をまたいだ転生だったので、体に異常がないか一応チェックを。 ついでに私との同期を開始しています!」


「同期?」


「はい! えーともう少しで……ちぇーい!」


そう言うと、俺の体の中に何かが染み渡るような感触が響く。


なにかされたようだ……が……特に異常は感じられない。


「ちょっとお手数ですがご主人様、私に向かってアクトって言ってみてください」


「アクト?」


ただ単に聞き返しただけであったのだが、その言葉と同時に俺の目前に何やら半透明な青色の画面が映し出される。


「ななな!? なんだこりゃ!?」


「ステータス画面です。 あ、大丈夫ですよ! リューキ様にしかその画面見えてないので」


「そうなの!? だけどなんだこれ! 気持ち悪!?」


「すぐに慣れますよ~。 とりあえずそれで私を見てみてください」


「えと……」


俺は言われるがまま、ステータス画面を開いたままミユキへと視線をやると。


その画面は分身体の頭上へと移動し。


【ミユキサトナカ・レプリカ 種族 ゴッドレプリカ・友好的】


と表示される。


「私の名前と、種族が出ました?」


コクリとうなずく。


「じゃあ、今度はその名前を指で右にスライドさせてみてください!」


言われた通りにすると、目前に存在はしていないはずの画面を触れた感覚が指に走り、動かすと画面がスライドし、今度は少し大きな画面と共に、ステータス画面のようなものが現れる。


「何々……」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ミユキ・サトナカ・レプリカ 種族・ゴッドレプリカ 

筋力 1 体力 1 知識 1 敏捷 1 信仰 1 運  18


 保有スキル 全身魔導 E 神言 EX 神託A 浮遊B 献身 B

       神様権限B 神眼 A 情報共有A

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

なんだこれ。


「この世界の人間のステータスをすぐに表示することができるようになっています! 技能やパラメーターを数値化して、簡易に表示できるんですよ! あ、個人情報なので、本来であると許可を取らないとみられないものなのですが、神様である私の権限により、リューキ様は誰の情報も見放題なのです! しかも、魔法ではなく私のスキルの組み合わせによる結果なので、魔力も不要といいこと尽くめなのですよ!」


「個人情報もくそもないな」


「一応倫理に反しないように、敵対している者、友好的でないものにしか適用がされません。まぁ一度敵対したら友好的になっても表示され続けるんですけどね」


この世のどこに初対面から友好的な人間がいるのかは謎であるが、とりあえずむやみやたらに悪用ができないようにはなってはいるのね。


「……リューキ様に敵対するような生き物に、慈悲は必要ねーですので!」


おっと、一瞬何か闇に触れたような気がしたが、とりあえず気が付かないふりをしておこう。


「想像以上に役に立つな……ミユキ」


「それほどでもー」


照れるようなしぐさをするミユキ、俺はさっそくあたりを見回してみる……と。


「ん?」


そこらへんに生えている草花を見やると、黄色いステータス画面が表示され。


【ベニコケオオユリ・種族 植物・ 中立】


と表示された。


「……なぁミユキ」


そう声をかけ、ミユキの方へ向き直ると、再度ステータス画面は青色に戻る。


「はい? どうしました?」


「いや、見る者によってステータス画面の色が変わるんだけど」


「おおぉ! そこに気づくとはさすがご主人様! すっごーいです! おっしゃる通りですね、そのステータス画面は、友好的な生物は青、敵対中立関係の者は黄色に映るようになっているんです」


「なるほど、相手との関係性も分かると」


「はい! ついでに言うとですね、敵対していてとーっても強い者は赤色に。やっば! まじ死ぬー! って魔物は名前の上に髑髏さんマークを付けて表示をします!」


「ほー」


俺はちらりと先ほどからはるか遠くを飛んでいるライオンのようなものを見てみると。



【スフィンクス・種族 スフィンクス・敵対☠☠】



赤色で☠マークが二つもついている。


なるほど、危険度に応じて髑髏の数も増えていくということか。


随分と利用しやすい機能だ。


俺はあたりをきょろきょろと見まわしてみるが、どうやらこのステータス画面……俺が焦点を合わせたものに限ってステータスを表示してくれるらしく、視界がふさがらない。


「すごいなこれ」


「でしょー! 私が作ったんですよ!」


「そうなのか……すごいなミユキ」


「えへへー! 神様ですから!」


にこりと笑うミユキ……すると、ミユキのステータス画面がきらきらと輝く。


「……友好的なステータス画面だけ、なんか光ってるんだけど」


他の友好的な植物や動物は特に光る気配はないのだが……なぜかミユキだけはきらきらと輝いていて、不思議に思って俺は問いかけてみると。


「それは好感度です!」


「好感度も表示できるの!?」


「そうです! ミユキはご主人様のものなので最初から好感度はマックスなのです! だからきらきら光り輝いているんですよ!」


「そ、それは嬉しいな」


「えへへへー! あ、ちなみに今のは基本的な使い方なので、詳しい機能についてはまた後程―! 何かこういう機能が欲しい! っていうのがあれば、随時更新しますので、お気軽にお申し付けください!」


「なるほどね……分かった、しばらく使ってみて、思いついたら言ってみるよ」


「はい! およそ一つにつき、一晩あれば更新できますので!」


「頑張り屋だな……」


「神様ですから!」


ミユキの楽しそうな声に安堵しつつ、俺はとりあえずステータスを消して、眼下に広がる大地を再度見やる……。


「それで、ここはどこなんだミユキ」


「ここはテルモの峠と言われています……」


「テルモ?」


「ええ、エルフ領 テルモの国。 ミユキ・サトナカを崇めるエルフの民で構成されたエルフ族が住む国……その最西端国境付近です」


 おぉ、エルフってなんだか異世界の香りがするな。


「エルフの国は、首都のほかに五つの里がありまして、ここは森の部族が住まうリーンの里の近くになります……かつてはリーンの里が首都になっていたこともあるのですが、今は六部族の内の一つ……という扱いになっていますね」


 ふむふむ……つまりは、合計六つの部族で構成されていて、その中で最も力を持った部族のいる集落がその都度首都扱いされるということか……。


「テルモってのはどういう意味なんだ?」


「テルモというのはエルフ語で叡智という意味をさします。 エルフの英雄ダンカがこの場所で悟りを開いたというのが名前の由来らしいですが……本当の所はよくわからないそうです」


「ふーん……で、どうしてこんなところに俺を召喚したんだ?」


「いきなり人込みに人間が召喚されたら大問題じゃないですか」


もっともな意見だった。


「それに、このテルモの峠は人通りの少ない場所で、国境付近なので、旅人を装うのが簡単なんですよ。 リューキ様のそのお洋服も、異国の流行りだ―っていえば怪しまれませんでしょうし」


「意外と考えているんだな」


「女神さまはそういうところは抜かりないお方なのでー」


なるほどね……。 


面倒ごとは嫌いだからこそ、やることは完璧にこなすと……。


俺は妙に納得をしてうなずいてしまう。


「さて……と、とりあえず状況確認もいいけど、岩だらけの場所で立ち尽くしてても仕方ないな……移動をしようか、ミユキ」


「はい! ご主人様! それで、どちらに向かいましょうか! ミユキは何処まででもあなたについていきます! と、言いたいところですが、ご主人様を広い世界オープンフィールドへとお連れするには、準備が必要です……装備とかもそろえる必要がありますし」


「そうだな、丸腰じゃどうしようもないし、せめて銅の剣……棍棒ぐらいないとな」


「ええ、この国の通貨もありませんし。 というわけで最初だけは私がご案内します!まずは峠の麓にある、始まりの町テルモピュリーに向かいましょう。 リューキ様のスキルグラップも、強力ではありますが使いどころが少し難しいスキルですし。 落ち着ける場所で詳しい話はしましょうか」


「了解、RPGは地道にコツコツ……だな?」


「その通りです! リューキ様は賢人ですね!」


ミユキは嬉しそうにふよふよと俺の周りを揺蕩いながら、指をさして行先を指し示してくれる。


 でこぼことした峠の道を歩くことしばらく……ミユキと雑談なんかをしながら整備された道を歩く。


「そういえば、エルフの里に行くって言ってたが、俺の中でのエルフのイメージだと、よそ者は絶対に受け入れないって種族なんだけど」


「リーンの里のエルフはそうですね。 ですが、テルモピュリーは国境付近にある街というだけあって、異国の種族がたくさん立ち寄るので、多様性を良しとする人々が集まる場所なんですよー」


「なるほどね、人間と同じで、一口にエルフといってもいろんな人がいるんだな」


そこは現実とおんなじだ。


「まぁでも確かに、エルフは確かにリューキ様の言う通り、比較的自分たちを至高の存在と認識する傾向にあるのも事実です」


「そうなのか? なんで?」


「長寿であり、何よりも他の種族に比べて神に近いというのが理由でしょう。 これは歴史に関係する物なんですが……エルフの中でごくまれに生まれるハーフエルフというのが……」


そう、ミユキ先生の歴史の授業が始まりかけた瞬間。


【ぎゃああああああああああああああああああああああ!!】


空が割れるのではないかと不安に思うほどの轟音が響き渡り……俺は慌てて耳をふさぎあたりを見回す……。


「な、なんだ今の!?」


「あぁ、今のはドラゴンの鳴き声ですね」


慌てふためく俺とは対照的にミユキは特に気にする様子もなくそうあっけからんと言い放つ。 まるで聞きなれたものだと言わんばかりだ。


「ドラゴン?」


「ええ、ここら辺は、レッドドラゴンの縄張りですので」


「おいおい、今の声結構近かったぞ? まずいんじゃないのか?」


ドラゴンなんて、こんなレベル一の状態で見つかったら何をどうあがいても生き残れないような化物だろう……。


それがこんなに近くにいるという事実に俺は恐怖を覚えるが、しかし美幸はいたって冷静のまま。


「大丈夫ですよ、恐らく今のは崖下の森を縄張りにしているドラゴンさんの物でしょう。歩道は基本縄張りに触れないように作られてますし。 ドラゴンは賢いので、歩道を歩く人間を殺すことはありません……」


「なんで?」


「むやみやたらに人を殺したら、討伐隊や騎士団、冒険者が自分のことを殺しに来ることが分かっているからですよ」


「そ、そうなのか?」


「ええ、ドラゴンといえども、エルフ族の魔法はで強力です……各個撃破ならまだしも、群で来られればドラゴンといえどもなすすべはありません。 現に、この峠は隣の竜人族の国からエルフの国に入るルートで最もメジャーなルートですし? 毎年二千人くらいはこの道を利用しています」


日本人の性か、それともミユキの奴が説明をするのがうまいのか……どうにも数字で示されるとすぐに納得してしまう自分がいる。


「ドラゴンは人間も食うイメージがあったけどな」


「大昔の話です……まぁでも、縄張りにずかずか侵入したりすれば怒って殺されますけどね……ですがこの道は縄張りから離れるように作られています……ドラゴンに襲われるなんて、この場所ががけ崩れを起こして、ついでにドラゴンの頭の上にでも不時着しない限り大丈夫ですよー!」


「そうかー! あははは」


笑いながら冗談を漏らすミユキ……俺もその冗談につられて、安堵も含めた笑いを零すが……。


【ばきり】


「へ?」


 先ほどのドラゴンの泣き声とはまた違う、今度は無機質な音が響き渡り。


同時に俺の体は謎の浮遊感えを覚え、足元を見ると先ほどまであった大地はなぜか消えており、代わりにはるか下に森が緑々と広がる。


一瞬思考が真っ白に染まり……ほんの少しのエラーの後状況を理解する。


どうやら崖が崩れたらしい。


「うっそだろおおおおおおおおぉ!!?」


 理解が追いつくと同時に絶叫を上げるがその声はむなしく空に響き、峠に木霊をするだけ。


転生してからおよそ3分……予想よりも早いゲームオーバーであった。


 【ガルムンド】:本作の舞台、多種多様な種族の人間が住まい、ドラゴンやトレントなどといった魔物が生息する異世界。種族ごとにそれぞれが自らの創造主である神を信奉し、そして今もなお神はこの世に現界し人々に祝福を与えている。剣と魔法、そして神話が生きる世界。


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